み
───ダグONEは疾走する。力の限り疾走する。
ダグONEが主として忠誠を誓う少年は、どう見ても既に手遅れである。
素人が見る限りでは、全員が異常に気付いたシーンで
既に彼が事切れていたと判断してもおかしくない位だったのだから。
しかし『ヒト』ではなく『ポケモン』という生物だった彼にそのような概念など欠片も無く
主の生存を信じ────ただひたすらに走る。
その疾走速度は世間一般のポケモンの最速すら凌駕していた。
そして……その速度を維持する分ダグONEも、手に抱えられている少年にも
ドップラー的にかなりの負担が掛かっているが、走るダグONEはそんな事など考えられない。
考える暇すらない。
───生物として、明らかに一分一秒を争う事態と察しているのだから。
そして普通に歩けば30分は掛かる戦闘場所から僅か10分足らずで街中に到達し
周囲の驚く声を一切無視し、彼の認識である
全ての障害物を脚力とバネで走り、跳び越え。
しかし彼にはどこに人間用のポケモンセンターがあるのかわからない。
走りながら全力で人の動きに注意し、走り回ってそれっぽいのをなんとか発見した。
そして病院前に到着、ノンストップで玄関を駆け抜けようとすると
神懸りなタイミングで、丁度院内へ入ろうと入り口の扉を開けていた者がおり
絶技と言ってしまえるすれ違い技術を持って、院内へ突撃する。
「ッーーーーーーーーー!!!
ッッーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
こういうシーンでよくある、扉を強引に開けつつの登場なども無く
比較的静かに病院の受付前へ現れたダグONE。
一瞬凄まじい風が通ったような錯覚を受付付近に居た職員、患者に与えた程度で
彼が現れた事に関しては、そこまで大きい騒ぎにもなっていない。
しかし今回に限ってはその物静かさが、逆に気付いてもらえない原因に───
「あ、あなた……一体────って、ちょ、その抱えてる子ッ!!」
───原因にはならず、突然現れた茶色の長身を不気味に思った職員がおり
その長身が抱える少年の状態が、一刻を争う事態なのをすぐさま察知してくれた。
「ッーーーーーーー!!
ッーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ダグONEはその職員に、半狂乱気味に差し出す。
最早自分の主の危機を何とかしてくれるのはこの人しか居ない。
自分達の異変に一刻も早く気付いてくれる人間こそが、このシーンで一番重要なのだ。
偶然に偶然が重なり、一歩間違えば不幸のタイミングになりかねなかった状況で
居るかどうかも分からない天の神は、ひとまず彼ら一行に味方したらしい。
「受け付けさんッッ!! 応急処置道具と救急箱をッ!!」
「え!? は、はいッ!? えっと、こっ、これとこれっ!!」
「すぐに外科の先生を手術室で待機させてッッ!!
非常に状態が悪い急患が来たと伝えてッッ!! すぐによッ!!」
「急患ッ!? わ、わかりました!!」
受付を担当していた職員からは、ダグONE達の死角になっていた様で
その座っていた位置からも、すぐにダグONE達に気付く事は出来なかったらしい。
受付職員はすぐさま内線の受話器を取り、病院にその報せが駆け巡る。
受付の死角というのも兼ね、偶然フロアに居たその職員の存在はまさに僥倖だった。
「……出血量が多すぎるッ……!!
これを使っても場繋ぎすら無理かしら……──でも、やらないよりはマシッ!!」
素早く服を脱がせ、あまりの負い傷にドン引きするが
胸元を切り裂かれた服を1回だけ切れていない肌に巡らせ、大部分の血を
救急箱に入っていた消毒液の蓋を外し、中身を傷口にぶちまける。
その際、少年の体がビクンッと動いた。
意識は無いものの痛覚は若干残っているらしく、傷が巨大な事もあり
アルコールに対する薬物反応が出たのだろうか。
傷口にそのまま清潔なガーゼを置き、とても大雑把にではあるが
胸のガーゼが落ちないよう包帯で即座にぐるぐる巻きにする。
そしてそれらの処置が丁度終わったところで
「───話にあったのはその子かッッ!?」
「あ、内科の先生ッッ!!」
「担架で運んでいる暇もなさそうだ、俺が連れて行くッ!」
「お願いしますッッ!!」
まるでバトンパスのような素早い連携で、少年の体が手渡され
内科の先生に彼の体が渡った瞬間、凄い勢いで廊下を駆け抜けて行った。
「ッ! そうだ、まだ─────」
何かに気付いたのか、対応してくれた職員さんはすぐさま受付へ駆け込み
内線を手に取り、電話の向こうの相手に何かを伝えている。
「──はい、そうです。明らかに失血症状─── なので、全血液の輸血準備───」
なにやら受付の中で必死に会話をしている職員が見える。
ダグONEは、その職員に対して何も協力する事が出来ない。
「貴方ッ! あの子の血液型を知らないッ!?
あれは輸血をしないとまず助からない……一分一秒でも惜しいのよッ!」
その職員は鬼気迫る顔で、ダグONEに迫り来る。
しかし、ダグONEは蒼穹に答えが必要なその問いに答えられるわけがない。
そのような人間専用の治療や専門用語を、彼が知るわけがないのだ。
「やっぱり、わからないのね……」
「───」
親身に対応してくれた職員が、情報とも言えない情報を伝えに手術室へ行くのを確認した後
ダグONEはへなへなと壁に寄りかかり、そのまま腰を落として立ち上がれなくなり
顔を下に向けて俯いてしまった。
見る限り、彼も【運んだ際に付着してしまったタツヤの】血だらけであり
受付フロアに居た一般人は今の出来事を目の当たりにし
そして残ったダグONEの有様を見て、とてもザワついている。
───が、彼は……自分自身の体が起こした脱力すら押しのけ
ゆらゆらと全身に力を入れて、壁を背もたれにしてゆっくりと立ち上がる。
しかし、何とかそこまでは頑張れたものの……そこから先、歩き出す事が出来ない。
それはそうであろう。
戦闘場所があったあそこからここまでの距離はかなり長い方だ。
それを一切の休憩すらなく、さらには異物を抱え込んで走り続けたのだから。
精神的な要因まで重なった上で、何処の体の部分が言う事を聞くのか。
それでも彼は、行かなければならない。
自分はここまでの経緯を知るが、ここに辿り付いた後の経緯を知らない仲間が
まだ、森の方面にいるのだから……
そしてある意味良いタイミングで、対応してくれた職員が手術室から出てきた。
大きな溜息をついているが、その溜息にはどんな意味が含まれているのか───。
職員はダグONEのいる所へ歩いて行き、彼の前へと辿り付く。
そして彼の風体を見て、話しかけてきたためダグONEも顔をそちらに向ける。
「──えーと……貴方、ディグダで良いのかしら?
色々と話を聞きたいけど……まずは貴方も傷の手当てから始めましょう?」
「────。(フルフル)」
必要は無い、という意思を示すためにダグONEは首を振り
血がべっとりと付いている腕と胸元を自分の手で拭う。
血の下にあるのが自分の傷ではないという証明をするために。
「ん、わかったわ。それじゃその血を拭き取っておきましょう」
「───。」
【すまぬ……職員殿、迷惑を掛ける】と感謝の意を込め目を瞑るが
やはりダグONEの主とは違い、それだけでは意思は伝わらないようだ。
あの少年の存在がどれだけ稀有なものなのかを、ダグONEは今更ながらに思い知る。
その意を汲み込めこそしないが、動かないダグトリオに
拭き取る事への同意と取り、職員は白いタオルで血を拭っていく。
「床に落ちている血とかは、私達が後で掃除しておくから気にしないで。
……それで、なんだけど。あの子は一体どうしてあんな目に……?」
「ッ!」
そう問われて、ダグONEは改めて思い出す。一旦迎えに行かなければいけない仲間が居る事に。
そして彼の言葉は一般人に伝わる事は無いため職員から書くものを借り、カリカリと8文字を書き上げる。
{仲間に知らせたい}
「そう、まだ仲間が居るのね。わかったわ……ここへ連れて来てくれるかしら?
あの子があんな怪我を負うような事態はもう終わっているのよね?」
「(コクコク)」
「なら大丈夫ね、迎えに行ってらっしゃいな。
あとはもう、結果が全てでしかないからね……いってらっしゃい」
「───。」
職員はまだやる事が残っているのか、また受付へと入り電話をかける。
【何から何まで感謝する、職員殿よ】と、その後姿を見つめて、一度頭を下げる。
ダグONEは来た道を───。
◇
やや同時刻……
一本の電話連絡をキッカケに、とある会社も騒がしくなる事となる。
もちろんの事、現在タツヤが深く関わっている『有限会社弾頭』が、だ。
δ<ピョー ピョー ピョー
「ん……」
カチャ
「はいもしもし、お電話ありがとうございます。
有限会社弾頭電話受付担当の~~~でございます」
『─────。』
「え、はい、タマムシ病院で御座いますか……?」
『─────、─────。』
「はい、ええ、え……な……!?
は、はいっ!! 少々お待ちくださいッ!!」
突然の凶報に、受付担当の社員は慌てたものの
なんとか保留ボタンを押すまでの思考に至り、体裁を整え終えた。
「んだぁ? どうしたんよ。
シルフカンパニーがうちの会社でも買い取りたいって来たのか~?」
「ち、ちがっ、それどころじゃ……! ボス、ボスは居る!? 今日居たっけ!?」
「……なんだ、どうした本当に? リーグがこっちの裏でも取りに───」
「違う! そっち方面じゃないわッ!! な、内線ッ、内線ッ!!」
「───?」
受付担当の慌て具合は尋常ではない。おぼつかない手付きで電話機をいじる。
つまり今の電話は、受付担当の価値観でしかないが
こんな状態になるほど、自分では対処しきれない何かが起こったと言う事だろう。
さっき呟きのように電話が来た場所の名前を喋っていたと思ったが
一体どこから電話連絡が来たのか───
「も、もしもしっ! ボス、ボスですかッ!?」
『ミュー?』
「あ、その声はミュウちゃんねっ!?
ボスはっ、ボスは居るわね!? お願い、ボスをすぐに出してッ!!」
『ミューィ』
受話器越しから
少しした後、たまたま外回りが午前の間で終わる日だったために
受付の希望通り、サカキが内線に応答する。
『電話、代わった。どうかしたのか』
「あ、ボ、ボスッ!! たいっ大変、ですっ!!
タ、タツヤ君、タツヤ君がッ!! 今病院から連絡がッ!!」
『ッ!? ……大変で、タツヤ君が病院───!?』
「な、おまっ、タツヤさんがどうした!?」
「ちょっとあんた黙っててッ!! い、今タマムシ病院から連絡がありまして!」
「ッ……」
比較的会社規則が緩いとはいえ
ボスとの会話の最中に、横に居た同じ受付担当に怒鳴り散らす失態を犯してしまう。
しかし今回ばかりは本当にそんな些細な事を気にしていられない。
『どう言う事だ!? 彼が病院だとッ!?』
「は、ハイッ!! 今来た連絡だと……───生存が、絶望、的な状況だと……」
『ッ!?!?』
「び、病院の返答を保留してますが……、6番、です……!」
『わかった、すまない。あとはこちらで話をつける!』
ピッ。
小さい電子音がした後、サカキと受付の会話はそこで切れる。
「な、ど……どういう事だッ!? なんでタツヤさんが……あの子が病院で死に掛けてンだっ!?」
「わ、私も今の電話で詳しく聞いたわけじゃないけど……。
今、緊急手術の真っ最中って言ってた……正直助かる見込みが薄い、って……」
「───。」
開いた口が塞がらない。
すぐにボスに内線を繋げてしまったため、情報が薄すぎる。
「一体……何が……?」
◇
「はい、お電話代わりました……有限会社弾頭取締役、サカキと申します」
『お忙しい中申し訳御座いません。
私はタマムシ私立タマムシ病院の者で、病院の受付からご連絡させて頂いております』
「ええ、……その、タツヤ君が死に掛けていると聞き入れたのですが?」
『はい……緊急の事態とこちらで判断し
確か彼がこちらの会社の保護下であると噂をお聞きしたのでお電話させて頂く事に相成りました』
「一体……何があったのですか!?」
『申し訳ありません、現時点では証言者もおらず情報が足りていません。
ただ、最近よく聞く【しなやかな体】を持ったディグダが彼をこちらに連れて来まして……。
外傷は皮膚一部に軽い火傷、腕や膝、背中に打撲痕有り。
そして───胸部にとても大きい裂傷が走っていまして……
その傷が原因と思われますが、著しい出血が確認されています。
一時、心臓も停止してしまったのですが、何とかこちらの処置が間に合い
変わらず絶望的ではありますが、まだ亡くなってはおりません』
「なっ…………」
生存が絶望的な状況とは受付嬢から聞いた。しかし……まさかそこまで酷い状態だとは。
「わかりました、今すぐそちらに向かいます。血液の方は足りているのでしょうか?
こちらから同型の会社員を複数名連れて行きますので、彼の血液型を教えて頂きたいのですが」
『はい。先程調べた限りではB型だったようなので、B型の方々をお願い致します。
正直、事は一刻を争います。彼の親族が近くにいるなら───
よろしければ、こちらの病院までご案内頂きたいのですが』
「……わかりました。では、連絡した後すぐにそちらに向かいます」
『お願い致します』
───ガチャ。
「……!? ……ミュッ!?」
「あぁ……君は人の考えが有る程度読めるのだったな───非常に、不味い事になった」
ミュウは頭の中を読み終えたのか、軽く二回転ほどすると共に消え去る。
おそらくは、病院へテレポートで向かったのだろう。
「…………監督責任者不行き届け的な感じで、師匠に殺されるだろうな」
しかし状況を聞いた限り嘆いている暇すら無いと判断。
これ以上の我が身の保全を考えるのを捨て置き
内線放送で直ちに施設内待機をしている全員へ通達するべくサカキは動く。
● オィーッス!!オィーッス!!
「取締役、サカキより連絡。取締役、サカキより連絡。
血液型がBの者は直ちに施設入り口へ集まれ。
繰り返す。血液型がBの者は直ちに施設入り口へ集まれ。
緊急事態が発生した。明確にB型と判明している者は直ちに入り口に集まれッッ!!」
そして彼はさらに受話器を取り、尊敬と畏怖の象徴でもある『彼女』へ連絡を試みる。
が、しかし───いくらコールをしても、電話の聞き取り口は一切反応が無い。
出来る事なら、出るまでコールを続けていたいが……
「───後にするしか、無いな」
そこで時間を無駄にするわけに行かないと判断。
素早く思考を切り替え、外行きの上着を羽織りエレベーターへ向かう。
「ボ、ボス……今の放送は一体?」
「今、病院から連絡があった───タツヤ君が、今にも死にそうな瀕死の状態で運び込まれたそうだ」
「ッ、な……!?」
「……B1Fまで、頼む」
「は、はいッ!!」
◇
~B1F~
先程のサカキが発した施設内全放送を聴き、10人ほどが入り口前へ集合している。
そしてその中に最近施設内を自由に動き回っているポケモンがいた。
「ミュウツー……」
【私も先程の放送を聞いたのだ。一体何が起こっ……ッ!? なんだとッ?! どう言う事だ?!】
サカキの頭の中のイメージがそのまま流れ込んだため
言葉にせずとも何が起きているかを即座に理解するミュウツー。
しかし彼も何が起こっているのかこそわかっても『どうしてそうなったか』まではわからない。
「君が私の頭の中を読んだ通りだ……今は私にも何故そうなったのか分からない」
【……あいつの手持ちは、病院に居るんだな?】
「そのはずだ。連絡では『しなやかな体を持ったディグダ』と言っていた」
【あの三つ子の片割れか。わかった……私も行ってやろう】
意外な事に同行を申し出るミュウツー。
サカキが思うにいつも浮かぶ彼らの姿はひたすら犬猿の仲であった。
「……? 私が見る限り君とタツヤ君にはそのような義理は無かったと思うが……。
晩に馳走になっている食事は、ここで働いている事とで相殺なのだろう?」
【傍から見ればそうかもしれん。だが私はアイツの事を確かに認めている。
主張こそ真っ向から反発していて違うモノの……
アイツは多視覚を持ってしてこちらの意見にも納得している】
「……そう、だったのか」
完全に互いに同意した上での論争であったようである。
【それに私が居ればこのテレパスを用いて、その片割れの翻訳も出来るだろう。
何があったのかはあいつらに聞けばすぐにわかる】
「わかった、事は一刻を争うようだ。
すぐに病院へ出向くぞ。君は病院の位置はわかるか?」
【私にはその施設の場所はわからん、私も貴様達に同行させてもらう】
「よし。全員素早くて乗れるポケモンを出すんだ!!
これよりタマムシ病院へ向かう! タツヤ君が瀕死の重傷で運び込まれたらしい!」
ザワッ……!
一瞬で喧騒が起きる入り口前。しかし───
「もう一度言おうッ!! 事は一刻を争うのだッ!!
全 員 さ っ さ と 外 に 出 ろ ッ ッ !!」
『あ、アイ・サー!!』
サカキが怒鳴りつける事により、全員一斉に掛け声を上げて整列して入り口を上がっていった。
そしてサカキとミュウツーもその後を追い、外で出されたポケモンに乗り
タマムシ病院へ直行したのだった。
◇
代わってこちら、タマムシ郊外に繋がるタマムシシティの入り口。
ダグONEが病院へ駆け込み、タツヤの緊急手術が開始された頃に三つの影が現れる。
ドレディア、ダグⅢ、ミロカロスである。
ステータス的に素早さが厳しいため、ミロカロスはダグⅢの上に乗っている。
そして素早いドレディアと、ミロカロスを乗せても素早く動けるダグⅢが
次鋒として郊外より街へと帰還し、さらに街に足を進め走っている。
現場に残ったダグTWOとムウマージは、地面に倒れ伏すポケモンと団員をかき集め
団員の服を引き裂いた後にそれを縄代わりとして、全員を捕縛する役目とされた。
【…………。】
【…………。】
【気持ちはわかるが……そう気負うな、姐御、大女将。
我等の主なのだ、きっと無事にヒト用のポケモンセンターに運び込まれている】
【でも……でも……!】
あの傷では、どうしようも……。
【ドレディアちゃん……信じましょう】
【ミロカロスさん……】
【きっと、大丈夫です。日頃からドレディアちゃんのきつい一撃を受けても
ひょっこりと回復しているじゃないですか、ご主人様は】
【でもッ……! あんな、あんな傷を受けてッ───】
「───んッ!? 君らはタツヤ君のポケモン達かッ!?」
主人の名を呼ばれ振り返ってみれば、
ここに来てからずっと付き合いがある色々なポケモンに乗ったサカキ以下弾頭の社員達と
その後ろを浮きながら追いかけるミュウツーが丁度メインストリートへ出ようとしているところだった。
「ディッ……ディァッ!」
【間違いないだろう、アイツの手持ちだ】
「そうか、話はすまんが走りながらで良いなっ!?」
「ホァーーー!」
素早く互いの認識を終え、彼らは再び走り出す。
この際、ドレディアは彼らに殴りかかりそうになったのだが
幸いながら、それが発生する前にダグⅢが力ずくで止めている。
その事にまだサカキは気付かない。だが───
【……なるほど、そう言う事か……!!】
この場には、人の、ポケモンの、頭の中を覗けるミュウツーが居た。
「何か分かったのかッ?!」
【アイツが瀕死の重傷で人用のポケモンセンターに運び込まれたのは……
お前達が原因だ、サカキにロケット団よ】
『なっ……!?』
弾頭メンバーとサカキは、ミュウツーのその言葉に一様にして驚きつつも走り続け
タツヤの手持ち達は、全てをぐっと押さえた上で彼らの横を疾走している。
「───聞かせてくれ!」
【───わかった。アイツが襲われた原因の根本は逆恨みだ。
今貴様達がやっている……会社経営、でいいのか?
それを始める前に追放を言い渡された団員が居ただろう。
その者達が徒党を組み、隙を付いて襲い掛かったようだ】
「……あいつらかッ……!」
確かに言われてみれば、いかにもやりそうな面子だ。
なんせ彼らはサカキに拾われた事を恩と感じず、後ろ盾と判断し
ロケット団の名を威光として、悪事を繰り返していたのだから。
その威光が使えなくなったとして恨みが噴き出し
小さいタツヤを恨んで狙うのはある意味道理に適っていた。
【相当甘やかしていたようだな。
『自分達は何をやっても許される』
『ボスが俺等のやる事に反対するわけが無い』───まさに屑だな。
……貴様等がそいつらに、今の内容を言われたのは間違っていないな?】
「…………ディァ」
「───ッ」
同意の返答があり、ここしばらくはなかった苦虫を噛み潰すかの如く厳しい顔になってしまうサカキ。
つまるところ要約してしまえば……組織改革のしわ寄せは、自分に来ないで
……元々が関係者ですらないタツヤへ行ってしまったのだ。
【───互いに色々言いたい事はあるだろうが、後回しだ。
貴様等の病院と言うポケモンセンターとは、あれの事だろう?】
「ッッ! 全員入り口でポケモンをしまえよっ!!
なるべく静かに院内へ入るんだッッ!!」
ミュウツーからの指摘で、自分達が病院の近くまで来ていたのに気付き
慌てながらも的確に指示を飛ばし院内へと入って行く。そして彼等の眼に映るのは───
「───ディァッ!!」
「ッ!」
「ダグトリオの片割れかっ?!」
今まさに院内から出ようとするダグONEだった。
ドレディアはすぐさまダグONEに駆け寄り、腰を掴み体を揺らしながら尋ねる
【ど、どうだったんですか?!
主様はッ?! 主様はどうなったんですかッ!?】
【グッ、が……あ、姐───……】
「ド、ドレディア!! 一旦止まれ!! その状態では彼も喋れんぞ!!」
慌ててサカキが止めに入るが耳に入らないようだ。
【ええい面倒なッ……!! ムンっ……!】
「───ッディァ!?」
全方位からよくわからない不可視の力で固められ
無理矢理ダグONEから引き剥がされるドレディア。
【す、すまん……ミュウツー殿……世話をかける】
【───構わん、私とてアイツの心配はしていたのだ。
今、貴様の思考を読ませてもらったが……全員に伝えても良いな?】
【……
ポケモン同士のコンタクトが終わり、ミュウツーは代弁者としてサカキ達とタツヤの手持ちへ向き直る。
【今、こいつから思考を読ませてもらった。あいつがどうなったのかを伝えよう】
「…………頼む」
「…………ディァ」
「ホ、ホァ…………」
【あいつは……─────】
次回、最終回