うちのポケモンがなんかおかしいんだが   作:右肘に違和感

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極限まで表現を抑えてますが、一部グロに近すぎる表現があります。
その手の表現が苦手な方は、閲覧しないほうがいいでしょう。
あとがきだけご覧ください。












最終回 命の結末

 

【あいつは……─────】

 

ミュウツーがそう切り出すと同時に、入り口の奥からオペ用水色着衣の医者が現れた。

手術室へ入っていった職員が、入り口付近にしなやかな体のディグダが居ると聞いて、ここに来たのだ。

 

そして、その後ろにはミュウがふよふよと浮いており

医者・ミュウを見ても、ミュウツーの様子には一切変わりが無い。

 

入り口に集まっていたサカキ・弾頭の構成員・ポケモン達全ての視線を受ける中で

その場に現れた医者は、問いかける。

 

「……つい先程、緊急搬送されてきた少年の関係者でしょうか」

「───はい、この街において保護者的な立場におかせて頂いている者です」

「私事ですが、そのお顔……見覚えがあります。トキワジムリーダーのサカキさんでございますね」

 

サカキの表の顔は、カントーでは知らぬ者がほぼ居ない……それぐらい有名である。

自己紹介の必要はなさそうであると判断し、サカキはその医者に先を促す。

 

「タツヤ君は……無事、なのでしょうか」

「…………………」

 

その問いに、医者は何も話さない。

ミュウツーは医者の反応を見て、人知れず静かに目を瞑った。

 

「先生……タツヤ君は、無事ですね……!?」

「……………………」

 

サカキの二度目の問いに、医者は……

 

 

 

 

 

静かに、首を振った。

 

 

 

 

 

「そ、んな…………」

「申し訳ありません……僅かな可能性ながら……あと一分、いや……30秒早ければ……

 命を繋ぎ止められたのかもしれませんが、胸部の裂傷も、心臓に到達するほど深く……」

「んな、馬鹿な話が……」

「タツヤ、さん……が」

「死、んだ……?」

 

次々と構成員が絶望に呟く中、『それ』は動いた。

 

緑の姫君、ドレディア。

 

身長差をものともせず、医者の着衣の胸倉を引っ掴み───絶望の目を浮かべて医者を揺さぶる。

 

【冗談……冗談でしょうッ?! 嘘でしょうッ?!

 嘘だと、嘘だと言ってくださいッッ! 私達のご主人様が……私達を置いて……行く筈が……!】

「う、ぐッ……!」

 

そのドレディアの動きに、医者は何も抵抗せずなすがままにされている。

医者としても、彼等ほどではないにしろ悔しいのだろう。

 

もしかしたら助けられた命が、救えなかった事が。

 

【その辺にしておけ、ドレディア】

 

意外な事に、その図を制したのはミュウツーだった。

無理な力の無いサイコキネシスで、医者から静かにドレディアを引き剥がしていく。

 

【今、その医者を揺さぶった所で何にも成らん。

 事実、先程までミュウが居た部屋の様子を伺っても───

 部屋に居る影に対して、生命の波動がひとつ足りん……そういうことだ……】

 

他のポケモンより仕入れる事の出来る情報が格段に多いミュウツーは……

 

皮肉な事に、あの場でダグONEと相対した時点で

 

 

 

タツヤの『死』を、感じ取ってしまっていた。

 

 

 

それをその場に告げたミュウツーは、今までの変化の無かった表情から一転して

 

世界の全てを怨む様な強烈な顔へと変化する。

 

『人』という存在を嫌う中で、幾分マシな存在と触れ合い……

そしてそのマシな存在は、自分が嫌う存在の身勝手で淘汰された。

 

その事実が、心から憎い。

 

そんな表情に変わっていた。

 

全員何も言葉が浮かばない中で、ドレディアは───膝から崩れ落ちた。

 

 

 

【どうして……どう、して……こんな事に……

 主様…………、主様ぁぁァァーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!】

 

 

 

涙を流し、声を張り上げ叫ぶ……主への呼びかけは。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、彼には届かない。

 

 

 

 

 

 

「号外ーー!! 号外ーーー!」

 

セキチクシティのとある新聞社の前で、新聞を配っている者が見える。

 

「号外……?」

「ほぉ~、号外かぁ。なんやろね一体」

「私達も貰いに行きますか?」

 

どくタイプを扱うジムが街中にあるその都市で、三人の少女トレーナー達はその声に気付く。

タダなのを良い事に、何十人と配っている者の周りに集まり……

 

そして、その記事の内容を見て驚愕し、ザワザワと騒がしくしていた。

 

三人娘もその号外を貰いに行って、無事に受け取り

三人で一緒に顔を覗き込んで、その号外記事の内容を確認する。

 

そこに書かれていたタイトルは───『若き英雄、逝く』

 

「……マジかッ?! 誰か殺されたんかッ?!」

「そんな……」

「英、雄……?」

 

記事の見出しを確認して、全員が誰かが『殺された』事を認知する。

 

この世界では、人の『生き死に』に関して非常に厳重に取り扱われる。

生活レベルで、やり方によっては人をあっさりと殺す事が出来る力を持った生物が数多く存在しており

その事情から、人に対する致傷沙汰や殺人などは禁忌中の禁忌とされている。

 

その様な背景から人が『居なくなってしまう』事が、不慮の事故ですら稀であり

殺されたとなると、この通りの号外が出るような大騒ぎとなるのだ。

 

「なになに……三時間前にタマムシ郊外で15対1のトレーナー戦があって……

 その勝負は一方的な私怨から発生したルール無用のバトル……

 英雄、善戦するも力尽き、病院に運ばれたが治療の甲斐無く死亡……うわー、怖いわぁ……」

「じゅ、十五対一……? そんな、数の暴力なだけじゃないですか……」

「15人に怨まれるなんて……一体どんな人……ん、英雄、英雄……?」

 

 

三者三様にその記事の内容を吟味していくうちに、モモと呼ばれるトレーナーがそれに気付く。

 

 

「英雄、って……知名度がある人って事よねぇ。えーと……なになに……殺された少年は……?

 二ヵ月ほど前に起きた『サントアンヌ号事件』を単身で、解、決……?」

「身元の確認をした結果、その後の祭典で感謝状を、辞退……。

 ───ちょっ、これって……まさかっ……!」

「殺害された、少年の……!?」

 

その記事に載っていた名前は

 

彼女達にあまりにも近しい存在だった者の名前。

 

そこにあった名前は……

 

 

 

『ポケモントレーナー……───タツ、ヤ……』

 

 

 

 

 

 

『なんだ、これはッ?! 悪い冗談にも程があるぞッッ!!』

「ヒィッ!?」

 

また、別の港町にて号外を配っていた者に……新聞を握り締めて異国語で詰め寄る軍人がいた。

 

「……オゥ、ソーリィ……申し訳ありまセーン……

 ミーが、良く知ってるボーイのネームが載ってたですネ……」

「あ、いや……気にしないでください、マチスさん。

 そうですね……殺人事件というだけでも驚きなのに、それが知人だとしたら……」

「……センキューデース」

 

あまりにも大人気なかったその行動を、被害者に許され

そして憤慨して詰め寄ってしまったその内容を、改めて事実確認していく。

 

「これは……リアリーですカ……?」

「はい……間違いありません……タマムシシティの支社から伝わってきた正確な情報です」

「………………」

 

信じたくは無い。

つい二ヶ月ほど前まで、共に修行し、共に飯を食べ、共に談笑した……小さな友が。

 

既に、この世に居ないと

一体誰が信じられるというのか。

 

そして軍人は、自分が管理を任されているジムに向けて走る。

いくら情報で言われても信じられないその内容を自分の目で確認するために。

クチバジムを一度休業させて、タマムシへ行くために。

 

 

 

 

 

 

「レ、レンカさんッッ!! た、大変じゃッ! 大変じゃぁーーッッ!!」

「……あら?」

 

白衣を羽織った老年の男性が、とある一軒家の玄関の扉を叩いて騒ぐ。

その住居に住む年齢不詳の女性は、先程用事から帰宅して

家事に身を費やそうとした矢先の事だった。

 

「んもー、どうしたのオーキドさん。近所迷惑になっちゃうわよー」

「い、いや、近所迷惑とか、そ、そん……」

 

改めて注意されても、老年の男性は興奮と驚愕が冷め遣らぬ青褪(あおざ)めた表情をしており

その手には、ひとつの新聞が握り締められていた。

 

「レ、レンカ、さん……大変なんじゃ……! タツ、タツヤ君が……タツヤ君が……」

「んー? うちのタツヤがどうしたの?」

 

そして、握り締められた新聞を手と共に差し出され

女性はひょいっと取り上げて、その新聞を確認する……どうやら号外のようだ。

 

「ん、なになに……英雄、逝く……!? 誰か、殺されてしまったの……?!」

「そ、そう、そうなんじゃ……さっき街から帰ってきたワシんトコの所員が……

 この新聞を……持ってきて……」

 

いつまでも冷静になれない男性を尻目に、女性はその記事について考える。

 

大変、何が? タツヤが大変。

 

持ってきたものは、新聞。久方振りに聞く殺人事件。

 

大変、新聞、殺人、タツヤ……

 

 

「───ッッ?!」

 

 

ひとつの、信じたくない想像が頭を這う。

記事を流し読みして、現実であってほしくなかった名前を……確認してしまった。

 

 

 

「タツ、ヤ…………?」

 

 

 

 

 

 

その事件はカントーだけに留まらず、隣り合った地方のジョウトとトーホク地方にもすぐさま広がった。

 

この世界では、それこそ10年単位で起こらない殺人事件。

しかもその内容は一方的な私怨、人々が口々に噂するには十分なゴシップ性を持っていた。

 

さらには、殺された人物が……少し前に起きた大事件を単身で解決した『化け物』。

 

 

以前述べたように、この世界ではジムリーダーになるための労力が凄まじく

一度成れたからといって慢心すれば、すぐさまその座を追われる程に厳しい競争率であり

その地位を長く勤める者達が周りから集める尊敬は、英雄視にも匹敵する。

 

そして、その英雄達が一切手を出せなかった事件を単独で解決した少年。

彼が思っている意識と違い、感謝状を受け取らなかった事で顔と姿は広まらなかったものの

事件が起きたカントーでは、知らぬ者が居ない程の……まさに『突然現れた英雄』だったのだ。

 

 

その英雄が、逝った。

 

 

人々が騒がないわけが無い。

 

 

 

 

霊安室。

 

 

その部屋に置かれるベッドの上の小さな身体。

 

横には、ただ呆然とそこに立ち尽くす緑色の姫君が居る。

 

虹色の鱗を持った、美の化身も、健康そうな身体を持った、土竜も二人居る。

 

 

彼らは何も言わず、言えず……その部屋の中にいる。

供えられた線香の匂いが、嫌に鼻に付く。

 

サカキはミュウツーが知った一通りの事情を又聞きした後、元ロケット団員全てを回収しにいった。

そして警察が網を張る前に、全員を施設のとある部屋に「監禁」している。

 

人目に憚らず目的を達成させるため、サカキが考えていた内容に納得した上で

ダグTWOが凄い勢いで地下トンネルを掘りあげて行き、人目に触れることなく回収に成功した。

 

 

「───……」

 

 

自分達の仲間が、自分達の主を見ても……彼は一切動かない。

胸の傷が布で隠されているため、傷の殆ど無いその顔を見ると今にも動きそうだ。

 

しかし、この世界でこの身体が動く事は、永遠に無い。

 

 

「───…………リトル、ボーイッッ!!」

 

 

不意に部屋の外から駆け足の音と、ある人物が彼に使っていた呼称が聞こえた。

 

その声と共に現れたのは、やはりその人物であるマチス。

 

 

マチスが現れても、その中に居た彼の手持ちはピクリとも動かない。

 

「……ボーイ」

 

そのベッドに横にされている彼を見て、マチスは……ついに認めたくなかった事実を認識する。

 

『私の……ジムに、挑むと言っていたじゃないか……

 また……クチバシティに……寄ると言っていたじゃないか……!』

 

マチスは、自分の母国語で呟く。

その握り拳は、血が滲むほどに握り締められ、頬には一筋だけ水の線が描かれる。

 

あまりにも若い友の、あまりにも予想外な別れ。

それは、年齢など関係無く……ただひたすらに悲しいだけの、事実。

 

 

カッ、コッ、カッ、コッ、カッ、コッ。

 

 

複数人の足音が、外から響いてきた。

そしてその足音達が途切れたのは、この霊安室の前。

 

そこには、株式会社『弾頭』の代表取締役のサカキと……ベッドに居る骸の母親、レンカだった。

 

「 ! マチス、殿……?」

「……ミスター、サカキ」

 

部屋に居た予想外の人物に声を掛け、そしてその声にマチスは反応する。

新聞の記事に載っていた会社の名前は、一ヵ月程度前に速報で流れたので

マチスの方は、タツヤが現在居るタマムシにおいてサカキが近しい存在であるのを認知していた。

 

しかし、サカキ側からすればマチスがここに居る事に驚いてしまう。

 

クチバシティから、このタマムシシティは……いくら早い空を飛ぶポケモンでも

普通であれば5、6時間はかかるのだから。

 

「………………」

 

横で意外な顔との会合をしている中、ベッドの横に立っているポケモン達の横を抜けて

レンカは、自分の息子と対面を果たす。

 

「……あ、はははは。もう……タ~ツヤ。

 こんなところでな~に寝てるのよぅ。あんな新聞まで出して人騒がせなんだから~」

 

もう動き出す事の無い骸に対し、いつも話しかけていたように喋りかける母親。

 

「まったく……この子達も貴方のポケモンなんでしょ?

 心配掛けさせちゃ駄目じゃないのー。ほら、さっさと起きなさい?」

 

その声質は、悲壮感など微塵も感じさせないものであり

本当に寝ているだけにしか見えない少年に対して喋りかけるその構図は

 

 

あまりにも、残酷で。

 

 

「ほら、さっさと起きなさいって言ってるでしょ。

 ……起きなさい。起きなさいってば……ねぇ……

 起きなさいって……言 っ て る で し ょ う ッッ!?」

 

 

普通だった会話は、途中で懇願になり、大声になり……その声も、もはや彼には届かない。

 

そしてその遺体に勢い良く触れ───そうになったところで、彼の母親を引き止める手が現れる。

 

 

それは……レンカに顔を向けながら、静かに涙を流し続けている彼の『初めての相棒』だった。

 

 

「───。」

「あ、なた……」

 

その涙の意味するところを、元ではあるがトレーナーだったレンカも十分に(うかが)い知る事が出来る。

それほどまでに、彼は仲間に愛されていたのだ。

 

自分がかつて、そうであったように。

 

「……レンカ師匠」

「…………何? サカキ君」

「別室で、事情を説明させて頂きます……こちらへ、お越し願えますか」

「……ミスター・サカキ、ミーも……リスニング、オーケィ?」

 

そのサカキの様子から、何かを察するものがあったのか

形的には部外者ながら、マチスが同行を願い出た。

 

しかし、それを聞いて……サカキは改めて何かを覚悟したようだ。

 

「すまない、マチス殿……これから彼女に話す内容は……

 とても表に出せない裏事情もあるのだ……知る権利がある、母親のレンカ殿にしか話せない内容だ」

「……オーラィ、無理を言ってソーリィね」

 

やんわりと拒絶の言葉を述べ、それに同意するマチス。

レンカはサカキに促され、一旦は息子が眠る部屋を後にする。

 

「ミスター・サカキ……」

 

軍人をしていた彼には、その表情が何を決意していたのかわかっていた。

あれは……死ぬ前に漢が決心する顔そのものだった。

 

 

そして、擦れ違う様に……また、複数の少女による駆け足の音が廊下に響く。

 

 

 

 

職員に無理を言って空き部屋を借り受け、サカキとレンカは部屋で静かに対峙する。

その気迫は、『知る者』であればすぐに忌避してしまいそうな程の重圧。

 

「……それで、サカキ君……事情、というのは?」

「はい」

 

その質問に返事をして、サカキは……その場に静かに正座をして

ゆっくりと、形の整った土下座をするのだった。

 

「レンカ師匠……此度(こたび)の件、全てにおいて私の責任でございます。

 彼が亡くなるに至った事情、巻き込まれた事情……どちらも私の監督不行きからなる事態でした。

 説明が全て終わった後……私の存在をこの世から消し去って頂いて構いません。

 許して頂きたいからする発言ではありません。しかし、これしか言葉がありません……。

 この度は、取り返しの付かない事をしてしまい───誠に申し訳ありませんでした」

「……そう」

「そして、此度の事件に至った経緯をお伝えするまで

 もし許されるのであれば、その間だけ存命させて頂ければと思います」

「……わかる範囲で、全て話してくれるかしら?」

「はい……」

 

レンカに促され、サカキは説明を始める。

 

「まず、今回の犯行については……誰がやったかご存知ですよね」

「ええ……一ヶ月ぐらい前に解散したロケット団、よね?」

「はい、その通りです……───そして」

「そして?」

「そのロケット団のトップ、団長が……この私、サカキなのです」

「ッ!!!!」

 

その内容を聞き、レンカはすぐさま正座しているサカキの胸倉を持ち上げ

そのまま宙にサカキの身体を持ち上げ、襟首を締め始める。

 

「あ、なたッ……! 私の、私の弟子を名乗りながら……一体、何をッッ……!」

「っぐ……! し、師匠……い、や……レンカ、殿……!

 貴方の、感情が、私を……許せないなら……このまま殺して頂いても、構い、ません……!」

「サカキィッ……!」

「で、すが……お願い、します……!

 此度の件……まだ話せて、居ない……部分がある、ので、す……!」

「………~~~~ッッ!!」

 

サカキの言葉を聴き、先程話された通りに既に『死の覚悟』を持っているのを改めて窺い知る。

 

そして、全てを聴いた上で判断せねば……既に居ない自分の次男にも、呆れ顔をされると考え……

 

襟首に入る力を、理性全開で緩め……静かに静かに、サカキを床へと下ろす。

 

「……ッぐ、ゴホッ……本当に、すみません……レンカ殿……」

「……レンカ師匠で、良いわよ」

「……しかし」

「大丈夫、貴方の言葉は真摯に受け止めさせて貰うから。

 それに……まだ、破門を宣言してはいないわよ?」

「……わかり、ました。では……話の続きを」

「ええ、お願い」

 

どちらも互いに冷静になり、改めて聞く姿勢となった。

レンカに促され、正座の状態から部屋に備え付けられている机と椅子を挟んでの会話に変更される。

 

「まず、ロケット団は……元々が純正の犯罪組織ではなかったのです」

「……そう」

 

そこから、サカキの口から語られていく『事実』。

 

街に(あぶ)れてしまっていた若者達のために、何か出来ないかと誘い入れていき。

そして彼らを、気付いた時には囲いすぎてしまい、しかし見捨てる事も出来ず。

自分がジムリーダーとしてポケモンリーグから貰っている給料では彼らを賄い切れなくなった時に……

 

囲った彼らが選んだ道は……犯罪を犯してでも、ボスの為に動くという信念。

 

その形でいつの間にか民衆に認識され始めて。

それでも組織が立ち回らなくなってきてしまった……そして計画をして事を起こしたのが……

 

「サントアンヌ号占拠事件、です」

「…………確か、その事件での人質の中にあなたも居たのよね?」

「ええ、そこで初めて……『戦う覚悟を持った』タツヤ君に遭遇しました。

 師匠に一度言われていたのに、完全に不注意でしたよ……まさか彼一人で全てをひっくり返されるとは」

「ふふふ、そりゃそうよ。だって……私の、自慢の息子だったんだもの」

「……『だった』ですか……。続き、よろしいでしょうか」

「わかったわ、続けてくれる?」

「はい」

 

促され、さらにサカキはポツポツと語り出す。

 

このサントアンヌ号の件は、組織の中での大企画であり……

失敗すれば、ロケット団にはもう後がなくなるという程のモノだったのです。

事実、ロケット団構成員はこの件からさらに活発化してしまい……

『禁忌』として厳重に禁止させていた、ポケモン殺しまでするほどだったのです。

 

「───そして、シオンタウンで一匹のポケモンが殺害されてしまいました。

 その事件にタツヤ君が、深く関わるキッカケがあったそうです」

「…………」

「彼から聞いた限りだと、その事件を起こした構成員と留置所で話す機会があったそうで……

 私を尊敬する者達が語る組織の現状を聞き、ロケット団を変える決心をしたそうです」

「……さすが、自慢の息子ね。知らないところで、しっかりやっていたのね」

「本当に、彼には頭が下がる想いしかありません……。

 そこから一週間程度、今から丁度一ヵ月前辺りに……彼は、この町に現れた」

 

ここからは色々と、摩訶不思議な事情も出てきます。

彼は、何故か私達しか知らないロケット団本部の入り口を正確に知っており……

見張りをしていた者を的確に見分けて、『ロケット団のボス』である私に接触をしてきたのです。

彼の中で既に決めていた通りに、ロケット団という団体を改善するために……

 

「彼は単身で、私達の居た施設に来たのですよ」

「……なるほど、ね。そちらの事情は大体わかったわ。

 うちの息子が、あんな事になってしまった原因は……一体なんだったの?」

「簡単に述べさせて頂くと……彼はどこかから凄まじく(さと)いポケモンを連れてきまして……

 そしてそのポケモンはエスパータイプで、人間の思念を読み通す力を持っていたらしく

 彼が組織を改革する前に、『ロケット団を隠れ蓑にして犯罪を楽しむ連中』を選別したのです」

「………………そう、そいつらなのね……私の息子を……殺したのは……!」

「……その通りです」

 

レンカが激しい怒りに焼き尽くされかねない中で、サカキは座っていた椅子から立ち上がり

再度レンカの方へ向いて、深々と90度の角度で御辞儀をした。

 

「改めて……此度の件、構成員を管理しきれていなかった……

 そして、彼の力を過信して……彼の身に危険が迫る状況を放置した私の責任です。

 本当に……申し訳ありませんでした……」

「…………」

「師匠、既に覚悟は出来ています。先程、『弾頭』の簡易の引継ぎも済ませてきました。

 もしよろしければ、師匠の手で介錯をお願いしたく思います」

「…………」

 

全ての事情を話し終え、サカキは完全に決意した顔をしている。

あとは、目の前に居る『世界の異物』の手で逝く事だけが仕事と言わんばかりに。

 

レンカは、そのサカキの様子を見て───口を開いた。

 

「……『弾頭』代表取締役、サカキ」

「はい、師匠」

「───私は、貴方を───(ゆる)します」

「…………は?」

 

サカキは全く想像出来ない言葉を告げられ、その場で呆然としてしまう。

彼女の息子の完全なる死因である、自分を……赦す?

 

「私もね……今は暇な主婦でしかないから、ね」

「は、はぁ……」

「……最近、『弾頭』という会社がどれだけ頑張っているのかは知っているわ。

 あのロケット団を更正させるために、ロケット団の面子を社員として働かせている、ってね。

 今じゃしっかり会社でも黒字をあげているんでしょ?」

「ええ、はい……」

「……貴方の口から出る、『ロケット団』だった時代に折れ掛かっていた屋台骨が

 きちんと回復するぐらいに、頑張ってるんでしょう?

 ───貴方は、昔から……嘘をつくような子じゃないわ。

 きっと、今話した事も全部事実なのよね……それを聞いたら───私も、貴方を殺す事は出来ないわ」

「師、匠……」

 

全てを話した上で、赦されるとも思っていなかった。

しかし、自分が尊敬した師匠は、自分のやってきたことを認めてくれて。

 

彼と同じように、認めてくれて───

 

「けど」

「……はい」

「『そいつら』を赦す事は出来ないわ。

 新聞では、まだ捕まったという情報は無かった……貴方、隔離してるわね?」

「……推察の通りです。警察に捕まった所で……おそらく何も反省しないと思いまして。

 これより少し後に、現実を見せた上で『ロケット団』の暗部に『私刑』を与えるつもりでした」

「そこに連れて行きなさい。有無は言わせない」

「……ハッ、了解しました」

 

レンカが望んだ内容は、サカキに一瞬で受理され……話し合いは終わる。

レンカが席を立ち、サカキが戸を開け……向かう先は『弾頭』本社。

 

 

 

 

「こちらでございます」

「ええ」

 

入り口から地下へと下り、本社へと入ったサカキとレンカ。

その通路で受付件見張りをしている社員に労いと挨拶をして、本社の中へと入っていく。

 

そして、『15人』が監禁されている部屋へと静かに入った。

 

「っぐぅ……痛ぇ……あんのクソガキ……」

「くっそ、生きてたら次こそ絶対に殺して……って、ボスッ?!」

「え、な、ボスじゃないっすかッ!」

 

部屋の入り口に入ってきた二人に気付き、彼らは一斉に『ボス』に注目する。

口々に、自分が伝えたい事を述べていく。

 

「どうですか! あの子供に痛い目を見せてあげましたわッ!」

「ええ、これで俺らはもう一回立ち直って行けますッ!」

「……っへへ、俺等の邪魔すっからああなんだよ、あんのバケモンめが」

「…………」

「──────」

 

その内容に、サカキは理解されていなかった自分に涙を流し……

レンカはどれだけの屑に、自分の息子が───

 

「……ところで、ボス。その横の女はなんなんっすか?」

 

サカキに隣の人物について問いかける、犯行者の一人。

その声と同時に、レンカはゆっくりとその一団が蠢く所にゆっくりと近づいていく。

 

「……あん? んだぁオバハン」

「うん、こんにちわ」

「あ、あぁ……なんか用かよ」

 

気配は、まるで雑談でもするかのような空気。

レンカも目線が会話している一人に合う様に腰を下ろし、挨拶をする。

 

「私の息子が、お世話になったそうね」

「……は? 息子って……まさかあのクソガキかよ」

 

「ええ、そうよ。

 

 そして、さようなら」

 

「さっきから何わざわざ      いって         ん      だ    よ   」

 

会話している一人の言葉が言い終わらぬうちに

 

レンカは自分の右手を彼の顔に閃かせた。

 

 

 

 

 

そして

 

彼の頭は

 

身体から消えた

 

 

 

 

 

壁の方に何か音がしたのは、一体何が原因なのか。

 

サカキ以外の全員が何も理解出来ない中、レンカは緩やかにその場を動いた。

 

動く度に、壁に何かが激突する音が響く。

 

 

ものの10秒で、彼らは彼女の息子と同じく「この世から消えた」。

 

 

「ぁ~ぁ。なーんの得にもなりゃしなかったわ。本当に、世の中って理不尽よね……」

「……耳の痛い話です」

 

何事も無かったように、レンカは部屋の入り口へと戻り

サカキは来る彼女と共に部屋から退室するため、閉めていた扉を開ける。

 

「サカキ君、アレの処理はそっちでお願いね」

「元々私の不手際です、今から私も同じ様にしても構わないのですよ」

「いえ、貴方にまで手を出したら……きっと、枕元に立たれちゃうわ♪ ───けど、ね」

 

軽いノリで話し始めるレンカの語気が、最後だけ強くなる。

そして、レンカはサカキを真正面から見て、述べた。

 

「あの子と共に関わって、ここまで立ち直らせたこの組織……

 貴方の不手際で再び堕ち目になったら───それで終わりと思いなさい」

「肝に銘じるまでもありません……その時は、レンカ師匠の手で───お願いします」

「───えぇ……本当に、頑張ってね。お願いよ」

「……痛み入ります」

 

弟子と師匠の本社における会話は、これで終わりと相成った。

せめてもの救いは……この世界において、今交わされた約束が破られる事は無かった事だろうか。

 





と、いうわけで救いの無い最終回となりました。
この本筋で残る話はエピローグのみになります。

これが、にじファン時代に書き上げたかった内容です。
「奇跡は何度も起こらない」「現実は、現実であれ」
小説にありながら、そんなものを目指した終着点ですね。

批判もあろう事かと思います。ポイントとかもがっつり減るかもわからんね。
しかし全て覚悟の上だ。やりたい様にやって何が悪い。

実際、三ヶ月ほど前にこのシナリオは告知してます。
10月15日の活動報告をご覧ください。
7話前から一文字ずつ掲載していた「あさきゆめみし」と載っております。

この「あさきゆめみし」を検索して、それを「聴いて」、歌詞の意味を知れば
今回の終わりも認知出来ていた事かと思います。

※追記・どうやら「あさきゆめみし」というのが様々な形で世に登場している様なので
    完全に特定できるよう、「恋姫」と入れることをオススメします。

一人ぐらいはそこからこれを予想した人が居てくれるとこちらとしては本望です。



あ、それと最終回は別に最終話じゃねーから。

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