怪しい訪問販売買った骨董品は実は恐竜の卵でした!? 作:k9suger
「動物にはそれぞれ適した飼育環境や飼育場所の広さがある。よく動物園などで熊が檻の中に入っているが、通常熊の縄張りの広さは300㎡前後だ。そんな狭い環境で飼育していてはストレスが掛かり良い飼育体勢とは言えない」
と長々と語る長尾と一緒にホームセンターのペットコーナーを見て回る。目的は今よりも広くてしっかりとしたケージを見つけることだ。
「そうだな」
「恐らくこのことは恐竜にも当てはまるだろう。今はまだ幼く行動範囲も狭いが大人になるにつれて行動範囲が大きくなり、より広い飼育環境が必要となる」
「なぁ長尾、言いたいことはわかるけどさ恐竜の種類すらわからない現状、適切な広さなんてわからないだろ?」
「言う通りだ、せめてもう少し大きくならなければ......最悪飼育環境の広さ以前に大人になった恐竜が飼育ケースに入るかどうかも未知数だ」
確かにティラノサウルスとかだったら大きすぎてケージとかじゃな飼えないよな。それこそ動物園の檻とかに入れないと安全に飼育することすら難しいだろう。
「見たところ竜脚類のようには見えないことに加えて、卵があまり大型ではないという事を考えると、そこまで大型化するとは考えにくい......まぁ可能性はゼロではないな」
「これとかどうだ? 大きいし透明だからよく見えるだろ」
「悪くない。しかしただ入れるには床が硬すぎるから何か敷き詰めよう」
「敷き詰めるって何を?」
「砂や土だ......ただあの恐竜がどのような場所で生息していたのかが不明な現状どういう環境に似せれば良いのかがわからない」
「じゃあ今まで通り毛布で良くないか?」
「いや、それは避けるべきだろう。少なくとも6600万年前に毛布があったとは思えない」
「そうだな......じゃあこの広葉樹マットはどうだ? ここに鳥のヒナを飼う時に敷き詰めると良いって書いてあるし」
「ふむ、良いと思う。恐竜が鳥に進化した可能性は今のところ非常に有力な説だ。鳥のヒナに適した環境であれば恐竜に適している可能性も高い......それで行こう」
「おっけ」
長尾が飼育ケースを抱えているので、俺は広葉樹林マットを買い物カゴに入れる。長尾の勧めで他にも、倒木やシダ植物なども買い物カゴに詰め込む。
「ねぇ、それで恐竜育てんの?」
俺と長尾がレジに向かおうとした時、背中から聞いたことのある明るい声がかかる。振り返ると高校時代同じクラスだった四ツ谷杏が立っている。
「きょ、恐竜? 何を言っているのかよくわからないな理解不能だ」
長尾がわざとらしく惚ける。
「いやなんか変な組み合わせだなぁと思って眺めてたらさ、恐竜がどうとか言ってるんだもん。あたししっかり聞いてたから知らないフリしても無駄だよ」
「なぁ拓也、その買い物カゴを床に置いて良いから、目の前に居る女を取り押さえておくんだ。絶対に逃がすなよ。僕はその間に会計を済ませておく」
「え?」
「あまり恐竜の存在について、多くの人間に知れ渡るのは安全保障上問題がある。恐竜の為にも取り押さえるんだ」
「よくわかんないけど、わかった」
俺は杏近づき手首を掴む。
「え、何? なんで? ちょっと......」
>―< >―< >―< >―< >―<
「なんでここに連れてきたの?」
会計を済ませて戻ってきた長尾も合流し、杏を取り押さえてから店から出て近くの人目に付かない路地裏へと連れていく。
もちろんこれは俺が考えてやった事ではなく全ては長尾の指示だ。
通りすがりの人に男子二人が路地裏で女子大学生を取り囲んでいる姿を見られたら、変に勘違いされそうで怖い。
「まず君は今聞いたことを全て忘れ誰にも言わないと約束できるか?」
「それって恐竜のこと?」
「そうだ」
「まぁ出来るけど......なんで?」
「なんでか......君が恐竜に対して特別な感情を持っていないのは理解している。だから君が恐竜の事を知ったところで危害を与える事はないだろう。ただ周囲の人間に恐竜の存在を伝えることで、悪意のある人間に巡り巡って話が伝わる可能性がある為だ」
「あのさ、なんか意味わかんないんだけど。恐竜に害を与えるってどういう事? 恐竜でも飼ってんの?」
そう言われて俺も長尾をも杏から目を逸らす。先程までは威圧的だった俺たちふたりだが、痛いところを突かれて勢いが弱まる。
「......それはノーコメントだ」
「なにそれ? でもその買い物を見た感じそーゆー事だよね?」
「いやそんな事はないんだ......ほらふたりでリクガメを飼う話をしてて、これはその為の道具なんだよ。だから恐竜は関係なくて」
「苦しいね」
「......」
その言葉で俺達の弱まっていた勢いは完全に絶たれた。杏の言う通り恐竜を飼育する話をしていた事を聞かれているならば、この飼育道具を他の生物ものだと言い張るのは厳しい。
それに俺の隣に居る長尾が恐竜オタクである事は周知の事実......逃げ切るのは難しい。
少しの間があった後、長尾が口を開く。
「君の指摘のは正しい、僕と織部拓也は恐竜を飼育している。正確には織部拓也が飼育していて、恐竜に関する事を僕に尋ねてきた」
「へぇ」
「噂が広まり、恐竜のことが公になる事態は問題がある。だから君には恐竜のことを黙っていて欲しい......どうだろう?」
そう言って長尾は頭を下げる。なので俺もそれに続いて頭を下げた。
「ちょっ頭下げなくて良いから......まぁ事情はわかったから恐竜に事は周りに言わない」
「ありがとう」
「でも条件がある」
「条件?」
「まずあたしの名前は四ツ谷杏だから“君”とは呼ばないこと」
「わかった。そして“まず”という事は2つ目の条件が存在するのだろう?」
「うん、2つ目の条件は......恐竜見せて欲しいなーって事」
「え?」
「いやいや“え?”じゃないでしょ。恐竜だよ、絶滅してるんだよ! 普通ならありえないじゃん生きてるなんて! だから、その目で確かめたい的な?」
「どうする長尾?」
「見せないで騒がれる方が問題だ。ここは素直に見せて提示された条件を満たした方が安全である可能性が高い」
「まぁそうだな」