怪しい訪問販売買った骨董品は実は恐竜の卵でした!?   作:k9suger

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頭脳派恐竜

「可愛い〜めっちゃ付いてくるんだけど」

 

 あの後俺と長尾は渋々杏を家に招き入れ、ロープを見せることにした。杏は既に大人になった恐竜の姿を想像していたらしく少し残念そうだった。

 しかし、こうしてロープと楽しく遊んでいる様子を見ると、今はそんな事全く気にしていないようだった。

 

 そして杏がロープと遊んでくれているうちに俺は長尾とケージの準備をする。

 

「でかないなぁ......リビングが凄く狭くなった」

 

「そりゃそうだ、購入したケージは縦2m横2.5m高さ60cmの子犬用サイズ。リビングの1/4程度を占領する計算だ......とは言えこれは必要な犠牲だ」

 

 そう言いながら長尾はケージの床広葉樹にマットを敷き詰める。柔らかそうな細い繊維タイプの物も売っていたが、柔らか過ぎるのは不自然なので粒の大きい物を選んで購入した。

 

「なんか、良さげじゃないか?」

 

「悪くない......むしろ良いだろう。最悪転倒してもこの柔らかさなら怪我をする心配もないし、毛布と違い地面を踏む感触に近いだろう」

 

 シダ植物や倒木などはもう少し成長してから入れることにしたので、少し簡素ではあるが新しいロープの家が完成した。

 

「おぉほら新しいお家だよ」

 

 杏に抱えられていたロープが新しいケージに入れられる。最初は環境の変化で戸惑っていたのか顔を沢山動かしていたが数分もすれば慣れてきたようだった。

 

「ねぇこの恐竜って何? トリケラトプス? それともティラノサウルス?」

 

「わかんないんだよ」

 

「長尾でも?」

 

「あぁ不明だ。まだ幼くて体の特徴がしっかりと出ていない......でもまぁ今ある情報からでもある程度の推測はできる」

 

「本当か?」

 

「あぁ......まずこのフォルムから獣脚類である可能性が高いと考えられる」

 

「じゅうきゃく?」

 

「獣脚類。有名なもので言えばティラノサウルスやアロサウルスなどが挙げられる。肉食である点や二足方向である点、そしてこの後ろ足に対してあまり大きくない手は獣脚類の可能性を大きく高めている」

 

「それだけ?」

 

「他にもある。先程例を上げたティラノサウルスやアロサウル等の大型肉食恐竜ではない可能性が高い。卵のサイズは拓也の目測ではあるが8〜9cmニワトリの卵よりは少し大きいサイズだ。恐らく成長しても人間の体高を大幅に超えることはないはずだ」

 

「つまり簡単にまとめると?」

 

「小型から中型の肉食恐竜である可能性が高い」

 

「なるほど......」

 

「あのさーこの子写真とっても良い?」

 

「だめだ」

 

「なんで?」

 

「他人に見られたらどうする?」

 

「そん時はインターネット写真だって誤魔化すよ。あたしのフォルダーに恐竜の写真が入ってたって誰も生きてる恐竜が居るなんて思わないでしょ」

 

「たしかに、それもそうか......そう言えば拓也、今思ったんだがこれからは積極的に恐竜を撮影するべきだと思う。一日一枚は最低でも取ろう」

 

「なぁ良いけどなんで?」

 

「君の育てている恐竜には、もの凄く価値がある。この恐竜がどの様に成長するかを記録することで研究の助けになる可能性がある」

 

 長尾は恐竜研究の手伝いになるからと言うけれど、普通にロープの可愛らしい姿を写真の中に収めておきたい気持ちはある。

 今までも何枚かロープの写真は撮影してあるのだ。

 

「それに、記録があればこの恐竜が死んだ後も成長過程や食性などを見返して調べることが出来る。写真だけではなく記録もつけよう」

 

「まぁ良いけど......研究ってなぁ、俺はロープとは普通に接したいんだけど」

 

「それは“ペットとして”普通に接したいという事か? 君の気持ちはわからなくはないが、君は自分が育てている生物がどの様なものか今一度確かめたほうが良い。君の目の前に居るのは6600万年前に絶滅したはずの恐竜なんだ」

 

「わかってるけどさ」

 

「良いか織部拓哉、この恐竜がいるという事はこの恐竜を産んだ両親がいる可能性がある。そうなれば兄弟やその他仲間が存在している可能性がある」

 

「うん」

 

「今後同じ様に恐竜が捕獲された場合、君が記録をつけていた事で適切な飼育が行われ、結果的にその種を保全する事に繋がるかもしれない。確かに研究のためと言うと聞こえは良くない......ただその研究がもたらす影響が良いものであることは理解して欲しい」

 

「わかった」

 

 長尾の言う通りだ。俺は自分のことしか考えていなかったのかもしれない。ロープやその仲間のことを思うのであればよりその恐竜について知識を深め、学んでいくことが重要になってくるはずだ。

 

「......ねぇ拓也この子変になった」

 

 俺と長尾が話している最中もロープと遊んでいた杏が突然そういった。ケージの中に居るロープを見ると、しきりに壁を叩いたり噛みつこうとしたりしている。

 

「出たいのかな? でもダンボールの時はこんな様子見せなかったのに」

 

「まて、恐らくは......」

 

 と長尾がなにか言いかけた時、ロープは突然壁に対しての興味を失ったらしく、近くで動いていた杏の指先へ歩いている。

 

「なぁ拓也この家に手鏡はあるか?」

 

「手鏡......はないかな?」

 

「あたし持ってるよ......はい」

 

 杏は鞄からピンクの四角い手鏡を取り出して長尾の渡す。長尾はそれを受け取るとロープが映る方向に鏡を向けて広葉樹マットの上に置いた。

 

「ぴぃぴぃ」

 

 鏡を見てロープが鳴き声を上げる。

 

「なにをしてるの?」

 

「恐らくさっきこの恐竜が活動的に動いていたのは、壁から出たい為ではなくガラスに反射した自分の姿に反応していた可能性がある」

 

「仲間だと思ったってこと?」

 

「もしくは、ライバルだと勘違いしたか......どちらかはわからない」

 

「でも噛みつこうとしてたし......ほら今だって」

 

 ロープは鏡に写った自分に噛みつこうと必死に口を開けるが、噛みつこうとしても鏡に映った自分なので、噛みつけるわけでもない。

 そんな事を何回か繰り返していると、ロープは一度鏡から離れて様子をうかがい、つたないジャンプしてみたりしきりに首を振ってみたりしていた。

 

 そこからもう少し時間が経ってから鏡の後ろに回り込んだ。

 

「おぉ素晴らしい」

 

 そして、鏡の後ろに何も居ない事を確認すると、鏡から離れて俺の方に近寄ってきた。

 

「たしかこれってIQ図る的なアレだよね?」

 

 杏は手鏡に付いたマットの欠片を手で取りながら長尾に尋ねる。そう言えば俺もテレビ番組でそんな様子を見たことがあったような......

 

「そうだ。動物の知能を正確に測ることは難しいが目星を付けることは出来る。例えばこの鏡を置いて、鏡だと理解できるのか? という実験は数多くの動物で行われ、その知能を測るために活用されている」

 

「で、ロープの知能はどれぐらいなんだ?」

 

「この世界でも上位に入る知能の持ち主だと考えるべきだ。この幼さにしてミラーテストを成功したとなると非常に知能が高い......」

 

「そんなに凄いのか?」

 

「あぁそんなに凄い......今までミラーテストを成功させた生物は僕が知る限りイルカ、シャチ、チンパンジー、オランウータン、アジアゾウ。それと鳥類ではカササギだけだ......ここまでの知能を有する恐竜であれば恐らくは......」

 

「なにかわかったのか?」

 

「あぁ、まだ予測段階ではあるがトロオドンである可能性が高い」


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