TSロリっ娘魔法怪盗「配信者」ジョーカー   作:稲光結音

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乙女の夢

 

 

 今日も今日とて私は常連の探偵に可愛がられていた。

 

 

「んー、オーコちゃん可愛いですねー。なでりこなでりこ」

 

 

 今日に至っては膝に俺を乗せ、頭をナデナデしてくるし、匂いも嗅いでくる。猫可愛がりというやつだ。背中にはその大きな胸の感触が伝わってきた。

 

 

「ただ、いつまでもこうしてはいられないんですよね……」

 

 

 そう言って俺の頭の上に顎を乗せ、溜息をつくメイ。というか学校とか行かないのか? そういう年頃の娘に見えるんだけど。

 

 

「と、言うのもですね。最近世間を騒がせている爆破事件について調べて欲しいと依頼がありまして、しばらくここを離れないといけないんですよ」

 

 

 爆破事件。それは俺もニュースで見かける。最初は山の中で起こっていた怪現象だと思われてたんだが、そのうちエスカレートしてきて、ビルなんかが外側から破壊されたような跡が出来たりしているらしい。

 

 人的被害も出ていて、その異常性から魔法によるものだという見解が成されている。

 

 実はジョーカーの動画のコメントや掲示板なんかでも、この事件を怪盗に解決してほしいという要望が寄せられているのだ。

 

 ただ、俺の七つ道具であるカードは重度の患者しか位置を確認する事ができない。もし犯人がまだそこまで病気が進行していなければ、どこにいるのか俺に調べる術は無いのだ。

 

 だが怪盗ジョーカーは魔法による犯罪を許さない。それが求められている姿だろう。どうにかしなければ……。

 

 

『オーコ、オーコ。いっそさあ、この娘を追跡しようよ。それで犯人見つけてくれたら、そのまま魔法はいただきって事で』

 

 

 なるほど。あくまでカードが重度の魔法覚醒病患者を示さないだけで、魔法を盗む魔法が効かないわけじゃない。有りだな。

 

 ただ、探偵を利用しようとして近づきすぎて、俺の正体がバレないようにしなければ。なんせ一度は俺を追い詰めた相手だからな。おのれ怪盗ーって言うくらいしか脳の無い洋一兄とは違うんだ。

 

 いや馬鹿にしてるけど一度狙ったホシは逃がさない敏腕警部だって話だから油断してるとこっちも危ないんだけどさ。

 

 あと身体能力がバカ高い。今はこの姿だから当然だけど、昔男だった頃は殴り合いやスポーツで兄に勝った事は無いくらいだ。

 

 だから捕まったフリして油断させてハイキックを決められた時は爽快だったな……。あの時、そういう裏をかくような手を使ったのは、普通に近接格闘したのではやられるという不安すらあったからなのだ。

 

 怪盗衣装を着た俺は軽業こそ自信があるが、単純な力比べでは洋一兄に分があると思っている。だから極力戦わず、逃げているのだ。

 

 今はどうでもいい事か。肝心なのはこの探偵をどう追跡するかだ。

 

 そう考えているうちに俺は彼女の膝の上から降ろされ、店を出ていった。

 

 俺は一度自分の部屋に戻ると、『分身』を発動させ、家に留守番させるための俺を置いておいた。

 

 すると、どこからともなく声が聞こえてくる。マキナの声だ。

 

 

「スマホを起動して。発信機の位置が分かるはずだ」

 

 

 言われたとおりにすると地図アプリが開き、アルセーヌから離れていく赤い点が表示されている。

 

 いつの間にこんなものを……。

 

 いや、それより声がいつもとなんか違うな? なんというか、音質が悪い。

 

 

「シルクハットの中に盗聴器が入っててね。そこから喋ってる」

 

 

 じゃあマキナ自身はどこに? その疑問にもすぐ答えてくれた。

 

 

「探偵を追ってるよ。発信機が付いてるのはボク。探偵さんに付けるとカンが鋭いから発信機を剥がされると思ってね」

 

 

 なるほど、探偵を追うマキナを追えばいいのか。頼りになるな。

 

 家族にバレないよう、窓から家を出ると分身に窓の鍵を閉めさせる。

 

 さあ、追跡開始だ。

 

 

 

――――

 

――

 

 

 

 

 ビル群を時間停止を使いながら隠れて飛び回り、探偵を尾行する。探偵が最初に向かったのは彼女の借りている事務所だった。

 

 ビルの二階に設立しているその事務所は借り物の古い建物で、人気も無いのか他に人が入ってる階層は無い。

 

 一階に至っては潰れても名前がそのままになったまま放置されたコーヒーショップだ。だからこそここを選んだのかもしれないが、若い女が不用心な事だ。彼女も美少女だと言うのに。

 

 

 続いて彼女は電車を乗り継いでいく。まさかこの怪盗衣装で一緒に電車に乗るわけにもいかず、時間停止した世界でバイクに乗って線路を走り追跡、駅に着いたらバイクを仕舞って隠れる。また別の線路を走る……という繰り返しだ。

 

 なんとも疲労の溜まる追跡になったが、ようやく電車を降りた探偵は、事件の現場となった山を見に行っていた。

 

 彼女が去ってから俺も現場を見てみたが、たしかにそこには爆発跡が多数残されていた。

 

 

 今度は爆発させられたビルだ。三階の端っこが爆発によって削られている。

 

 警察によって立ち入りが禁止されているその付近の警察に事情を聞こうとしてあしらわれているのを見た。

 

 早々に諦めると、今度はハンバーガーショップで女性と会っている。マキナについた盗聴器から様子を伺ってみると、どうやらこの女性が依頼人らしい。

 

 

「……つまり、狙われるような動機はありすぎると」

 

「はい。うちは出版社なので、例えば持ち込まれた原稿を没にされたとか、そういう恨みは買っていると思いますから」

 

「犯行現場は二点。山と、出版社――山には多数の穴。出版社には一回だけ。山の方が恨みが深い? 魔法の練習? 魔法を定期的に使う必要があった……」

 

 

 依頼主を放置し、自分の世界に入り込んだ探偵の耳に入ったのは、新たな被害の情報だった。

 

 

「モデル事務所あるだろ? あそこで爆発事件だってよ」

 

「えー、怖い。魔法覚醒病患者がやってるって噂の事件、まだ続いてるんだ」

 

 

 そんな会話ではっと顔を上げ、宣言した。

 

 

「例の爆発のあった山。あそこにまた犯人は必ず来ます。見張りますので私はこれで」

 

 

 どんな推理をしたのか知らないが、それが聞ければ充分だ。俺はマキナと合流し、同じく爆発のあった山で待機する事になった。

 

 その夜――

 

 

 ガリガリに痩せた、四十代ほど……いや、不健康そうに見えるからそう勘違いしそうになるが、三十代前半、いや二十代後半ほどの女性が例の山に姿を現した。

 

 

「こんばんは。連続爆破事件の犯人さん?」

 

 

 そう言って女の前に姿を現したのは、探偵、淡庭メイだった。

 

 

「……どちら様」

 

「探偵ですよ。ええと、貴女は木枯丸美さんですね。元モデルの」

 

「元じゃない! 私は今でも現役よ!」

 

 

 探偵は溜息を吐くと、事件について語り出した。

 

 

「現役であるために、その魔法が目覚めてから定期的に使っているんですよね。使うほどに美しくなる魔法、その代償に爆発が起こる。そう思ってたんですけど、少し外しちゃいましたね」

 

「私が美しくないって!? こんなに痩せたのに! なんで分かってくれない!」

 

「分かってくれないからって、出版社も、事務所も爆発したんですよね。改めて言いましょう。連続爆発事件の犯人は――あなただ」

 

 

 激昂する骨のような女に、探偵はあくまで冷静だ。

 

 

「そうよ。体内の糖質を消費して爆発を起こす『シュガーボム』。これで私はいくらでも痩せられる! いくらでも美しくなれる! この美しさが分からない小娘も、砕け散ってしまえ!」

 

 

 そう言って指を差したわたしはメイさんの身の危険を感じて飛び出していた。

 

 

「『絶対――』」

 

「危ない!」

 

 

 俺が探偵に飛び掛かり、地面に転がすと背中の方で爆発が巻き起こる。

 

 

「え、何。誰……ジョーカー!?」

 

「危ないところだったな。お嬢さん?」

 

 

 キザな言い回しをする幼女怪盗、俺。その登場に、探偵は混乱している。

 

 

「なんで私を助けたんですか?」

 

 

 身体が勝手に動いたというか。可愛がってくれたし嫌いじゃないよね。助けちゃう。

 

 

「魔法で起こる事件から人を守るのも怪盗の……いや、さすがに怪盗の役目ではないな。君が美しかったからという事にしておこう」

 

「こんなちっちゃな身体でそんな事言われましても。おませさんですね」

 

「魔法を奪う者――怪盗「配信者」ジョーカー! 私から魔法を奪いに来たのね! そんな事は絶対にさせない!」

 

 

 ヒステリックに叫ぶ元モデルとは思えない骨女。

 

 俺は探偵を逃がすと彼女と相対した。そして――圧倒的な爆発に、身を焦がした。

 

 不意打ちだ。強烈な爆撃が突然に襲ってきた。骨女はノーモーションで攻撃を行えるのだと、知るはずもなかったから。

 

 俺の身体は吹き飛び、地面にべしゃりと崩れ落ち、骨は曲がるべきでない変な方向に曲がっていた。

 

 

「ジョーカーを殺った! これで誰も私から魔法を奪う事はできない!」

 

 

 そう歓喜する骨女の背中に触れる者がいた。わたしだ。

 

 

「この距離なら爆発は起こせない――3、2、1。スティール」

 

 

 見るも無残な俺は、ぽひゅっという情けない音を立てて消滅した。そう、あれは分身だ。

 

 本体は爆発骨女の背後に回っていたのだ。

 

 探偵を助けに入ったのが『分身』魔法の俺だった訳だな。相手の強さも分からず自分の身を危険に晒せるものか。助けたかったのは本音だけどさ。

 

 魔法『シュガーボム』。確かに頂いた。

 

 

「くそっ、くそっ、くそっ……! 私の美が、美が――」

 

 

 そう言ってターゲット、いや元ターゲットは倒れ込んでしまう。わたしはそれを正面に回って受け止めると、探偵少女に声をかけた。

 

 

「どうにも興奮してエネルギーを使い切ったらしい。ただでさえガリガリだったからな……後処理は任せたよ」

 

 

 そう言って俺は空にワイヤーを飛ばし、モーターパラグライダーにワイヤーを括りつけてその場を離れた。

 

 

「待って、ジョーカー!」

 

 

 そう呼びかけるメイさんの言葉を無視しながら。

 

 

「いかがだっただろうか。コメントで頂いていた爆破事件はこうして解決を迎えた。犯罪に使われてしまうような魔法は、私が頂戴する。さらばだ」

 

 

 そう言って収録を終えようとしたのだが……。

 

 

「待ってよジョーカー! 今回はずっと待ち伏せしてたから前振り撮ってない! 編集するから今から録画するよ!」

 

 

 まじかー、閉まらないなあ。

 

 

「おほん。諸君ごきげんよう。今回は美に執着した一人の女の物語――」

 

 

 そう言えばメイさんは、ジョーカーを呼び止めて何をしたかったんだろう。

 

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