TSロリっ娘魔法怪盗「配信者」ジョーカー   作:稲光結音

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ヒール(後編)

 

 

 病院は厳戒態勢だった。

 

 大袈裟かもしれないが、今回のターゲットは国の宝だ。

 

 しかし、その宝も……消費されていくもの。俺はそんな状況を変えてやるために今回の予告を出した。人間の宝よりも一人の母である事を優先してほしいという、個人的な願い。

 

 それを叶える悪役だ。

 

 パラグライダーで空を飛び、屋上への着地を目指す――しかし、屋上にも今回は警察の見張りがいる。そりゃ動画で何回も屋上待機してれば対策されるよな。

 

 俺は時間停止して着地すると、時を動かした。

 

 

「かいと――ぐっ」

 

「がっ」

 

「ぎゃあっ」

 

 

 時を動かす前に、麻酔銃を射撃しておいたのだ。動かない相手であれば、防弾チョッキを着ていても関係ない。確実に刺さるところを狙える。

 

 ワイヤーに『斬鉄』を加え、屋上に丸く穴を空ける。階下の病室へと降りて、廊下へと踊り出る。

 

 警察の巡回が少ない……この階じゃないな。

 

 

 そう、相手が重症患者で無いため、カードにはターゲットの位置が示されていない。つまり、自力で目標まで辿り着かないといけないのだ。骨が折れるな。

 

 

「ジョーカー!」

 

 

 俺にそう嬉しそうに声をかけたのは探偵少女、淡庭メイだった。なぜここに……?

 

 

「母はリハビリ室にいます! 二階の、奥の方です!」

 

 

 見取り図は頭に入っている。ここは五階だから、下から向かった方が早かったか。

 

 俺は一人、『分身』を作り出し、囮にすると病室へ戻り、丸く開けた穴から飛び出すと、バイクを取り出し、乗り込んで五階の高さを一気に飛び降りた。そしてそのままドリフトターンすると玄関の警官を薙ぎ倒し、入口のガラスを割って一階から再突入する。

 

 

 今、分身は怪盗は上にいるぞという情報を元に向かった警官達を相手に、警棒を避けては頭を地面に叩きつけたり、足払いして転んだところで、『熱』の魔法を使って地面を凍結させ動けなくさせたりしている。

 

 メイさんは無事だ。というか俺に一言かけたら退散していった。

 

 

 怪盗が下にいるぞ、という警察の無線を傍受したところで分身が五階で『シュガーボム』を発動。情報を受けた警察を爆発で混乱させていく。ちなみに無線傍受はエクスの仕事だ。さすが電子機器に関するスペシャリスト。

 

 そして再び『時間停止』。一気に二階のリハビリ室まで向かった。時を動かし、扉を開けるとそこにはターゲットと……洋一兄がいた。

 

 

「来たな、怪盗。今日こそお縄についてもらうぞ」

 

 

 そう言って警棒を片手に構える警部。彼の相手は……分身二号にやってもらおう。そしてその隙に俺は、ターゲットを狙う。

 

 一度時間停止を使ったからクールタイムがある。ターゲットには走って近づかなくては。

 

 

「来ないで! 私はもっと多くの患者を救う義務が……!」

 

 

 無視をして距離を詰める。しかし、接近し切るよりも早く、それは起こった。

 

 

「助けて、誰か――アスクレピオス!」

 

 

 ペストマスクを被った、身体よりも長い杖を持った人間が、ターゲットを守るように現れたのだ。

 

 

「異世界人だ!」

 

 

 そう叫ぶのはエクス。そうだ、戦う力を持たないターゲットは、心から助けを求める事で魔法覚醒病を導線とし、異世界人の召喚を行ってくる可能性があるのだった……。

 

 これが初の異世界人戦になる。充分警戒して挑まなければ。俺は囮になっている分身一号を消去すると、この場に再び出現させた。

 

 

「エクス、異世界人と戦う時の注意点は?」

 

「普通に魔法を使ってくるよ。ボクも色々できるでしょ? 油断できない相手さ。そして、先にターゲットをどうにかしないと、倒して異世界に帰還させたとしても再召喚もありえるよ」

 

「なるほど」

 

 

 俺は麻酔銃を油断無く構えると、アスクレピオスという異世界人に牽制の麻酔針を放ったが、長い杖を軽やかに動かし捌き、逆にメスを左手から飛ばしてきた。

 

 俺は側転でそれを躱すと再び銃撃。射撃戦だ。分身一号と一緒に二手に別れて麻酔銃を放っているのだが、それぞれ杖で弾かれ、メスで迎撃されて届かない。

 

 しかし位置だけは徐々にずれていく。異世界人を軸にして、円を描くように少しずつ歩みを進めていった。もう少しだ。

 

 

 と、いうところで分身二号が警棒を犠牲にした洋一兄に手錠をかけられた。たしかにこっちは相手が兄だと分かっているからあんまり怪我させたくなくて手心を加えているとはいえ、やはり強敵だ。

 

 俺は分身二号を消すと、再出現させて体勢を立て直す。洋一兄の警棒は『斬鉄』のワイヤーでぐるぐる巻きにしたからもう使えない。バラバラのボロボロだ。

 

 一手有利になったと言ったところか。

 

 

「マスターは、私が守る」

 

 

 しかし、ここで向こうが新たな手札を切ってくる。杖から放つ電撃攻撃だ。俺は分身達とこの攻撃を避けていくが、電撃を恐れない勇敢な警察が、俺本体にタックルしてマウントポジションを取ってきた。

 

 

「今度は本物か? 偽物でも構わん。何度でも捕らえるだけだ」

 

 

 まずいな。とは思うが結局は魔法も使えない一般人なのは紛れも無い事実だ。俺の『時間停止』が発動し、難を逃れた。

 

 

「もう一度だ。もう一度捕まえてやる」

 

 

 異世界人は洋一兄を味方だときちんと認識している。よって電撃をわざと当てるような事はしてこない。しかし俺を倒す為に必要なら容赦なく撃ち抜く。そんな構えに見えた。

 

 危険な目に遭うのは俺だけじゃなく、洋一兄もか。さっさとケリをつけないと、一般警官達も詰め掛けてくる……仕掛けるか。

 

 

 俺は異世界人に向けて指を差し、親指を立てる。手で銃を作るポーズだ。

 

 

「『シュガーボム』」

 

 

 異世界人に爆撃を加えると、その隙をついて二人の俺の分身が両サイドからワイヤーでアスクレピオスの両腕を捕らえていた。ここだ。

 

 俺は『時間停止』でターゲットに近づき、触れると同時に時を動かした。

 

 

「3、2、1。スティール」

 

 

 成功した。後は異世界人にご帰還いただくだけ――だと思っていたのだが。

 

 異世界人は何か言葉を発する事も無く、煙のように消えていった。

 

 

「所持していた魔法がこの世界と異世界人を繋いでいたんだ。その繋がりを断ったわけだから、帰還させられるさ」

 

 

 とはエクスの弁だ。そういうものなのか。

 

 なんにしろ、だ。

 

 

「『ヒール』の魔法、確かに頂いた」

 

 

 七つ道具の一つ、カードを複数枚生成すると『斬鉄』の魔法をかけて壁に突き刺し、大き目の穴を作る。

 

 

「それではさらばだ、警察の諸君」

 

 

 そう言って壁の穴から脱出。時間を止めて俺はその場から逃走した。

 

 犯行現場から遠く離れた位置で時間を動かしたが。

 

 

「おのれ怪盗ー!」

 

 

 という、洋一兄の咆哮が聞こえた気がする。気のせいだと思うけど。

 

 

 

――――

 

――

 

 

 

 で、後日談。魔法が無くなり母が消滅する心配の無くなったメイさんは笑顔でアルセーヌに来た。

 

 

「それで、本当に来てくれたんですよ。怪盗さんが。好きになっちゃったかもしれませんね。むしろ好きです、愛してます」

 

 

 そんな調子で賞賛を繰り返す探偵に、俺は恥ずかしいやら嬉しいやら。

 

 ちなみになんで病院にいたかというと、怪盗の手伝いをしたかったから。母親から予告状を貰った話を聞いて、やれる事が無いかと考えたのだと言う。

 

 

「ふふ、私……怪盗さんにならキスしたっていいですよ」

 

「そ、そうですか」

 

 

 そんな事を本人の前で言われてもどうしていいか困る。ただただ俯くしかない。

 

 

「あ、オーコちゃん。こっちむいてください」

 

「なんです――」

 

 

「ちゅっ」

 

 

 ふんわりと柔らかな唇が、俺の幼く小さな唇と触れ合った。

 

 キス、だ。

 

 

「え、な、何を」

 

「何ってキスですよ」

 

 

 あっさりと言ってのける彼女はわたしの耳元で囁く。

 

 

「だってオーコちゃん……怪盗ジョーカーじゃないですか」

 

 

 バレている。

 

 

「私のために悪役になってくれてありがとうございます。ふふ、さすがにあの流れで昨日今日問題が解決したら気付きます。私、探偵ですよ?」

 

 

 踏み込み過ぎた、か。

 

 どう言い訳すればいいのか。逃げ道がない。

 

 

「……まあ、自白できないって言うなら、いいです。じゃあ、こうしましょう。私達お付き合いしませんか?」

 

「そ、それは交際という意味で、ですか?」

 

「はい。それで、私の事をもっと知ってもらって、信用できるなって思ったらあなたの口から教えて欲しいです。貴女の秘密」

 

 

 それは、うーん。事態の先延ばしとしてはいいのかもしれない。

 

 

「じ、じゃあ、それで……」

 

「よかった! じゃあこれから私達はカップルです。彼女と彼女の関係ですよ」

 

 

 ちゅっ、と再び口づけが交わされる。

 

 

「誓いのキスです。約束、守ってくださいね?」

 

 

 交際経験の無い俺はふらふらのメロメロだ。

 

 

「は、はい」

 

「ふふ、私レズのロリコンさんになっちゃいました」

 

 

 お前も世間から見ればロリの範疇だよ、と突っ込めるだけの余裕は無かった。

 

 

「カラダで篭絡しちゃいますから、覚悟しといてくださいね。怪盗さん?」

 

 

 そんな中学生ほどの見た目をした少女の悪女じみた一言も、抱き締められて感じる大きな胸の感触と、ケーキ味のする三度目の口づけで、つい許してしまいそうになっているわたしがいる。

 

 ――でも、眼鏡っ娘ロリ巨乳なんかに屈しないぞ! 俺は格好いい謎の怪盗なんだから!

 

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