TSロリっ娘魔法怪盗「配信者」ジョーカー   作:稲光結音

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俺の右手はドリルになるぞ

 

 

 わたしより背の高い、一人の少女が「アルセーヌ」にやってきた。なんでもこの辺の小学校の子らしく、わたしの配信動画を見て興味を持ったらしい。

 

 それで。

 

 

「せ、センパイはすごいね。まだちっちゃいのに堂々としてて。わ、私もそうなりたいなあ」

 

 

 それ前見えないんじゃない? 目が悪くなるよってくらいに前髪を長く伸ばした体格のいい娘だ。身長は160センチをゆうに超えているだろう。聞いた話では小学生低学年だと言うから驚きだ。

 

 名前を八角レミと言う。なぜわたしを先輩と呼んでくるかと言うと、将来の夢はマイチューバーらしく、そこそこバズったわたしは立派な一人のマイチューバーとして見てるからだ。

 

 ちなみに敬語を使わないのは小学生なんだから構わない。というか敬う必要は無い。割とみんな、わたしをマスコットキャラと見なしてる感じあるから今更なのである。

 

 

 最近増えた客はお互いがお互いが牽制し合い、話しかけてくることはなかったのだが、彼女は年齢故の無遠慮さからか、わたしが一人でお茶をしてる時に話しかけてきたのだ。

 

 

「ありがとう。レミちゃんもそれだけ大きいと学年で一番でしょ? バスケとか向いてそう」

 

「よ、よく言われる。学校で体育の時ポートボールやったけど、大活躍できて、嬉しかった。ボールをパチンパチン弾くだけでよくて楽だったし」

 

 

 ポートボールというのは簡単にいえばバスケットのゴールの代わりに台の上に一人上り、その子にパスが入れば得点。その子の前にはディフェンス特化のプレイヤーが一人専属で就く、というものだ。

 

 

「め、目立つのって恥ずかしい……けど恥ずかしいのってなんか気持ちいい」

 

「言い方。その言い方はやめた方がいいよ」

 

 

 小学生にしてやばい性癖に目覚めてそうなこの娘を、わたしは邪険にするつもりはない。看板娘として、どんな相手でも持て成してみせる。

 

 今日はなんかメイさんもいないしね。探偵としての仕事でもしてるのかな?

 

 

 それはそれとして、彼女は小学生低学年であるため帰宅が早い。そのため他の常連の客がいないタイミングなのだ。よってわたしを独占中、というわけである。

 

 

「そ、そうなの? でもいいなあマイチューバー。ゲームやって目立って、お金も貰いたい」

 

 

 今時の子だなあ、という印象。見た目はともかく、中身は普通の小学生だ。まあ、それすらやろうと思わなかったわたしよりは立派……なのか? 実際、将来の夢としてはランキング高いらしいよね。

 

 

 などと考えていると、メイさんがアルセーヌに飛び込んできた。

 

 

「オーコちゃんオーコちゃーん! 見てくださいよ、挑戦状男。あ、失礼しますね」

 

 

 そう言ってレミちゃんとわたしの間に入り込むと一枚のチラシを見せつける。

 

 

「怪盗へ! 俺の魔法を盗んでみろ! 俺は逃げも隠れもしない! ……はあ、そうですか」

 

「予告状を出すより早く、挑戦状を出してくるこの人物面白くないですか? ちなみにこれと同じものがあちこちに貼られていて迷惑なので犯人探して欲しいって依頼でした」

 

 

 この話を聞いて面白くない――そう思った人物がいた。

 

 そう、それはこの中で精神的に一番幼いレミちゃんだった。何が良くないって、せっかくわたしと話していたのに横から入ってこられた事だった。

 

 

「センパイ盗られたー! 私が先に話してたのにぃー!」

 

 

 泣き出してしまった彼女にメイさんも混乱だ。

 

 まさかそんな事で怒る精神年齢の娘とは思えない背丈をしていたから、少しくらい大丈夫だろうと思ってしまったのだ。

 

 

「メイさん、その子まだ小学生のちっちゃい子」

 

「えっ、あっ、うそ。すみません! すみません! 大丈夫ですよーわたしどきますからねー。あっそうだ飴食べます?」

 

 

 リュックサックからあやすための甘いものを取り出すメイさん。

 

 

「ほう、ケーキ屋でケーキ以外の甘味を取り出すとはいい度胸ですね」

 

「あちらを立てればこちらが立たず! すみません! ケーキ買ってきます!」

 

 

 そんな感じで宥めすかしにかかった結果、なんとか泣き止ませることはできたのだが。

 

 

「メイ、嫌い!」

 

 

 ぷいっとそっぽを向くレミちゃん。すっかりメイさんは嫌われてしまったらしい。

 

 

「そんな~、仲良くしましょうよレミさーん……」

 

 

 もはや小学生相手にさん付けするレベルで上下関係が決まってしまった。泣く子と地頭には勝てぬとはよく言ったものだ。

 

 わたしを独占する事によるヘイト管理に関して、メイさんは結構気を遣う方だったのだが、まさか一発アウトを食らうとは思ってもいなかったのだろう。

 

 というかわたしのために争わないで。……ちょっと言ってみたかったやつ。

 

 

 

――――

 

――

 

 

 

 結局、メイさんはレミちゃんの機嫌を完全に回復させる事はできなかった。そんなちょっと気まずい空間だったが小学生の門限は早い。四時には帰っていったのでメイさんは安心した顔で私に集めた情報を開示してくれたのだ。

 

 それから数日。毎晩チラシ男を探す毎日だった。理由は単純で、連絡先とかどこで待ってるとか書いてないから。結局メイさんの推理で次にチラシばら撒くところを探し当ててもらったのだ。

 

 

「……待たせたな」

 

 

 ちらしをあちこちに貼り付けたりばら撒いたりしているターゲットになんとか公園で出会い、苛立たしげに一言。いや本当に面倒だった。

 

 

「待っていたぞ、怪盗!」

 

 

 深夜だと言うのにテンションが高い。五月蠅い。

 

 見たところ二十代前半といったところなのに社会人としての常識が無い。

 

 

「逃げたのかと思ったぞ! この挑戦状もたくさん刷ったのにもう残り少なくなってしまった!」

 

「なんでもいい。お前の魔法を頂こう」

 

「待て! その前に……あれをくれないか?」

 

 

 わたしを首を傾げる。業を煮やしたと言わんばかりに彼は叫ぶ。

 

 

「予告状、だ!」

 

 

 いやもうこの時点まで来たら予告じゃなくて宣言じゃん。俺はカードを一枚取り出すと、文面を考えてカードに念を送る。それを男の足元に突き刺すと、それを大声で読み上げはじめた。

 

 

「怪盗に挑戦する勇気ある者! 深夜にごみを撒き散らす愚か者! 二度とそのような真似が出来ないようにお前の魔法を頂こう! ――Take your magic! そう、こういうのが欲しかったっ!」

 

 

 テンションウザいな。さっさと片付けて今日は帰ろう。俺が麻酔銃と複数枚のカードを構えた時だった。

 

 

「待て!」

 

 

 まだ何かあるのか。わたしは肩を落とした。

 

 

「お前の魔法は動画を見て知っている! だが、もしお前が俺の魔法を知らなかったとしたら不公平だ! だから戦う前に見せてやる! 俺の魔法!」

 

 

 そう言って右手首を左手で抑え、叫ぶ。

 

 

「うおおおおお! 俺の、右手は! ドリルに、なる!」

 

 

 宣言した通り、彼の手首から先は一本のドリルとなって回転していた。

 

 マジか。強いぞあれは。最近眠りっぱなしだった俺の男心がくすぐられる。

 

 ちょっと遊んでやろう。『時間停止』と『脱力』使えばすぐ片付くんだけどな。

 

 

「いくぞぉ! 怪盗! 正々堂々と、バトルだぁぁぁ!」

 

 

 そう叫びながら特攻してくる熱血バカ。今更ながら地味に声がいい事に気が付く。声優か何かか?

 

 顔面狙いで麻酔針、両膝狙いでカードを放ったが……彼は飛んだ。

 

 ドリルを推進力にして宙に浮かんで特攻してくる。ドリルが麻酔針を弾き飛ばし、膝を狙ったカードは完璧に狙いを外して地面に突き刺さった。

 

 

 特攻攻撃は地味に厄介だ。俺は『風』で圧縮した風玉を作り、『キックストライク』で蹴り飛ばす。

 

 しかしそれも、単純な破壊力の前では無意味だった。玉が弾け飛び、男は迫ってくる。

 

 いいぞ。迎え撃ってやろうじゃないか。

 

 

「『ビーストモード』! 『キックストライク』! 合成……『キャットストライク』!」

 

 

 獣の身体能力に蹴りの強化を組み合わせたシンプルな打撃の一撃。迫ってくるドリルの腹を蹴り飛ばす。

 

 回転の勢いが強く、足が弾かれるが向こうも軌道がずれる。男が見当違いの方に飛んでいくのが見えた。

 

 

 今のうちに『熱』を起動する。周囲に冷気が宿り、辺りを凍らせていく。そしてなんとか着地して見せた男の身体も例外ではなく、足元が固められている。

 

 

「さて、決着はついたか。では大人しく魔法を奪われてくれるかな?」

 

 

 ウィンクを一つ落として『魅了』を掛ける。腕が危険なので念には念を入れておく。

 

 

「断る! 魔法がなければ怪盗に構ってもらえないからな!」

 

 

 『魅了』は成功したはずだ。しかし、魅了がイコール言う事をなんでも聞くという訳じゃないらしい。男は両足をドリルにすることで凍らされた足元の氷を砕き、再び動き出した。

 

 対抗してこちらが行うのは『分身』。一体だけしかだせないが。

 

 連日連夜外に出るのは家族を心配させるので分身体を一つ置きっぱなしにしてるのだ。

 

 そして分身一号と二人で『シュガーボム』を放った。吹き飛ばされていく右腕と両足がドリルの男。

 

 

 これで駄目なら……アレを使うしかない。

 

 そう覚悟していると男はまだ立ち上がってくる。

 

 

「こうなれば全力全開! いくぞおおおおお!」

 

 

 まだ生身だった左腕までドリルにし、両手両足の前に突き出すというすっごい格好悪いポーズで突撃してきた。カタカナだったら「ヒ」のポーズだよ。だっさ。ドリル使ってるのにだっさ。

 

 しかしその見た目の悪さに反して、突っ込んでくるドリルは四本。キャットストライクを使っても一本しか弾けなかったのにも関わらず、だ。

 

 俺は一枚のカードを右手の人差し指と中指で持つと、一つ深呼吸をした。こんなところで覚悟を決める事になるとは。

 

 突っ込んでくる四本の凶器に対し、こちらは硬めのカードが一枚。傍から見れば勝敗は明らかだ。

 

 だが俺が心配しているのはそんな事じゃない。俺は迎撃するようにゆっくりと歩き出した。

 

 

 そして、俺とドリル男が交差する。

 

 

 右斜め下にカードを振り下ろす。その瞬間、彼の身体から生えていたドリルの四肢がバラバラになった。

 

 

「――『斬鉄』」

 

 

 振り向くと、達磨になった彼に触れ、魔法を奪う。

 

 

「3、2、1。スティール」

 

 

 無くなった手足は……そのままだ。このままでは彼の人生はめちゃくちゃになってしまう。

 

 

「『ヒール』」

 

 

 俺が回復魔法をかけてやると、四肢が生えてくる。

 

 よかった。『斬鉄』の強さは知っていたのだが、このやりすぎる覚悟が無かったのだ。破壊力が高すぎて使いにくいというのも贅沢なものだな。

 

 

「お、おお。決闘に負けた相手に対する慈悲の心、ありがたくもらうぞ……お礼になんでもしよう……!」

 

「そう。じゃあ今までばらまいたチラシを全部片づけるように」

 

 

 しかし迂闊に真剣勝負しようとしてピンチに陥るのよくないな。これは男心の暴走だぞ。

 

 じゃあ男心いらないんじゃ……? いや、いる! 俺は男だ。

 

 そんな自問自答をしながら夜の街を一人バイクで走っていくのだった。

 

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