TSロリっ娘魔法怪盗「配信者」ジョーカー   作:稲光結音

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ガードの固い女

 

 

 わたしの誘拐事件の事もあったからだろう。我らが兄は前よりは家に帰ってくるようになった。そうすると必然的に会話の機会も増えるわけで……。

 

 

「おにいちゃん。お風呂空いたよ」

 

「……ああ? いや、お前。俺の事は洋一兄って呼んでただろう。って服をちゃんと着ろ服を!」

 

 

 わたしはバスタオル一枚で居間の前をうろついていたのだ。

 

 

「家族なんだからいいでしょ。それとも……よくじょーしてるのかなあ。ロリコンのおにいちゃん」

 

 

 甘えるような声で居間のソファーに座る兄に寄り添う。家族にだからできる距離感だ。

 

 

「お前本当になあ。からかうなよ」

 

「えへへ、でもおにいちゃんって可愛い妹から呼ばれるのは悪くないでしょ?」

 

「それは……そうだけど」

 

 

 困ったような声をあげる兄。ふふふ、これも家族サービスの一環だ。

 

 

「なにか音声でも録音してあげてもいーよ。ちょっとくらいならえっちなのも、ね」

 

「俺に道を外させるような誘惑はやめてくれ……」

 

 

 ウブだなあ。などと思いつつも、自制心を働かせる兄に感心していた。わたしだったらこんな美少女にそんな事言われたらイチコロだ。

 

 ただでさえ、自分の部屋で鏡を使って自分を見ると辛抱堪らなくなるっていうのに。

 

 やっぱり真っ当に過ごしている警察官は違うな。姿かたちが変わっても、しっかりわたしの事を性的な目で見ずに家族として見ている。

 

 だからわたしは安心してメスガキごっこができるのだ。

 

 

「ざーこざーこ。臆病なおにいちゃん。妹相手によわよわ~」

 

 

 などと言ってみると、おでこをぺちりと叩かれた。

 

 こんな事を男の頃に言ったなら、関節技の一つも掛けられていたであろう事は容易に想像がつく。なんだかんだ弟よりは妹に甘いらしい。

 

 

「いいからさっさと服を着てこい。風邪引くぞ」

 

 

 そう言われてしまえば素直に引き下がるしかない。私は寝間着に着替えると母からホットミルクを受け取って兄との雑談に興じる。

 

 

「最近お仕事はどう?」

 

「特に変わりない。良くも悪くもな。最近また近辺に怪盗が出没してるというのに通報がある頃にはもう遅い。俺が警察じゃなければ、鮮やかな盗みの手口だと賞賛していただろう」

 

「おにいちゃんとしては怪盗の何が悪いと思う? 専門家の間では大した罪に問えないって話だけど」

 

 

 ちょっと気になっていたのだ。兄はなぜそんなにも怪盗を目の敵にするのか。

 

 

「……魔法病患者を逮捕する時がある」

 

「うん」

 

「相手にもよるが、その時こちらにも負傷者が出る事は少なくない。魔法というのは危険なものなんだ。それを複数所持している怪盗がその気になれば我々では敵わないかもしれない。そんな存在が自由に振舞っているという事は、世間にとっては恐怖じゃないだろうかと俺は思う」

 

 

 なんとも相容れない話だ。これだけじゃ納得がいかない。

 

 

「でも、世の中は怪盗を娯楽としてしか消費してないよ?」

 

「それもまずいんだ。危険性を正しく認識していないという事だからな。配信しているというのも、魔法を盗むという事を遊びと勘違いしているように思える」

 

 

 危険だという一点については確かに受け入れなければならないところではある。『斬鉄』『シュガーボム』『ドリル』あたりは人間を簡単に殺せてしまう破壊力を持っている。だから使いどころに関してはかなり気を遣っているのだが……それでも相対する警察からすれば恐ろしいのか。

 

 配信に関してはエクスマキナの趣味だしなあ。わたしに言われても、という感じではある。でもそんなの伝えようがない。

 

 

「ジョーカーは一応、人を救ってるよ」

 

「なんだ随分と怪盗の肩を持つな?」

 

 

 警察の応援もしてくれよ、そう言って苦笑する兄。

 

 

「人助けは結構だが、あんな小さい子供が遊び半分でやる事じゃない。止めさせるべきだ」

 

 

 仮に洋一兄を説得出来たからといってどうなったというわけでもないが……警察との和解は難しい。そういう判断にならざるを得なかった。

 

 そう思った時、兄の携帯電話が鳴った。

 

 

「もしもし。……なに!? 異世界人らしき大男が暴れている!? 分かった、すぐに向かう。……オーコ、温かくして寝ろよ。おにいちゃんは今から仕事だ」

 

 

 そう言って洋一兄は家から出ていく。兄よ……ちゃっかり自分の事おにいちゃんって呼んだな。気に入ってたのか。

 

 まあ、それはどうでもいい。便乗させてもらいますか。

 

 『分身』を一体、部屋に向かうように指示を出しわたしも出発する。

 

 

 

 現場である商店街に着いたわたしが最初に聞いたのは発砲音。続いて、倒れ伏している幾人もの警察官。そしてただの人間とは思えない大男が一人の女性を肩に乗せ、両手に盾を持ち建物を殴っている姿だった。

 

 

「ただちに異世界人の暴走を止めなさい! さもなくば撃つぞ!」

 

 

 そう言って拳銃を構える警官達。さっきのは威嚇射撃だったらしい。

 

 

「撃ってみるといい。おそらくぼくらには効かないよ。それがぼくの魔法さ」

 

 

 なんでもないという様子で落ち着いて警官達に話しかける肩に乗った女性。

 

 

「君は何が目的だ?」

 

 

 現場について早々、警官達を仕切るとおにいちゃんは暴行犯への説得を試みた。

 

 

「目的か、目的と言われると悩むな。強いて言うならば、ただ暴れてみたかったと言ったところか――こんな風にね」

 

 

 建物から離れ、警官の方へ歩いていく大男。気圧されたか、一人の警察が発砲を行う。両手の盾を外し、しっかりと足を狙ったが、その弾丸は命中したにも関わらず弾かれた。

 

 

「無駄だよ。ぼくの魔法は『鉄壁』。自分か、自分が触れているものの防御力を高める魔法さ。そんなちゃちな豆鉄砲ではぼくのガーディアンに傷一つつける事はできやしない。なでなで」

 

 

 女性はそう言ってガーディアンと呼ばれた大男の頭を撫でると、大男は歓喜の雄たけびをあげた。

 

 

「可愛いものだ。ぼくの言う事に忠実に従ってくれる」

 

「異世界人の召喚は魔法覚醒病を進行させる恐れがある! ニュースを見ていないのか!?」

 

「見ているさ。だからこそなんだよ。ぼくはこの世よりも異世界に興味がある。だからこっちで暴れるだけ暴れて異世界に逃げるつもりだ」

 

 

 そう言って静かに笑う女性はどこか子供っぽさを感じさせる。

 

 

「異世界に魂だけで渡ってどうする。向こうで過ごす身体が無いというのが定説だぞ」

 

「君はファンタジィというもの分かっていないね。異世界なら魂だけで生きていく方法があるかもしれないじゃあないか。説得は無駄だよ、この世界最後の大暴れに付き合ってもらおう」

 

 

 そう言っておにいちゃん達警官の一群に向けて放たれるシールドバッシュの一撃。わたしは飛び出すと『キックストライク』の蹴りでその一撃を相殺した。

 

 

「怪盗……!?」

 

「苦戦しているようだな。手を貸そう。というよりは邪魔だ。他の警官を退かせろ」

 

「くっ。……総員、対象から距離を取れ!」

 

 

 指示に従う警官達。これでやりやすくなった。

 

 

「怪盗か、厄介な相手が来たものだ。魔法を盗むという力は恐らくぼくの魔法を貫通するだろう。相性が悪い。だが、ガーディアンくんに勝つことは出来るかな?」

 

 

 右手にカード、左手に麻酔銃を持ってターゲットとその守護者に相対する。

 

 一発麻酔銃で大男の肩に乗る女を狙ってみるが……当然のようにガーディアンと呼ばれた異世界人の持つ盾によって防がれた。

 

 

「おいおい、冗談だろう? そんなものでぼく達をどうにかできると考えているなら、考えが甘いんじゃあないかい」

 

 

 まずは盾をどうにかすべきか。わたしは『斬鉄』を込めたカードで大男の持つ盾の片方を斜めに切り裂いた。

 

 

「ふむ。この『鉄壁』の守りを崩すか。仕方ない、それはもう捨てるんだ」

 

 

 やけにあっさりとしたものだ。と思ったがそれは大きな間違いだった。捨てる、というのはこちらに向かって投げつけるという意味だった。鉄塊がこちらを襲う。

 

 『ビーストモード』を発動。跳躍してそれを躱して相手を見ると、新たな盾を構えていた。また盾の二枚体制に逆戻りだ。

 

 

「異世界から盾を召喚したんだ。ぼくはいつ異世界に行っても構わないからね。こういう事ができるのさ」

 

 

 異世界とのリンクを何度も繋げれば、彼女の身が危険……そう考えると、盾を破壊するわけにはいかない。また何度でも盾を呼び出してしまうだろう。

 

 

 それならば……こうだ。

 

 『分身』と『幻影』のコンボ。五人に増えたように見えるわたしがガーディアンを囲むと一斉に指を指し。

 

 

「『シュガーボム』」

 

 

 そのうちの二体から爆発が巻き起こる。どこから攻撃が来るか分からなかった異世界人はターゲットを守りきることができず、彼女を落としてしまった。

 

 

「おっとっと……まずい! ガーディアン。ぼくを守れ!」

 

 

 女性に触れるわたしは魔法を奪うため、カウントスタート。

 

 

「3」

 

 

 ガーディアンがわたしを排除しようとターゲットごと盾で殴りつけてくる。恐らく『鉄壁』の魔法で本人は盾による攻撃を食らっても平気なのだろう。

 

 

「2」

 

 

 分身のわたしが本体であるわたしと大男の間に割って入り、盾に向かって蹴りを入れる。

 

 そして分身は魔法『マスターキー』を発動。異世界人の両腕が大きく開かれる。

 

 

「1」

 

 

 『ビーストモード』が発動しているわたしの右腕は、右前足と言い換える事もできる。ならばこの腕で、強烈な一撃を加える事は可能なのだろう。『ビーストモード』、『キックストライク』。『ドリル』の三魔融合――キャットリルストライク。右腕のドリルを大幅に強化した一撃が、ガードを強制的に開けさせられたその胸に突き刺さった。

 

 

「スティール」

 

 

 魔法を強奪した事によってか、致命的な一撃を貰ったからか、異世界人は異世界へと戻っていく。そして魔法も手に入れた。これで今日も一段落……

 

 

 銃声が鳴る。わたしはマントに『鉄壁』をかけて身を守っていた。マントから零れ落ちる、一つの弾丸。

 

 警察が、わたしを撃った? 残っていた『ビーストモード』による反射神経の加速が無ければ、殺されていた?

 

 

「おい! 何をしている!? あれは怪盗とはいえ、発砲の許可は出していない!」

 

 

 兄が、部下の警官を叱責している。

 

 

「だ、だって! あんな化物を倒すんですよ! そんなの……あいつだって化物ですよ! 今倒さなきゃ!」

 

 

『熱』『マスターキー』『耐毒』『斬鉄』『時間停止』『分身』『シュガーボム』『ヒール』『キックストライク』『ビーストモード』『魅了』『風』『ドリル』『幻影』『狙撃』『鉄壁』。

 

 そしてメイさんから貰った魔道具による『脱力』を含めれば十七個もの魔法が使える。そんなわたしは、たしかに化物かもしれない。

 

 

「……化物は退散させていただこう」

 

「っ! 待て、怪盗! 話を――」

 

 

 ワイヤーを使い、その場から去る。最後におにいちゃんが何かを言おうとしていたが、わたしは何も聞きたくなかった。

 

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