TSロリっ娘魔法怪盗「配信者」ジョーカー   作:稲光結音

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もう後には戻れない

 

 

 アルセーヌの特等席に座りスマホでテレビを見ていると、ニュースがやっていた。話題の警官発砲事件だ。そう、わたしが不意打ちで撃たれたやつ。

 

 

「あれはねえ。問題ですよ。威嚇射撃も無しに撃つっていうのはよっぽどの事態な訳で、実際は怪盗が人間に命を脅かすほどの危険性が無いことは今までの行動パターンから予測できる訳ですね。それだというのに軽犯罪者相手に銃なんて使われた日にゃ、我々市民の安全はどうなるんですかと」

 

「警察は、彼は異世界人との戦いを見て気が動転していたと取材には答えているようですが」

 

「気が動転していた! それで発砲されたらたまったもんじゃないですよ。安全を守る警察が、そんな手軽に銃を手にかけちゃどうしようもないでしょ。今映った映像見ました? 足狙いでもない、殺す気の射撃ですよこれは」

 

「当警察官の処分としては――」

 

 

 テレビアプリを閉じた。使われていた映像、わたしの動画だったな。怪盗がマスコミに映像盗られる事になるとは。なんて苦笑していた。

 

 とはいえ許可の取りようなんてものも無いっちゃ無いんだけどね。

 

 

 なんて考えてたらいつものように大きなリュックサックをしょってメイさんがやってきた。珍しくケーキを頼む事も無く、直接わたしの前にやってきた。そしてこう言うのだ。

 

 

「大事な話があります。二人っきりでお話させてください」

 

 

 真剣な顔をして語る探偵少女に、わたしは自分の部屋へ案内する事にした。

 

 女の子らしさの欠片も無い男の無骨な部屋に彼女はなにかコメントする事も無く、部屋の扉を閉めるとすぐに目的の話題を始める。

 

 

「オーコちゃん……いえ、ジョーカー! 世界の為の悪役の貴女に、どうしてもお願いしなければならない事があります!」

 

 

 その人がジョーカーだって前提で話すのやめない? 隠してる意味ないでしょ。呆れるわたしを気にする事無くメイさんは続ける。

 

 

「この前私、オーコちゃんに魔道具一個取られたじゃないですか。だから闇のオークションで新しい魔道具を買おうと思ったんですね」

 

 

 なんか物騒な話題出てきたぞ。というか。

 

 

「え、そんなのの情報どこで手に入れてるの」

 

「私は探偵ですから……その前に医者の娘でもありますからね。お金持ってると判断されてそういう情報は回ってきます」

 

「え、そしたらわたしが通ってる魂科の先生だって魔道具の事知っててもおかしくない?」

 

 

 その先生の事は知らないですけど、とメイさんは前置きし。

 

 

「魂科のお医者さんにそんなもの教えて、なにか危険性とか見つけられて規制されても厄介ですからね。裏でこそこそやってます」

 

 

 メイさん結構危ない橋を渡ってたんだな。『脱力』のはにわ調べてもらうんだったかなあ。

 

 

「それでですね、次回出品の目玉が危険なんですよ。それも、この上無く。その名は……『洗脳』のダイヤモンド」

 

「それはまた、物騒な名前がついてるね」

 

「はい。所有者に従順なこの宝石は、人間を自由に操ります。人を操るのも飽きただなんて理由からこれを手放すのだから金持ちってのは訳分かんないですね。問題なのは……これを悪意ある人間が手にすれば、世の中をどうとでも出来てしまうだろうって事ですよ」

 

 

 そりゃ『洗脳』はやばいわ。直接的な危険性で言えば『時間停止』より危険かもしれない。

 

 

「これを……盗んで欲しいんです」

 

「まあ、怪盗に依頼するとなるとそうなるよね」

 

「ちなみにこれの価値は十億とも百億とも言われています」

 

 

 噴き出した。え、家が楽勝で立つじゃん。

 

 え、魔法だけ盗んで……いや、でも無駄に魔法を抱え込むのもわたし自身のリスクが高まるだけだ。

 

 というか。

 

 

「それ一気に怪盗が犯罪者にならない?」

 

「なります。少なくとも裏社会では。いえ、表の世界でも世界最大級のダイヤモンドが盗まれたといって話題になるでしょうね」

 

 

 ふーっ、と長い息を吐き出す。冷静になれ、わたし。

 

 

「それが、世の中の為なんだ?」

 

「はい。それでですね」

 

「まだなにかあるの?」

 

 

 彼女はリュックサックから一枚の鏡を取り出した。そのサイズは取り出すだけで大きいと思っていたリュックサックのサイズが一回り小さくなったように見えるほどだった。

 

 

「『洗脳』対策の『絶対魔法障壁』の鏡。魔道具です。これをですね」

 

「くれるの?」

 

「はい。――オーコちゃんが自分をジョーカーだって認めてくれたら」

 

 

 この期に及んでまだそれか。もうほとんどバレてるんだからいいじゃん。

 

 溜息を一つ吐いて、語りかける。

 

 

「メイさん――わたしはね」

 

 

 

 

――――

 

――

 

 

 

 

「諸君、ごきげんよう。今回は趣向を変えて生配信でお送りするよ。予告状はもう出してある。その辺りは後日出す動画編に期待してくれ」

 

 

 マントを翻してわたしは歩き出す。目標は……地下にあるオークション会場。とあるバーの隠し扉の奥に、その会場は存在する。

 

 そしてそのバーには、生配信する事でバレていたのだろう。オークションを守ろうとする黒服達の姿があった。

 

 それも一人ひとりが拳銃を持っているというおまけつきだ。

 

 容赦無く放たれる銃弾を、『鉄壁』を込めたマントで受ける。『ビーストモード』で反射神経を上げておくのも忘れない。

 

 

「諦めろ! もうすぐ例のブツの取引が始まる! そうすれば新たな所有者がお前を『洗脳』するだろう!」

 

「そう言われて、はいそうですかといかないのが怪盗さ」

 

 

 宙に風の弾丸を五発ほど浮かび上がらせ、それぞれを別の黒服に当てていく。非致死性だ。黒服は気絶する、のだが。バーの隠し扉の奥から新しい黒服が湧いてくる。

 

 

「こちらの勝利条件はお前の足止めだ。それに徹させてもらうぞ」

 

「なるほどなるほど。確かに今、オークションの目玉が始まったようだ。私の耳にもそれが聞こえてくるようだよ」

 

「なにを馬鹿な。……! まさかお前! 分身をもう会場に!?」

 

 

 

 エクスがカメラを切り替える。今日のために作ってもらった、身に着けられる小さなボタン型のカメラだ。電源室までオークションの熱気が伝わってくる。

 

 

「10億!」「50億!」「70億!」「100億!」「110億!」「……120億!」「125億!」「128億!」「128億5000万!」

 

 

「128億5000万円! これ以上いませんか!」

 

「――135億」

 

 

 会場がざわつく。そして。

 

 

「135億。これにてらくさ」

 

 

 会場の電源が落ちる。そう、わたしがブレーカーを落としたのだ。

 

 

「落ち着いてください皆さま! 怪盗は入り口で足止めしていま……何!? 電源室に分身が入り込んでいるだと? すぐ向かえ!」

 

 

 指示されてから行動が早い。入口を人海戦術で守っていた黒服達が地下へ潜り、電源室の分身のわたしに襲い掛かる。

 

 これらを麻酔銃で一人一人眠らせていきながら、わたしは本体の活動を待った。

 

 

 入口で苦戦していたわたしは人数が減った事でなんとか地下オークション会場に潜ることができた。停電の起きた会場に入った所で――その場に電気が点いた。

 

 

「残念だったな怪盗! 非常灯があるのだよ! 闇に紛れてこのダイヤモンドを盗むつもりだったのだろうが……もう遅い! 時間稼ぎは成功というわけだ!」

 

 

 オークショニアは勝ち誇ったように言う。

 

 

「そして、この場にいる事自体が我々の計画通り! 私はね、この宝石の持ち主の息子なんだ。元々宝石を手放すつもりなんてなかった! ここにいる金持ちどもも、圧倒的な戦力を持った怪盗も! 我が手中に収めるためのな! 『洗脳』のダイヤモンドの力を見せてやる!」

 

 

 そう言ってガラスケースの中に大切に飾られた宝石を取り出し始める。

 

 宝石を白い手袋で掴もうとして、しかしその手は虚しく宙を切る。

 

 

「な……! なんだ!?」

 

「そのダイヤモンドは『幻影』さ」

 

「なにぃっ! じゃあ本物のダイヤモンドは!?」

 

 

 その時、電源室からやってきたもう一人のわたしが合流した。

 

 

「そうか……! 分身! 分身が持ってるんだな!」

 

「いや? 本体が持ってるさ」

 

「なんだと! お前は今この会場にやってきたばかりだろう!」

 

 

 高笑いを上げるわたし。こうまで引っ掛かってくれると気持ちがいいな。

 

 

「なぜ私が本物だと思った?」

 

「……部下から報告があった。ジョーカーが生配信を始めた、と」

 

「そうだね。それは私だ。つまり――生配信を始めたのは分身だということだよ」

 

 

 衝撃を受けたという顔をして、オークショニアはよろめいた。

 

 

「本体は先にこの会場の中に潜入していた。そして分身が停電を起こしたところで行動を開始。『ビーストモード』で暗闇を見通し、ダイヤモンドを頂いた。あとは『幻影』で無いはずのダイヤモンドをあるように見せかけるだけだ。

 

 『マスターキー』を使う事が無いのはおかしいと思っていたのだが……なるほど、お前がこの会場の人間にすぐ『洗脳』できるように開けておいたのだな」

 

 

 そう、この男はミスを犯した。喋りすぎたのだ。この会場の人間に洗脳をかけるつもりがあると喋ってしまったのだ。会場全体から向けられる、怒りの視線。

 

 これから彼がどう処分されるのか、分かったものではない。

 

 分身のわたし達はその場から煙のように消えていた。勿論、本体のわたしはそんな会話をしている間に『幻影』を使って透明になりながら会場を抜け出している。

 

 

 

 その後、わたしの部屋にて。

 

 

「しかし、私がオークション会場入りする時に怪盗も潜入してたとは誰も思わないでしょうねえ」

 

「どうかな。一回動画で共闘してるところを見られてるし、カンのいい人なら気付いてるかも。それこそ探偵みたいな」

 

「うっ、怪盗の片棒担いじゃいましたからねえ。必要な事だったとはいえ」

 

 

 メイさんは大きなリュックサックを背に、うーんと背中を伸ばす。おっぱいが強調される。

 

 

「結局、オーコちゃんは正体を教えてくれませんでしたねえ」

 

 

 そうそう、俺はメイさんに正体を教えろと言われた時、こう言ったのだ。

 

 

「メイさん――わたしはね」

 

 

「怪盗っていうのは、正体を明かさないものだと思う。例えそうする事でどれだけ有利に働くとしても。バレバレでも。探偵が相手だっていうなら猶更ね。それが怪盗の矜持じゃないかな」

 

 

 

 しかし、これでわたしも立派な犯罪者だ。警察は大手を振ってわたしを捕まえにこれてしまうだろう。なにせ宝石泥棒だからな。罪は今までのどれよりも重い。

 

 明らかな犯罪にさえ手を染めたのだから、今までのなんちゃって怪盗とは違う。もう後には戻れない。

 

 だからわたしはこれからも自分の思う通りに人間を救うのだ。誰に認められなくても、誰に正体を掴まれそうになっても。そして……化物だと呼ばれようとも。

 

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