TSロリっ娘魔法怪盗「配信者」ジョーカー   作:稲光結音

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ある時はケーキ屋の看板娘

 

 

 家庭内で俺は家事手伝いという担当になっていたのだが、この身体になった事でしか出来ない仕事に就くことになった。怪盗稼業で稼いでいるのだが、まあそれを言っても仕方あるまい。

 

 その仕事とは……ケーキを食べること。つまるところ、サクラである。

 

 うちはイートインスペースのあるケーキ屋で、カフェとして使える店なのだ。よって、そこで美味しそうに窓際の席でケーキを食べるのは文字通り看板娘と言ったところか。

 

 ちなみに父がパティシエで母もケーキ作りが出来るがケーキ作成は基本的に父に任せてその他の業務を担当している。あとは店員としてバイトがシフトで入っているくらいか。

 

 前までの俺はあまりケーキ屋というオシャレな場所に縁のない見た目をしていたため、家事くらいしか手伝う事が無かったのだ。

 

 まあ、なんだ。店員として手伝う事も出来るのかもしれないが、この容姿のロリっ娘が店員ってなんか失敗しそうで客も安心できないよな。ニート期間の長かった俺サイドも、普通に失敗してクレーム来そうで怖くてやれん。

 

 で、このケーキを食べる仕事だけど。すごくいい。元々甘いものは嫌いでは無かったのだが、この身体になったせいか甘いものがめっちゃ美味しく感じる。俺の顔はニッコニコになってしまう。ともすれば、それを見て入ってくるお客さんもいるわけで……看板娘として、俺は役割を果たせているようだ。

 

 

「かわいい~、ケーキ美味しいね。写真一緒に撮ってくれない?」

 

 

 なんて、学校帰りにこのケーキ店「アルセーヌ」に寄った女子高生に声をかけられちゃったり。ああ、また承認欲求が満たされてしまう……。怪盗活動中は顔隠してるから可愛いとは言って貰えないんだよな。

 

 でも衣装がミニスカ絶対領域になったからそっちはかわいいって言って貰えるかも。

 

 あ。あくまで褒められたいだけで、かわいいって言って貰いたいという女の子としての欲求ではない、そのはずだ。まだそこまで女の子してないはず。多分、おそらく。――だといいなあ。

 

 ていうかこのためにトゥーランドットで可愛い服を見繕ってたのか。結構な出費するなあと思ってたのだが、回収の目途は立てていたということだろう。さすが母、慧眼だなあ。

 

 ちなみに父はキッチンから出てくる事は閉店まで無い。洋一兄と同じく、顔がごついのでお洒落なケーキ店には似つかわしくないのだ。父は結構その事を気にしているのでいじるにいじれん。

 

 そんでまあ、この父ってやつが結構な頑固職人。ケーキの出来が悪ければ、こんなものは出せんと閉店して家族一同で失敗ケーキの処分に追われる。それも美味いんだけどなんか制作者本人的には許せないものがあるらしい。

 

 逆に、ケーキの出来が良ければ息子が幼女になったって日でも店を開ける。自営業だから許されるフリーダムな店の開け方をしていた。

 

 それでまあ、お得意さんからも「遠目から見ると開いてる日なのか閉まってる日なのか分からない」と言われてしまっていたのだが……その問題も解決した。

 

 それが俺。

 

 窓際に俺が座っている日はやっているよ、というまさしく看板の役割なのだ。

 

 と、言う事で俺はケーキ屋の看板娘と怪盗という二足の草鞋を履いての活動だ。

 

 そうそう、TS病もかなり珍しいとはいえ、立派に社会に認定されている病気の一種なため保障がある。その中に免許証の作り直しがある。免許証の写真、男のままでも困るしな。名前だって変わってるし。

 

 更新された免許があるので、俺はまた車やバイクに乗れる。この身体じゃ特別な車両にしか乗れないんじゃ……と思うかもしれないが、あるのだ。俺には特別な車両が。

 

 それが『怪盗七つ道具』の一つ、乗り物。普段はバイクだが魔法の力で自動操縦のモーターパラグライダーに変形する不思議な移動手段。

 

 ちなみにモーターパラグライダーとは――まあ、ふわっと空飛ぶやつだと思ってくれればいい。

 

 認識阻害もついているので、普段使いしても怪盗としての足がつかないという優れモノだ。俺はモーターパラグライダーに変形できるのは足がつかないとかけたダジャレじゃないかと思った事がある。空を飛ぶから足がつかない……ごめん。

 

 話がずれた。なんにせよアルセーヌが閉店した今、俺は自由時間だ。衣装が俺の心に合わせて変形したように……それは不服だが。乗り物の方も俺が乗りやすいようにカスタマイズされているのだ。

 

 よって。この短い足でも充分届く足で、がっつりバイクを乗りこなす事ができるというものだ。

 

 ちなみに騒音は最低限、歩行者に存在を知らせる程度には鳴るように普段は使っていくつもり。あのバイク特有の音もまるきり無いと困るものなのだ。

 

 とはいえ怪盗活動中はその最低限の音さえも消してサイレントモードも出来る。怪盗がバイクぶんぶん吹かして自己アピールしてたらやだもんな。

 

 でも予告状とか出すし、割とアピールは普段からしてるな……? そんな事を考えながら幼女の身でバイクで移動していると、怪盗七つ道具の『カード』に反応があった。

 

 

 花屋 吉田優実(22) 覚醒魔法『斬鉄』

 

 

 この『カード』ももう少し扱いやすく変化するといいんだが。一定範囲の、一番近くにいる重度魔法覚醒病患者を表記するから、ある程度は距離を詰めないとそろそろ患者が見つからないのだ。ついでに重度じゃない人も表示されないらしい。これはマキナ情報。

 

 で、今回のターゲットが持ってる魔法は『斬鉄』か。鉄を切るのと花屋に何の関係が……でもあくまで病気だからな。自分で魔法を選んだわけでも無いんだから仕方あるまい。

 

 とはいえ、使えない魔法に目覚めたら普通に病院に行って欲しい。気付いてないパターンかな? でも強力そうな魔法だし、普通に何かの拍子で気付きそうなものだけどなあ。

 

 なんにしろ、気を引き締めていこう。

 

 

 

 ターゲットが花屋の閉店作業をしている時だった。一つの鉢植えにカードが刺さっているのを見つける。そこに書かれていた文字は――Take your magic。

 

 彼女は一声ひっと声をあげると行っていた作業を手早く済ませてすぐ自宅へと帰宅し、警察に連絡を送った。

 

 つまり……今回は警察も相手にしなければならないという事らしい。洋一兄も駆けつけてきそうだなあ。父に似て頑固なところあるから、何がなんでもわたしを捕まえにくるだろう。

 

 あ、わたしって言っちゃった。俺ね、俺。

 

 それでまあ、管轄外だっていうのになぜかいる洋一兄と、他三名が護衛につくようだ。四人の警察は外を見張り、本人も木刀を持って窓ガラスの付近で待機している。エクスが事前に見回ってくれたのだ。

 

 警察が全員外にいるから、と窓ガラスから侵入すれば恐らく木刀にも効果を及ぼすであろう『斬鉄』魔法でザクリ、と言ったところか。

 

 そろそろ動画用の前口上でも撮ろう。

 

 

「ごきげんよう、諸君。今回は愉快なゲスト、警察の皆さんのご登場だ。ターゲットの魔法も手強く、苦戦を強いられるかもしれない。だが、やっと楽しい舞台になってきたと言ったところか。視聴者の皆もこういうの刺激的なパーティを楽しみにしていたのかもしれないな。ふふ、期待に添えるといいが」

 

 

 ミニスカの怪盗が、電子妖精の撮影する前で格好つけた言い回しで撮影を開始する。余計に怪盗ごっこにしか見えなくなった気がするが、その実力は本物の怪盗なのだ。少なくともそう自負している。

 

 

 今回用意するのは、『怪盗七つ道具-乗り物』のモーターパラグライダー。自動操縦機能を使ってこれを飛ばす。

 

 

「……ん? 警部補! 謎の飛行物体です! 怪盗でしょうか!?」

 

「待て、持ち場を離れるな! ――ぐぁっ」

 

 

 そのまま、現場を指揮している人物に地上から麻酔銃を放つ。偉い人の気を逸らしてくれてありがとう新米さん。

 

 そう、警部補と呼ばれた警察官は人の乗っていないモーターパラグライダーを見ても冷静だった。しかし、新米に檄を飛ばすため、一喝。隙が生まれた。そこを麻酔銃でぶすりだ。

 

 警察は防弾チョッキの関係で麻酔銃が使いにくいから、こうやって隙のある時しか使えない。不意打ちで偉い人を狙えたのは僥倖だった。

 

 とはいえ、管轄違いとはいえ、偉い人はもう一人いるのだ。

 

 

「何者だ!」

 

 

 そう、俺の兄。洋一。

 

 

「――魔法を盗む者。ジョーカー」

 

 

 警察の内部の事までは知らないが、洋一兄は警部だ。管轄内の警部補がいないなら、管轄外の立場だとしても他の二人を指揮したりするんじゃなかろうか。そんな兄が初手に取った選択とは。

 

 

「ジョーカー……お前の罪はまだ軽い。なにせ魔法覚醒病とはいえ病気を盗る行為だ。罪とは言えん。とはいえその手段がまずい。このまま繰り返せば取り返しのつかない犯罪者になるぞ。例え君が未成年だとしても、だ」

 

 

 その発言に俺は――両手首を揃えて前に出し、歩いて近づいて行った。まるで、自分から捕まりに行くかのように。

 

 

「いい子だ」

 

 

 洋一兄は俺に手錠をかけ、そう言うと笑顔を作った。

 

 

「容疑者――かくっ」

 

 

 俺は跳躍してハイキック。

 

 脳の側頭部を揺らしてやった。気絶する兄。

 

 

「『マスターキー』」

 

 

 手錠が外れる。この魔法は扉を開けるだけが能ではないのだ。

 

 

「おのれ! 公務執行妨害で逮捕する! ……ああ、これ言ってみたかったんだよなあ」

 

「言ってる場合か! 馬鹿!」

 

 

 どこか抜けたところを感じさせる新米二人のやり取りを無視して、俺はターゲットの家の鍵も魔法で開け、そして閉めた。

 

 警官二人が扉を開けるのに手こずってる間にケリをつける!

 

 

 窓の近くで待機していたターゲットは侵入してきた俺を見て驚いた顔をしていたが、すぐに切り替えてこちらに斬りかかってきた。

 

 その一撃の鋭さたるや。

 

 木刀だというのに、床にばっさりと穴が開いてしまったほどだ。人体など軽々と切り裂いてしまうだろう。

 

 

「……過剰防衛だとは思わないかね?」

 

「うるさい! 私はこの力を極めてやらないといけない事があるのよ!」

 

 

 やれやれ、とわたしが肩をすくめると彼女は再び襲い掛かってきた。脇の下をくぐると、俺とターゲットの位置は入れ替わり、彼女がドアの前に立つ形となる。

 

 ――追い詰めた。

 

 俺は『熱』の魔法により炎の鞭を作り出すと、彼女の木刀に絡みつけた。みるみるうちに焼けていく木刀を、しかし彼女は離さない。

 

 

「何をしている!」

 

 

 木刀を持った彼女の手を蹴りつけると、限界だったのか簡単に燃え盛る木刀はその右手から離れていった。

 

 そして、崩れ落ちる彼女の肩に触れ、3カウント。

 

 

「3、2、1。スティール」

 

 

 これで『斬鉄』の魔法は頂いた。

 

 だが、気になる事がある。

 

 

「燃えている武器を離さないほどの執念……君に一体何が?」

 

「私は――田中商事のセクハラ野郎に復讐したかった」

 

 

 セクハラか。同じ女としては許せんな。いや、俺は男だ男。

 

 

「その、セクハラ野郎というのは?」

 

「分からない。いつの間にか触られてて、証拠も無い。私はそれで会社を辞めたけれど、今もその被害に合っている女子社員がいると思うと腹立たしくて仕方ないわ」

 

「……ふむ」

 

 

 魔法を使っている可能性がある、な。

 

 

「お願い、怪盗さん。私から魔法を盗んだと言うのなら、この復讐心も盗んでよ。私の代わりにセクハラ野郎を捕まえて」

 

「いいだろう。魔法による犯罪、このジョーカーが罰してみせよう」

 

 

「待て怪盗!」

 

 

 そんな女二人の会話に紛れ込んできたのは洋一兄だった。回復早いなあ。

 

 

「また会おう、警察の諸君」

 

 

 俺は窓から飛び出すと、空に飛ぶモーターパラグライダーに伸縮自在のワイヤーを括りつけ、空へと飛び出した。

 

 

「おのれ怪盗ー!」

 

 

 そんな叫びを背に、逃走に成功した俺は空中散歩をしながら彼女の話していた田中商事の方へと足を向けた。

 

 

「……これだわ、多分」

 

 

 そしてカードに新しく記載されていたターゲットとは。

 

 

 田中商事社長 田中昭三(55) 覚醒魔法『時間停止』

 

 

 時間停止は大物過ぎない? それでやる事がセクハラって小さくない?

 

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