TSロリっ娘魔法怪盗「配信者」ジョーカー   作:稲光結音

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VS時間停止

 

 

 さて、日を改めて俺達は田中商事を訪れている。と言っても、俺がいるのは解放されていないため誰もこない屋上だ。

 

 今はエクスが透明化と物質透過の力でビル内を撮影しまくっている。

 

 これに何の意味があるかというと、今回はこのビルの中で盗みを働くのが正解では無いかと考えを張り巡らせているからだ。

 

 向こうがいつ時間停止能力を使うか分からない以上、怪盗の格好で迂闊に近づく事は出来ない。この認識阻害のマスクを外されて顔を見られたりしたら大問題。

 

 今回は普段以上に念入りな事前調査が必要になる。そう、ターゲットがどのくらいの間、時間停止を行えるかが分からないというのが怖いのだ。

 

 適当に外で遠距離から麻酔銃を撃って、寝てるところを奪取するというのも勿論選択肢だ。だが、それ以上にいいプランはないか、きっちりと考えを練る必要がある。

 

 これは復讐代行を頼まれたからでもあるし、なにより危険度の問題だ。三秒相手を触る、というのがここまで難しい相手は珍しいのではないだろうか。

 

 なにせ、触った時点で向こうは時を止めれば逃げられるしターゲットがこちらの正体を暴く事に力を入れてくる可能性があるのだ。これは今までの相手には無かったリスクだということをきっちり認識しなければならない。

 

 

「ふー、疲れた。ジョーカー終わったよ。さあ、早速中の様子を見てみようか。お宝の様子もね」

 

 

 ターゲットは社長。よって当然社長室にいるのが当然の理屈だった。ガマガエルのような薄らハゲの男は、仕事の傍ら俺の動画を見て、メモを取っている。

 

 

ジョーカー所持魔法まとめ(推測)

 

 

・破壊力増強?(確定)

 

・学生から盗んだ魔法(確定・不明)

 

・火炎の生成、操作(確定)

 

・鍵開け(確定)

 

・魔法を盗む(確定)

 

・身体能力の強化

 

・正体の隠蔽

 

・伸縮自在のワイヤー

 

・切れ味のいいトランプ?

 

 

 予告状を出さないと魔法を盗めない疑惑? 不明の大した事ないという魔法が気になる。注意点。

 

 

 それは掲示板に載っていた俺の使える魔法まとめなど。動画公開してるから可能性は十分にあったが、『斬鉄』の所持者の発言をどこかで知ったらしい。田中商事でセクハラにあった、その復讐をしてほしいという内容を。

 

 つまり警戒度はMAX。こちらが気付かないだけで、定期的に時間停止で周囲を監視してる可能性すらある。

 

 ただ……掲示板の内容をそのまま信じているなら、付け入る隙はありそうだ。

 

 

「よし、続いて内部の様子を探ろう」

 

 

 これが今回の重要なポイントだ。扉からは当然出入りできない。開けた瞬間時間停止してこちらの存在を確認してくるだろう。

 

 クールタイムはないのか? それも分からない。なにせ時を止めた本人しか知りえない事だからだ。強敵だ。

 

 窓から突入も当然駄目。窓ガラスを割って侵入したとして、大きな音が鳴った瞬間、時を止めてくるだろう。

 

 となれば第三の選択肢――ここだ。

 

 

「……ふぅー。いつもより頭使って疲れた。コーヒー飲んでくるね」

 

 

 バレないように着地すると、衣装を普段着に戻し、俺は会社近くのコンビニで砂糖多めのコーヒーを買うためにレジに並んだのだが。

 

 

「げ、なんであいつが」

 

 

 今は昼時。だからといって今回のターゲット、『時間停止』の魔法保有者がいるとは思わなかった。社長だろ? コンビニなんてくるなよ。

 

 内心そんな風に毒づくが、まあ別に正体バレてるわけでもなし。堂々としてりゃいいんだけどな。なんとなく気まずい。

 

 レジに並ぶ前の客と、俺の間をハゲ頭のセクハラ親父が通過したと思うと……やつがにやりと笑ったのを見た気がする。

 

 そして――やられた。尻を、太ももを、胸を、首筋を、前を……好き放題触られた感触がした。あまりのおぞましさに座り込んでしまった。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

 コンビニ店員に声を掛けられるが。屈辱と怒りで私はただただ丸くなるだけだった。

 

 これが、痴漢をされるという事。俺はどこか、セクハラというものを甘く見ていたのかもしれない。これは、滅すべき悪だ。

 

 時間停止で証拠も無く、こんなおぞましい行為を咎める事も出来ない。さぞ辛かっただろう。『斬鉄』の使い手が復讐に燃えたのも、日常的にこんな事をされていたというのならば分かる。

 

 俺はなんでもないです、と店員に告げ冷静を装いコーヒーを買うと、すぐさま簡易的な作戦会議室、ビルの屋上へと戻っていった。

 

 改めてセクハラ社長の行動を録画したものを見ていると、定期的に社内の見回りをしている。つまり、この時に女の子を物色しているのだ。

 

 こうしている間にも犠牲者は増えていくのだ……!

 

 

「頭を冷やしなよ、ジョーカー。怪盗はクールじゃないとね。頭に血が上って捕まるようなヘマはしないでおくれよ」

 

 

 もっともだ。もっともなのだが、あれはやられた身で無ければ分からないものがある。俺でも突然の刺激に恐怖すら感じたのだ。日常的にやられている女性社員はもっと辛いだろう。

 

 ……だが、それを救えるのは俺だけなのだ。魔法覚醒病の悪化を待ち、あいつが消えるのを待ってはいられない。

 

 『斬鉄』の女性とも約束したのだ。俺は深呼吸を一つすると、エクスに向き直った。

 

 

「もう大丈夫だ。落ち着いて作戦を立てられる」

 

「そうこなくっちゃ! ジョーカー、君こそが切り札なんだ」

 

 

 そうだな。そして俺も出し惜しみは無しだ。こんな事もあろうかと、隠しておいたこのジョーカーの切り札、今こそ使う時だ。

 

 

――――

 

――

 

 

 

『色欲のヒキガエル、田中昭三。今夜十九時、貴様の爛れたお遊びを終わりにしてやる――Take your magic』

 

 

「……来るか、怪盗。これも撮影しているのだろう。セクハラなど冤罪だが向かってくると言うのであれば相手をしてやる」

 

 

 そう平然と言ってのける面の厚さは腹立たしいが、犯罪者が罪を認めるわけもないか。撮影されている事を知っているあたり、きっちり俺の動画も予習済みだ。

 

 

「どうにも今回、向こうは私の事をきちんと調べているようだな。だが、心配はいらない。知名度が上がれば当然の事だ。どれだけ予習をしようと、奴の知らない俺がいるという事実があるのだから心配はいらない。――さあ、女の敵を処分しにいこう」

 

 

 そんな俺が今どこにいるかと言うと空気供給管――ダクトの中。『斬鉄』を込めたカードで入口を切り開き、ロリの小さなボディで入り込んだというわけだ。

 

 そして社長室の上に陣取ると、俺は十九時ちょうどになるのを待った。下を覗き込み様子を見ると、社長室には10人ほどの社員が詰め掛けていた。

 

 社長の隣には女性社員がいて、何かに耐えるように……いや、分かっている。時間停止を使ったセクハラを受けていた。

 

 魔法を盗まれる時だというのに図太いというか、それとも自分の魔法に自信があるのか。

 

 

「怪盗が来たらあのマスクを盗ってやる。怪盗が盗まれるなど笑い話だなあ? そして、噂通り可愛らしい少女だというなら、大人としてメスガキに分からせてやらんといけんよ、なあ?」

 

 

 そう社員に話しかけているのを聞き、俺は怖気が走った。しかし臆病風に吹かれることもない。賽は投げられたのだ。

 

 時間は十九時を回った。その瞬間だった。

 

 

『田中昭三。今からそちらに向かう。自分の魔法とお別れでも告げておけ』

 

 

 スピーカーから俺の声が流れてくる。

 

 エクスが俺の声を録音して流してもらったものだ。

 

 

「放送室! 一階だ! ――いや、全員は行くな! 半数残れ!」

 

 

 そう社員に指示を出していく。冷静だな。頭は冷えているという事か。

 

 ただ、本当に冷えるのはこれからだ。

 

 

「ん? なんか寒いな?」

 

「そうですか? まあ……確かにそうですね。まだ季節柄そうなりますか」

 

 

 手下の社員が半数消えた社長室でそんな会話をしているが、寒いのも当然。俺は『熱』を操り温度をどんどん下げているのだ。

 

 そして

 

「……くそっ、怪盗か! この寒さは尋常じゃな、い」

 

 

 スケベ親父は座っている椅子に冷気で張り付いてしまった。それだけではない。手も足も、完全に凍ってしまった。まさしく手も足もでないといったところか。

 

 そして、動けないのであれば時間停止も怖くない。

 

 俺は『斬鉄』を使ってダクトから穴を空け、社長室へと登場した。

 

 予想外の位置から現れた俺に、社員達は混乱している。その隙をついて。

 

 

「く、怪盗! この……! 時間を、止めても、動けん!」

 

 

 大股開きの格好で椅子に張り付き、両手両足の動かない愚かなスケベ男の禿頭に触れて、三秒。

 

 

「3、2、1。スティール」

 

 

 これで『時間停止』の魔法は頂いた。けど汚いもの触ったから手が汚れた。きちゃない。

 

 

「ふん、後ろめたい事があるから警察にも連絡できなかったか。その末路がこれだよ社長さん。痴漢セクハラの罪は重いぞ」

 

「くそ……だがセクハラなど知らん!」

 

「認めないと言うのなら、構わん。私がお前を裁こう」

 

 

 なにを、という『時間停止』の力を失った爺の声を無視し、その場で跳躍。大股開きで座っているその股に向かって……的確に玉を狙ってブーツで踏みぬいた。

 

 

 

「あ、あおおおー!!! おああああああー!!!」

 

 

 凍った身体が動きで身悶えする事も許さなかった。ちなみに竿を蹴るより玉の方が痛い事はよく知っている。俺だって男だったからな。

 

 

「――警察だ! 社員から通報が入った!」

 

 

 洋一兄だ。今回はもういいや。さっさと帰ろう。気も済んだし。さすがに『斬鉄』使ってアレをちょんぎる訳にも行かなかったからこれで勘弁してほしい。

 

 カードを束にして頭上にばら撒き、時間停止。ゆったりと歩いて帰る。

 

 すると時間停止を終了した頃にはカードに紛れて俺が消えたかのように見えるのだ。

 

 

「暴行の容疑で……いない!? おのれ怪盗ー!」

 

 

 とか言ってたらしいけど、それは後からエクスに聞いた。

 

 エクスに聞いたと言えばエクスは俺の一部なため、エクスの撮影は時間停止中でも続行するらしい。つまり俺の止まった時間にエクスもいるって事だな。時間を止めてる間も格好良く動かないと駄目だわ。

 

 で、今回手に入れた『時間停止』。これやばいわ。クールタイムは止めてた時間と同じ。一秒止めただけなら一秒でまた使えて、一時間止めても時間が動き出してから一時間使えないだけ。

 

 マジでいいな。これがあればもっと遠くまで日本中どこにでも……は言いすぎだが本州を日帰りで移動するのにも充分使えるぞ。

 

 どうにも一回の時間制限は無いっぽいんだよ。反則級。

 

 さて、シメの挨拶でも撮るか。

 

 

「視聴者の諸君、いかがだったかな? 証拠が無く、法で裁くことのできない悪人も、私が裁こう。魔法を失ったあの愚かな性欲魔人も、魔法無しでセクハラを行う根性は無い。せいぜい欲求不満を抱えて長生きする事だ。はーっはっはっは!」

 

 

 俺の知らないところで、事態は進む。ついに俺には二つ名が付けられる事になった。

 

 

「自分の犯罪の証拠を残し一般市民に公開するという、警察を馬鹿にした態度。断じて許しがたい。よって、当人物の情報に金一封を送呈することにしました。犯罪者、怪盗「配信者」ジョーカー。市民の皆さんからの情報お待ちしております」

 

 

 これによって、俺が配信者であるという事実が広まり、チャンネル登録者数はうなぎ上りになった。ああ~承認欲求が満たされていく~。

 

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