灰色のネズミ もしも雨取千佳並のトリオンモンスターが戦闘狂だったら 作:マイクロトフ卿
基本第一印象悪目
風間蒼也にとって灰原雪は不可解そのものだった。
ボーダー入隊以来のトップのトリオン量から、B級ソロにも関わらず射手として快進撃を続けている灰原雪。
唯一の隊員であり隊長でもある、射手をメインに孤月やスコーピオンと言ったアタッカートリガーも使いこなし、近中距離において無類の戦いぶりを見せる灰原雪と、オペレーターである赤山唯との二人構成。
B級団体戦に参戦期に連続連勝記録を打ち立てトップに躍り出たにも関わらず、自ら縛りプレイと称したふざけた試合をしてしばらくB級に留まっていたと思っていたら、今期の団体ランク戦でついにA級に昇格をした灰原隊。
(そういえば、諏訪がアイビスを背負いながら孤月片手に突っ込んでくる姿はまさに悪魔だと騒いでいたな…)
良くも悪くもB級ソロということで灰原隊は注目の的であり、隊員たちの中でさまざまな噂話が面白おかしくされていた。
その中でも風間にとって不可解な噂があった。その真偽を確かめるべく、灰原雪がよく模擬戦を行っているC級ブースに訪れていた。
風間「おれば風間蒼也、A級隊員だ。お前が灰原雪か」
灰原は振り返りながら答える。
灰原「はい」
風間「B級団体戦では、どんな隊にも対策をせずに挑んだというのは本当か?」
灰原「初戦のみですが、そうですね」
灰原はなんともなしに手に持っていたジュースを流し込む。
風間「灰原隊はA級に上がると聞いたが、A級でもそのつもりなのか?」
灰原は右手を口元に当てながら、少し考えるそぶりを見せ応える。
灰原「そうですねぇ…まぁその方針は変えないつもりですけど、何か?」
思いがけない答えに風間は眉を顰める。
いや、噂には聞いていたので、予想通りだったという一面もある。
風間「お前はどうやらA級のことを舐めているようだな。無策でA級に勝てるとでも?それも一人で?」
灰原「やってみなければ、わかりませんよ?」
灰原は挑発的に片眉を上げ、口角を上げる。
風間「ブースに入れ、A級の実力を見せてやる」
灰原「あー、いや、本番まで取っておきたいんですが…」
灰原にとって風間の提案は思いがけないものであり、できたら承諾したくないものであった。
風間「どっちにしろ、ここで俺に負けるようであればこの先A級と戦っても勝てない。その時は対戦ログを見ながら対策するんだな。」
灰原は少し考えるそぶりを見せる。
灰原「おっしゃる通りですね。では一本勝負ということでどうでしょうか?」
対戦ブースに入り、風間はスコーピオンを持って構える。
すると灰原も同じようにスコーピオンを構えて対峙する。
風間「そっちから来ないなら、こっちから行くぞ」
風間はカメレオンを使い姿を消し潜伏する。
灰原は目の前で敵が消える様に目を丸くし、驚愕の表情を見せる。
あたりをキョロキョロと見回す灰原を横目に、静かに風間は灰原の後ろに回り込む。しかし、灰原は風間の接近に気づく様子ではない。
そして、一気に風間はスコーピオンを取り出しながら姿を表しながら、無防備な灰原の背後からトリオン供給器官を目掛けて切り掛かる。
そのままスコーピオンの切っ先が灰原のトリオン体を突き刺すように思えた。
灰原雪は振り返ることなどできず、そのままベイルアウトするはずだった。
しかしながら、振り返るはずもない灰原は振り返りざまに避け、代わりにスコーピオンは灰原の脇腹を掠めていく。
灰原と風間のお互い驚愕した視線が交錯する。
それも束の間、すぐに灰原の反撃のアステロイドが放たれ、それを避けながら再び風間はカメレオンで姿を隠す。
(…今のはなんだ?菊池原のように音で感知したのか…?それとも迅のように…)
風間は姿を隠しながら灰原の様子を伺うも、再度姿を消した風間のことを灰原は探知できていないように見える。トリオン探知でも探しづらい距離であろう。
先ほどの攻撃を交わした時とは一転、灰原は風間の居場所がわかっていないように辺りを見渡している。
灰原は内心焦りながら、口角を僅かに吊り上げつぶやく。
「なるほど、これがA級か」
死角から攻撃を繰り返す風間のスコーピオンを交わし、受け止め、いくらか攻撃を当てながら風間の実力を感じる。
これまでの戦いではさほど感じなかったピリついた感覚が、危険を表すあの感覚が、全身に張り付いているようだ。
灰原「確かに、これまでとは違うみたいですね」
幾度か刃を交えたのち、ついに風間のスコーピオンが灰原の首元を切りつけ、トリオン伝達器官が破壊されベイルアウトする。それと同時に、
風間「…引き分けか…」
灰原は差し違えるかのように風間の腹部にスコーピオンを突き刺していた。
トリオン露出量過多、ベイルアウトーーー
やや遅れて風間もベイルアウトした。
対戦後、風間と灰原はC級ブースにてソファに並んで腰に腰掛けていた。
風間「お前が強いのはわかった。しかし、なぜ団体戦に無策で挑むんだ?」
風間はぼんやりと正面を見ながらそう問いかけた。
灰原「別に…B級でも相手を侮っていたわけではないですよ。ただ…」
灰原はペットボトルの硬水を口に含んでからこう言った。
灰原「こっから何十戦、何百戦と戦う中で、相手のことを知らずに戦えるのは最初の一戦しかありませんから。」
灰原の長い黒髪の隙間から、力強い瞳が覗く。
灰原「ネイバーと戦うのに、相手の情報がある方が稀でしょう?最初の一線だけは、前情報なしで戦いたかったんです。そのあと、いくらでも対策なり情報収集なりしてます。」
灰原の予想外の答えに風間は驚嘆した。
(そうか、こいつは…)
風間「だが今日でわかっただろう?今まで団体戦では勝ち続けていたようだが、今日の俺との個人戦で引き分けているようでは、A級の団体戦では勝ち残れないぞ。」
灰原「そうかもしれませんねぇ…だからこそ、初戦は初見で挑みたいです。」
灰原は風間の方を向き、不敵に笑って見せる。
風間「そうか、だがA級は無策で勝ち上がれるほど甘くはないぞ」
風間はベンチから立ち上がり、そう投げかける。
灰原「まぁ、待っててくださいよ。A級では少し苦戦しそうなので、ゆっくり上がらせてもらいます。それでは」
風間と同様に灰原も立ち上がり、灰原は風間に背を向けて立ち去る。
風間「あれが、灰原隊か」
風間は灰原の背中を見送りながら、来期の団体戦は波乱が巻き起こりそうだ、と考えた。
初見殺し!でも負けたくない。