灰色のネズミ もしも雨取千佳並のトリオンモンスターが戦闘狂だったら 作:マイクロトフ卿
三輪秀次はイラついていた。
ネイバーである空閑や玉狛支部の面々と楽しそうに談笑する灰原雪を睨め付ける。
ネイバーは全て敵だ。敵のはずなのに。
灰原雪がオペレーターと二人のソロ隊を結成し快進撃を進める傍らで、ひっそりと噂となっていた灰原のバックグラウンド。普通では口にするのも憚られるような悲劇であるが、ボーダーでは珍しくもない。
「灰原さん、第一次大規模侵攻でご家族を亡くしてしまったんだって。やっぱり、復讐のために…」
「家は無事だったらしいけど、危険区域のままで帰れなくないそうね。」
そう口々にするのは、大規模侵攻で被害のなかった隊員や、他所からきた隊員である。同じように傷ついた隊員らは、そのような噂をするのもされるのも嫌っている。
初めて見た灰原は、そのような噂をしている連中に一瞥もくれずに颯爽とブースを歩いていた。三輪は話しかけたことがないが、ネイバーによって全てを失った灰原にどこか親近感を抱いていた。
一人で淡々とモールモッドを相手にする灰原。しかし、彼女はどこか遠いところを見ている。ネイバーによって全てを失った彼女は、一体何のために剣を取るのだろうか。
ソロランク戦でも何度か相手をした。無言で剣を取りしのぎを削る。ソロで団体戦を勝ち抜くだけあり、すさまじい練度であった。
群れず、淡々と己を高める灰原に好感を抱いていたのであった。
しかし、
三輪「なぜネイバーと親しくするんですか。」
三輪にはこの一点だけが疑問であった。入隊以降、徐々に交友関係を広めた灰原は、昔と違って多くの人に囲まれて本場で過ごしている。その輪にネイバーがいることが許せなかった。
一方、灰原にとって三輪と言葉を交わすのはこれが初めてであった。三輪に突如話があると、ボーダー本部の屋上に連れ出されていた。
三輪の思いも、ボーダーで飛び交う噂から知ってしまっていた。同じように三輪も自分に何があったかを知っているんだろう。
灰原「それ、あまり本部で言わない方がいいんじゃ…」
三輪「あなたは、家族を奪ったネイバーを憎いと思わないんですか!?」
三輪は感情的にそう問うが、灰原は困ったように眉を下げている。
(初めて話すのになぁ…)とぼんやり考える。
灰原「ユウマは別に、私の家族を殺したわけじゃないよ。」
三輪「そんなの関係ない!あんたは、復讐したいと思わないのか!?」
灰原「三輪はすごいね。」
三輪は言ってからハッとした。瞳を下げる灰原の瞳は、一体何を考えているか掴みづらく、ただ、迷子のような顔をしていた。
灰原「いや、私も考えなかったわけではないよ?ただ、ただ…実際向こうの世界でネイバーを見て、そんな勇気が湧かなかっただけ。」
灰原は手すりによりかかる。
灰原「向こうの世界に行ってさぁ、その時復讐したかったら、向こうでめちゃくちゃに暴れてやろうとかひっそり、ひっそり考えたこともあるよ。今思えばよく遠征行けたなぁ。」
そう自嘲する灰原に三輪は何も言えなくなる。
灰原「ごめん、でも、もう、もう、疲れてしまったんだ。」
冷たい風が屋上で吹く。
「気持ちがわかるなんて軽いことは言えないよ。なくした家族の数が悲しみの量を表してるわけでもない。だから復讐をやめろなんて言わないよ。」
「それにこんな言葉があるんだ。『復讐は何も生まないが,きっちり復讐する人間だという評判は将来の被害から私を守ってくれる』。復讐する事で、これ以上こちらの世界で酷いことが起きない可能性もあるかもね。」
灰原はそう言って屋上を去る。その背中はどこか寂しげである。
彼女は全て失ってしまったのだ。
三輪は初めて灰原は無くした家族への思いの丈を打ち明ける姿を見た動揺から回復できずにいた。