灰色のネズミ もしも雨取千佳並のトリオンモンスターが戦闘狂だったら   作:マイクロトフ卿

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未来の時系列。ifストーリー。
迅悠一推しです。


イフストーリー
ifストーリー ブラックトリガー


遠征隊は混乱に包まれていた。

「1時、3時、9時の方向から包囲されています!距離は4キロ先まで侵攻!」

 

出水「本格的にやばいなこりゃ…、偵察に行っていた灰原さんを早く連れ戻さなきゃっすよ!」

太刀川「それがあのバカ、敵の前線より遥か奥に入ったまま信号が消えてやがる。」

太刀川はレーダーを確認しながら問う。

太刀川「国近、赤山はなんて言ってる?こっちもそう長く持たないぞ」

国近は自分で説明するよりも、赤山が直接説明した際が早いと考え、すぐさま赤山の通信を繋ぐ。

赤山「そ、それが…。雪ちゃんの通信はないんですけど、信号はきてるんです。ただ、ただ、、、レーダーの範囲よりも明らかに遠くて…もうレーダーから外れて3時間は経ちます。」

太刀川「こっから先の撤退戦、あいつの弾幕の援護がないと、ゲートに入るまで持たないぞ?」

 

ザザっ…太刀川隊と灰原隊の通信に、風間隊の通信が接続される。

風間「赤山をレーダー上で見つけた。俺たちは先ほどまで3時の敵の前線を引き受けていたが、交戦が激しくなり撤退を始めている。赤山はそのさらに5キロ先にはいたぞ。」

出水「げぇっ、なんてったってそんな奥深くまで…こっちの出発までに間に合うの?」

出水は目下のトリオン兵に対してトリオン弾を打ち込み対処をする。こちらもいくらか敵の攻撃を食らっており、トリオンが漏れるのに対処しきれず、太刀川隊のトリオン体はみんなボロボロの様子である。

菊池原「ただ、レーダー上で位置がすごい飛び飛びだったから、テレポートでも使ってるんじゃない?あのスピードなら前線も飛び越しそうだったよ」

菊池原が追加の朗報である。

太刀川「よし、じゃあ本格的に撤退を始めるぞ。防衛線を遠征艦の周囲2キロまで引き下げる。迅も呼んで遠征艦の準備が整うまで絶対に持たせるぞ」

 

そもそも、今回の遠征の任務では同盟国のさらに中立国の先まで遠征し、遠征経路の進展、物資補給法確立だけにとどまるはずだった。しかしながら、まさかその中立国に突如ルートが近づいた乱星国家が侵攻してき、遠征隊までもがその侵攻に脅かされている。

迅悠一は待機していた遠征艦から出撃の準備をしつつ、静かに焦っていた。未来予知は万全ではない。ただ、これまで一度も見たことのない相手によって、遠征隊にこのような最悪の事態が訪れるとは…

(しかもトリオン兵ばかりを送り込んでくる…これでは敵の思惑を読みきれない…)

遠征艦の扉を開け、まさに出撃するその時、迅悠一の前に、敵との交戦が始まって早々、敵陣奥深くに突撃して行った灰原雪がトリオン体の左腕を落として目の前の看板にテレポートしてきた。

迅「雪!どこ行ってたんだ!遠征地で敵陣深くに突っ込むなんて、危なすぎる!」

灰原「迅、思ったよりまずいことになっている。敵はこのまま、我々の遠征艦を包囲、壊滅させるつもりだ」

灰原はそう投げかけながらトリオン体を解く。

 

迅「雪、雪…どうしてトリオン体を解くんだ…どうして…」

いつも余裕の笑みを見せる迅悠一にしては珍しく、焦燥を隠しきれない様子でそう問いかける。なぜ、、、

しかしながら、灰原は遠く、敵陣方向を見つめながら迅を見ようとしない。

灰原「私が一人で敵本部まで乗っ取ってきた。交渉が全く通じない相手だったよ。今後の戦闘に使えそうな人材として私自身で敵の1部隊を壊滅させその力を売り込んできた。代わりに遠征艦には手を出さず出航まで見守ってくれと交渉をした。しかし、そんなこと向こうの望みにはないみたいだ。完全に殺戮を楽しむサイコパスタイプだよあれは」

灰原は、こんなところで…こんな未来、来るはずではなかったのに…

 

迅「あ、あぁ、わかってる。今太刀川さんと風間さんたちで防衛線を貼り直す。敵と交渉できずとも、同盟国まで撤退を…」

灰原「それは無理だ。あいつはブラックトリガーでこちらが全員で挑んでも叶うような相手じゃない。私の左腕は遊びで取られたようなモノだ。完全にこちらを弄んでいる。ギリギリのところで、いざ出航できるというところで確実に息の根を止めてくる。」

 

迅「やめて…雪、雪…お願いだから…」

迅はもはや縋り付くように灰原の両腕を掴む。

迅「俺の未来視がある。今回の遠征ではブラックトリガーは持ってこれなかったけど、でも、それでも…」

迅の懇願するような眼差しをうけ、灰原は目を瞑り、静かに首を振った。

灰原「迅、私はお前の未来視など不確定なものは信頼していない。私が唯一信頼しているのは…」

迅の中で、灰原の最悪の未来が確定してしまった。もう、どうやっても覆すことができない。それほど確定的な未来である。ただ、こんな未来は、遠征まで見えなかった。だって彼女は、いつだって遊真や修の為に自分を犠牲にして…そんな未来ばっかりだったのに…

 

灰原は迅の両肩に手を置き、その悲しい決意の灯った眼差しで迅の瞳を見返す。その眼差しから、未来視から、灰原の未来がまざまざと見せつけられる。初めて迅と灰原は見つめあったかのようにさえ思えた。

灰原「私が信じているのは、私の目で見える危機・脅威だ。私のサイドエフェクトはありとあらゆる脅威や弱点が見える。乱星国家が現れてから、もはやここはずっと死地で避けようがない。」

迅は灰原の言葉に、これまでの灰原の戦闘や行動の理由に一人納得した。これまで彼女がひた隠しにしていたサイドエフェクト。その存在ゆえに、彼女の決定を変えようのない絶望が迅を襲う。

迅「やめてくれ、雪、雪…お願いだから、俺の前でそれだけは…」

迅はどうしようもないと分かっていても、縋り付くことしか出来なかったら。

 

灰原「迅、ほんとうは、本当はずっと楽しかったよ。お前らのおかげさ。家族も家も失って…もう生きていくことはできないと思っていた。迅、お前のおかげで楽しかったよ。だから…」

灰原はトリガーを右腕に握る。

迅「待って…ゆ」

灰原「未来は、いつだって自分の手で切り開くモノだろ?」

ーーーートリガーオンーーーー

その瞬間、彼女の体は崩れ、、

 

 

ガチャっ…

赤山が、遠征艦の中から焦って出てきた赤山が遠征艦の看板で呆然としていた迅に問いかける。

赤山「ね、ねぇ迅くん、雪ちゃん見なかった?雪ちゃん、おかしいの、レーダーに入っても、こちらの呼びかけには一切応答がなくて…で、でも雪ちゃんのトリオン信号が遠征艦のすぐ外まで戻ってきたから!大丈夫なんだよね?雪ちゃん、見なかった?」

親友である灰原との通信が取れず、焦燥し切った赤山はしどろもどろになっている。

迅「赤山、落ち着いて聞いてくれ。ここにブラックトリガーがある、多分、赤山は起動できる…」

迅はそう言いながら、握っていたブラックトリガーを赤山に無理やり握らせる。

赤山「え?え?なんで…だって…ここにはさっきまで…」

赤山はぼうっとしていた。夢を見ているのかもしれない。生唾が止まらない。

迅「頼む、赤山、これを、雪が残してくれたこのトリガーを握って、トリガーオンって、そう言ってくれ…」

そう頼み込む迅の声にも、目にも、力がない。

赤山「ねぇ、ねぇ…嘘だって言ってよ…そんな…」

赤山は唇や手の震えを隠しきれない。

ただ、もはや何も声を発せなくなった迅を見て、手のひらにある無機質なブラックトリガーを見つめながら、どこか現実感のない心持ちでで、震える唇でつぶやいた。

赤山「トリガー、オン」

その瞬間、赤山の掌には黒い箱隊が出現し、そこから強烈な白い光が放たれた。

 

大量のトリオン兵と、幾人かの人型ネイバーに囲われていた太刀川らは、遠征艦方面から放たれた眩い光と共に、トリオン兵や人型ネイバーのトリオン体を破壊してゆく。

出水「なんだ、この光…敵だけ…」

太刀川「どっちにしろこちらにとっては好都合だ、この隙に遠征艦まで引くぞ。国近が遠征艦から半径5キロ先までの敵のトリオン反応が消えたと言ってる。」

そうして、太刀川隊は遠征艦まで撤退する。

 

赤山「私、トリガーなんて、トリガーなんて使い方わからないよ…ここからどうすればいいの?」

迅「赤山、その心配はない、もう終わっている。これで俺たちは出航できる。さぁ、行こう。」

迅は崩れ落ちそうな赤山を支えながら、遠征艦に入っていく。

赤山の掌の上で、黒い箱体の周りを緑色と赤い色の輪っかが、浮かんでいる。

雪はもう、どこにもいなくなってしまった。

 

 

ボーダー本部にて、ことの顛末の報告を受けていた忍田は遠征隊から帰還した隊員を迎え入れるために、遠征艦が帰還するゲート近くで待機していた。

バチバチッ

ゲートの開く音と、オペレーション、そして目の前に轟音を立てながら遠征艦が帰還する。遠征艦からは、迅と迅に支えられた赤山が、重い足取りで降りてくる。

忍田「迅、まさか…いや、それが、灰原なのか…」

赤山はすっかりと目を腫らし、涙を堪えることもなく流し続ける。

迅「忍田さん、忍田さんも、雪を…起動できるはずです。」

迅はそっと赤山の手からブラックトリガーをとり、忍田に渡す。忍田は、愛弟子だったものを手のひらに取り、静かに起動させる。

忍田「これは…」

忍田は半径5キロ先までの生命体やトリオン体の存在を把握していた。

手のひらの上では黒い箱体が浮かび、その周りを赤と緑で光る輪っかが周っている。

迅「赤山の話や、遠征先での効果を省みるに、これは防御用のブラックトリガーだと思われます。おそらく、半径5キロ先まで、持ち主に敵意を抱くトリオン体を破壊する能力です。そして、おそらく非戦闘員にしか起動できない」

 

忍田はその能力を聞き灰原を思い出す。灰原は、大切なものを守るために、守るためだけにこのトリガーを残したのか。

灰原は大規模侵攻で家族や家を失い、それ以降は周りと深く関わるのを怖がっていたように見えた。その灰原が、全てを投げ打って、自分の命までを投げ打って守るためのトリガーを残してくれたことに、忍田は何も言うことができなかった。

篠田は眉尻を下げ、無事帰ってきてくれた迅や赤山に声をかけようとするが、

忍田「迅、お前怪我をしてるのか?」

迅「いや、俺は特に…」

忍田「お前、心臓あたりから、血が出てるぞ…」

忍田から見て、見えないはずの迅の心臓からは真っ赤な血が、痛々しく流れていた。

迅「それは…おそらく雪のサイドエフェクトです。」

忍田「これが…」

 

忍田は唯一、ボーダーの中で灰原雪の特殊なサイドエフェクトを知っていた。モノや人の弱点、自分にとっての脅威が見える。そのサイドエフェクトはこちらの世界の危機を彼女に示し続け、それが彼女を苦しめ、彼女をボーダーに入隊させたのだ。

涙をながさない迅は、彼女のサイドエフェクトで見るとこんなにも痛々しく見えたのだ。ずっと寄り添ってはいたが理解出来なかったものを忍田はついぞ理解してしまった。

忍田「迅、お前、大丈夫なのか…?」

 

一拍おいて、迅は無気力に応える。

迅「俺は、大丈夫ですよ。」




最愛の人ほど迅を苦しめる、という話を書きたかったです。
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