TSメイドロボ少女、異世界に君臨す(仮) 作:TS銀髪ロリっ子メイドさん
広い一軒家の、ちょうど玄関から遠い位置にある、一際目立って大きい部屋。
思わず目を覆ってしまうほどの、見渡す限りの怪しげな道具に囲まれた一室の奥。少し背丈と合わずに溢れた白衣を纏った幼い子供にしか見えない一人の少女が、ある国の重大なプロジェクトの為の実験に勤しんでいた。
「うー......これでもダメ、かぁ」
彼女の名は、アルーズリア・フラーフィ。
とある世界のちょっとした国に産まれた、後に『
「やっぱりこの部分が余計な導線になってるのかなぁ、しっかり計算はした筈なのに......んしょっと!」
バッチィン!
と大きな音が部屋中を
かれこれもう一ヶ月、
たまに顔出しに行っていた国が持っている研究所にもついぞ顔を出さず、研究者達の間では行方不明になった、死んでしまったなど酷い言われようだが......
「............やっと、出来た」
彼女にとっては、今更未練のない
余談だが、彼女にとって大事な人が消えてしまってからのこの一ヶ月という期間は、彼女自身の想像よりあまりにも大きい物だった。
もちろん、居なくなった当初はあり得ないくらいギャン泣きしたし、一人で寝るのもくっそ怖かったし超寂しかった。
それもその筈、今まで数年間ずっと一緒に暮らしてきた
しかし、それでもこうして彼女を奮い立たせて
「よいしょ、対戦車用グレネード.......特大ツールボックス......扉の
一体どうやって入れているのか、ミニマリストもびっくりなパッキング力でボストンバッグやキャリーバッグに色々物を詰め込むアリア。
どうしてこんなにも急いでいるのか、その理由は明白だろう。
「早く私が行ってあげないと......みぃちゃんも、さみしくて今もどこかで震えて眠っちゃってるに違いない!」
ぶっちゃけ震えて眠っていたのは事実なので合っている。
口ではこうして相手を思いやる言葉ばかり出てきているが、傍から見たらその顔はどう見ても、久々に想い人に会える嬉しさと、
「後から捜索が来たら困るから、12時間後に爆破するようにしておいて......よし!」
何やら怪しげな物をセットして、扉に向かって足を進めるアリア。
「こ、これに入るのはちょっと怖いなぁ......えーいっ!」
少しだけ躊躇して足がすくんだが、改めて決意を固める。
最後に投げやりにその扉を通過した彼女は、こうして無事異世界へと行き.......
この日、世界からとある一人の天才科学者が、その姿を消した。
◇
「わぁ..........」
思わず、そんな意味を成さない言葉が、口から溢れ出てしまった。
いや、何か詩的なものでこの昂ぶる感情をどうか言葉にしたかったけれど、今、目の前に広がるこの光景が余りにも幻想的過ぎて、そんなものしか出てこなかったのだろう。
黒雲一つない、大気汚染なんかとはまったくの真逆と言っていい青空。
まだ幼い頃に本で見た、どこまでも広がる果てしなく青い空の絵が、今アリアの瞳の中で目まぐるしくその情景を形にしている。
「.........!」
─────空気を、吸ってみる。
美しいまでに澄んでいる自然本来の風が、アリアの全身を駆け巡っていく。
空には太陽が眩しく燦々と輝き、どこまでも追い掛けたくなる様な日光がアリアの元へ降り注ぐ。
周りを見ると、元の世界では見た事もない様な、ビルに絡みついたツタなんかではない、碧く咲き誇った花々や鮮やかな緑の木々が、アリアを優しくこの世界へと
そんな中で、目を輝かせながら草むらに転がり、無邪気に笑い、寝転がったアリア。
「んふふふ〜.........はっ! 研究者としてはこの辺の物全部持っていきたいくらいだけど、そんな場合じゃないよね......今急いで迎えに行くから待っててね、みぃちゃん!!」
彼女らの知らぬ所で、また新たな冒険が始まった.........
─────────────
あれから日が経ち、翌朝。
アイさんの同居人兼居候となった、オレの朝は早い。
「ん〜.......おはよう、みーちゃん。朝早いんだねー.........」
「おはようございます、アイさん。今、朝食を作らせて頂いてますので、少しばかりお待ち下さいね」
そう言って、アイさんに無表情なりにぎこちなく微笑んでみると、これまたいつもの勝気なアイさんとは思えない様な赤面を見せてくれた。あっ顔隠した、かわいい。
ふふ、こんな美人さんと暮らせてる聞いて驚いたか、どうもみぃちゃんです。
「今日もウチの専属メイドが可愛過ぎる.........」
「えっと、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫! みーちゃんはそのままの勢いで朝食作っちゃって!」
「
朝食ぐらい任せといて下さいよ。こちとら何年
掛けてあったフライパンの様な物を巧みに扱い、くるっとパンケーキもどきを半回転。
「ほっ、はっ、そいっ.......と」
どこかで聞いた鼻歌を刻みながら、対物体性質感知管を触れさせ、内部までしっかり焼けているかを確認し......
どうでもいいが、このヒモ実は完全にオレの体の一部で、握ってみるとちゃんと感覚伝わってくるんだよね。なんか翼生えてる妖精さんの気持ちが分かったわ。
話を戻して、機械の体となったこのオレに、寸分狂わず完璧にパンケーキもどきを焼くことなど朝飯前なのだ。実際に朝飯前だからね!!
「
良い感じに焦げ目の付いたパンケーキを、優しくお皿の上に乗せてやると、ふんわりとした甘い匂いが部屋の中に満ちる。
.........そして、何故かアイさんが机の上で突っ伏して何かを堪えている。そう、何かを。
「くっ......みーちゃん、先に一枚だけ素材本来の味ってのを味わってみてもいいかな?」
「......いいですけど、シロップを掛けてからの方が美味しいですよ、アイさん。さて、こちらの様子はどうでしょうか」
「うぅ〜、みーちゃんからのジトッとした目の圧が凄い! やっぱり待っとこうかな......」
なんか嘆いているアイさんを無視して、最後の仕上げに、焼くのと同時進行で作っていたオリジナルの特性シロップの味を、小さなスプーンで少しだけすくい、確かめる。
「.........うん、美味しい。これならしっかりとメイプルの代替品になりますね」
我ながら、中々の出来なのではないだろうか。
自分で調合してみるのも悪くないな、なんて事を思いながらも、お洒落な柄が刻まれているカップに紅茶を注ぎ、机の上に置く。
そして、シロップをパンケーキ全体に染み込む様に掛けると......
「じゃじゃーん。みぃちゃん特製、何かそれっぽいパンケーキでーす」
「おぉ〜!! 待ってましたー!!」
アイさんからの熱い歓喜の眼差しを華麗に流しつつ、オレは自分用の紅茶をすする。
ふ、そんなに喜ぶんじゃあない。照れちゃうだろ。
「ん〜! 今まで食べたどのお菓子よりも美味しい......みーちゃん、今日から家で本格的に雇われてみない!?」
「そ、そんなー、私には既に素晴らしいご主人様がいるのですー」
「うん、びっくりするくらいの棒読み! 最初にみーちゃんを虜にしたご主人様とやらにも会ってみたいところだなぁ......」
「いつか会えますよ、きっと。......たぶん」
「なんか心配になるなぁ......」
そんな話をしつつも、朝の和やかな食事の時間を過ごしたオレ達は、今日も今日とて外へ出掛ける為に、各自身支度に勤しんでいた。
「うん、そこそこ、いつもよりちょっとだけ多く編み込んでくれないかな?」
「了解しました。......出来ました」
「ありがとね、よし、後は帽子を被ったら......うん、完璧!」
そう言って、オレに向けて満面の笑みを見せてくれるアイさんは、端的に言えば天使だった。
どうやらこの数日間で分かった事だが、実はアイさんは相当な有名人でもあり、しかも滅茶苦茶強い人らしい。
何でも、結構前に一人で滅茶苦茶モンスターを狩ってたら、その一部始終を見ていた人達にその活躍を伝えられまくり、そこからは変装をしないとお出掛けするだけでも注目されてしまうんだとか。
「なるほど、なので普段とは格好の違った雰囲気の服を着ていらっしゃるんですね。凄く綺麗、です」
「あはは、そんなにはっきりと言われると恥ずかしいな。でも、中々似合ってるでしょ?」
首が取れるくらいぶんぶんと頷きながら、アイさんの容姿を改めて見てみる。
深めに被ることが出来る白い帽子に、夏を感じさせる淡い水色のワンピース。
「アイさん、アイさん。私はもう既に出掛ける用意が出来ています」
「え、超早いね!.....と思ったけど、そういえばみーちゃんって持ってる服、メイド服だけだったね」
「ふふ、少し派手に見えるかもしれませんが.........この服も、御主人様との思いが詰まった大切なものなんですよ?」
突然、不意にそう聞かれたので、アリア様がこのメイド服をくれた日の事を思い出しながら、アイさんにも説明をする。
そう、あれは確か、いつも通りに家事をこなしていた何の変哲もない日......
『みぃちゃーん!! 突然ですが、この高そうな袋の中......一体何が入っているでしょうか!』
『そうですね。御主人様の事ですから、恐らくまた新たな○カコーラ社の製品を大人買いされたのでしょうか』
『そ、そこまで好きじゃないよ!? 正解は......じゃーん!』
『.........!』
『んふふ〜、驚いたでしょ? フルオーダーメイドで作ってもらったんだぁ、私からみぃちゃんへのプレゼントです!』
『す、す......凄いです。このみぃちゃん、今一度御主人様への忠誠を誓います』
『なんか重くない?......んふふふ、という訳でみぃちゃん......脱ごっか!』
『んひぇ、ち、ちょっと待って下さ...... 』
『え、いまめっちゃ可愛い声出たぁ!! かくごー!』
.........今思い返せば、後半の方はそれほど良い思い出でも無かった様な気がするが、そんな事はどうでもいい。
あの日、アリア様がこの服をプレゼントしてくれた日から、オレは毎日着るようにしている。
別に他の服に興味がないだとか、そういった話ではなく。
大切な人から送られた、大切な思い出の一つなのだ。
「......ふふふ」
「こ、こんなにも純粋で尚且つ良い子に育て上げたみーちゃんの御主人様、凄過ぎる......」
アリア様とのちょっとした思い出話を話したあと、なんか謎に目を輝かせて妄想に耽っているアイさんを横目に、オレはさっさと靴を履いて外へ飛び出した。
一歩踏み出した瞬間、少し吹く風が、暖かい太陽の陽射しが、優しく肌に触れてオレを出迎えてくれる。
相も変わらず慣れないな、と感じながらも少し微笑んでしまう。
そういえばロボだから靴なんて履かなくてええやろ、と思うかもしれないが、まぁオレの
「えーと、お金よし、服装よし、万が一の武具もよし。あとは〜......」
............にしても遅い!
さっきから割と催促しているつもりだが、どうやらアイさんにはあまり響いていない様だ。それ所か「ちょっと待ってねー」とか「ちゃんと靴紐結べた?」など、まるでちょっとワガママな子供に言い聞かせる様な口調で、完全に子供相手にしか使わない言葉をかけてくる。キレそう。
「お待たせー! お、ちゃんと靴紐結べてるね。偉い偉い!」
「.........私を何だと思ってるんですか。ていうかこんな事で頭を撫でないで下さい」
全く、オレはこの人よりも年上だと言うのに。多分。
え、はぐれたら危ないから手を握っておく?
はー? わたし、これでも貴女より人生経験は積んでいるんですが?
まぁ繋ぐんですけどね。綺麗な人と手を繋いでいて不快感が芽生える事はないですから。
「ところで、みーちゃんは今日どこへ行こうとしてるか知ってる?」
「分かりませんが、それでも推測する事は出来ます。恐らく、先日破れてしまった枕の代わりを買いに行くのだと思っています。後は美味しい昼ごはんが食べたいです。じゅるり」
「あはは、もう後半は願望になっちゃってるじゃん。言われてから思い出したから枕も買いに行くけど、今回の本題は......ふっふっふ」
んん。 何やらしきりにアイさんから怪しげな視線を感じる。何故だが分からないけれど、凄く嫌な予感が。
「.........みーちゃんの新しい、服を買いに行きます!」
..........え?
「これにしましょうこれにしましょうもうこれで終わりにしましょう本当に私はもうこれがいいです」
「いやいや、そう焦んないで! あれかな〜、いやでもこっちも合ってるなー! 店員さん、どう思います?」
「そうですねぇ、個人的には、この『そこそこ大きな国の軍隊に所属するのを目指しているお転婆な近衛兵見習いの兵士』風の軽いけれど可憐な要素を含んでいる服装も捨て難いかと......!」
「流石店員さん、分かってますね......!」
前世で中学生くらいの時に、服に興味ないのにお母さんがいろんな服を勧めてきて面倒臭かった時を思い出す。
目の前で、こちらの気も知らずに楽しそうに談笑している美少女が二人。
一人は皆さんご存知、家事苦手系戦闘面最強金髪赤目完璧美少女、アイさん。
そして二人目は、初対面にも関わらずオレ達二人を見た瞬間鬼の様な速さで此方にやって来て、終いにはオレの手を取り『うぇへへぇ↑お嬢ちゃんこんにちは今日は知り合いのお姉さんと二人で来たのかな?安心してね私はただの怪しくない店員さんだからねそれじゃあ早速試着しちゃおっかそうしよっか!』とか何とか詰めてきた多分ヤバい人である、ミーナさんだ。
おいやめろ、そこ、胸当てとかブーツとか持ってくるんじゃねぇこの状況が加速するだろ。いやちょっと何で服屋に盾があるの。
「よーし、じゃあ次は『王室の屋敷で働いている気配り上手なほわほわ系メイドさん』風にアレンジしてみよっか!」
「ふふふふ、それならコチラの品が宜しいかと......」
「なるほどなるほど、確かにこれなら......」
たすけて。
「ありがとうございました、またのご来店を心よりお待ちしております!」
「は、は......い」
「また来ますねー!」
カランと、軽快な音を鳴らしてドアを開け、店のベルが鳴る。
機械の筈なのに、最早意気消沈で疲れ果てているオレをよそに、この短時間で店を出る際に固い握手を交わしたお二人。
あの後も他に色々と多種多様な服を着せ替えられたりしたオレが最終的に選んだのは、ファンタジーらしい少しお洒落な服だった。
頭の上に添える程度の大きさの、小さくて可愛らしい深緑と淡い茶色の柄が入り混じった帽子。
襟元で少し間が空き、鎖骨辺りで前に止める事が可能な、そこから下は胸元から足先にかけて下に着ている服を外に見せる事の出来る、これまた目に優しい深緑のクロークの様なマント。手はマントを下から持ち上げてやらないと外に出す事が出来ないが、まぁ可愛いので良しとしよう。
因みに、帽子と同じ様に、首周りや肩下の部分に茶色の綺麗な柄が刻み込まれているのがチャームポイントである。
後はショートパンツやタイツなど、色々着ている物は多々あるが、まぁざっと紹介するとこんな所だ。
「それにしても、随分と時間を掛けてくれたものですね、アイさん」
「まぁでも、最終的には良い服が買えてよかったじゃない!..........今のみーちゃん、どうやら相当魅力的みたいだよ?」
「.........!」
耳元で囁く様にそう言われ、はっと周りを見てみると、道行く冒険者の男達やさっきまで楽しそうに会話をしていた人達も、皆が皆通りすがりにこっちを見てくる。
「ほら、あそこの子達、こっち見て『あの子達超可愛い〜』って目を輝かせながら言ってるよ」
「.........どうやら、本当にそうみたいですね」
今更、こんな事で盛り上がったりする様な年ではない為、まぁどれだけ見られてもどうってことはないのだが。ていうか大抵の人はアイさんに見惚れているんじゃないかとは思うけど。
それでも、元男でしかもメイド服を除いたら初めてこんな格好をしたのだ。少しのむず痒さはあっても不思議ではないだろう。
......うん、どうって事はないんだけど.........
「ま、まぁ.........悪くはないんじゃないでしょうか」
「ふふ、可愛いお顔が真っ赤だよ、みーちゃん?」
何故か止まらない胸の高まりから目を逸らす様に、
あの後、服を買って終わりではなく、他にも言っていた枕を買いに行ったり、最近コーアド国内で流行っている外から入ってきた料理を昼食がてら二人で食べてみたり、大精王国が誇る古くからある大規模な観光名所を巡ったりなど、色々な事をしている内に気付いたら日も暮れてきていた。
楽しかった外出の帰り道、美しく世界を照らす夕日を背に向けながら、アイさんと並んで歩く。
「......アイさん」
「どうしたの、みーちゃん?」
「私、まだこの生活環境になって三週間足らずですが、この国の事が好きになりました」
「......うん。その気持ち、とっても分かるよ。私も大好きだからこそ、この国に居続けている訳だしね」
「自然が綺麗で、町の人達もみんな優しくて、料理も凄く美味しくて。こんな素晴らしい場所が、この世界にあるんだなって」
「.........みーちゃん」
「だから、その、すごく楽しいんです、だから.........」
夕暮れと言う事もあって、ちょっと気持ちが寂しくなっているんだろうか。上手く言葉を紡ぐ事が出来ない。
「.........こんな美しい国を、御主人様にも見せてあげたいなって、思うんです」
あんな、明日があるのかも分からない絶望的な世界で、たった一人未来を信じ、どこまでも煌めく事の出来るアリア様は、今どうなっているのだろうか。
ここで、アイさんと楽しく生活を続けていてもいいのだろうか。
「.........涙、出てるよ」
「......ぇ?」
言われてしまったら、もうすでに決壊した涙は止められない。
オレを抱きしめてくれるアイさんの胸の中でひとしきり泣いた後、オレはとある決意をした。
「.........アイさん、実は私、元々この世界の住人ではないんです」
「......えっ、そうだったの?」
めっちゃ驚かれた。
一人で小さな声で「あの国の被害者じゃなかったの......」だとか、よく分からない事を言っているが、多分違う。
「私の元々いた世界は、とても暗くて、怖くて、明日死んでしまっても不思議ではないほど不安定な世界で。そんな中で私を救い出してくれたのが、私の御主人様なんです」
「.........凄い、世界なんだね。やっぱり私、みーちゃんの御主人様には何年経っても追い越せる気がしないや」
「......ふふ、楽しかったんです、それでも、御主人様が居てくれたから。」
更に日は暮れてくる。
一日の中で一番夕日が綺麗な、日没前後。静かな広場で、たった二人で、話し合う。
ぽつぽつと、何処へ行けばいいのかも分からない言葉を押し出していたが、やがて前を向き、アイさんと向かい合い、目を合わした。
「私、色んな国に、旅をしてきます。長い旅です。御主人様が見つかるまで、ずっと。」
「.........」
本当はこんな事、言いたくなんてない。
ああ、どうか素直に一緒に来て下さいと言えれば、どれほど楽なのだろうか。
それでも、自分の私利私欲だけで、恩人であるアイさんを巻き込むだなんて当然、出来る訳がない。
なのでこれはあくまで、オレだけが行く旅なのだ。
「アイさんには、勿論色々お世話になりました。アリーネさんというお友達も出来ましたし、この世界の常識だって、習慣だって、それからこの綺麗な服も......でも、会いたいんです。私がここに来ているという事は、御主人様も、もしかしたら来ているのかもしれないから......だから.........」
だから、さようなら。
こんな簡単な言葉も言えない機械なんて、機巧少女失格だろう。
「........さ、さよ「よーし分かった!!!」ひゃ!?」
突然何を思ったのか、アイさんがいつも通りの明るい笑顔で、オレをがばっと抱き上げてきた。
やばい、せっかく言う決心が出来ていたのに、これではまた振り出しじゃないか。
しかし、アイさんはオレを降ろしてはくれない。お互いに数秒間、目を合わせたあと、アイさんがその口を開いた。
「みーちゃんだけじゃ心配だもん。何てったって、こんなにも可愛い子なんだから、わる〜い男の人達に捕まっちゃったら大変でしょ?」
そう、いつもと変わらない笑顔で。
夕日が射す、美しい国、コーアド大精王国にて。
オレの御主人様を探す旅に、新しい仲間が加わった。
◆◇
「うぅ〜......みーちゃん、 グレイちゃあん!! 私も、ギルド職員なんてやめて一緒に行きたいよー!!」
あの日からは、怒涛の日々だった。
私がみーちゃんと出会ってから二ヶ月とちょっとは経った頃、私はみーちゃんと二人きりで、旅をする事にした。
この二ヶ月間で、私たちは随分と知り合いや仲間が出来た。私も、もう一人でいることはやめにしたんだ。勿論、お店の人達等は元々私とある程度仲は良かったけど。
自分からがっついて、アピールして、冒険者さん達と仲間になっていった。みーちゃんと二人で、色んな人に喋りかけたり、時には即席パーティを組んだりして、親しくなっていった。だって、最後の見送りの時に誰も居ないってのは、少し寂しいでしょ?
「はっはっは! いつも優しいアリーネの嬢ちゃんが、こんなに感情丸出しで泣く所は初めてだ!」
「いやぁ、それにしてもちょっと前までは思いもしなかったよ。まさか、アイさんがこんなにも取っ付きやすい性格だったなんて」
「分かる、分かるぞ、だからこそ......だからこそ、何で出て行っちゃうんだよー! アイちゃーん!
「アリーネ、大丈夫? 後で奥の方の暖かいタオルで目元温めなきゃだめよ?」
「う"ぅ...... 大丈夫です、ありがとうございます先輩.......」
目の前ではアリーネちゃんが、滅茶苦茶泣きまくって先輩の職員さんのヴィオラさんに、慰められている。そして、周りの冒険者さん達は、アリーネちゃんのこんな一面を初めて見たのか、すっごい笑っている。
因みに、さっき呼ばれていた
「皆さん、こんなにも集まってくれるなんて、思いもしていませんでした。ありがとうございます。......ふふ、どうやら相当お暇な様ですね、アレックスさん?」
「くっそ、アズちゃん、めっちゃ可愛い声と顔で煽ってきやがる......こんな可愛いメスガキがこの世に居たとは......っ!」
「あはは、そんなに泣かないでよ、アリーネ! 目的がすぐ達成されたら、帰ってくるんだしさ」
「そうは言ってもだよぉ......うー、こうなったら私も辞職届を出してやるまで!」
「わー、やめてやめて! 給料無くなっちゃうぞー!」
アリーネちゃんが暴挙に出ようとしてた為、慌てて止める。
それにしても、みんなが祝福してくれて、ガヤガヤとしたこの感じも悪くはない。
いや、というかやっぱり滅茶苦茶嬉しいわ。何で私今まで友達作らなかったんだろう?
「アイさん、この国は俺達に任せて下さい。なに、災害の一つや二つ、成長した我々には取るに足りませんよ」
「アイさん! 帰ってきたら俺と結婚して下さい!」
「いやいやここは俺が!」
「俺はアズちゃんがいいなぁ.........」
最後の不審者は後で消すとして、やっぱりこの国から離れる事に寂しくはある。
でも、あの頃と比べたら今は強いパーティも一杯出来て、頼もしい人達も沢山いて。
大侵攻以来、国の脅威となる程の魔物等も現れなくなったため、ギルドのお偉いさんからはかなり渋られたが、その時の偉業を讃えて旅をする事が認められた。自分から頼みに行ったのに、許可を貰えた時は思わず感動してしまった程だ。
大規模な宴会も終わり、皆が私達の旅をする瞬間を出迎えてくれようとしている時、私はみーちゃんに喋りかける。
「......ねぇ、みーちゃん。私、ちょっと前まではこんなに友達もいなくて、殆ど一人で生活してたの。だから今、すっごく幸せ」
「私も、アイさんと出会うまでは、此方に来てからずっと、廃屋敷で生活してたんです。でも、あの時拾ってもらって、色々お世話になって。......実は、こんなにも
「あー、それ私も思ってた! 最近のみーちゃん、なんか違うなぁと思ってたら......成長した姿、御主人様にも見せなきゃね?」
「......ふふ、そうですね」
そう、仄かに笑みを浮かべるみーちゃんの姿は、まるで女神の様に可愛らしい。
最後に皆に別れの挨拶を終える。「今までありがとう」や、「改めて二人揃うとまるで姉妹みたいだ」など、色々茶化されたりしたものの、二人でいっぱい感謝の言葉を綴った。
そして最後にみーちゃんが突然、何かを思い付いたかの様な表情を浮かべた後、私の前に立ち、口を開いた。
「───これからもよろしくね、
後ろにいる皆が沸く。
目の前の少女は、初めて見る、満面の笑みで、そう告げてくれた。
「おっ、おおぉおね......!? きゃー! この子ったら、もう一生養ってあげる!!」
私達は行く。
馬車に揺られて遠くなっても、どこまでも聞こえる町の人々の言葉を聞きつつも、私はこの子と出会えた運命に、良い人達に巡り会えた幸運に幸せを感じながら、この国に別れを告げ、新たな地へ旅立った。
勿論ぎゅっと、硬く手を繋ぎながらね?
大精王国編、完。
まだ続きます。