百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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第一部 百合レンジャーvsBLレンジャー
第1話 世間を騒がす百合とBLさ


「何だ、お前。こんな本を読んでるのか」

 

 言うが早いか、男子生徒は女子生徒の読んでいた本を奪い取った。そして、教室の窓から投げ捨てた。

 

「ちょっとあんた、何するのよ!」

 

 もちろん、女子が黙っているはずがない。激昂した彼女は席から立ち上がり、男子の胸ぐらを掴んだ。

 

「よくも、あたしの大事な BL小説を!」

「ハッ、 BLなんざくだらねえ。時代は百合だ。大体よ、男の肉体よりも女の肉体の方が美しいに決まってるのに、何でわざわざ美しくない方を愛さなきゃならないんだ。馬鹿げてるぜ」

「それはあんたの思い込みでしょ。男性だって、鍛えられた筋肉は美しいじゃない」

 

 正論で返されて焦ったのか、男子は余裕をなくした様子だった。

 

「つーか、 BLってのはその、ケツの穴を使ったりするわけだろ? そういうの、生理的に無理なんだよ」

「BLには『やおい穴』という概念があって……って、今あんた、ちょっとだけ照れが入ってたわよ。ああだこうだ言ってるけど、本当はあんたにもBLの素質あるんじゃないの?」

「うるせえ!」

 

 乱闘になった二人は、教室の中でさほど目立っていたわけではなかった。なぜなら、そこかしこで同じような喧嘩が勃発していたからである。

 

 

 今から少し先の未来。

 現代社会のストレスを発散するため、百合や BLが尊ばれる時代。人々は二つの派閥に分かれ、百合と BLのどちらが優れているかを決めるべく、日々戦いを繰り広げていた。

 戦争は次第にエスカレートしていき、ついに両勢力は科学力を結集することとなった。そして特殊強化服を開発し、この戦いにおける切り札とした。

 彼らこそが「怪盗戦隊・百合レンジャー」、「警察戦隊・ BLレンジャー」である。

 

 

「予告する。あんたのお宝、いただくぜ!」

 

 赤、青、黄のスーツにそれぞれ身を包んだ怪盗たちが、同人誌を多く取り扱っている書店へ姿を現す。彼らが天井へ向けて銃を撃ったのを見て、人々は悲鳴を上げて逃げていった。

 シルクハットを象ったマスクに、黒いマントを纏ったクールな怪盗。彼らの狙いは、この書店で限定販売されている、レアな百合の本。目当てのコーナーを見つけ、百合レッドがニヤリと笑ったときだった。

 

「動くな! 国際警察だ!」

 

 赤、緑、ピンクの強化服を装着した三人の警察官が、書店へ踏み込んできた。怪盗へ銃口を向け、牽制している。

 百合レンジャーのマスクがシルクハットを象っているのに対し、BLレンジャーのマスクは警察官の制帽型だ。マントはない代わりに、両肩と上腕部にプロテクターを装備している。

 ちなみに怪盗側はレッド、ブルーの二名が男性で、女性はイエロー一名。警察側は一号(赤)、二号(緑)の男性二名と、三号(ピンク)の女性一名で構成されている。現代では多様な個性が認められており、性別に関係なく百合もBLも尊ばれているのだ。

 

 

「よう、お巡りさんたち。また会ったね」

 

 だが、百合レッドは怯まなかった。気楽な調子で片手を挙げ、ひらひらと振ってみせる。

 何てことはない。怪盗と警察、二つの戦隊は、今までに幾度となく衝突してきた。その度にまんまと怪盗に逃げられてしまい、警察チームのリーダー・ BL一号は「おのれ怪盗!」と悔しがっている。

 

「でも、分かんねえなあ。百合コレクションを盗んで、皆に幸せを届ける。俺たちがやっていることの、どこが悪いんだよ?」

「たとえどんなに立派な理由があろうとも、怪盗という手段を選んだ時点で、お前たちは間違っている。国際警察の権限において、実力を行使する!」

 

  BL一号が叫ぶと同時に、二号、三号も動いた。共通装備・強化銃VSチューナーを構え、怪盗たちに向けて発砲する。

 

  双方が激しく銃を撃ち合う中、 BL三号の放った弾丸が百合レッドのマスクへクリーンヒットした。

 

「くそっ。覚えてろ」

「逃げる気か、怪盗!」

 

 よろめき、後ずさるレッドを三号が追う。三号がレッドへ掴みかかり、近距離から銃撃を浴びせる。

 その攻撃が決定打となり、百合レッドのマスクに大きなひびが入った。割れたマスクから覗いた素顔を目にし、 BL三号の動きが一瞬止まる。

 

「あんた、まさか」

 銃を握る手も震えているようだった。

 

「どうした、お巡りさん。隙だらけだぜ!」

 

 百合レッドには、三号が動揺した理由が分からない。分からないが、ここで反撃のチャンスを逃す手はなかった。隙あり、とばかりに銃弾を放ち、今度は三号のマスクに亀裂を入れる。

 

 次の瞬間、二人はぽかんとしたまま見つめ合っていた。

 

 

「お前、高校の同級生だったツカサか?」

「あんた、もしかしてカイリ君?」

 

 忘れるはずもない。彼らは高校時代、百合と BL、どちらが優れているかで激しい喧嘩になった仲だ。卒業後はそれぞれ怪盗と警察のチームに入隊し、厳しい訓練に耐えた末、晴れて特殊強化服の装着員に選ばれたのだった。

 

「久しぶり、って言いたいところだけど、そうもいかないわよね。相変わらずあたしたちが推してるものは正反対で、戦う運命にあるんだから」

「ああ、そうだな」

 

 やれやれ、と百合レッド・カイリが首を振る。

 

「百合と BLは水と油。お互いを分かり合うことなんか、できやしないんだ」

 

  BL三号・ツカサと百合レッド・カイリが対峙し、相手の頭部へ銃口を向ける。両者ともにマスクを破損している以上、次に頭部へダメージを受けたら致命傷になりかねない。緊迫した空気が漂った。

 だが、引き金は引かれなかった。

 

 

「どうしたの? あんた、ビビってるわけ?」

「いや。ただ、思い出しただけさ」

 

 ツカサの挑発には乗らず、カイリが呟く。

 

「確かに俺、お前の大切なBLの本を投げ捨てちまったけどさ。お前にキレられて、さすがに悪いことしたなって反省したんだ。だから、次の日の朝、こっそりお前の机の中に戻しておいた」

 

 もちろん汚れを綺麗に取ってからな、と付け足す。

 

「分かってるさ。そんなことをしたくらいじゃ罪滅ぼしにならないし、お前が許してくれるはずもないって。でも」

「奇遇ね。あたしも思い出したわ」

 

 カイリを遮って、ツカサが言った。

 

「あんた、あたしの本にメモを挟んで返してくれたのよね。『ごめん。人の好きなものを否定する権利なんて、俺にはなかった』って」

「どうして今まで忘れていたんだろう?」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

 




今回、ご迷惑をおかけした作品
・ルパンレンジャーVSパトレンジャー
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