明らかに前回よりも強くなっている。
それが、ツカサとカイリの抱いた感想である。
(攻撃の威力もスピードも、前とまるで違う。こいつら、装備をパワーアップしやがったのか⁉︎)
レッドとブルーの二人を相手に銃を連射しつつ、カイリは冷や汗をかいていた。というのも、女王たちは鞭を高速で回転させ、弾をすべて防いでしまうからだ。
「ジャンプ一閃、赤い風! 唸って踊る、核の鞭ですわ〜!」
「スピード一番、青い星! ギラリギラギラ、電気鞭ですわ〜!」
言っていることは意味不明だが、彼女たちの実力は本物。このままではやられてしまうのも時間の問題だ。
百合エックスの銀色のメット内には、仲間との通信装置が仕込まれている。それを使い、カイリは百合ブルーとイエローに連絡を取った。
「こちらカイリ。ゴークイーンズと交戦中だが、かなり手強い。至急応援を求む」
「すまない、カイリ。俺たちの怪我はまだ完治していない。現場に駆けつけても、戦力にはなれないだろう」
ショタレンジャーとの戦いで負ったダメージは、まだ癒えていないようだ。ブルーの申し訳なさそうな声が聞こえる。
「でも、私たちにできることがあったら何でも言ってね!」
そこへ百合イエローの声が割り込んでくる。少し考えてから、カイリはこう応じた。
「……二人にはデータの分析を頼みたい」
「分析?」
「ああ。今からこいつらとの戦闘データを転送する。それを分析して、どこかにウィークポイントがないかどうか探ってほしいんだ」
散々鞭打たれ、百合エックスのアーマーにはところどころ亀裂が走っている。
「なかなかしぶといわね。でも、これで終わりですわ〜!」
レッドクイーンとブルークイーンがブレス型アイテムを操作すると、「イッツ・タイムフォーSMプレイ!」と電子音声が流れた。鞭が二色のオーラに包まれ、何やら必殺技らしきものが発動されようとしている。
絶体絶命のピンチに、仲間の声が応えた。
「待たせたな。分析終了だ」
「すごいことが分かっちゃった。ゴークイーンズの使っているスーツは、強大なパワーと引き換えに、装着者の肉体へ負荷をかけてウィークポイントを生じさせるの。つまり……」
「ありがとう。助かったぜ、ブルー、イエロー!」
攻略法を掴めばこっちのものだ。礼を言って通信を終了し、百合エックスは敵へ向き直った。かと思えば、回れ右をして逃げ出す。
「おやおや? 敵前逃亡とは、臆病ですわね」
「その臆病な怪盗一人捕まえられないんじゃあ、女王失格じゃないか?」
カイリが捨て台詞を吐き、相手を煽る。
「目の前の男一匹調教できないで、何がSMプレイの女王だ。立派なのは戦隊の名前だけか? どうなんだ、おい!」
「言わせておけば〜! もう我慢の限界ですわ〜!」
レッドクイーンとブルークイーンは地団駄を踏んだ。ちょうど近くを通りかかったタクシーを停め、乗り込むや否や、走り去っていくターゲットを指さす。
「あの怪盗を追いなさい。お金はいくらでも出しますわよ」
「それは構いませんけどね、お客さん、変身ヒーローをやってるのに専用マシンの一つも持ってないんですかい? タクシーで追跡だなんて、格好がつきませんなあ」
人の良さそうな運転手の親父は、奇妙な服装の二人組をちらちら見た。
「しょうがないでしょう。予算がなかったものですから」
女王たちは後部座席で肩をすくめた。
「それに私、ペーパードライバーですもの。運転には自信ありませんのよ」
「私なんか、運転免許すら持っていませんわ〜!」
「へえ。俺には撮影現場のことはよく分かりませんけどね、そういう難しいことは、スタントマンさんに任せるのも手じゃないですか。何から何まで、役者さん本人がやる必要はないでしょう」
どうやら、運転手は「これは何かの撮影だ」と勘違いしているようだ。自分の巻き込まれている状況を理解しないまま、彼は女王たちの命令に従った。
「着きましたぜ」
「ありがとう。お釣りは結構ですわ」
一万円札を置いて、レッドクイーンとブルークイーンはタクシーから降りた。
逃走の末、百合エックスは動物園の敷地内へ逃げ込んだらしい。タクシーはその駐車場に停まっていた。
「園内へは車の乗り入れができませんから、俺が送っていけるのはここまでです。それじゃ、撮影頑張ってくだせえ」
「撮影ではありませんわ〜! 本物ですわよ!」
ややムキになっているレッドをブルーが「まあまあ」となだめ、作戦を立て始める。
「園内は広いですし、手分けして探しましょう。私は西側のエリアから、レッドは東側からお願いします」
「了解ですわ!」
しかし、二人は気づいていなかった。動物園に誘い込まれた時点で、百合エックスの作戦にはまっていたことに。
「うっ」
レッドクイーンは立ちすくんだ。
彼女は動物に強い苦手意識を持っている。中でも、鳥類に対して。
東側のエリアに入ってすぐ、レッドを出迎えたのはフラミンゴだった。長い脚を持ったピンク色の鳥たちを眺めていると、頭がくらくらしてくる。
「ダ、ダメですわ。小さい頃、『フラミンゴはピンク色のものばかり食べるからピンク色になるんだよ』と両親に教えられてからというもの、どうしても苦手ですわ〜! あの鳥を見ると、いつも決まって、桃を食べすぎて自分の肌がピンク色になる悪夢を見てしまいますわ〜!」
だが、百合エックスを捕まえるためには我慢して進むしかない。他の来園者たちから「ママー、変な服を着たお姉さんがいる!」「しっ、見ちゃダメよ!」などと容赦のないセリフを浴びせられ、さらには色々な鳥類に出くわすたびに様々な理由で精神的ダメージを負って。
「ううっ、オウムも苦手ですわ。言われたことを意味を理解しないまま復唱するなんて、恐ろしいことだと思いませんこと? マインドコントロールされた人間を見ているかのようですわ!」
鳥に怯える理由は荒唐無稽だけれども、本人は至って真剣である。
さて、どうにかこうにか鳥類エリアの終わりまで辿り着いたとき、ニワトリの入ったケージが目に入った。
「これで最後ですわね」
何とはなしに中を覗き込んだ瞬間、レッドクイーンの体は硬直した。
「ニ、ニワトリ……。ニワトリだけはどうしてもダメですわ! いくらタマゴを産んでも人間に全部食べられてしまうなんて、悲劇的すぎて感情移入してしまいますわ! 心はタマゴ、小さなタマゴですわ〜! 明日まで温めなければいけませんわ〜!」
「罠にかかったな、レッドクイーン!」
木陰に隠れていた百合エックスが姿を現し、「勝負ありだ」とレッドクイーンの体を担ぎ上げる。硬直している彼女は抵抗できず、待たせてあったパトカーにそのまま押し込まれ、連行されてしまった。
「お前は高速で攻撃できるようになった一方で、苦手なものを見ると体がフリーズしてしまうという弱点を得ていたんだ。動物園へ誘導すれば、いずれ鳥類のエリアでダウンするだろうと考えたわけさ」
仲間たちがウィークポイントを分析してくれたおかげで、的確に対処できた。
次はブルークイーンを攻略すべく、百合エックスは移動を開始した。