百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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更新が遅くなってすみませんでした。作者が少し体調を崩してしまっていました。
無理せずに書いていきます。よろしくお願いします。


21 無貌、復活の兆し!?

 無貌支持派がすぐに攻め込んでくることはなかった。しかし、それよりも遥かに大きな脅威が、人間界に迫りつつあったのである。

 燃えるレスキュー魂を発揮して救助活動に励んだ翌日、心身ともに疲れ果てた裕介は、昼過ぎまで爆睡する予定だった。が、午前八時を少し過ぎた頃、携帯がやかましく鳴り出したためにやむなく目を覚ます。

 

「もしもし?」

 誰だよ、こんな朝っぱらから。寝ぼけまなこをこすりながら、裕介はぼうっとした頭でちょっとだけ腹を立てた。

 

『こんばんは。僕だよ、ピーター・バーガーだ』

「おう」

 

 アメリカと日本の時差は十四時間。向こうはまだ午後六時頃だろう。「こんばんは」と挨拶してきたことから察するに、ピーターには「朝早くに電話した」という意識はないらしい。

 

「こっちは今さっき起きたところだ。アメリカで何かあったのか?」

『そうか、日本はもう朝だったね。ごめん。でも、緊急事態なんだよ』

「緊急事態?」

『うん。……端的に言えば、無貌が復活する可能性が出てきた』

「え」

 

 思わず、裕介は携帯を取り落としそうになった。

 

 

「どういうことだよ、それは。無貌は俺たちが倒したはずだろ」

『うん、確かに彼は一度死んだ。ただ、問題なのは、万が一敗死した場合に備えて、バックアップ・プログラムを残していたことなんだ』

 

 一瞬、ピーターの声が遠くなり、聞き馴染みのある別の声に代わった。

 

『ここからは、あっしが説明しやす!』

 

 キンジも一緒にいるのか。アメリカのヒーロー二人が揃って連絡してきた以上、やはりただ事ではないらしい。

 

『無貌が前線に出てくる少し前、二体の泥人形が日本とアメリカに送られてきたのは覚えていやすか?』

「ああ。TSカイザーと、ヤンデッレ・キースだっけか。俺はニュース番組で姿を見ただけだが、百合・BLレンジャーとロリーニンジャーに倒されたんだとか」

『そのヤンデッレ・キースが、バックアップ・プログラムだったようで。いや、正確には、ヤンデレ坊ちゃんが使用したカードデッキが、と言うべきでございやしょうね』

「カードデッキって……最近流行ってる、性癖王とかいうやつか?」

 

 たまにテレビCMで見かけるので、裕介も一応認知はしている。キンジとキースが使ったカードを真似て一般人が類似品を作ったところ、大ヒット商品になったんだとか。今では日本にも性癖王のカードが輸入され、日本語版も広く出回っている。

 

 

『左様で。問題なのは、キースが使用した「封印されし無貌」と名のつくカードでございやさあ』

 

 手札に同種のカードが五枚揃うとゲームに勝利できる、特殊なカード。キースいわく「無貌様の加護を受けている」とのことだが、あの言葉は誇張でも何でもなかったのだろうか。

 

『超次元生命体が持ち込んだものでございやすから、キースが使ったカード――アメリカでは、人間が模倣して作ったものと区別するために「オリジナル」と呼ばれておりやす――は一度、米軍特殊作戦部隊にすべて押収されやした。それで、危険な成分が含まれていないか調べるうちに、五枚のカードには無貌の遺伝子情報のようなものが記録されているらしいと判明しやして』

「まずいんじゃねえのか。つまり、もしカードに隠された情報を読み解ける人間がいたら、人工的に無貌を作り出すことも不可能ではないわけだろ」

『それだけじゃありやせん。五枚が一箇所に揃ったとき、この遺伝子情報は一つのプログラムとして機能し、自動的に無貌の肉体を再構築するような仕掛けが施されていたんでございやす』

 

 

 一枚だけでも十分な脅威。五枚すべて揃えば、さらなる脅威というわけである。

 厄介なのは、このカード自体に「五枚が手札に揃えばゲームに勝利する」という効果が記載されていること。元々五枚一組のカードゆえ、プレイヤーはセットで揃えようとする。そして、全部揃えば悪夢が始まる。

 バックアップ・プログラムを発動させやすくするため、無貌は意図的にこのカード効果を設定したに違いない。

 

「アメリカにヤンデッレ・キースを送り込んだのは、本気でキンジを倒したかったわけじゃなく、バックアップを用意するためだったんだな」

『そういえば、ヤンデレ坊ちゃんがカードバトルではなく普通のバトルを挑んできたとき、無貌は坊ちゃんを止めて処刑しやした。もしかするとあれは、バックアップ用のカードが戦闘に巻き込まれるのを恐れた結果だったのかもしれやせんねえ』

 

 あのとき、無貌はキースの卑怯な戦い方を非難し、キンジのことは然るべきタイミングで完膚なきまでに叩き潰すと言った。敵ながら意外と正々堂々とした奴だと思ったものだが、裏では緻密な作戦を練っていたのだろうか。

 

 

「……なるほど。カードが一箇所に集まるとヤバいのは分かった。で、その肝心の五枚は今どこにあるんだ?」

 

 すっかり覚醒した頭で裕介が尋ねると、途端にキンジは「ええと」「いやあ」とどもり始めた。

 

『お恥ずかしい話でございやすが、現在、日本に集結しようとしていやす。はい』

「ヤバすぎるだろ⁉ キンジ、来部ボクサーに歌なんか搭載してる場合じゃないぞ⁉」

 

 

『これに関しては、完全にアメリカ側のミスだよ。申し訳ない』

 

 再び電話を代わったピーターが、声に無力感を滲ませる。

 

『押収したカードを調査して、危険だと分かった段階までは良かったんだ。けど、そのカードの持ち主たちは、ネットオークションで何万ドルもはたいて落札していてさ。ほら、オリジナルのカードは他に比べて高いし、特殊勝利効果を持ったレアカードなら尚更だから。……ともかく「持ち主が大金を使って購入したものを問答無用に取り上げるのは、さすがにまずいだろう」ということになったんだ』

「それで、持ち主に返しちゃったのか……?」

『一旦返却して、カードに危険性があることを伝えた。その上で米軍は「カード購入にかかった費用は我々が支払うから、そのカードをシュレッダーで処分してくれないか」と持ち主に頼んだんだ。要するに、全額返金する代わりにカードを手放してほしいってことだね』

 

 電話の向こう側で、ピーターがため息をついた気配があった。

 

 

『一度返してしまったのが、やっぱりまずかったんだろうな。その持ち主たちはいわゆる転売で生活していて、世界に一枚の「封印されし無貌」のカードを売りさばいて大儲けするつもりだったんだ。一生に一度あるか分からないようなビジネスチャンスを諦めろと言われて、諦めきれなかった。で、軍への返事を先延ばしにして、皆、その間にカードをネットオークションで売り払っちゃったのさ。もちろん、かなりの高額でね』

「話が見えてきたぞ」

 

 裕介は頷いた。

 

「元々、五枚のカードは何人かの転売ヤーが分けて所持していたから、集結して無貌が復活するようなことはなかった。だが、それをまとめて落札した酔狂なカードゲーマーが日本にいたばっかりに、世界のピンチ。大体、そんなところだろ」

『ご名答』

「褒められてもちっとも喜べるような状況じゃないのが、辛いな」

 

 苦笑し、裕介が一転して真剣な表情になる。

 

 

「とにかく、連絡してくれてありがとう。五枚のカードが日本のカードゲーマーの元に届くまで、あとどれくらいの猶予がある?」

『二時間だ』

「映画一本分くらいか。上等だぜ」

 

 タイムリミットは短いが、怯まずに応じる。裕介の脳裏には既に、信頼できる戦友の顔が浮かんでいた。

 

「まずは、仲間に連絡してみるよ。……俺はただの喫茶店の店員で、美明日も大学の非常勤講師。こういうときに多方面に顔が利くのは、やっぱり警察と怪盗だからな」

 

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