百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

111 / 394
31 底が浅いな

 蜘蛛ではなくクワガタムシの意匠を持ったアーマーとマントを纏い、各部にはリボンによる装飾。昆虫が右側から抱きついているようにも見える、左右非対称なデザインだ。

 新たなリボンズへ変身した無名は、ファイティングポーズを取った。

 

「なあ、一つ聞いてもいいか」

「何だ」

 

 だが、裕介はすぐに戦闘に突入するのではなく、彼に質問した。

 

「さっきから気になっていたんだが、お前の黒いのっぺらぼうみたいな姿は、無貌の真似をした結果か?」

「そうだ。俺は形から入るタイプだからな」

 

 オーバーリボンズが胸を張る。

 

 

「無名という名も、オリジナルに寄せた。外見的特徴と自分の名前を捨て、新しい姿へ生まれ変わったのだ。まあ、俺は元々自分の外見が好きじゃなかったから、ちょうど良い機会だったがな」

「記憶までは捨てていないのか?」

 

 裕介のこの問いには、「無貌は何らかの事情で過去を忘れていたのではないか」との推測があった。

 絆や愛を否定しながらも夫と子を成した彼女の言動は、矛盾している。もしも彼女が、矛盾を矛盾と気づかないまま、つまり子を成した事実を忘れていたとするなら、一応辻褄は合うのだ。

 

『超次元生命体は、与えられたイメージに応じて姿を変えられる。何にでもなれる。だが私は、何者にもならなかった。この姿は、かろうじて人型を保っているのみの虚無。何者にもならぬことで、すべてを手に入れたのだ。この体は常に、「何にでもなれる」という可能性に満たされている』

 

 無貌はかつてこう言っていた。ひょっとしたら彼女は、自らの意志で記憶も何もかも捨て、虚無と絶対的な力を手にしたのではないだろうか。

 

 

「捨てていないぞ? 第一、そんなことをしたら無貌様の仇討ちを果たせなくなるだろう。ちなみに、あのお方から授かった性癖のパワーもいまだ健在だ」

「そうかよ。底が浅いな、お前」

 

 裕介が吐き捨てる。

 

「お前は結局、無貌の見た目を模倣しているだけだ。しかも、あいつは記憶を捨てるくらいの覚悟があったのに、お前からは、何が何でも虚無に至ろうという気合も何も感じねえ。だから無貌亡き後にろくに原典の力を扱えず、仕方なくリボンズドライバーに頼ってるんじゃないのか」

「い、言わせておけば……!」

 

 オーバーリボンズの両手が、怒りにわなわなと震えている。しかし、すぐに言い返すことができないのは、図星だったからかもしれない。

 言葉で反撃するのではなく、無名は武力に訴えた。他のスタンプをもベルトに押印し、攻撃を仕掛けてくる。

 

 

『電気ウナギ! リボンミックス!』

 

 手のひらから電撃を放ち、オーバーリボンズは叫んだ。

 

「他人の力を借りて、何が悪い。現に、先日人間界へ渡ったというBLACON・SUNも、超ブラゴクウが残した巨大ロボのパワーを使ったそうではないか。奴も今の俺と同じく、本調子ではなかった。強さを得るために手段を選ばぬのは、戦いにおいて当然だ!」

「……確かに、あいつも本調子じゃなかったな。それを見抜いたからこそ、俺も『BANG・解』を使って全力で戦おうとはしなかった」

 

 対して、シルバーは珈琲サイブレードを召喚。「珈珈弾」を繰り出し、コーヒー豆状のエネルギー弾で電撃を相殺した。

 

「だがよ、あいつはただ、同族の置き土産を使っただけだ。お菊さんのベルトを勝手に奪ったお前とは違う。他人の力を無理やり奪ってまで強くなろうとする小悪党相手じゃ、出し惜しみをする理由はねえな!」

 

 

 地面を一蹴りして、裕介はオーバーリボンズへと距離を詰めた。なお、お菊もまたピーター・バーガーからリボンズドライバーを拝借していたことには触れないようだ。

 焦った無名が、次々にスタンプを使用する。

 

『オクトパス! リボンミックス!』

『トカゲ! リボンミックス!』

 

 背中から六本の機械アームを、さらに臀部からトカゲの尾の形をした武装を伸ばし、シルバーを絡めとろうとした。

 

「『琲琲刀』!」

 

 しかし、珈琲サイブレードから放たれた鋭い斬撃が、そのことごとくを切断する。怯んだように、無名は後ずさった。

 

 

「……な、ならば、これでどうだ!」

 

 クワガタムシのスタンプを押印し、必殺技を発動。「リボンズ・フィニッシュ!」の音声とともに、オーバーリボンズの背から昆虫の脚を模したアームが展開された。

 

「このアームの強度は、さっきの蛸のスタンプの機械アームの数倍。拘束されたが最後、お前は身動き一つ取ることはできない!」

「出し惜しみはしないと言ったはずだぜ」

 

 動じた気配もなく、オメガ珈琲シルバーは精神を集中させた。珈琲サイブレードの刀身が黒く染まり、現時点での裕介の最強の力が発現される。

 

「――『BANG・解』。『喫茶斬月』」

 

 オーバーリボンズの放ったアームを容易く斬り捨て、さらに接近。零距離で刀を無名の腹部へ当て、思い切り振り抜いた。

 

「『オメガ天衝』!」

「ぐわあああああっ⁉」

 

 黒い斬撃が飛び、オーバーリボンズの全身が大爆発に包まれる。それを見届けて変身解除した裕介は、「ふう」と額の汗を拭った。

 

「参ったな。ランニングどころじゃなくなっちまった」

 

 

 彼は知らなかった。無名がかつて無貌より授かった性癖の名が、「リョナ」だということを。

 リョナとは相手が苦痛に晒されるシチュエーション、あるいはそうしたシチュエーションに対する性的嗜好を指すインターネットスラングである。その性質を反映した無名の能力は「相手にダメージを与えれば与えるほど、自身の攻撃力が上昇する」というものだった。オーバーリボンズの高いスペックと合わせてこの能力を使い、敵を苦しめるつもりだった。

 残念ながら、オメガ珈琲シルバーと実力差がありすぎて全くダメージを与えることができず、能力を活かすことなく終わってしまったけれども。

 

「そういや、無名の性癖のパワーって結局何だったんだろうな」

 

 何も知らない早川裕介は、タオルで汗を拭きながら自宅へとジョギングしていった。

 

 

 戦え! オメガ珈琲シルバー! 頑張れ、早川裕介! 幼いムーヴォを狙う悪い奴らから、この世界を守ってくれ!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定