1 ベルト争奪戦!?
二人が裕介の部屋に上がり込むやいなや、喧嘩が始まった。
「何でリボンズドライバーも爆発に巻き込んじゃったのよ! 量産型じゃない、貴重なオリジナルのドライバーだったのに、よくも壊してくれたわね!」
怒りの形相で、お菊は彼の胸倉を掴んでいた。
前回、オメガ珈琲シルバーがオーバーリボンズを撃退した際、「オメガ天衝」の破壊エネルギーに巻き込まれてリボンズドライバーも粉砕されてしまった。そのことで彼女は頭に来ているらしい。レジスタンス組織を率いるお菊からすれば、戦力を大きく削がれるかたちになったからだ。
「で、でも、無名って奴は倒したわけだし。なあ?」
「倒したから何よ。私だってね、不意打ちさえ受けなければあの程度の敵に後れを取ることはなかったし、ドライバーを奪われることもなかったわよっ!」
「……その前に、お菊さん。君には、ドライバーを勝手に持って行ったことを謝ってもらおうか」
激昂する彼女を抑えるように、もう一人の来客ピーター・バーガーが渋い顔で口を挟む。
「あれは本来、僕のためにアイロンマンが設計してくれた装備だ。そもそも、君が所持していること自体がおかしいんだよ」
「拝借したのは悪かったと思ってるわ。けど、結果オーライだったとも思ってる。私が的確なタイミングでリボンズに変身したからこそ、三武神ネトルの手から来部美明日を救出することにも成功した。無貌に大ダメージを与えたのも、私がドライバー量産に着手したからこそ成し遂げられたことよ!」
「大ダメージを与えたって……あれは、無貌本人じゃなかっただろう?」
ピーターは呆れた様子だった。
「彼が影武者として用意していた、変身能力持ちの補佐官だったじゃないか。使える原典の数も、無貌より圧倒的に少なかったようだし」
「だ、だとしても、無貌に切り札を使わせたのはナイスプレイじゃないかしら」
「それはどうかな。ゴークイーンズの方が良い仕事をしたかもしれないよ」
「なっ……!」
言わせておけば、とお菊が憤慨する。怒りの矛先を裕介からピーターに変え、彼女はまくしたてた。
「SMの女王様たちと一緒にしないでほしいわね。大体、あの人たちは『無貌通行』とたまたま相性が良かっただけじゃない!」
「前から思っていたけど、君はリボンズの使い方がなってない。スタンプの力に頼ってばかりで、リボンズ本来が備える戦闘能力をフルに発揮できていない。もっとこう、手首からリボンを伸ばしてトリッキーな戦い方をだね」
「……盛り上がってるところ悪いけど、そろそろ本題に入ってもいいか?」
恐る恐る、裕介が挙手する。それを契機に、二人はやや不満そうながらも喧嘩を中断した。
「お菊さんは超次元界から、ピーターはニューヨークから、今日ここにわざわざ来てもらったのは、言い争いをするためじゃない。今後の方針について、大切な話をするためだ」
アメリカで開発されたリボンズドライバーが奪われた、「レジスタンスの惨劇」から数か月。ヒーローたちはお菊、ピーター、裕介の三つに分かれ、混沌を極めていた。互いの主張をぶつけることで多少は気が晴れたところで、裕介が話し合いを主導する。
「BLACON・SUNに続き無名も現れたことからも分かるように、いまだに無貌支持派は負けを認めていない。隙あらば人間界へ攻め込もうとしている。そうだろ、お菊さん?」
「残念ながらね」
彼女は悔しそうに唇を噛んだ。
「もちろん、私たちレジスタンスは彼らとの対話を試みているけど。なかなか上手くいかないのが現状よ。環境保護のために植林をしていても、『こんなものは必要ない。人間界へ再侵攻して植民地を獲得すれば良いのだ!』とか言って邪魔してくるわ」
お菊らレジスタンスの理想は、他の世界を侵略したりして迷惑をかけるのではなく、自分の世界の問題は自分たちで解決すること。これまでのような無貌のやり方を踏襲していては、新たな犠牲が生まれるだけである。だから、植民地への移住は論外だ。
しかし、無貌支持派は彼女の意志を継ぎ、人間界征服に固執しているようだ。高次元生命体が制圧した世界も含めれば既に十分な植民地を獲得しているというのに、無貌が攻撃した人間界へのこだわりを捨てるつもりはさらさらないらしい。本当に迷惑な奴らである。
「思えば、今までの俺たちは、超次元界について断片的な情報しか得ていなかった」
裕介たちは超次元界の事情をある程度知っているが、それは「原典無し」やお菊から話を聞いただけで、実際にあちらの世界を目で見たことは一度もなかった。
「このまま放っておけば、無貌支持派はさらに勢力を拡大するだろう。今、あっちの世界がどうなっているのかを把握しておけば、あいつらへの対処法も見えてくるんじゃねえか。俺はそんな気がしてる」
「危険だわ」
松本・オリジン・お菊は反対した。
「超次元界の住人は、皆大なり小なり原典や性癖のパワーを持ってる。いくらあなたたちが強いと言っても、命の保証はできないわよ。第一、ムーヴォちゃんはどうするのよ。あの子には罪はないから、支持派の手から守ろうって話だったじゃない。ヒーローが人間界を離れれば、防御が手薄になるのは必至よ」
「だからこそ、俺が行くしかねえんだ」と裕介。
「百合・BLレンジャーの先輩方は、ムーヴォちゃんの保護で忙しい。今、自由に動けるのは俺くらいだろ」
ピーターは「キンジも割と暇そうだけどな」と呟いていたが、聞こえなかったふりをした。彼は基本的に騒がしいキャラなので、超次元界で目立たずに行動するのにはあまり向かないだろう。裕介は悩んだ末にそう考え、今回の作戦のメンバーからは一旦外していた。
「幸い、向こうとの橋渡しができるお菊さんやレジスタンスの仲間たちもいる。俺と、俺を鍛えてくれたピーター師匠の最強タッグで突入してお菊さんの最強ガイドで進めば、苦戦はしても負けはしないだろうってな。……というわけで、協力してくれないか?」
「悪い話じゃなさそうね」
満更でもなさそうに、お菊が腕組みをする。
「超次元界へ行くことで、あなたたちは無貌支持派への対抗策のヒントが得られる。あなたたちを連れて行くことで、私たちレジスタンスは事実上の戦力増強を行い、支持派への対処が容易になる。お互いにとって得だわ」
「確かにそうだ」
ピーターも頷いた。
「分かった、僕も作戦に参加しよう。――その代わりにというわけではないけど、参加するにあたっては装備を整えておきたいし、レジスタンスが持っているリボンズドライバーを一つ分けてもらえないかな? この際、量産型でもいいよ」
「あなたもしつこいわね」
どれだけドライバーが好きなの、とお菊はげんなりしている。二人のやり取りを眺めつつ、裕介は「いや、お前が言うなよ」と思った。
「そんなに欲しいなら、アイロンマンさんに新しいドライバーを作ってもらえば?」
「無茶言わないでくれ。あのドライバーには産出量が限られるレアメタルが使用されていて、人間界の技術ではこれ以上作るのは不可能なんだ。模造品だと分かっていても、超次元界で作られたものを使わざるを得ない」
「わ、分かった。あげるわよ、一個くらい……」
とうとうお菊が折れ、ピーターがガッツポーズをする。長く続いた二人の対立も、一応はこれで片が付いたようだ。「レジスタンスと向こうで合流でき次第、余っているドライバー一つを贈る」ということで話がまとまった。
何はともあれ、利害の一致により、超次元界突入作戦はいよいよ現実味を帯びつつある。