「地球平面説。天動説。あなたたちの世界の言葉では、この世界の在り方はそう表現されるんでしょうね」
驚愕している一同に、お菊は言った。
「最初に超次元界の在り方を決めた、神にも等しい力を持つ超次元生命体が、そういう風に世界を形作ってしまった。だから、こんな歪な姿なのよ」
「おかしいわ。科学的にあり得ない」
研究者としての矜持ゆえか、美明日が首を振る。
「半球の形をした星が宇宙の中心にあって、その周りを他の星々が回っている? そんなの、どう考えても非科学的だわ」
「あなたたちからすれば科学的にあり得ないかもしれないけど、私たちの世界では、イメージの力があらゆる物理法則をねじ曲げてしまう。ここでは、これが現実なのよ」
奇妙な世界だった。まるで丸テーブルか何かのように平らな世界は、上空から一望できてしまう。宇宙から見下ろしても、球体である地球の裏側までは覗けないのに。
平面部の端からは時折、水が奈落へと落ちていく。どこまでもどこまでも、落ちていく。普通ではあり得ない、異様な光景だ。
「あそこが王宮よ」
地上へ辿り着くまでにはしばらくかかりそうだったので、お菊のレクチャーは続いた。彼女は次に、平面の中央部を指差した。
「かつて上流階級の貴族たちが住んでいた、神殿のような建造物群。もっとも、無貌が貴族たちを皆殺しにして支配者の座についてからは、ほとんど彼女一人だけで使っていたけどね。三武神や補佐官が、たまに謁見しに来るくらいだったかしら」
「えっ? 無貌って、そんなクーデターまがいのことをやってたのか……?」
「ムーヴォちゃんが彼女と同じ道を辿らないようにするため、あたしたちの責任は超重大ってことね。一体、何が無貌をそこまで駆り立てたのかしら……」
青い顔を見合わせ、育児の方針について話すカイリとツカサだった。一方、裕介は「よく見えねえな」とぼやく。
「雲がかかってるからか、神殿のようなものは全然見えないぜ」
「あれ、雲じゃないわよ? 光化学スモッグ」
「……マジで? あんなに分厚いのが?」
環境汚染が深刻化しているというのは、本当だったようだ。灰色の煙のようなものが王宮上空を覆っているため、建物の影が薄ぼんやりと見える程度でしかない。
「でも、無貌も倒された今となっては、誰も王宮には住んでないんだよな。あのスモッグの中でわざわざ暮らそうって奴がいるとも思えねえけどさ」
「それが、いるのよ。一部の無貌支持派とかね」
お菊がため息をつく。
「連中については後で詳しく説明するとして、取り急ぎ、王宮以外の場所にも触れておくわね。王宮の周囲にあるのが、貴族専用居住区。主に中流階級の貴族が住んでいて、平民は許可を得ずに立ち入ることができないの。……まあ、ここも無貌が攻撃を仕掛けたときに壊滅的な打撃を受けているし、スモッグの影響も強いから、あえて住もうって人はほとんど見ないけれどね」
「じゃあ、皆は一体どこで暮らしているんだよ」
「貴族専用居住区のさらに外側、平民居住区よ。大部分の超次元生命体は、ここで生活しているわ。中央の都市部で発生した有害物質も外縁部まではあまり流れてこないから、一般的に、端へ行くほど住みやすくなってるわね」
なるほど、確かに光化学スモッグの雲も、外側へ向かうにつれて薄くなっている。山や川、森といった自然も、中心部から外れるほど多いようだ。
「貴族だとか平民だとか、随分と封建的な社会なんだね」
ぽつりと、ピーターも感想を述べた。
「ええ。幸か不幸か、無貌が支配層の貴族を殺しまくった影響で、身分制度そのものが意味をなくしつつあるのが現状だけどね」
ざっくりと世界の在り方について教えてもらったところで、大地が近づいてきた。お菊に連れられた一行は、風に流されるまま、超次元界のかなり端の方へ降下したらしかった。つまり、着いた先は平民居住区である。
「こう言っちゃ何だが、辺境の地っぽいな。超次元界の様子を探るって意味では、ここに降りて正解だったのかどうか」
草木の生い茂る山中に降り立ち、裕介が辺りを見回す。
「いえ、むしろラッキーだわ。いきなり光化学スモッグの雲に突っ込むのは自殺行為よ。まずは自然豊かな平民居住区で超次元界に体を慣らして、それから向かったのでも遅くはないと思う」
こんな状況でも、美明日は冷静に分析していた。眼鏡を指でくいと押し上げ、耳を澄ませる。
「……変ね。虫や動物の鳴き声が、全く聞こえない。あえてその姿に変身することを選ぶ超次元生命体は、いないってことかしら。一見すると自然が豊かなように見えるけれど、ここ、相当おかしいわよ」
「要するに、俺たちの世界の常識はほとんど通用しないってことか」
やがて全員が着地に成功すると、お菊が皆を集めて言った。
「このエリアには、対立する二つの超次元生命体のグループが暮らしているわ。くれぐれも彼らに気づかれないように、警戒されないように行動してね」
彼女の先導に従い、森の中を歩く一同。
五分も進まないうちに、お菊は足を止めて「見て」と囁いた。皆もそれに倣い、茂みの中に身を隠して目を凝らす。
高校生くらいだろうと思われる女の子たちが、森の中にテントを設営し、焚き火をしてキャンプを楽しんでいた。どの子も皆笑顔が素敵で、ゆるふわな雰囲気を纏っている。
「彼女たちは『ゆりキャン△』族。自然の中でのんびりまったりキャンプを楽しむ、非好戦的な超次元生命体よ」
今回、ご迷惑をおかけした作品
・ゆるキャン△