三日ほど歩いたところで、森の中に突然、大きな建物が見えてきた。建物の外壁は青く、五角形のかたちをしているようだった。
「お菊さん、あれは何だ?」
「ひょっとして、レジスタンスの拠点? 私たち、あそこで休憩できたりするのかしら」
期待に胸を膨らませて、裕介と美明日が尋ねた。
「残念だけど、答えはノーよ。あれは『ブループリズン』、別名『青い牢獄』と呼ばれていて、中では超次元界最強のサッカー選手を育成するための過酷な練習が行われているわ」
歩みを止めず、お菊は首を振る。そして、ブループリズンとは逆方向を指差した。
「拠点はあっち」
「えっ」
何というか、普通の野営地だった。それ以上でもそれ以下でもない。屈強な男たちが焚き火を囲み、肉を焼いて食べたり談笑したりしている。やっていること自体は、さっき出会った「ゆりキャン△」族の女子高生たちと同じだ。とてもほのぼのした雰囲気である。
立派な建物を見た直後だったので少々がっかり感はあったけれど、ともかく一同はここで休ませてもらうことになった。
「ただいま、皆。こちらが百合・BLレンジャーとその他諸々の皆さんよ」
お菊がレジスタンスの戦士に裕介たちを紹介すると、「無貌をやっつけた方々か!」と歓喜の声が上がった。なお、ツカサとカイリはその無貌の娘を人間界で育てているわけだが、黙っておいた。「実は……」などと切り出そうものなら、大騒ぎになりかねない。
「その他諸々とは、ずいぶん雑な説明だね」
「あら、そんな風に突っかかってもいいの? せっかく私が、量産型のリボンズドライバーを一つ分けてあげようって決めていたのに」
「うっ。ぜ、前言撤回だ」
歓迎ムードの裏では、ピーターがお菊に文句を言っていた。が、すぐに主導権を握られて平謝りである。
「……いい子ね。ほら、約束のものよ」
ピーターが態度を改めたのに溜飲を下げたのか、彼女は胸元からドライバーを取り出した。どこから出してるんだ、とツッコみを入れたくなるのは相変わらずのようだった。
「ありがとう、と言っておくべきなのかな」
やや皮肉るような台詞を、ニューヨーク出身の青年は漏らす。
「本来なら僕は、量産型ではなくオリジナルのベルトを使うはずだった。それなのに、オリジナルを無断で使われ、量産型を代わりに貰って喜ぶなんて、傍から見れば滑稽かもしれないね」
「言っておくけど、オリジナルのドライバーを私が持ち出したのは、あなたのためでもあるのよ」
むっとしたように、お菊が言い返した。
「あの装備は、変身者への負担が大きかった。超次元生命体ならともかく、人間が使いこなすのは難しい。もしあなたがリボンズドライバーで戦い続けていたら、今頃あなたの肉体は八十歳のおじいちゃんと同レベルまで弱っていたわよ」
その量産型はね、と彼女は続ける。
「性能こそオリジナルに劣るけど、変身者の負担を軽減した新しいモデルなの。量産型を使うことが、あなた自身のためでもあるのよ」
「……なるほど。君には君の考えがあるらしい」
何かを決意した面持ちで、ピーターはお菊をじっと見た。
「分かった。約束通りドライバーを受け取ったことだし、この件はこれで終わりにしよう。今後、もし僕がこの件を蒸し返すようなことがあれば、僕を殴っても構わない」
「言うじゃないの。あなた、意外と男気あるのね」
原典無しほどじゃないけど、と付け加えたお菊に、ピーターが肩をすくめる。
「悪いけれど、僕はその人に直接会ったことがないからノーコメントで。……ああ。歩きどおしで、さすがに疲れた。風呂に入りたい気分だな。この三日間、軽く水浴びするくらいしか体を洗う機会がなかったからね」
「お風呂? ないわよ、そんなもの」とお菊に言われたので、一同は仕方なく、野営地近くの川で体と服を洗うことになった。先に女性陣、彼女らが終わったら続いて男性陣と、順番に水浴びをする。
こういうとき、男どもが乙女の裸体を覗こうと頑張るのがベタな展開である。しかし、この面子は少々特殊で、カイリはツカサと既に交際しているし、裕介も美明日と付き合っている。別に、交際相手の裸体をわざわざ覗きに行く必要性がないのだった。
というわけで、男性陣はキャンプ地で大人しく待っていた――たまに、会話が漏れ聞こえてくるけれども。
「わあっ。お菊さん、やっぱりおっぱい大きいんですね!」
この声はおそらくツカサだろう。羨ましい気持ちを隠し切れていないのがひしひしと伝わってくるから、間違いない。さすがはA……じゃなくてBカップだ。
「いい体してるじゃない。でも、私の方がおっぱい大きいわ。私の方が……おっぱい大きいわ! 何か気に入らないのよね!」
「び、美明日ちゃん⁉ 急にどうしたのよ!」
何かとお菊に対抗心を燃やしがちな美明日が、また暴走したらしい。男たちは知らなかったが、彼女はこのとき、川の中をずんずん進み、松本・オリジン・お菊と全裸でかつ近距離で対峙したのだった。
「何よ、ちょっとくらい乳があるからって。こんなもの……」
来部美明日は、お菊が裕介を誘惑していると考えている節がある。冷静になれば「お菊には原典無しという恋人がいたのだから、そう簡単に乗り換えるはずがない」と分かるはずだが、美明日はその辺りの事情に疎い。
「こんなものっ!」
眼鏡の奥の目をくわっと見開き、彼女は美明日へ詰め寄った。そして右手を伸ばし、宿敵(?)の胸をもにゅっと揉んだ。だが、その表情は次第に暗くなっていき、最後には絶望の色に染まった。
「ま、まさか……これほどだなんて……」
「自分で揉みに行って自分で絶望してる⁉」
がくりと膝をついてしまった理系女子を、ツカサが「大丈夫、美明日ちゃん?」と助け起こす。そんな二人を見て、お菊は呆れているようだった。
「胸は揉まれると大きくなるっていう俗説が、人間界にはあるらしいわね。今、美明日ちゃんがしたことは、私の胸囲の戦闘力をさらに上げただけよ。もっとも、私の容姿は原典の影響を受けているから、それだけが原因なわけではないけど」
「さすがはお菊さん。あたしたちとは格が違うわ」
「謎に尊敬の眼差しを向けないで、ツカサちゃん」
レジスタンスたちのバーベキューに混ぜてもらって楽しみながら、カイリたち三人の待機組は「飯に集中できねえ」とずっと思っていたとか、いないとか。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・ブルーロック
・仮面ライダーW