何だかんだで女性陣の水浴びも終わった。戻ってきた美明日がなぜかひどく落ち込んでいたので、裕介は黙って肩を叩いた。落ち込む必要はない、お前はお前のままでいい、と言いたげだった。
男性陣が体を洗いに向かった辺りで、女たちもひそひそ話を始める。
「ねえ。よく、アニメとかで『温泉回』ってあるじゃない?」
切り出したのはツカサだった。
「あるある。可愛い女の子たちがキャッキャウフフしてて、それを馬鹿な男子が覗こうとしたらバレて、ひどい目に遭うのよね」
美明日がうんうんと頷いた。この人、勉強好きなイメージが強かったけれど意外とサブカルにも詳しいのかも、とツカサは思う。
「あたしさ、逆パターンがあってもいいと思うの。つまり、あたしたちが男たちの風呂を、水浴びを覗くのよ!」
「それじゃまるで、私たちが変態みたいじゃない」
「いいのよ。むしろ、褒め言葉だわ!」
お菊の制止も聞かず、ツカサが川辺の茂みへとこっそり近づこうとしたときだった。
「――君たちを待っていたのだよ、百合・BLレンジャー!」
茶色い服の上下を着た、怪しい男が野営地に現れた。
「何だ、お前は」
たちまち十数名の戦士に取り囲まれても、男は平然としていた。
「私はユリエル人(ゆりえるびと)。無貌支持派のリーダーから直々の命令を受け、ここに来た。邪魔なレジスタンスたちと、それを支える百合・BLレンジャーを始末するためにな!」
「どうしたんだよ、騒がしいな」
異変に気づいた男性陣が、水浴びを早々に切り上げて駆けつけた。ある意味、ツカサに覗かれなくてラッキーだったかもしれない。
「……ゴホン。私はユリエル人。無貌支持派のリーダーから直々の命令を受け、ここに来た。邪魔なレジスタンスたちと、それを支える百合・BLレンジャーを始末するためにな!」
カイリたちに向け、男はご丁寧にもう一度名乗ってくれた。シュールな絵面だったが、誰もツッコみを入れない。
ユリエル人はツカサとカイリを睨み、続けた。
「君たちは、この世界の守護神になるつもりかね。おこがましいとは思わないか? 無貌様を倒し、君たちの考える平和というやつを勝手に押しつけないでもらいたい。君たちは招かれざる客なのだ!」
やはり、主張の内容がBLACON・SUNや無名のときと似通っている。裕介発案の超次元界の視察を終えない限り、無貌支持派へ抜本的な対策を取ることは難しそうだ。
「見せてやろう、ユリエル人の力を。ユリエル人の怒りの炎を!」
そう言うやいなや、男は両手を掲げて咆哮を上げた。すると大地が割れ、亀裂から溢れる光とともに、男の肉体が巨大化していく。
白と黒の、ごつごつした質感の皮膚が全身を覆う。左胸には橙色の、楕円形の発行体が備わっている。泣いている悪魔を思わせる顔の巨大戦士は、ツカサたちを見下ろした。
偶然か必然か、百合ブラックとBLホワイトの二人をイメージしたかのようなカラーリングである。
「どうだ。これがユリエル人の戦闘形態、『ユリエロイド』だ」
「チッ、でかくなりやがったか。こうなったら、俺たちもロボを呼ぶしかないぜ!」
百合カイザーを呼ぼうとしたカイリだったが、ユリエロイドはそれを認めて「無駄なことだ」と笑った。
「人間界に元々存在する物質を、超次元界へ持ち込むことは不可能だ。つまり、お前たちはこの世界へ巨大ロボを呼ぶことができない!」
「ふざけんじゃねえぞ。BLACON・SUNは、『兄妹攻神』を人間界に召喚していた。あいつにできて、俺たちにできないってことはないだろ。さあ来い、来部ボクサー!」
負けじと二人乗りロボを呼ぼうとした裕介。しかし、何の反応もない。いつまで経っても、百合カイザーや来部ボクサーは到着しなかった。
「どうやらお前たちは、何も知らないようだな。人間界と超次元界を繋ぐゲートは、最大でも縦二メートル、横一・五メートルほどの幅しかない。それ以上のサイズのものは、我々超次元生命体の科学をもってしても作れないのだ」
またしてもご丁寧に、ユリエロイドは解説してくれた。
「兄妹攻神は超次元界の物質で造られたゆえ、イメージの力を集中すれば、各パーツを一瞬だけ別の物質へ変換することができた。自身を細かに分解することで、狭いゲートをくぐって人間界へ移動できたのだ」
お菊が作った「どこにでも行けるドア」のサイズは、ユリエロイドの説明と合致している。彼は嘘を言っているわけではないようだった。
「だが、人間界の物質で造られたお前たちのロボに、そんな芸当は不可能。今のお前たちには、巨大化した我へ対抗する術がない!」
百合カイザーは三機の戦闘機が合体することで誕生する。たとえ戦闘機に分離した状態でも、小さなゲートをくぐるのは無理だろう。ユリエル人が戦闘形態になっただけで大ピンチに陥ってしまい、戦士たちは動揺していた。
「……フ、フン! いきなり巨大化するだなんて、あんたバカァ? ヒーローと敵が戦うときはね、先に大きくなった方が大体負けるのよ。異能バトルもののマンガでも、先に自分の能力をすべて見せて、手の内を明かしてしまったキャラは大抵負けるわ。そういう、後出しじゃんけん上等みたいなセオリーが存在するの!」
「それはお互いに巨大化できる、もしくは巨大ロボを操れる者同士が戦った場合の話だろう。今のお前たちにロボを呼ぶことはできないし、戦闘形態になった我に対抗できるほどの異能や技も持ち合わせてはいないはずだ。というか、いくら原典の影響を受けているとはいえ、創作物と現実を混同されても困るよ」
ツンデレっぽく反論したツカサを、ユリエロイドは完全に論破してしまった。
言い負かされた相棒が落ち込んでいるのを横目に、カイリは「何とか話を長引かせて、時間を稼いでみるか」と決めた。現状、有効な策はないのだから。
「おい、ユリエロイドとか言ったな。その名前から察するに、百合とBLを合体させたようなパワーを持ってやがるのか?」
「ご明察。無貌様が倒されたことで原典のパワーはいくらか落ちたが、我は二つの性癖を司ることで弱体化した分を補っているのだ」
はたして、悪魔はちゃんと反応してくれた。これがもしBLACON・SUNなら、話を聞かずに「許さん!」と攻撃してきただろう。
「二種類使えるからって、それがどうした。俺とツカサたちで倒した次元四天王には、三種類使える奴もいたぜ」
「百合、BL、ノーマル性癖を司るセイヘキ・ザ・ワールドのことか? 奴の能力は相手の精神状態に依存する。他人に依存して生きるのは、弱者の証。我の力は、倒すべき敵によって左右されたりはしない!」
そして白と黒の悪魔は、二人に向かって挑発するように手招きをした。
「大方、話を引き伸ばして時間を稼ごうという魂胆なのだろうが、そうはいかない。さあ、そろそろ戦いを始めようじゃないか」
今回、ご迷惑をおかけした作品
・ウルトラマンティガ