百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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9 ネトルを倒す方法!

「お前は⁉」

 

 驚きのあまり、ユリエロイドは火炎を放とうとした手を一瞬止めてしまった。その隙を逃さず、ネトルが畳み掛ける。

 

『ネトル・ダークネスフィニッシュ!』

 

 ベルトから取り外したブレードを振るい、青緑色の斬撃を飛ばす。ピンポイントで悪魔の双眸を狙った一撃が決まり、ユリエロイドは両目を押さえて呻いた。

 

「め、目潰しとは卑怯な!」

「正々堂々。私の苦手な言葉だわ」

 

 

 一度消滅しかけたとはいえ三武神の名は伊達ではなく、ネトルの猛攻は止まらない。続いて「寝取り」性癖由来の、精神干渉の能力を発動した。影のようなオーラを放ち、ユリエロイドの心を乗っ取ろうと試みる。

 

「図体がでかいからって調子に乗らないで。あなたみたいな脳筋ほど、こういう絡め手に弱いんだからね!」

「……クソッ。我の中に入ってくるな!」

 

 忌々し気に首を振り、悪魔は「タイプチェンジ」と呟いた。背中から大きな一対の翼が生え、それを羽ばたかせて天高く舞い上がる。

 

 

「これは我の推測だが、お前の能力には射程距離が存在するのではないか? もしも、距離の制限もなしに好きな相手の精神を乗っ取れるなら、あまりにも強力すぎるからな」

 

 風を巻き起こして上昇しながら、悪魔は淡々と自説を語る。カイリに「神秘性がなくなるだろ!」と説教されたのはあまり効いていないようだ。

 

「つまり、一定以上の距離さえ取れば、我の心は支配されない。三種類の姿にチェンジできる我の原典のパワーを使えば、空を飛んで距離を取ることも容易いというわけだ」

「その代わり、あなたの攻撃が私に当たる確率も限りなく低くなるけどね。……これ、引き分けってことでいいの?」

「ああ」

 

 距離が遠くなった分、悪魔は声を張り上げた。

 

 

「元三武神ネトル。お前がなぜ生きているのか、なぜ我に刃向かうのかは知らない。だが、我と対立するということはすなわち、無貌支持派へ牙を剥くということだ。次こそは決着をつけ、裏切り者を血祭りにあげてやる!」

「やってみなさい」

 

 できるものならね、と呟き、ネトルは変身解除して黒髪を書き上げた。

 彼女は、美明日の外見を服以外そっくりそのままコピーしていた。超次元生命体だからこそなせる業だろう。

 ユリエロイドが遥か彼方へ飛び去るのを見届け、ネトルの視線がようやく上空から地上へと戻る。不安げに揺れるもう一つの視線が、それとぶつかる。

 

 

「あなたは私が倒したはずよ」

「でも生きているんだから、倒せてなかったんじゃないの?」

「……ッ!」

 

 唇を噛み、美明日はネトルへ詰め寄った。胸倉を掴み、整った顔を怒りに歪ませる。

 

「あなたは私の人生の一部を奪った、倒すべき敵。絶対に許してはならない存在。今度こそ、地獄に送ってあげる。――変身しなさい。私と戦うのよ、ネトル!」

 

 

「落ち着け、美明日」

 

 二人の間に割って入るようにして、裕介は美明日をネトルから無理やり引き剥がした。

 

「離して。早川くんだって、この女のことを忘れたわけじゃないでしょう?」

 

 涙目で、恋人はきっと睨んでくる。

 

「ネトルは私の心を支配して、自分より頭の悪い人間すべてを見下すような、最低な人格の女性として振る舞った。支配から解放された後、大学内での人間関係を修復するのがどれだけ大変だったか、早川くんに想像できる? この女は私から、人生の大切な時間を奪ったのよ!」

「そりゃそうだけど、問答無用で倒すのはなんか違うだろ。こいつには、色々聞きたいこともあるしさ」

 

 

 ちなみに、ネトルとの面識がないツカサ、カイリ、ピーターの三人はその間、揃って「何が起こっているんだ……?」という顔をしていた。頭上に疑問符が浮かんでいる。美明日との因縁も何となくしか噂で聞いた程度でしかなかったので、話についていけない。

 

「答えろ、ネトル。何でお前が生きてて、美明日の体内から出てきたんだ」

 

 裕介はまだ変身を解いていない。珈琲サイブレードの切っ先を、ネトルへ突きつけている。

 

「あなたたち三人の必殺技を受けた爆発の瞬間、私は自分の魂の欠片を美明日の中へ飛ばしていた。そうして長い眠りにつき、ダメージを回復していたというわけよ」

 

 薄ら笑いを浮かべ、女は明かした。

 

 

「さっきあなたたちを助けたのは、ああしなければ私の命も危なかったからよ。このまま宿主である美明日が死ねば、私も死ぬ。傷もほぼ完治していたし、シャバの空気を吸いに行くのは今しかないと思ってね」

「しぶとい奴だな」

 

 助けてくれた礼は言わないぜ、と前置きして、裕介はさらに聞いた。

 

「厄介な能力だぜ。美明日が生きている限り、お前は実質的に不死身ってわけか?」

「一撃で私の魂すべてを消し飛ばせば、殺せるわよ? もっとも、それほどの威力の攻撃を放てるのは、超次元界最強の無貌くらいでしょうけど」 

 

 無貌が倒された今、私を本当の意味で殺せる者はいない。ネトルはそう言いたげだった。どうやら、美明日の体内に潜んでいる間も、彼女を通じて外界の情勢を知っていたらしい。元々は諜報員的なポジションだっただけあって、情報通である。

 

 

「そうそう、私を殺す方法がもう一つあるわ。私にダメージを与えて、私の魂が美明日の中へ入り込んだところで、美明日ごと殺せばいい」

「ンなこと、できるわけねえだろ」

 

 裕介が声を荒げる。

 

「最初に戦ったときといい、どうもお前は、俺の惚れてる女を人質に取るのが好きらしいな」

「あなたには女運がない、という解釈でいいのかしら?」

「てめえ……」

 

 思わず手が出そうになるのを、彼は必死で堪えた。抑えろ、俺。こいつを攻撃しても、また美明日の体内へ逃げ込むだけだ。何の解決にもなりはしない。

 

 

「――ありがとう、早川くん。けど、もう大丈夫」

 

 恋人の肩にそっと手を置き、美明日が一歩前に出た。いつの間にかドライバーを再装着している。

 

「こいつだけは、私の手で倒すわ。何度復活しようとも、何度私の中に入ってこようとも、必要なら自傷してでも倒す。それでこいつにダメージを与えられるのなら、本望よ」

「よせよ。力づくで自分もろとも倒すなんて、科学者のお前らしくねえぞ。死ぬ気かよ、美明日!」

「……じゃあ、他にどうしろって言うのよ!」

 

 制止した裕介の前で、彼女はついに耐え切れなくなり、嗚咽を漏らした。

 

「私がネトルと共に自滅すれば、誰も巻き込まなくて済む。ネトルと一体化した状態の私を他の誰かに斬らせるよりは、遥かにましよ。私はただ、早川くんや他の皆の手に、私を殺した感触を残したくないだけなの」

「美明日を犠牲にして倒すだなんて、絶対に間違ってる。他に方法があるはずだ」

 

 根気強く、裕介は説得を続ける。が、恋人たちの悲壮な空気を乱した者がいた。

 

 

「いや、他に方法はないよ」

 

 それまで沈黙を守っていたピーターが、口を開いた。

 




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