百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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10 爆誕!ネトルティ来部!

「美明日ごとネトルを倒すしかないって言いたいのかよ、師匠は」

「別に、彼女を犠牲にするとは一言も言っていないけど」

 

 修行の末、ツカサとカイリに推し推し砲を、裕介に「BANG・解」を会得させたピーターは、美明日をも導こうとしているのだろうか。

 

「僕はただ、来部さんもろとも倒す以外の方法がないのなら、無理にネトルを倒す必要はないんじゃないかと思っただけだ」

「冗談じゃないわ。この女を生かしておくだなんて……」

「代替案を示せない批判には意味がない」

「えっ?」

 

 反論しようとした美明日だったが、ピーターが唐突に口にした言葉に、怪訝そうな表情になった。

 

 

「僕は日本のヒーローマニアだからね。今の台詞は、百合・BLレンジャーと心を通わせる以前のBLファイヤーが、カイリに自身の戦い方を批判されたときに返したものだ。こういうかっこよさげな台詞は、きちんと記録に取っているんだ」

 

 ニューヨーク在住の彼が、なぜそんな細かいことまで記録できたのかは不明だ。

 

「君は今、『ネトルを倒さない』という案を批判した。でも、『倒さない』以外で有効な案を提示できていない。倒すには来部さんを犠牲にするしかなくて、それが実質的に不可能なんだから当然といえば当然だけど」

「なるほど。たとえば与党が『消費税を上げます』って言って、それを批判した野党が『消費税を増やすなんてとんでもない。むしろ、ゼロにします!』と公約しても、そんなことをしたら財政破綻しかねなくて現実的じゃないから却下ってことだな。他に有効な案があるわけでもないのに、むやみに批判しても何も変わらないって意味か。よく分かったぜ!」

「むしろ分かりづらくなったわよ⁉ 何なのよ、その妙に生々しい例は!」

 

 

 いつものコンビがボケツッコミを始めてしまったので、ピーターは咳払いをした。

 

「……とにかく、だ。ネトルを完全に消滅させ、かつ僕たちの仲間に被害が及ばないような方法がないのが現状なわけだね。この状況で、やみくもにネトルへ戦いを挑んでも意味がない。君だって科学者の端くれなんだ。それくらい、本当は分かっているんじゃないのか」

 

 最後の台詞は、美明日に向けたものらしい。白いセーターを着た彼女は、目尻を拭い、小さく頷いて「ええ」と言った。

 

「けど、どうしてもネトルを許すことができなくて」

「来部さん、君は選ばなければならない。ここに来る途中で見た『ゆりキャン△』族と『東京ビーエル』族のように、ずっとネトルと敵対して、互いを憎みながら生きていくのか。それとも、ネトルを自分の一部として受け入れ、共に生きていくのか」

 

 その場に居合わせたわけではないけれど、ピーターはすべてを見透かしているかのようだった。

 

 

 

『幼い頃から、私は勉強や研究が大好きだった。新しいことを学ぶのが、純粋に楽しくて仕方なかったの。でも、勉強熱心でない人や成績が良くない人を見ると、ほんの僅かに優越感を覚える自分がいたのも本当よ。自分が好きで勉強してたはずなのに、変な話よね』

 

『ネトル。あなたは私の体を使い、他の人たちのことを馬鹿呼ばわりしていたわね。でも、たぶんその人格も本当の私の一部だったの。私自身が憎み、恐れている、内なる自分。その弱さゆえに、あなたにつけ込まれてしまったのかもしれない』

 

『私は、私自身の弱さと戦い続ける。そのために、今ここであなたを倒す!』

 

 これらはすべて、ネトルとの分離に成功した直後、美明日がネトルへ言い放った台詞だ。

 宿敵を倒したことで成長した彼女は、強化形態・ホーリー来部への変身をも可能になった。しかし、美明日の進化は本当にそこで終わりなのだろうか。

 

 

『今回、私がネトルにつけ込まれてしまったのは自分の弱さも原因だと思うの。だから、これからも私のことを見ていてくれないかしら。私が、私自身に自惚れないように』

 

 裕介との距離が縮まる決定打となった言葉を、彼女自身忘れてはいないか。ネトルを葬ったことに満足し、自惚れてはいないか。

 

 

「……ありがとう、ピーターさん。あなたのおかげで、初心に帰れたわ」

 

 自分の頬を、気合を入れるようにピシャリと打つ。一転して凛とした顔になった美明日は、ネトルの目を真正面から見据えて言った。

 

「あまり認めたくはないけれど、あなたの存在は私の一部。だって、あなたが作ったもう一人の私の人格は、私自身が恐れている、私の弱さを前面に押し出したものだったのだから」

「だ、だったら何だって言うのよ」

 

 気圧されたのか、ネトルの表情に動揺が走る。

 

「私はあなたを倒し、いつしか弱さを乗り越えたつもりになっていた。自分の弱さと向き合い、常に戦い続けることを疎かにしていた。だけど、もう逃げたりしない」

 

 宿敵へ、手を差し伸べる美明日。

 

「これからは、一緒に戦ってくれる?」

 

 

 ややあって苦笑し、握手を返すネトル。

 

「あなたがだらしなかったら、いつでも乗っ取るからね」

「私は自分の心と向き合い、絶えず鍛える。私自身の強い精神力と早川くんたちのサポートがあれば、二度とあなたに主導権は握らせないわ」

「面白いじゃない」

 

 苦笑いが、興味津々なニヤニヤ笑いに変化した。

 

「どのみち、以前あなたたちに倒された時点で、私は三武神の地位を剝奪されている。もう超次元界に居場所はないも同然だし、こうなったらとことん付いて行ってあげるわよ。地獄までね」

「それじゃ、決まりね」

 

 美明日も微笑みを浮かべる。

 

 

 次の瞬間、ネトルの姿が薄れ、黒い霧になって美明日の胸へと吸い込まれていった。二つに分かれた心は再び一つになり、強さと弱さ、正義と悪、相反する要素を内包したものとなる。

 だが、それでいいのだ。人の心に何の矛盾もないということはあり得ない。清濁併せ吞んで自分のすべてを受け入れたとき、戦士は新たなステージへ進めるのだ。

 

「良かったんだな? これで」

「ええ、きっと」

 

 裕介と見つめ合う美明日。その手には、ホーリー来部への変身に使っていた、白い鴉の羽をかたどったスタンプ型アイテムが握られていた。

 白い羽の部分にいつしか黒いラインが刻まれていることに気づき、美明日は「きっと私だけでなく、ネトルの力もこのスタンプに加わったんだわ!」と嬉しそうに声を上げた。

 

 

「よしっ。何だかよく分からないけどパワーアップしたみたいだし、さっそく変身してみましょう。ぶっつけ本番で使うのも怖いから、実験データを取っておかなくちゃね!」

「……えっ、いきなり? 誰と戦うわけでもなく?」

 

 まあ、本人がやってみたいならいいか。一応納得した裕介が下がると、美明日は目を輝かせてスタンプをドライバーにセットした。もしこれがムーヴォだったら、「わくわくっ」とコメントしただろう。

 

「NTR for the future!」という割とひどい変身待機音が流れたのち、美明日の隣にネトルの幻影が出現。超次元ライダーに変身した彼女の姿がぼやけ、美明日と融合することで、来部の新たな強化フォームは誕生するのである。

 

『パーフェクト・アップ! 超次元ライダー・ネトルティ来部!』

 

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