背に純白と漆黒の片翼がそれぞれ一つずつ現れ、翼を纏うようにして変身。ホーリー来部のメタリックホワイトの装甲各所に黒のラインが刻まれ、翼が変化したマントをも装着。マントは、これを広げることによって高速移動や飛行を可能にするという優れものだ。
「おおーっ! ホーリー来部のときより、倍くらい強くなった気がするわね。これなら、ユリエロイドにも勝てるんじゃないかしら?」
『あり得ない話ではないわ。その姿でいるときのあなたは、私と力を共有している。私の精神干渉能力をも使えるわけだから、あの巨大悪魔に対して有利に出れるし』
ネトルティ来部の状態では、脳内でネトルと直接会話することができるようだ。傍から見れば「独り言かな?」と思われそうだけど、連携が取りやすくて便利そうである。
『けど、ユリエロイドも馬鹿じゃないから気をつけてね。あいつ、私に一度精神干渉されて警戒してると思うの。同じ手が二度通じる相手じゃないかもよ?』
「……ふむふむ。と、ネトルは言ってるけれど、皆どう思う?」
相方の考えを伝えたところ、仲間たちは喜んでいいものか迷っているらしかった。
美明日がネトルとの対立を乗り越えて協力関係を築き、さらには新たな力まで手にしたのは素晴らしいことだ。しかし、だからといってこの力で強敵ユリエロイドを倒せる確信はなかった。
「ネトルを無理に倒す必要はなかったわけだし、いっそのこと、ユリエロイドも倒さなくて良くね?」
「何言ってるのよ、カイリ。百合・BLレンジャーの誇りにかけて、似たような性癖のパワーを使ってるあいつを野放しにしてはおけないわ!」
「じゃあどうやって倒すんだよ。それこそ、ピーター師匠が引用していた『代替案が云々』って奴だろ」
相変わらずショートコントをしている二人がおかしかったのか、美明日はネトルが「ふふっ」と笑いを堪えきれなかった声を聞いた。
『まあ、焦らなくても良いんじゃないの? 超次元界で新しい巨大ロボ作りに挑戦してみてもいいし、私たちの能力に磨きをかけて、精神干渉の射程距離を伸ばして対抗してもいいし。そのうち、何か良い方法が思いつくわよ』
「そうかもしれないわね」
ネトルを受け入れた彼女は、憑き物が落ちたように清々しい表情だった。
「数学や物理みたいに、公式に当てはめれば答えが出ることばかりじゃない。現実はいつも困難で、分からないことやパラドックスだらけ。だからじっくり考えて、私たちなりの最適解を導けばいいんじゃないかしら」
遠くでは、負傷したレジスタンスの戦士を無事だった者が助け起こし、手当てをしている。破壊された野営地で、テントやキャンプ用品を修復しようと頑張っている者たちも多い。皆、一生懸命に立ち上がり、脅威と再び戦う準備を整えている。
「私、ちょっと手伝ってくるわね」
足早に、お菊も同志たちの方へ移動する。
彼女にとって、元三武神のネトルは憎むべき敵だろう。本当は手を組みたくなどなかったかもしれない。だが、現状ではネトルを倒すのが難しい上、味方にすれば頼もしい戦力なることを理解し、あえて多くを語らずにネトルのことを受け入れてくれたのだ。あとでお礼を言っておかなくちゃ、と美明日は思う。胸の大きさでは負けても、器の大きさでは負けたくない。
焦らなくてもいい。自分たちは必ず、この雪辱を果たす。美明日はネトルとともに、そう胸に誓った。
戦え、ネトルティ来部! 頑張れ、来部美明日! 自分の中の悪魔と戦い、共に生きるんだ!
ユリエロイドの襲撃から二日が過ぎた。野営地の修復と怪我人の手当てが終わったところで、お菊率いる一行は移動を開始していた。
あれから、美明日はネトルと頻繫に脳内会話を行い、対ユリエロイド用の作戦を立てているようだ。もう一度奴と戦っても、負けはしないだろう。しかし念のため、レジスタンスの別の拠点へ移ることにした。同じ場所に留まり、敵がまた襲ってくるのを待つというのも、無警戒で間抜けに思えたからだ。
「ユリエロイドのせいで、かなり足止めを食らっちまったな。こんなに苦戦すると分かっていたら、キンジも連れて来れば良かったぜ。あいつ、何かと頼りになるからな」
森の中を無言で進むというのも、退屈なものだ。野生動物や虫の鳴き声が全くしない超次元の森は、静かすぎて息が詰まる。
テンションが高すぎて隠密行動に向かなさそうな仲間のことを思い、裕介が沈黙を破る。
初めて会ったとき、彼はオメガ珈琲店内で味噌カツバーガーを美味そうに食べていたっけ。
「前から気になってたんだが、ハンバーガーを齧って変身する原理はどうなってるんだろう。まあ、先輩方は知ってるんだろうけどさ」
何とはなしに投げかけた問いだったが、誰も即答できなかった。せいぜい、カイリが「いや、俺は知らねえぞ?」と逃げただけだ。
「まあ、最初にキンジと会ったっていうピーター師匠なら、たぶん知ってるだろうけど……」
「いやいや、僕も知らないよ?」
困惑気味に、ピーターも首を振る。
「僕と同様、何らかの偶然によって変身能力を得たタイプだろうとは推測しているけどね。本人も、『ある日突然変身能力に目覚めた』と言っていたし、実際、彼はおねロリへのこだわりが強い上に日米のヒーローの大ファンだ」
高校生のとき、学校の授業で社会見学をしていたピーターは、自分の推しが登場する同人誌をたまたま拾った。それを読み、推しがファックなことをするシーンに大興奮していると、気づいたら手首からリボンを出せるようになっていた。常人離れした超パワーのおまけつきで。
そんな過去があるからか、彼はキンジのことを「自分と似ている」と理解したつもりになっていた。
「『ある日突然変身能力に目覚めた』って……ずいぶん大雑把な説明ね。変身できたきっかけも、何も語っていないのと同じじゃない」
師へ振り向き、ツカサが呟く。
「つまり、こういうことよね? あたしたちはキンジ・オネガワとまあまあ長い付き合いだけど、彼が変身できるようになった経緯や変身の原理については誰も知らない、と」