「誰か一人くらいは知っているだろうと思っていたら、誰も知らなかったパターンね……」
お菊が呆れたように言った。それも当然だろう。キンジは次元大魔王との決着がつく少し前から活躍していたのに、無貌を倒し、超次元界へ突入するに至ってもなお、詳細が分かっていないのだから。キャラクターの掘り下げ不足が深刻である。
百合・BLレンジャーのようにスーツを纏って変身するタイプならともかく、自身の能力によって変身するのにもかかわらず、肝心のその能力が不明と来ているのだ。
変身のトリガーになるのはハンバーガーだが、そもそもなぜハンバーガーがキーアイテムなのか。キンジの性癖「おねロリ」とは無関係な食べ物に思えるけれども。単に、好物ということだろうか?
「自分の好きなヒーローがピンチだから自分も戦うことにした、風なことは言っていたっけね」
キンジとの会話の数々を思い出しつつ、ピーターは顎に手を当てた。
「いずれにせよ、ここにいる全員がキンジの口から答えを聞いたことがないのは確かみたいだ。彼が変身能力を得たいきさつを、僕たちはまるで知らない」
「今まであまり考えたことがなかったけど、あいつ、謎が多いよな」
カイリも同調する。
「基本的に一人で行動するタイプのようだし、ロリーソードガンを探して世界中を旅していた時期もあったから、俺たちもあいつとはそんなに深い付き合いをしてこれなかった。素性はよく分かんねえけどとりあえず共闘するか、みたいなノリだったよな」
「孤独を楽しめる、もしくは孤独を孤独と思わない性格なのかしら」
美明日はキンジとほとんど接点がないのだが、彼女なりの考えを述べた。
「でも、皆の話を聞いていると……何だか彼、自分の本当の姿をさらけ出さないよう、意図的に動いていたような印象ね。自分の過去を語らず、常に行動を共にするような仲間もいなかったなんて」
一瞬、不穏な空気が漂ったのを察し、裕介は「ば、馬鹿なこと言うなよ!」と無理やり笑みを作った。
「ピーター師匠が同人誌を読んで力を得たみたいに、キンジにもきっと、人に話すのが恥ずかしいような経緯があるんじゃねえの? 人間界に戻ったときにでも、聞いてみればいいさ」
(やれやれね。一体、真実が明かされるのはいつになることやら……)
美明日の脳内世界で、ネトルがため息をつく気配があった。直後、すっと目を細め、神妙な顔つきになる。
(どうしたの、ネトル?)
(嫌な予感がするわ)
思わず問うと、彼女は超次元生命体の研ぎ澄まされた感覚で、何かを鋭敏に感じ取っているようだった。
(――美明日、一つ警告しておくわね。あなたたちが話題にしているキンジ・オネガワという男、心配しなくてもじきに会えるかもしれないわよ。知りたがっている秘密も、そのときに分かるかも)
刹那、前方にピンク色の扉が出現した。お菊が作ったのと同じ、通称「どこにでも行けるドア」である。ただ一つ違うのは、ドアの側面に金色の紋様が刻まれていることだ。
「あ、あれは! ソシャゲのガチャでSSRが出るときの確定演出⁉」
「ンなわけないでしょうが⁉」
こんなときでもボケをかますカイリの頭を、ツカサはどこからか取り出したスリッパでぱしーんと叩いた。
「誰かが人間界から超次元界へのゲートを開いたのよ。もしかしたら、超次元生命体があたしたちを追ってきたのかも」
「どんな超次元生命体だよ」
痛そうに頭をさすりながら、カイリが聞き返す。
「まだ人間界にとどまっている奴らがいたってことは、さすがにないんじゃねえか? 仮にいたとしても、人間界から追手を送り込むより、超次元界にいる奴を送り込んだ方が早いだろ。無貌支持派がユリエロイドを寄越したみたいによ」
「……こ、これは!」
一方、お菊は驚愕に目を見開いていた。
「貴族階級のみに使用が許可された、『本当にどこにでも行けるドア』。別世界の任意の座標へ飛べる、超便利な代物じゃない!」
「お菊さんの話じゃ、貴族はほとんど皆殺しにされたってことだけど」
怪訝そうな顔で、裕介が疑問を呈する。
「貴族ってのは、言ってみれば無貌に大殺戮された被害者なわけだろ。そんな奴らが俺たちにコンタクトしてくるってことは、あれじゃないか? 『一緒に無貌支持派を倒そうぜ!』みたいな」
「おおっ!」
「それは心強いわ!」
はたして、カイリとツカサの期待とは裏腹に、桃色のドアからは予想外の人物が姿を現した。
「……キンジ⁉」
ウエスタンハットを被った青年を見て、ピーターが素っ頓狂な声を上げた。
「あり得ないよ。どうして人間の君が、超次元生命体にしか開けられない、しかも貴族専用のゲートを開けているんだ⁉」
「答えは簡単。俺が超次元生命体で、かつ元貴族階級だからさ」
ニヤリと笑ったキンジは、口調も表情も、皆が知る彼のものと異なっていた。
「き、君は一体……」
声を震わせるピーターにとどめを刺すかのように、彼は堂々たる態度で真実を告げたのだった。
「キンジ・オネガワという名はもう捨てた。いや、最初から存在していなかった。俺の本当の名はルーカス。無貌の――レベッカの元夫だ」
レベッカとは、彼女が自らの過去を捨てる前に持っていた名前だろう。
「無貌が元々は女性の超次元生命体だったっていう説は、間違ってなかったらしいな」
ややあって、カイリが口を開いた。あまりのことに、皆、しばし呆然としていたのだ。
「で、『元』貴族階級ってのはどういう意味だ?」
「平民と結婚した場合、貴族はその特権を剝奪される。平民のレベッカと婚約したことで、俺は貴族の居住区を追われたのだ」
ゲートを開く能力までは奪われなかったがな、とルーカスは付け足す。
「平民身分になった俺は、貴族に仕える戦士として働いていた。ある日、上からの命令を受けて人間界の視察に赴き、そこで原住民に殺された。俺の死を受けて悲しみに沈んだレベッカは、支配層への憎しみのあまり、過去も何もかも捨てて無貌という怪物になった……ということになっている。表向きは、な」
「でも死んでいなかった、ってわけか」
裕介が顔をしかめる。
「運良く生き延びたお前は、超次元生命体ルーカスとしてではなく、キンジ・オネガワという人間として生きることにした。自分の妻だった無貌が暴走するのを止めるため、『ロリーニンジャー』というヒーローのふりをして、俺たちを支えてくれた。大体、そんなところか?」
「違うな。全然違う。人間ごときの浅はかな想像力で、俺の過去を語るな!」
予想に反し、ルーカスは怒りすら滲ませた。
「勘違いするなよ、人間。俺は無貌を止める気などさらさらなかった」
「えっ? だって、今まで何度も助けてくれたじゃない!」
口を挟んだツカサを睨み、ウエスタンハットの超次元生命体は「ならば、お前たちの大好きなロリーニンジャーとやらの活躍を一つ一つ振り返ってやろう」と尊大に言う。
「まず、俺とリボンダーマンで組んで倒したブラコンレンジャー。これは、数の多いブラコン系の戦士のうち一人がやられただけだ。敵からすれば、大した損害ではない」
「BLACON・RXはどうなのよ。あんたと戦ってるところを、何度かテレビ中継で見たわよ」
「彼は、太陽の光を浴びることで超速再生を行える。ほとんど不死身のようなものだ。倒すことの意味はないに等しいし、もちろん損害もほぼゼロだよ」
「で、でも、次元大魔王にはロリーソードガンを奪われたって聞いてるし……」
次第に、ツカサの声音から勢いがなくなっていく。
大魔王は「さっきロリーニンジャーからちょっと武器を奪ってきた」ようなことを言っていたけれども、ツカサたちが自分の目でその現場を見たわけではない。誰一人としてだ。
そして、誰も目撃していないということは、隠された真実があるかもしれないということだ。ちょうど、キンジが正体を隠していたように。
「ああ、あれか? お前たち、おかしいとは思わなかったのか? 高次元生命体のボスと対峙して、なぜ俺が無事だったのか。武器を奪われるだけで済んだのかを」
俺はな、とルーカスは笑みを深めた。
「次元大魔王に、自ら進んでロリーソードガンを差し出したのさ。これをあげるから見逃してくれってな」
「それじゃまるで、わざとロリギヌスの槍を作らせて地球を大ピンチに陥れたみたいじゃない⁉」
「その通りだ」
かつてキンジ・オネガワだった男は、否定しなかった。
「当時の俺の目的は、人間界とともに消えることだったのだからな」
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