「無貌が倒されてすぐに復讐しなかったのはなぜか、不思議に思っているかもしれないな。俺は好機を窺っていたのさ。俺がお前たちを殺す様を人間たちに目撃されず、あちらの世界で俺がヒーローであり続けられるような絶好のタイミングを!」
つまり、戦隊の主要メンバーが超次元界へ渡っている今がチャンスということか。
「ヒーローにも世代交代は必要だ。お前たちを始末した後は、俺が人間界へ戻り、新世代のヒーローとして君臨してやる。いつだったかチョーカーから言われた、『ニューエイジ』ってやつだな」
「どこまでも欲深い奴だな。嫌々なりきっていたヒーローという立場に、まだ未練があるらしい」
俺は生涯現役だぜ、と言いたげに、裕介が身構えた。
「大体、お前一人で俺たち全員に勝てるとでも思ってるのか。ロリーソードガンを使えない今のお前じゃ、実力を発揮できないだろ」
「俺がお前たちの前で実力を出したことなど、ありはしない。一般怪人にしか勝利していないのも、頼りになるように見えて戦績が意外と微妙なのも、俺が本気を出していなかったからだ」
「うわー……出たよ、『本気出してないだけ』アピール。痛すぎるだろ」
「そこまで疑うのなら、今すぐに見せてやろう。ロリーニンジャーとは比較にならないほど強大な、俺の真の力をな!」
ルーカスがウエスタンハットを投げ捨てた。その肉体が光に包まれていく。
「おねロリ性癖と忍者ヒーローの力は、貴族ネトルトから護身用に与えられたものに過ぎない。俺が本来所持していた原典や性癖の力は、遥かに強大だということを教えてやる!」
「お、おい。皆、気をつけろ⁉」
切羽詰まった声で、裕介が合図する。各々が変身アイテムを取り出し、いつでも戦闘に突入できるように準備した。
「――見つけたぞ!」
だが、切迫した状況は巨大な影によって一変する。
上空を飛ぶのは、翼を広げた白と黒の悪魔、ユリエロイド。やがてそれは降下し、木々を踏み潰し土煙を巻き上げて着地した。
「おや、よく見たらロリーニンジャーも一緒にいるようだな。まとめて始末してやる!」
事情を知らない悪魔は、キンジ・オネガワの正体が超次元生命体ルーカスであることも分かっていない。とんだ邪魔が入った、とでも言いたそうに、ルーカスは舌打ちした。
「白けてしまうな。ここは一旦退くとしよう」
「おっ、マジで⁉ 撤退してくれるの? ラッキー!」
「ちょっとカイリ、挑発するようなこと言わないでくれる⁉ 気が変わっちゃったらどうするのよ!」
露骨に喜んでいるカイリと、彼を諫めるツカサ。二人に、かつての自分とレベッカのような仲睦まじさを認めたのかは分からないが、ルーカスが怒りを表に出すことはなかった。
「誤解しないでほしいな。俺はただ、この木偶の坊を相手に、さっきお前たちにしたのと同じような長い自己紹介をする気力が失せただけだ。……いずれ、お前たちとは必ず決着をつける。この場は任せるから、勝手にしろ」
フン、と鼻を鳴らし、青年はドアを抜けて去った。ほどなくしてピンク色の扉が消滅する。
ひとまず最大の脅威はなくなったが、まだ第二の脅威が残っている。二日前に自分たちを追い詰めた強敵、ユリエロイドだ。
「はてな。なぜ、人間であるはずのロリーニンジャーが、ゲートを?」
その悪魔はというと、この場でただ一人ルーカスについての情報を共有していないため、頭の上に疑問符を浮かべていた。
「――説明してあげようかと思ったけれど、やっぱり面倒だからやめるわ」
彼の前に進み出るのは、眼鏡の似合う理系女子・来部美明日であった。
「あなた、少しは空気を読んでほしいわね。私は彼とあまり関わりがなかったからあれだけど、先輩方と長い付き合いのヒーローの正体が分かって、すごく緊張感のある場面だったのに、あなたのせいで台無しよ」
「ヒーローの正体? お前、何を言っている?」
「知る必要はないわ。あなたはここで、私たちに倒されるんだからね」
白いカラスの羽の意匠を持つスタンプには、黒のラインが刻まれている。それをドライバーへ押印し、彼女はネトルとともに叫んだ。
美明日の体とネトルの幻影が重なり合うようにして、二人が変わる。
「「変身!」」
『『パーフェクト・アップ! 超次元ライダー・ネトルティ来部!』
ホーリー来部のメタリックホワイトな装甲に、漆黒のラインと純白のマントが追加される。光と闇を併せ持った最強フォームへの進化を遂げ、美明日はユリエロイドと対峙した。
「早川くんたちは下がってて」
加勢しようとした仲間たちを制し、彼女は凛とした声で言った。
「ネトルと真に一つになった今の私なら、どんな敵にも負けはしないわ!」
「お前一人で我を倒せると、本気で思っているのか。愚かな!」
ユリエロイドは右手を掲げ、獄炎弾を連射した。マントを羽のように広げて飛び、ネトルティ来部がそれを華麗にかわす。
(行くわよ、ネトル!)
(分かってるっての!)
ゼロコンマ数秒のうちに脳内会話を終え、二人は息ぴったりの動きで精神干渉攻撃を行った。ネトルティ来部の全身から放たれた闇のオーラが、悪魔へと忍び寄る。
「同じ手が通じる相手か!」
だが、ユリエロイドも馬鹿ではない。前回の戦いで、この精神干渉には射程距離が存在することは分かっている。ならば、十分に離れた位置から攻撃すればいいだけだ。
そう考え、翼をはためかせてより高く飛翔しようとしたのだが。
「――空を飛ぶのは、あなたの専売特許じゃないのよ!」
「何っ⁉」
白と黒の悪魔を凌駕するスピードで、ネトルティ来部が飛行する。パワーアップした彼女たちは、これまでとは比べ物にならない速さを得ていたのだ。
『ネトルティ・パーフェクトフィニッシュ!』
瞬く間にユリエロイドの正面へ移動し、美明日が必殺技を発動。超次元ライダー・ネトルの幻影を伴った高速の斬撃を繰り出し、悪魔の胴を袈裟懸けにした。
超次元ライダー・ネトルも来部も、ベルトと一体型になっている武器で戦う点が共通していた。ネトルは「NTRブレード」という剣を、来部は「来部ガン」という銃を主力にしていたが、二人が融合進化したネトルティ来部は両方を使える。今の技は、NTRブレードで放ったものだ。
「ぐああああっ……」
ごつごつした皮膚から多量の火花を散らし、ユリエロイドが徐々に高度を下げる。かなりのダメージを受けたため、上空の飛行を続けるのが困難になったようだ。
「よくもやってくれたな!」
苦し紛れに何発かの火球を発射したが、ネトルティ来部には効かない。高速飛行で攻撃をことごとくかわしつつ接近し、さらに敵との距離を縮めた。
『ネトルティ・パーフェクトフィナーレ!』
続いて、キック技を発動。ネトルの幻影がすぐ横に現れ、白と黒の破壊エネルギーを纏った跳び蹴りを二人一緒に繰り出す。強烈なキックを胸部に叩き込まれ、ユリエロイドはついに、大地へと落とされた。
「……ば、馬鹿な。百合・BLレンジャーを倒して無貌様の仇を討つために、私は自分の力を極限まで磨き上げてきた。それでもなお、届かないと言うのか⁉」
「諦めなさい、ユリエロイド」
もはや立ち上がることもままならず、悔しそうにもがく悪魔を見下ろし、美明日は静かに告げた。再びNTRブレードを手にし、それを掲げる。
「今の私たちは、あなた以上の進化を遂げた。あなたの武器が超速で放つ火炎なら、私たちの武器は、この大気にある全ての水。全ての天は、私たちの支配下よ」
かつてネトルがオメガ珈琲シルバーとの戦いで使用した原典の力をも、ネトルティ来部は使える。あのときは真価を発揮できず、裕介にあっさりと攻略されてしまった技も、今ならさらに強化した状態で発動可能だ。
「――『BANG・解』。『大紅蓮NTR丸』!」
ネトルティ来部の背に、氷でできた竜の翼が装着された。
空から、次々に雪が舞い落ちる。それは触れたものを瞬時に凍らせ、氷で形作られた花を咲かせた。
ユリエロイドも例外ではない。悲鳴を上げる暇さえ与えられず、彼は氷の彫像と化した。
「これが私たちの新しい技、『NTR百華葬』よ」
悪魔の全身が厚い氷の層に覆われ、花が美しく咲き乱れていくのを見届け、美明日は言い放った。
「百輪の氷の華が咲き終える頃、あなたの命は消えている。……悪いわね。無貌の仇は討たせてやれないわ」
やがて雪が止んだ。ユリエロイドが完全に沈黙したのを確認し、ネトルティ来部は地上へ舞い戻った。変身を解き、照れ気味に微笑んで裕介に抱きつく。
「早川くん、私、強くなったでしょ? これからは一緒に『BANG・解』できるね♡」
「お、おう⁉」
ネトルと融合したことで、少し押しが強くなったのかもしれないな。そんなことを考えながら、裕介は恋人の成長と、勝利の喜びに束の間浸るのだった。
かくして、強敵ユリエロイドは葬られた。だが、キンジ・オネガワの正体がルーカスだったと判明し、無貌支持派とも異なる第三勢力として立ちはだかった。
はたして、彼の真の力とは? 百合・BLレンジャーは勝てるのだろうか?