百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

13 / 394
第13話 BLの新戦士

「――ハアッ!」

 

 そのとき、戦場に新たな影が現れた。高くジャンプして蹴りを見舞い、ツンデレキラーを吹っ飛ばす。

 

「ぐあっ。だ、誰だ⁉︎ 俺のゲームの邪魔をする奴は!」

 

 死角からキックを喰らって、キラーはとっさに反応できなかったようだ。苦しそうに咳き込み、辺りを見回す。

 

「ここだぜ」

「何っ⁉︎」

 

 新たな戦士は、ツンデレキラーの背後へ回り込んでいた。ぎくりとして振り向くと、そこには華麗に着地を決めたばかりのナオヤの姿があった。

 キラーを睨みつけ、腕に装着したブレス型アイテム・BLコマンダーに手を触れる。

 

「ゲームは終わりだ。今から俺がお前たちを倒し、俺の力を証明してみせる!」

 

 

 彼が変身しようとする前に、一悶着あった。

 

「助けてくれてありがとう。でも、来るのが遅すぎるわ。あんた、一体今まで何してたのよ⁉︎」

 

 倒れたままの姿勢で、ツカサが抗議した。

 

「先輩たちの戦い方を見学していただけだ。あまりにもひどいやられっぷりだったんで、見ていられなくなって助太刀しに来たがな」

「む、ムカつく〜!! ちょっと、あんたも何か言ってやりなさいよ!」

 

 隣に倒れているカイリの肩を揺すったが、彼は「何が何だか分からない」という顔をしていた。

 

「いや、こいつ誰なんだよ。俺、知らないんだけど」

「そ、そうだったわ。あんたはBL警察の会議室にいなかったのよね……」

 

 警察の新メンバーよ、と耳打ちすると、カイリは一応納得したようだった。

 

「へえ。でも、新人にしてはずいぶん態度がでかいな」

「そうなのよ。それに……」

 

 言いかけて、ツカサはふと引っ掛かりを覚えた。

 

 

「ねえ、ナオヤくん。一つだけ聞かせて」

「何だ」

 

 ツカサの問いに、ナオヤは表情を変えずに答えた。

 

「あんた、百合にもBLにも興味はないって言ってたわよね。それなのに、どうしてうちのチームに入ろうと思ったの?」

「……力が欲しかった。それだけさ」

 

 そう言って、ナオヤはBLコマンダーを顔に近づけ、音声コマンドを入力した。この最新型の変身アイテムは、ボタンやレバー操作ではなく音声入力によって作動するのである。

 

「『BLファイヤー』!」

 

 力強い叫びとともに、近未来的なデザインの赤と黒のアーマーが装着される。頭部のバイザーには、その名の通り炎を思わせる意匠が刻まれていた。

 

「勘違いするな。一応BL警察に所属しているわけだし、音声コマンドを入力しないと変身できないから『BLファイヤー』と名乗ったまでだ。別にBLに興味があるわけではない」

 

 若干のツンデレ要素が入っていなくもなさそうな言い訳を並べたのち、BLファイヤーがツンデレキラーへ向き直る。彼の右手には、専用銃BLディフェンダーが握られていた。

 その銃身を左手の甲にトン、トン、と当て、炎の戦士はいよいよ初陣を飾ろうとしていた。

 

「さあ、行くぜ。黒く蠢く野望も、平和蝕む邪悪も屠って、歪む未来を救ってやる!」

 

 

 BLディフェンダーをソードモードに変形させ、ナオヤは単身、ゾンビの大群の中へ突っ込んだ。

 

「よせ! 民間人を傷つける気か⁉︎」

 

 思わずカイリが叫ぶ。まさか、邪魔なゾンビたちから片付けるというのだろうか。現状、彼らを痛めつけずに無力化する方法は存在しないはずなのだが。

 答える代わりに、ナオヤはさらなる音声コマンドを入力した。

 

「『BLディフェンダー・ファイナルモード』!」

 

 

 赤いエネルギーを帯びた刃をX字に振るい、斬撃を飛ばす。それが命中したツンデレゾンビたちの体は皆、氷漬けになっていた。

 

「名前は『ファイヤー』だが、こういう技も使えるんだぜ」

 

 どうだ、と言わんばかりにBLファイヤーがカイリを振り返る。マスクの下の表情は読めないが、さぞ誇らしげに笑みを浮かべていることだろう。

 

「BLディフェンダーには敵を圧縮冷凍する能力が備わっている。お前たちには無理だったようだが、俺ならゾンビたちを止められる」

「……おのれ。俺のゾンビたちをいとも簡単に動けなくするとは、許さん! 今度は俺が相手だ!」

 

 うおおおおっ、とツンデレキラーが雄叫びを上げて向かってくる。ツカサとカイリを圧倒したあの高速移動の技を使い、一瞬でBLファイヤーへ肉薄しようとした。

 しかし、ナオヤの方が一枚上手だった。BLディフェンダーを即座にバルカンモードへ戻し、彼はツンデレキラーの足を狙って連射したのである。

 

 

「ぐあっ……」

 

 高次元生命体の動きが鈍った隙を突き、BLファイヤーが一気に攻勢に出た。

 

「――先輩たちの戦いを見学していたとき、お前の動きは既に見切った。いくら動きが速くとも、正面から突っ込んでくるだけなのなら対処は容易い!」

 

 そう言い放ち、ディフェンダーを再びソードモードへ変形させる。紅の輝きを帯びた剣を、すれ違いざまにツンデレキラーへ振り抜く。

 

「『BLディフェンダー・ファイナルモード』!」

 

 X字の赤い閃光が迸り、キラーの装甲から激しくスパークが飛んだ。

 

「これで勝ったと思うなよ。たとえ俺が倒れても、残りの次元四天王が必ずお前たちを倒す……」

 

 がくりと膝を突いたツンデレキラーが、震える声で捨て台詞を吐いた。が、言い終わらないうちに冷凍が始まり、彼の全身は氷に覆われる。

 完全に身動きが取れなくなったところに、BLファイヤーがとどめの一撃をくれてやった。BLディフェンダーを一振りし、氷塊を粉砕する。

 

「ゲーム・セット」

 

 すっと剣を下ろして、ナオヤは静かに言った。

 こうして、BLファイヤーの初陣は彼の圧倒的な勝利で飾られた。しかも、高次元生命体の幹部四人のうち一人、ツンデレキラーを見事撃破してのけたである。

 

 

 キラーが倒されたことにより、彼が開発したT(ツンデレ)ウイルスの効力も失われたらしい。凍結状態から元に戻ったとき、人々のゾンビ化の症状はすっかりなくなっていた。

 

「つ、疲れた……。全員の氷を溶かすの、めちゃくちゃ大変だったわね」

 

 事件の後始末を終え、ツカサはパトカーに荷物を積み込んで帰り支度をしているところだった。荷物というのは、BLファイヤーが凍らせた人々を元に戻すために持ってきた、大量の暖房器具のことである。このためだけに、署内からありったけのストーブとヒーターを取り寄せたのだ。

 

「まったく、誰のせいでこんなに苦労したと思ってるんだよ」

 

 彼女を手伝いながら、カイリがわざと大きな声で言った。視線の先には、一足先に車へ乗り込んだナオヤの姿がある。

 

「市民をなるべく安全に無力化するにはああするしかなかったのかもしれないけど、いい迷惑だぜ」

「代替案を示せない批判には意味がない」

「……は?」

 

 やや唐突にナオヤが口を開いたので、カイリは反射的に聞き返してしまった。

 

 

「他にもっといい方法があったのなら謝ろう。だが、あの状況では俺のやり方が最善だった。俺はそう判断し、行動しただけだ」

 

 要するに、「市民を凍結状態にする以外の解決策がなかったから凍らせた」ということか。ナオヤの行動は一見すると荒っぽいが、熟慮した上でやったことのようだ。

 ただ、どこか棘があり、他人を突き放すような言い方は気になる。

 

「ごめん。あたし、あんたのこと、少し誤解してたかもしれない」 

 

 ストーブの積み込みを終えて、ツカサもナオヤと並んで後部座席に座った。

 

「ゾンビを食い止めるための咄嗟の判断もすごかったし、最初にあたしたちの戦いを見学していたのも、キラーの動きを見切るためだったんでしょ? ちょっと見直しちゃったわ」

「別に大したことじゃないさ」

 

 対してナオヤは、彼女と視線を合わせようともしない。つれない態度だった。

 

「俺の力はこんなものじゃない。もうすぐ、BLファイヤー専用ロボ『BLレックスロボ』も完成すると聞いている。そうなれば、百合カイザーとBLカイザーには引退してもらうかもしれないぜ」

「な、何よ! 調子に乗らないでよねっ!」

 

 ふんっ、とツカサが頬を膨らませてそっぽを向く。

 本人は意識していないようだが、彼女の言動は時々ツンデレ気質である。T(ツンデレ)ウイルスなしでも、ゾンビになって暴れられるかもしれない。

 

 

「……おい、ツカサ」

 

 二人のやりとりを眺めている青年は、複雑な表情を浮かべていた。車の窓をコンコンと叩き、カイリが小声で言う。

 

「話がある。少し時間をくれ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定