「さあどうする、BLファイヤー。私がルール説明を終えた時点で、既にクイズはスタートしている。早く答えないと、時間切れで『絶交』されますよ?」
二十世紀青年の挑発にも耳を貸さず、ナオヤは瞬きせずに九つのシルエットを凝視した。一見するとどれも同じだが、細かに観察すると、他と比べて僅かに女性的な体つきの影が見つかった。肉の付き方が、男性のそれとは微妙に異なるのだ。
他の八人が男性で、この影だけ女性。一つだけ明らかに違う。だからこいつが『ともだち』ではないか――と推理するのはあまりにも単純で、「罠ではないか」と警戒してしまいそうになる。事実、ナオヤもそうだった。
いわゆる「オタサーの姫」がサークルクラッシャーと化す事例もあるそうだが、幼い子供たちのコミュニティーでそこまで深刻な出来事は起こらないだろう。この少女が、青年の言う「悪い奴」だとナオヤは思わなかったし、見え透いたミスリードにあえて乗るリスクも理解していた。
(……他に手がかりがない以上、仕方ない。最悪、不正解だったとしても一度くらいは大丈夫だし、それによって選択肢を絞ることもできる。まずは、一つ一つ可能性を潰していこう)
そう腹をくくり、彼は右から二番目のシルエットを指差して「こいつだ」と宣言した。
「こいつが『ともだち』だと思う」
「ファイナルアンサー?」
「ああ」
わざわざ確認してくる辺り、申し訳程度の優しさを感じる。ナオヤは頷いた。
「かしこまりました。――ですが、残念。不正解です!」
今度は優しさを微塵も見せず、二十世紀青年は嬉しそうに言った。
「不正解の罪に対し、十年分の老化の罰を与えます!」
「ぐあっ……」
少女のシルエットが消滅するとほぼ同時に、全身が倦怠感に襲われ、ナオヤはふらついた。十年分の肉体劣化が一気に訪れると、ここまで辛いのか。仮面の下の額には、玉のような汗が浮かんでいた。
体が上手く動かないというほど深刻な症状は出ていないが、今の一撃を何度か受ければ、本当に命が危ない。早期決着を狙わなければ、相当まずい。
「そうだ、一つ言い忘れていましたね。名古屋でオメガ珈琲シルバーが撃破した無名についてですが、彼、実は『リョナ』の性癖の力を宿していたんですよ。能力を一度も使用しないままやられてしまいましたから可哀想で、私がその性癖を回収並びに再利用しています」
ナオヤを絶望させようというように、二十世紀青年が続ける。
「『リョナ』性癖の能力は、相手を痛めつければ痛めつけるほど自身の攻撃力が上がるというもの。この『痛めつける』という定義には、相手を老化させることも含まれます。……もうお分かりですね? そう、貴公が不正解すればするほど、私の攻撃力は上昇する。早く『ともだち』を見つけ出さないと、たとえ正解できても私に瞬殺されてしまいますよ?」
「なるほどな。ここまでプレッシャーを与えてくる奴と戦うのは初めてかもしれない」
ヒーローは嘆息した。
「もっとも、能書きだけで勝てるほど戦いは甘くないがな」
「ちち~!」
父親代わりの男のピンチに居ても立っても居られなくなったのか、ムーヴォが駆け寄ろうとした。
「ムーヴォ、一緒に戦うます!」
「来るな!」
だがナオヤは振り返らないまま、娘を制した。
「お前は犬を連れて逃げろ。そして、このことをケイイチロウたちに伝えるんだ!」
「わ、わかったます!」
「――無駄ですよ」
くるりと方向転換して走り出した一人と一匹を眺め、青年が笑った。
「何人で来ようと、私のクイズに答えられるのは一度に一人だけですし、一度に複数の選択肢を選ぶこともできません。無論、プレイヤーの途中交代も認めません。……おっと、プレイヤーが死亡した場合は別ですが、自己犠牲を払ったって無意味ですよ? そのときはクイズ自体を最初からやり直し、選択肢もすべてリセットされますからね!」
「二十世紀青年……また厄介な能力持ちが現れてくれたな」
建物の陰からナオヤたちの様子を窺い、女装したルーカスは呟いた。
「こっちにも無貌支持派の主力級が出しゃばって来たか。ひょっとすると、本当に俺が手を下す間もなく片付くかもしれないぞ」
クイズが始まってから、三十分が経過した。
結局、ナオヤには「ともだち」が誰か見極める手段がなかった。だから端から順に、しらみつぶしに選択肢に当たった。
不正解になること、七回。それによる老化は約七十年分。仮面の下の顔には既に深い皺が刻まれ、視力や聴力も衰えつつある。
現在、滝沢ナオヤの肉体年齢は九十歳相当。まだ生きているのが不思議なくらいだ。あと一度でも老化すれば、本当に命が危ういだろう。
選択肢は九つあった。七回間違え、残りは二つ。八回目になる今回の挑戦が、おそらくラストチャンスだった。
「お前が『ともだち』だ」
残る三つの選択肢のうち、しわがれた声でナオヤが指さしたのは一番左のもの。刹那、二十世紀青年は初めて動揺を見せた。
「……正解です」