百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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20 BLファイヤー、決死の戦い!

「やっと当たったか」

 

 ナオヤがほっとしたのも束の間、ファンファーレが鳴り響くような演出があり、続いて残っていたシルエットが霧散した。どうやらクイズは終了したらしい。

 

「俺は勘が鈍い方だが、さすがに二分の一の確率にまで絞り込めば当たりもするようだな。お前の大好きなクイズも、これで終わりだ」

 

 もう今以上に肉体が老化させられることはない。その上、二十世紀青年を守っていたシルエットを消えたため、物理攻撃が通用するようになった。

 

 

「……クックックッ。クイズに正解した程度で勝ったつもりですか、BLファイヤー?」

 

 貴公は状況が分かっていない、と青年はほくそ笑む気配を見せた。

 

「七十年分老化したその体では、もはや立っているのもやっとでしょう。それに対して私は、敵を連続で老化させたことにより、『リョナ』性癖の力で凄まじいバフがかかっている」

 

 二十世紀青年が左手を伸ばした。その指先から、目にはほとんど見えないウイルスがまき散らされようとする。

 

「何より、私には『ともだち』クイズの他にももう一つの能力がある。『体から殺人ウイルスを散布する』という能力がね!」

 

 あまりにも強力すぎるため、クイズで敵を倒し切れなかったときにのみ使用を許可されている異能。このウイルスに感染した者は、全身から出血して即死する。

 

 

「言っておくが、いわゆる自爆技ではないぞ? 私自身にはワクチンが投与されているため、死ぬのは貴公だけだ! ハハハハハッ!」

「――『BLディフェンダー・ファイナルモード』!」

 

 勝利を確信して、高笑いする二十世紀青年。その油断が命取りになった。

 必殺技を発動したBLファイヤーが、剣を一振りする。放たれた斬撃が圧縮冷凍の効果を発揮し、周囲の空気ごとウイルスを凍らせた。

 

「悪いな。殺人ウイルスとやらは封じさせてもらった」

「ば、馬鹿な」

 

 第二の能力をいとも簡単に攻略され、スーツ姿の怪人が後ずさる。さっきまでの余裕は消え失せていた。

 

 

「貴公の肉体は、七十年分も老化しているはずだ。その状態で、なぜこうも普段通りに戦闘が行える⁉ ましてや、私が最大出力で放ったウイルスさえ無効化するとは!」

「正直、かなり辛いさ。体中が悲鳴を上げてるようだ。だけどな……あの子を守りたいという強い想いが、俺に力をくれたんだ」

 

 皺だらけの顔を怪人へ向け、ナオヤは言った。

 

「俺は父を殺した無貌を許すつもりはないが、その娘まで憎んではいない。罪のない、小さく尊い命を踏みにじろうとする悪を、俺は絶対に許さない!」

 

 

 ナオヤが変身する「BLファイヤー」の原典には、その元となるヒーローが終盤で死亡するシーンがある。力を求め、力を極めた彼は最終的に変身する力さえ奪われ、生身の人間になってしまう。そして、敵戦闘員に襲われている少女を庇った際に致命傷を受け、彼はほどなくして命を落とすのだった。変身能力によってではなく、自分自身の力で少女を救い、散った。

 その原典の影響だろうか。ムーヴォを守りたいという想いが、ナオヤの肉体に、加齢による限界を超えての稼働を可能にしたのである。

 

 

「……あり得ない。無貌支持派の中でも五本の指に入ると称される、この私が! 高次元生命体ごときの変身したヒーローもどきに負けるなど、天地がひっくり返ってもあり得ない!」

 

 狂ったように雄叫びを上げ、二十世紀青年は最後の攻勢に出た。両手を突き出し、多量のウイルスをばらまく。

 

「舐めるなよ。俺は次元四天王の一人、ツンデレキラーを単独撃破したこともある」

 

 BLディフェンダーを構え、ナオヤは駆けた。素早く剣を振るい、斬撃による冷凍でウイルスを完封。疾駆する勢いを殺さず、そのまま一気に敵の懐へ飛び込んだ。

 

「あいつは四天王の中でも二、三番目に強かった記憶があるが、その様子じゃ、お前は五人中最下位のようだ。――相手が悪かったな。『BLディフェンダー・ファイナルモード』!」

 

 BLファイヤーが振るった剣の軌跡に沿って、X字に赤い閃光が迸る。ナオヤが変身を解いたのとほぼ同時に、スーツ姿の怪人は崩れ落ちた。

 

 

「……分からないな」

 

 もはや息も絶え絶えだったが、彼はかろうじて喋れるようだった。仰向けに倒れたまま、ナオヤに問う。

 

「老化した状態で、ここまで無茶な戦い方をする者を見るのは初めてだ。おまけに、死のウイルスが散布された中にも恐れず突っ込んでくるとは。まるで、命が惜しくないとでも思っているかのようだ」

 

 二十世紀青年の命が消えかけるのに呼応し、ナオヤが受けた老化の効力も消えつつあった。徐々に顔や手の皺がなくなっていく。

 

「負けたら死ぬから、殺されるから。それが嫌だから、戦っているのではないのか? 戦いで命を捨てるというのなら、勝つ意味などなかろう」

「超次元界では今も、ツカサやカイリたちが必死に戦っているはずだ。仲間たちが命を賭けた戦いに、俺が命を賭けない理由などあるものか」

「……おーい、ナオヤ!」

 

 

 そこに、ムーヴォに連れられてケイイチロウ、サクヤ、トウマ、ウミカの四人が駆けてきた。皆既に変身していたが、どうやら決着はついたらしいことを察して「遅かったか!」「やばやば、私たちの出番ほぼなかった⁉」と各々リアクションしている。

 彼らへ手を振り、歩き出す直前、ナオヤは一瞬だけ青年へ振り向いて言った。

 

「この戦いに踏み入る前に、命はとうに置いてきた」

「……良い覚悟だ」

 

 怪人は間もなく、事切れた。

 

 

 かくして、無貌支持派の自称五番手、「二十世紀青年」は倒された。

 ムーヴォを狙う、残り四人の幹部クラス。人間界へ潜伏し、虎視眈々と機会を窺っているルーカス。それぞれの思惑が交錯する中、ツカサたちは人間界へ一時帰還しようとしていた。

 波乱はまだまだ続きそうだ。戦え、百合レンジャー! 頑張れ、BLレンジャー!

 


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