「原典無し」と初めて出会ったのは、超次元界の外れにある貧民街だった。空腹で倒れていたお菊を、彼は助けてくれた。
仲良くなってお互いのことを話すうち、原典無しから「誕生日はいつなのか」と聞かれた。身寄りのないお菊が「分からない」と正直に話すと、「なら、僕と会うた日がお菊の誕生日や。なっ、ええやろお菊」と言ってくれた。だから、お菊にとってはいつまでも、あの日が自分の誕生日だ。
成長した二人を待ち受けていたのが、無貌の専制政治だった。彼女に強制的に付与された原典のイメージが、今のお菊のセクシーな外見の元になっている。
姿形を無理やり変えられた幼馴染を見て、原典無しは呟いた。
「……無貌。あいつが親玉や」
その後間もなくして、二人はレジスタンス組織を結成。原典のイメージ付与を拒み、無貌の支配に抵抗し続けてきた。原典無しが戦死してもなお、二人の愛が消えることはない。
「人間はそんなに単純じゃない。人によって少しずつ違う価値観を、ルールによって完全に縛ることはできないわ。流行りの顔立ちでなくても、恋人と寄り添っている人たちがたくさんいるようにね」
「な、何っ⁉」
「人間も超次元生命体も、ルールに従うだけの生き物ではないわ。私たちは私たち自身の力で、新しいルールさえも作っていけるのよ!」
ビシッと決めると、脳内に流れ込む情報の圧が嘘のようになくなっていた。お菊の強靭な精神力が、ガン・メン・Qの支配に勝ったのだ。
裕介、美明日、お菊は何とか精神攻撃を凌いだ。残るはピーターである。
(彼は日本のヒーローやアニメが好きそうな印象だけど、顔の好みを変更されて大丈夫なのかしら?)
心配したお菊が彼を見やると、とっくに能力を攻略した後のようだった。余裕そうな表情を浮かべている。
「初めは一人だけだった推しがどんどん増えていくように、好みとは日々変わっていくものさ。ルールというリボンでは、進化し続ける僕を縛ることはできないよ。オタクを舐めるな」
「かっこいいことを言ってるようだけど、最後で台無しよ⁉」
お菊のツッコミを意に介した様子もない。
「それに、僕には片想い中のN・Jという女性がいるんだ。誰も、彼女への想いを変えることはできない!」
「待って、その設定は普通に初耳なんだけど」
あとでじっくり聞かせてもらおうじゃない、とピーターに囁いてから、お菊は皆に声を掛けた。
「さあ、敵の精神攻撃はどうにか止めたわ。ここから脱出するわよ!」
「うおおおお! 君が好きだと叫びたいぜ!」
「明日を変えてみるわ! ……って、あれ?」
目を瞑って無我夢中で愛を叫んでいた裕介と美明日が、やっと現実に戻ってきた。これで戦力は十分だ。
「フン、無駄である! 異空間内の目玉を全て破壊しない限り、吾輩のルール設定は終わらず、そこから脱出することも不可能。もっとも、ほぼ無限に存在する目玉を壊すのには何時間かかるか分からないのである。諸君らが目玉を破壊し終えるよりも、吾輩の精神攻撃が決まる方がどう考えても早い!」
「いやめちゃくちゃ喋るじゃねえか」
何はともあれ、弱点をさらけ出してくれたことには感謝すべきだろう。宙に浮かんでいる小さな目玉たちを睨み、四人の戦士は迅速に動いた。
『オクトパス! リボンミックス!』『トカゲ! リボンミックス!』『電気ウナギ! リボンミックス!』
三種の動物のパワーをフルに引き出したリボンズが、目玉を機械アームで叩き潰し、トカゲの尾で薙ぎ払い、そして手から放った電撃で焼き尽くす。
『ネトルティ・パーフェクトフィニッシュ!』
ネトルの幻影とともに、美明日が来部ガンから羽の形をしたビームを連射。片っ端から目玉を撃ち抜いていく。
「まだまだ行くわよ。『NTR百華葬』!」
武器をNTRブレードに持ち替え、触れたものを瞬時に凍らせる雪を降らせる。一つ、また一つと小型の目玉が凍てつき、機能停止していった。
「……派手な名前がついた、いかにも『必殺技』って感じの技は僕にはないけど」
リボンダーマンが両手首から飛ばす赤いリボンが、空中の目玉たちを縛って地上へ落下させる。さらに、目玉に結び付けたリボンを利用し、振り子のように体を振って移動。次々とリボンを放って拘束していった。
「少なくとも、機動力と敵の拘束では誰にも負けない自信があるよ」
そして、ピーターが絡めとった敵に決定打を与える役目はオメガ珈琲シルバーに与えられていた。
「任せろ。『ブレイザー・珈琲インパクト』!」
珈琲豆型のエネルギー弾を連射しながら接近し、すれ違いざまにソードモードで目玉たちに斬りつける。たちまち、数十個が爆発四散した。
続けて珈琲サイブレードを召喚。「珈珈弾」の、より高威力の光弾で百個を撃墜する。
「――『BANG・解』。『喫茶斬月』!」
そう叫ぶのと同時に、サイブレードの刀身が黒く染まる。漆黒の刃を全力で振るい、オメガ珈琲シルバー最強の斬撃を放った。
「早川くんに負けていられない」とばかりに、お菊と美明日もキック技を発動。白と黒の破壊エネルギーを、赤いリボン状のエネルギーが蜘蛛の脚のような形に変わったものをそれぞれ脚部に纏い、跳び蹴りを放った。
「『オメガ天衝』!」
『ネトルティ・パーフェクトフィナーレ!』
『リボンズ・フィニッシュ!』
リボンダーマンの活躍で一箇所に集められた残りの目玉たちに、三者三様の必殺技が炸裂する。大爆発に包まれ、小型の目玉は跡形もなく散った。
「わ、吾輩の目玉が全滅だと⁉」
能力を完全に攻略されてしまったガン・メン・Qが、苦しげに呻く。
「こんなはずでは……!」
刹那、目玉だらけの怪獣の体は、内側から弾け飛ぶようにして破裂した。気づけば裕介たちは、超次元界の大地を踏みしめていた。元いた場所に戻ったのである。
「ど、どうなってるんだ?」
辺りを見回せば、バラバラになった怪獣の死体があった。
「私たちの繰り出した必殺技のエネルギーに、ガン・メン・Qの異空間が耐えられなかったんじゃないかしら。あの空間は彼の体内にあったようだし」
「あるいは、小さな目玉に与えたダメージを本体が共有する仕組みだったとか、ね」
美明日とピーターが自説を口にする。まあ真相は分からないのだが、重要なのは、ガン・メン・Qの想定を自分たちが上回って勝利したということである。
「彼を倒すのに随分手間取ってしまったけど、幸い、私が開いたゲートはまだ開いているわ。さあ、二人とも急いで」
勝利の余韻に浸ることも、これ以上別れを惜しむこともなく、お菊がバカップルをせっついた。
「ああ……」
しかし、二人はすぐにはドアに向けて足を踏み出せない様子だった。
「なあ、お菊さん。作戦を決めて、先輩方が既に人間界へ戻ってから迷うのも変かもしれないけど、俺たち、本当に戻っても大丈夫かな?」
「今さら何言ってるのよ」
「だって、さっきみたいな面倒な奴が、また出てくるかもしれないだろ」
無貌支持派の攻撃が苛烈を極める中、裕介は、超次元界をお菊とピーターだけに任せることに一抹の不安を覚えていた。
お菊いわく「強敵が出たらそいつを連れて人間界へ行って、皆で撃退する」とのことだが、その方法にも色々問題がある気がする。ガン・メン・Qのように巨大な敵を連れてゲートをくぐるのは物理的に難しいし、彼のように間断なく精神攻撃を仕掛けてくるタイプが相手では、ゲートを開く時間を与えてくれないだろう。
ガン・メン・Qが第四位ということは、まだ上に三人もいるということだ。そんな強者たちを前にして、本当に二人だけで大丈夫なのだろうか。
「大丈夫よ」
裕介の肩をバシッと叩き、お菊は快活に笑った。
「私たちは絶対に負けないわ。だから、行ってきなさい。あなたたちが行くのが遅いと、ツカサたちも心配するわよ?」
「……分かった。行ってくる!」
「気を付けて下さいね、二人とも!」
口々に別れの言葉を述べ、裕介と美明日はピンク色のドアをくぐった。目指すは、久方ぶりの人間界。向こうでルーカスを探し出し、彼の悪事を阻止しなければならないのだ。
超次元界に残るは、お菊とピーター。人間界へ向かうは、ツカサとカイリ、裕介と美明日。
はたして、二手に分かれた彼らはそれぞれの敵を倒せるのだろうか? 戦え、百合レンジャー! 頑張れ、BLレンジャー! 巨大な悪を迎え撃て!
今回、ご迷惑をおかけした作品
・SLAM DUNK