五人掛けの円卓。それに座っているのは三人。
無貌支持派の第五位だった二十世紀青年と、第四位のガン・メン・Qが敗れたため、欠員が二名出ていた。
「まずい状況だ」
白いスーツを着た男が、重々しく口を開いた。
「人間どもとレジスタンスが手を組み、俺たちが根城にしているこの王宮を目指して進撃中だ。奴らの能力をメタるために送り込んだユリエロイドも、第五位も第四位も撃破された」
隣の席に控え、男の話を黙って聞いているのは第二位と第三位。
「序列の低い敵キャラから順に倒されていくのがよくある筋書きだが、テンプレ通りに局面が動くのは気に食わない。何より、これ以上支持派の主力級を失うわけにはいかない」
そこでだ、と白スーツが語気を強める。
「次の作戦は、第三位だけに出撃させない。俺自ら戦場に赴こう。無貌支持派の行動隊長にして、第一位のこの俺がな!」
「……ありがとうございます。大変心強いです」
第三位が恭しく頭を下げた。
「リーダーのお力添えがあれば、勝利は約束されたも同然でございます」
「礼はいらない」
男は、どこか遠くを見るような目つきをした。
「ちょうどいい機会だっただけだ。人間界に行くついでに、潰しておきたい虫もいる」
お台場上空に桃色の扉が開き、第一位と第三位が降り立つ。
白スーツにソフト帽という出で立ちの二枚目が、少年のような姿の部下を連れている格好である。
ダイバーシティの屋上に立った二人は、ほとんど同時に変身した。男がスーツを脱ぎ捨て、少年が携帯電話を取り出す。
『Standing By』
「変身!」
電子音声に続けて、音声入力することで少年は変身した。黒を基調にして白のラインが刻まれたアーマーを装着する。その頭部は、ギリシャ文字のデルタを彷彿とさせた。
男の方はというと、スーツを放り投げると同時に変身完了している。白い戦闘用スーツに、赤いマント。頭部と胸部には虹色の紋様が刻まれていた。
「何だ、あいつらは⁉」
「今日って、コスプレイヤーさんが集まるイベントとかなかったよね?」
二人に気づいた通行人たちが、建物を見上げてざわつき始める。民衆を眺め回し、白スーツの男はよく通る声で言った。
「故無貌様が人間界に降臨した際は、スカイツリーをへし折るという偉業を達成されたと聞いている。ならば俺は、ここお台場に降り立とう。人々に大人気なスポットを破壊して回ることで、また別な形での絶望を与えてやる。……見せてもらおうか、人間界のロボットの性能とやらを! 『ビッグ・ファーストボンバー』!」
実際はたまたまお台場にゲートが繋がっただけなのが、物は言いようである。
どこからか召喚した大砲を、白スーツは容赦なくぶっ飛ばした。放たれた砲弾が巨大なロボットの像に命中し、木っ端微塵に爆発させる。
「うわーっ! 何てことを!」
「当たらなければどうということはないけど、当たったらどうしようもないぞ⁉」
大人気アニメに登場するロボットの像が破壊されたため、集まっていたファンたちはむせび泣いた。まさに悪魔の所業である。
「ハッハッハ! この世界の戦隊ヒーローもどきも、大したことはないな!」
胸を張って大笑いする男に、第三位が耳打ちする。
「リーダー。今破壊したのは、アニメに登場するロボットの実物大立像です。百合・BLレンジャーの使用するロボではありません」
「何っ? あんまりかっこいいから、本物かと思ったではないか!」
そうこうしているうちに、騒ぎを聞きつけた戦隊たちが現着した。
「人間界に帰ってきたと思ったら、もう出動かよ。仲間との再会を喜ぶ暇もくれないのかよ、お前らは!」
「あんたは超次元生命体に何を期待してんのよ」
カイリとツカサを先頭に、ケイイチロウ、サクヤ、トウマ、ウミカも続く。
やや遅れて、裕介と美明日もバイクに二人乗りして駆けつけた。道中でネトルティ来部の飛行能力を使って急いで来たからかは分からないが、美明日の方は既に変身を終えている。
「悪い。目玉だらけの野郎に絡まれて、ゲートをくぐるのに手間取っちまった」
ちなみに、二十世紀青年との戦闘での疲労が抜けないため、ナオヤは今回出動していない。すぐに元に戻ったとはいえ、七十年分の老化は彼の肉体にかなりの負担を強いたようだ。
「で、誰だよお前らは。ルーカスを警戒するために戻ってきたのに、支持派の相手ばかりしてられねえんだけどな」
喧嘩腰に問うたカイリに、襲撃者たちは「よくぞ聞いてくれました」とばかりに順番に名乗った。
「無貌支持派の行動隊長にして、第一位。『ビッグ・ファースト』。よろしく」
「同じく第三位、超次元ライダー・デルタ!」
第一位がいきなり出てきて、しかも第三位を引き連れている。油断ならない相手だ。
「……それじゃあ、さっそく始めようじゃないか」
自己紹介を終えたビッグ・ファーストの右手に、バトン型の武器が出現した。
「どうやら、今までの俺たちのやり方は甘かったようだ。戦力を小出しにしてちまちまとやり合うような、終わりが見えない小競り合いはもう終わりにしよう。ここからは、全戦力をぶつけ合う決戦の時間だ」
「いや、全戦力じゃねえだろ。第二位も連れて来いよ」
かっこよく言い切ったビッグ・ファーストだったが、カイリのツッコミを受けてずっこけそうになっていた。
「う、うるさい奴らめ。第二位には、俺たちの留守を守ってもらっているのだ。そう言うお前たちこそ、リボンダーマンとリボンズを超次元界に行かせているでは……」
そこでようやく、彼は違和感の正体を悟った。八人いたはずのヒーローどもが、今は七人になっている。オメガ珈琲シルバーの姿がない。
(消えただと⁉ だが、いつの間に?)
刹那、ビッグ・ファーストは殺気を感じて振り向いた。しかし、遅かった。
「お喋りに気を取られ過ぎだぜ」
刀身が黒く染まった珈琲サイブレードを構え、シルバーが背後に迫っていたのだ。
「『オメガ天衝』!」
至近距離から繰り出された斬撃が、ビッグ・ファーストを呑み込んで大爆発を引き起こした。
今回、ご迷惑をおかけした作品
・機動戦士ガンダム