「やったか?」
剣を下ろし、爆発を見つめ、裕介は呟いた。
お台場に到着し、敵が屋上にいるのを認めてすぐに、彼は美明日にちょっとした工作を頼んでいた。彼女の「BANG・解」が持つ氷結の力で、裕介の姿を映した氷の像を短時間だけ作ってもらったのだ。
非常階段を使って屋上を目指す彼の姿を、宙に浮かべた複数の氷を駆使することで、氷像に上手く反射させる。カイリがツッコみで敵の注意を引きつけているうちに、美明日は恋人の不在を悟らせないようにしつつ、彼が第一位の懐へ飛び込めるチャンスを作ったのである。
「何やってるのよ。その台詞は死亡フラグよ⁉」
ツカサが悲鳴を上げたのとほぼ同時に、ビッグ・ファーストは爆炎の中から姿を見せた。
「……お前たち、単に力が強いだけではないな。瞬時に作戦を組み立て、実行する頭脳もあるとはなかなかのものだ」
無傷だった。
「だが、俺には通用しない!」
「何っ⁉」
馬鹿な。この距離でまともに技を食らって、何事もなかったかのように動けるとは。
咄嗟に距離を取ろうとしたシルバーだったが、第一位はそれを許さない。素早く接近し、バトンの一撃を見舞った。
数メートルも吹っ飛ばされたシルバーを横目に、ビッグ・ファーストは鼻で笑う。
「俺は他の奴らとは違い、性癖の能力を用いない。原典の力も一種類しか使わない。それにもかかわらず、俺が支持派最強の戦士である理由が分かるか? 原典の能力が強すぎて、他のイメージを足して強化する必要がないからだ」
あまりにも強すぎるその力は、無貌が亡くなったことによる弱体化をほとんど受けていない。
「俺が使用する原典のイメージは、原作で一度も敗北するシーンがなく、それどころか苦戦すらしていない最強のヒーロー。文字通り、無敵。彼が現れば、ストーリー上でいかなる困難が発生していようとも瞬時に解決が行われる。――『どんな相手にも絶対に負けず、登場と同時にあらゆる問題が解決される』。これが俺の能力だ!」
「何なのよ、そのデウスエクスマキナみたいな能力⁉」
ツカサは呻いた。これはもしかすると、無貌以上の強敵かもしれない。
無貌が強かったのは、無限に等しい数の原典を自在に扱えたからだ。しかし、決して無敵ではなかった。「無貌通行」を発動されてさえいなければダメージを与えられたであろう局面は何度もあったし、ツカサたちが自分たちを新しい原典だと再定義した途端に対処不能に陥っていた。要は、「ガードされずにちゃんと攻撃を当てることができれば、攻撃は効いた」のだ。
ところがビッグ・ファーストの場合、攻撃は確かに当たるのだが全く効かない。無貌とは逆にたった一種類の原典しか使わないけれども、その一種類が強力すぎるのである。
「そんなに強い原典があるなら、なぜ無貌は使わなかったんだ?」
ケイイチロウがぼやいた。
「実は、この原典は放送当時にいまひとつ視聴率が取れなかったようなのだ。シリアスな作風をコメディタッチに変え、追加戦士も登場させたのだが振るわず、打ち切りのような形で終わってしまった。それゆえ、故無貌様もさほど注目しなかったのかもしれない――あ、もちろん現在では再評価が進んでいるぞ? 個人的には大好きな作品です! 同じシリーズの他作品ではなかなか味わえない、ハードでシリアスなストーリーに痺れました! ていうかもっと人気出て下さいお願いします」
「いや誰と話してるんだよ⁉ 最後の方で口調変わってるぞ!」
白スーツは意外と博識だった。
「まあ、過ぎたことをあれこれ推測しても始まらない。重要なのは、お前たちは俺に勝てないということだ」
「……舐めやがって。皆、行くぞ!」
「おう!」
カイリの号令で、一同は「警察チェンジ!」「怪盗チェンジ!」と叫んで変身した。さらに、VSチューナーをビッグ・ファーストへ向けて連射する。
「無駄だ。『ビッグ・ファーストボンバー』!」
対して第一位は、先ほどロボット像を破壊したときの大砲を再度使った。砲弾が地上へ放たれ、爆発を引き起こす。
「このバズーカ砲は発射する瞬間、ターゲットの心の中に、その者が最も恐怖する対象を浮かび上がらせることができる。ゆえに動きは鈍り、回避することは不可能。威力も折り紙つきだ!」
「う、うわ~っ! 突然、脳内にドブネズミが!」
「アフリカゾウ、怖すぎる!」
「どういう恐怖なのよ⁉ ドブネズミはまだ分かるけど、アフリカゾウって何??」
ツカサたちの台詞は、馬鹿でかい爆発音にかき消された。ふざけた技のようだが、破壊力は本物。たった一撃食らっただけで、七人のアーマーには無数の傷が生じていた。
「てめえ、よくも先輩方を!」
ふらつきながらも立ち上がった裕介が、ビッグ・ファーストへ果敢にも挑もうとした。しかし、その行く手を第三位・デルタが遮る。
「君の相手は僕だ」
「Check」と音声コマンドを入力し、腰のベルトに下げた銃を抜き放つ。コマンドを受けたそれは、三角錐のポインターを射出した。
ポインターが胸部に当たった瞬間、オメガ珈琲シルバーの体が全く動かなくなってしまう。
「何だ? 一体、どうなってる⁉」
『Exceed Charge』
電子音声が鳴り響いた直後、超次元ライダー・デルタは高く跳び上がった。右足で強烈なキックを繰り出し、ポインター目がけて勢い良く蹴り込む。
「ぐあっ……」
変身解除まではいかなかったが、ダメージを受けたシルバーの「BANG・解」が解かれた。召喚していたサイブレードも消滅し、初期装備のみの状態にまで戻る。
「僕の原典の能力は、『必中効果』。この銃でポインターを撃ちこまれた相手は、僕が繰り出すキック技を絶対に避けることができない。そして性癖の能力は――」
「お前の性癖は、一対一の状況で使うには不向きなはずだ。ちょっとこっちを手伝ってくれないか、デルタ」
リーダーの手招きを受け、第三位は「はい」と素直に従った。裕介には目もくれず、ビッグ・ファーストの側に向かう。
「待てよ。まだ勝負はついてねえぞ」
呼吸を荒くした裕介が言うも、彼は振り返らない。
「知ってるかな。夢って言うのは、呪いと同じなんだ。途中で挫折した者は、ずっと呪われたままらしい」
「……はあ?」
「君を殺すのは後回しだ。そこで黙って見ているがいいさ。君たちの描いた『勝利』という夢が叶わず、挫折し、呪われていく様子をね!」