BL1号、2号、それにファイヤーには先に警察署へ戻ってもらうことにして、ツカサはカイリとの立ち話に付き合ってあげていた。
「どうしたのよ、急に。……ははーん。もしかして、あたしがナオヤくんと話してたから焼きもち焼いちゃった?」
にやりと笑って顔を覗き込むと、カイリは肩をすくめた。
「ンなわけないだろ。俺は桃シャリの百合にしか興味ないし、あと胸よりも尻派だから」
「あんたの趣味なんか聞いてないわよ! ていうか、おねショタ事件のときのネタ引っ張らなくていいから⁉︎ 悪かったわね、Bカップで!」
「俺が話したいのはナオヤってやつのことだ。あいつ、ちょっとおかしいと思わないか
」
なおも抗議するツカサを手で押しとどめて、カイリは本題に入った。
「ええ。あんなにも同僚と連携が取れない警察官は珍しいわ」
「いや、そっちじゃない。ナオヤは百合にもBLにも興味がないんだろう? それって変じゃないか?」
「あっ」
盲点だった。ツカサは軽く目を見開き、口に手を当てた。
「東京卍帝国が暗躍していた頃、連中は特殊な機械で人々の記憶を書き換えていた。その結果、俺やお前を含め、日本中の人たちが百合とBLに夢中になった」
同人誌を高額で売り捌いて儲けるために、東京卍帝国は多くの人々の人生を狂わせた。都合の悪い記憶を消すことで、百合やBLへの皆の情熱を異常なほど燃やさせたのである。
そして、卍帝国の後遺症とでもいうべきか、記憶を取り戻してもなお人々の百合・BLへの情熱は消えていないのだ。全盛期ほどではないにせよ、そういう薄い本は売れているーーコウ少年が「百合とBLばかり流行っていて悔しい! おねショタを流行らせてやる!」と決意する程度には。
もっとも、そんな迷惑な後遺症はないに越したことはないのだが、何だかんだで人々は新しい性癖を受け入れつつある。
「だから、ナオヤにも本当は百合やBLを好む傾向があるはずなんだ。それが全然ないだなんて、どうも変だぜ」
「言われてみれば変ね」
うーん、とツカサは考え込んだ。
「彼、嘘をついているようには見えなかったわ。それに、『BLに興味がない』って嘘を、BL警察内でわざわざつく必要はないと思う。自分の異質さを際立たせて、孤立させるだけだもの」
あるいは、孤独を好む性向なのか。今日の戦闘もほとんどスタンドプレーに近かったし、周囲から他人を排除したいタイプなのかもしれない。
『力が欲しかった。それだけさ』
ナオヤはこう言っていたが、はたして真実はどこにあるのだろうか。そもそも、彼が力にこだわる理由もはっきりしていない。
「コウ少年やゴークイーンズの連中みたく、他ジャンルへの興味が強すぎて洗脳の後遺症が続かなかったケースのようにも見えなかった。あいつ、何を考えてるんだろうな」
お手上げだ、と言わんばかりにカイリが首を傾げる。
「分かったわ!」
突然、ツカサが手を叩いた。彼女の目はキラキラ輝いている。
「彼、本当は百合が好きなのよ。だけど、きっと何か事情があって、百合派の特殊部隊ではなくBL派に属するしかなかった。だからあんなにツンツンした態度を取るんだわ!」
「なるほど。確かに、表立って動きづらい怪盗戦隊よりは、警察戦隊にいた方が何かと便利だよな。百合エックスになって百合レンジャーを抜ける前の俺も、昼はレストランでバイトして、夜は怪盗の二重生活だったし。体力的にきつかった思い出が……って、どこ行くんだよ」
相方の袖をぐいぐい引っ張って、どこかへ歩き出そうとするツカサ。
「決まってるでしょ! ナオヤくんに最高の百合の本をプレゼントするため、今から本屋に直行よ。あたしはあんまり詳しくないから、カイリがおすすめを選んでよね!」
「落ち着けよ⁉︎ あいつが百合派だと決まったわけじゃないだろうが!」
傍からは、制服警官が私服の市民を捕まえているように見えるかもしれない。妙な絵面である。
よっぽど自分の推理が気に入ったのか、ツカサは何としてでもカイリを連行しようとする。一方、カイリは「ナオヤが本当に百合に興味なかったらどうするんだよ! 一生口きいてもらえなくなるかもしれないぞ!」と必死に逃げようとする。
カップルのじゃれ合いとは、似て非なるバトルを繰り広げる二人。その姿は、「怪盗と警察」として火花を散らしていた頃とどこか重なるものがあった。
次元四天王の一角・ツンデレキラーを圧倒してのけた新戦士。その名も「Blファイヤー」。頼もしい仲間が加わった。
しかし、彼はツカサやカイリたちと距離を置き、「百合にもBLにも興味がない」と言った。はたして、彼は卍帝国の洗脳の影響を受けていないのだろうか? それとも、ツカサが推理したように、本当は百合が好きなのだろうか?
頼むぞ、BLファイヤー! 頑張れ、BLファイヤー! 新たな力で、世界の平和を守ってくれ!