「……邪魔だった、だと?」
弱々しい声で、血に濡れた青年が問う。
「確かに俺も、お前たち支持派のことを軽蔑していた。お前たちが崇拝しているのは『無貌』であってレベッカではない。俺が愛した女性のことを何も知らないような連中には、彼女を崇める資格すらないからな。しかし、百合・BLレンジャーを潰す上では役に立つかもしれないとも考えていた。戦いを挑んでおいてこんなことを言うのも変だが、別にそこまで憎んじゃないさ。せいぜい、『将来的には邪魔になりそうだ』という程度の認識だよ」
ルーカスと無貌支持派の目的は、一部が合致している。すなわち、「無貌を倒した百合・BLレンジャーへの復讐」。だが、動機が異なる。
前者は恋人への歪んだ愛と自身の性癖、そしてヒーローになるという願望ゆえに。後者は、崇拝していた指導者のために戦う。また、レベッカの娘ムーヴォをさらい、無貌の後継者にしようと目論む輩も支持派にはいるようだ――二十世紀青年がそうであったように。
両者は水と油であり、決して相容れない。元より、ひどく個人的な理由で動くルーカスと、集団で目的を共有する支持派が分かり合えるはずもなかった。
「お前たちは所詮、レベッカの二番煎じしかできない低俗で無能な連中だ。百合・BLレンジャーを仕留めて後継者を探し出した暁には、無貌の真似をして原典の管理でも始めるつもりだろう? そうなったとき、俺の使用している原典まで奪われてはたまらないからな。ヒーローであり続けるためには力が必要だ」
「言わせておけば、勝手なことを。大体、お前はなぜそこまでヒーローであることにこだわるのだ?」
「決まっている。天国にいるレベッカには、いつまでもかっこいい俺の姿を見ていてほしいからだ!」
「お、おのれ~。キメ顔で色ボケた台詞を吐いても、かっこよくも何ともないわ!」
第一位は怒りに震えていた。
「なるほど、お前が俺たち支持派を目障りに思うわけは分かった。ならば冥途の土産に、俺たちがお前を邪魔に思うわけも教えてやろう」
ルーカスの顔のすぐ横にバトンを打ち下ろし、続ける。
「無貌支持派は精鋭揃いだ。最強無敵の俺をはじめ、実力者が集まっている。単純な戦闘力だけなら、無貌様の側近だった者たちをも凌ぐだろう。けれども、無貌様のようなカリスマ性を備えた人材は残念ながら見つからず、民衆の支持を集めるのに苦労していた。そこで最近では、後継者を探して祭り上げるのが良いのではないか、との意見が出始めたのだ」
言わずもがな、その最有力候補はムーヴォである。
「唯一の問題は、俺たちが擁立するのとは別に後継者が名乗りを上げる可能性があったことだった。特にルーカス、お前が一番邪魔だった。お前は言わば、無貌様の存在を生み出した男なのだからな。おまけに、底知れない力を秘めている。放っておけば何をしでかすか分からない、危険分子だったのだ!」
「ここでお前を殺すことで、俺たちの支配体制は盤石となる」とビッグ・ファーストはほくそ笑んだ。
「死ね、ルーカス! お前さえ消せば、無貌支持派が超次元界で天下を取ることも夢ではない。知っているか? 夢を持つと、時々すっごい切なくなるが、時々すっごい熱くなるのだ!」
第一位が再度振り上げたバトンがルーカスの頭部に叩き込まれ、かつてロリーニンジャーと名乗っていた男が壮絶な最期を遂げる――はずだった。この局面から逆転するなんて、どう足掻いても無理だと思われていた。
ところが、信じられない現象が起こった。ルーカスの額に触れた瞬間、ビッグ・ファーストのバトンはいくつもの破片に分かれて粉砕されたのだ。
「……な、何だ⁉ どうなっている?」
愛用の武器が何の前触れもなく破壊されたため、第一位は恐れおののいた。
不気味だったのは、ルーカスや百合・BLレンジャーが何かしたようには見えず、ただ単に武器の耐久度に限界がきたようだったことだ。そんなことはあり得ない。最強無敵を誇る第一位の原典が、自らの武器が損傷するような恥を晒すわけがないのだ。
「――お前、案外つまらない奴だな。自分の信念に従って俺を排除したいのかとばかり思っていたが、結局は政治的な理由か。二番煎じ以下だぜ」
ククッ、とルーカスが不敵に笑い、ゆらりと立ち上がった。第一位の攻撃で瀕死の状態だったはずなのに、いつの間にか傷が塞がって出血も止まり、ピンピンしている。
「どうした、自称最強さん。俺の性癖の能力を味わって、そんなに驚いたか?」
「お前の性癖だと? 女装した姿で現れたから、てっきりそっちの趣味があるのかと……」
「あれは仮の姿さ。そう言えば、戦隊どもには明かしたが、お前たちには教えていなかったっけな。俺の真の性癖は『他殺願望』だ」
愛する人の手で殺されることが、ルーカスの望み。その願望を叶えるためだけに、彼は優しい女性だったレベッカを無貌という名の修羅に変えたのだ。
「死の一歩手前まで俺が追い詰められたときになってはじめて、『他殺願望』はその能力を発動させる。俺の持つ全能力を爆発的に引き上げ、さらに一分間だけ、敵が持つ全ての能力を無効化するのさ」
「と、ということは、つまり……」
「ようやく呑み込めたか? お前の無敵は、もう終わりだってことだ」
最強無敵の原典のパワーを無効化された今、第一位はバトンとバズーカ砲による攻撃ができるだけの、ごく普通のスペックの超次元生命体に成り下がってしまっていた。元々攻撃パターンが少なく、原典の能力に頼り切った戦い方をしていたのが完全に裏目に出たかたちだ。
「フ、フン! これで勝ったつもりか、ルーカス。要するに、一分間だけお前の攻撃を耐え凌げば良いのだろう? そうしたら再び、俺の無敵タイムが発動するのだからな!」
「一分もあれば十分だ」
刹那、ルーカスは銃型の変身アイテムを召喚し、トンボの特性を備えた戦士の姿へ再変身した。
『チェンジ・ドラゴンフライ!』
変身音に続き、ルーカスが「『クロックアップ』」と発声。超高速移動の力が解放された。
最強だったスピードと動体視力を無効化されたビッグ・ファーストは、まるで太刀打ちできない。ルーカスの繰り出すパンチやキック、近距離からの銃撃をまともに喰らい続け、呻き声を上げた。
(こいつ、まさか……一分間の無効化時間を最大限に活用するために? 最初からこの状況を想定した上で、トンボの戦士の原典を用意していたのか⁉)
やがて膝を突いた第一位を狙い、ルーカスは「ライダー・超次元シューティング」と唱えた。銃から青い光弾が発射される。
おそらくこれが必殺技なのだろうが、幸運なことに、発射速度がやや遅めだった。これならば何とか回避できるかもしれない、と思い、ビッグ・ファーストが踵を返して逃げようとする。
(もう少しだ。ここで耐えれば、俺の勝利は約束されたも同然!)
「――無駄だ」
けれども、ルーカスの方が一枚上手だった。超高速移動した彼は、第一位の前方へ回り込んだ。そして必殺技をもう一発繰り出した。
「諦めろ。お前の未来は、ここで終わる!」
「馬鹿な。無貌支持派の第一位にして、行動隊長のこの俺が……ぐあああああっ!」
二発の青い光弾が、前後から第一位を挟み込んで大爆発する。後には、文字通り何も残らなかった。
「礼を言うぞ。お前が強すぎたからこそ、俺の切り札『他殺願望』を早い段階で解放できた。ある意味、お前には感謝している」
一分間の無効化時間は、まだ十秒ほど残っていた。ルーカスは変身を解くと、超次元界へ続くゲートを開いた。能力が底上げされているため、いつもよりスムーズにドアが作れる。
第一位が強敵であることは予想していたが、他殺願望の力を使わねばならないほど追い込まれてしまった。肉体の消耗が激しい。
「……少し疲れた。向こうに残してきたアジトに戻って、しばし体を休めよう」
リーダーが倒されたことで、無貌支持派はきっと大混乱に陥る。いずれはルーカスを追って刺客を放ってくるだろうが、それにはかなり時間がかかると思われた。
気だるげな肉体を無理に動かして、ルーカスは桃色のドアをくぐっていった。
彼にとって、無貌支持派の行動隊長に勝つことは既定事項だ。倒したからと言って、格別の喜びはない。
今や間違いなく、超次元界最強の存在はルーカスだった。