両者が会話を続けている間にも、空間を埋め尽くすパチンコ演出は進行している。アニメの主人公やヒロインたちの絵柄が、揃いそうでなかなか揃わない。リーチまでは到達しても、当たりまで行かないのだ。
これも原典の能力なのだろうか。デルタの脳内には突如、アニメのキャラクターたちに関する情報やパチンコ演出の詳細情報が溢れ出した。なお、存在しない記憶までは溢れ出さなかった。
予告演出について、確変について等の長ったらしい文字列が、脳内へ強制的に叩き込まれる感覚。パチンコを打った経験がないデルタには、何が何だか分からなかった。そもそも、超次元界にパチンコ店はない。
「……僕の脳に、ゴミのような情報を流すな!」
苛立ちを露わにし、竜人はルーカスへ突進した。両腕の爪を連続で振るい、猛攻を仕掛ける。ルーカスはバックステップでかわしたが、臆さずに追撃した。
今の彼は生身だ。「性癖展開」に力を注ぎすぎて、他の原典を併用する余裕がないのかもしれない。正面からぶつかれば、間違いなく自分の方が強いという確信があった。
「改めて宣言させてもらうよ。勝敗は決したも同然だ。当たりもしないパチンコ演出で勝てるほど、戦いは甘くはない。運ではなく実力で勝負していれば、勝っていたのは君だったかもしれないけどね!」
「……違うな」
竜人が繰り出した爪の一撃を、ルーカスは素手で受け止めた。だが、彼の肉体は灰化しなかった。
「実力で運を掴むんだよ」
背後ではアニメのヒロインの絵柄が三つ、横並びに揃っていた。大当たりだ。第三位の攻撃が当たる寸前で「他殺博徒」の大当たり効果が発動し、ルーカスの「他殺願望」の力を解放したのである。
「他殺願望」はルーカスの持つ全能力を爆発的に引き上げ、さらに一分間だけ、敵が持つ全ての能力を無効化する。超次元ライダーデルタとしての必中効果も、竜人態で使える灰化能力も、第三位はその戦力の全てを封じられてしまったのだ。
無論、彼の持つ「三角関係」のパワーも使えなくなった。もっとも、こちらは敵が三人以上いないと発動されないため、使えたとしても一対一の状況では無用の長物だったのだが。
「馬鹿な。もう大当たりを引いたのか⁉」
まずい。性癖の力を解き放ったルーカスは、第一位をも屠る。自分では勝ち目がない。
不利を悟ったデルタは青ざめ、慌てて逃げようとした。だが、パチンコ演出に満ち満ちたこの領域内から、ルーカスの許可なく脱出することは不可能。出口を見つけられずに焦る第三位へ、ルーカスが近づいていく。
「逃げられるとでも思ったか?」
歩きながら、彼はロリーニンジャーの姿に変身した。かなり久々のお披露目だ。今回はハンバーガーを齧るアクションを挟むことなく、純粋に忍者ヒーローの原典の力だけでアメリカンに変身している。
一度に複数の原典や性癖を使うなんて、通常時のルーカスには無理な芸当だ。虚無のキャパシティーが足りない。けれども、無限に力があふれ続ける今なら、不可能も可能にできる。
「言ったはずだぞ。大当たりから四分十一秒間、俺は原典と性癖の力が無制限にあふれ続けると。ただでさえ『他殺願望』によって全能力がブーストされているところに、さらに上乗せだからな。今の俺の力は、通常の数百倍だ」
「こ、この……化け物が!」
退路を断たれた竜人は、もはや自暴自棄になっていた。雄叫びを上げ、ルーカスに殴りかかってくる。
「――今の俺なら、お前ごとき、この姿でも難なく倒せる」
気がついたときには、ロリーニンジャーはデルタの真横にいた。すれ違いざまに「忍者激推し刀」を振るい、第三位の胴を両断する。
必殺技でも何でもない、ただの通常攻撃。しかしその実態は、威力を通常時の数百倍にまで引き上げられた、文字通りの一撃必殺。
「お前は俺を一撃で殺すと言ったが、実際は逆だったようだな。灰になるのはお前の方だぜ」
「お、おのれ、ルーカス……!」
がくりと膝を突いた第三位に、抵抗する力は残っていなかった。体から青い炎が噴き上がり、それに包まれるようにして間もなく全身が灰化する。
敵を完全に無力化したのを確認し、ルーカスは領域を解除した。パチンコ演出が消えると、静かな森の中に一つまみの灰が残るばかりだった。
人間の姿へ戻り、額に浮かぶ汗を拭う。
「やれやれ。病み上がりには少々きついな」
能力のブーストが終わると、疲労感と倦怠感が残る。やはり「性癖展開」は最後の手段として取っておくべきだな、と独り言ちた。
「――やるではないか」
どこからともなく声がしたため、ルーカスは背筋が泡立つのを感じた。はっとして周囲を見回すと、フード付きのローブを纏った男が茂みを搔き分けて姿を現した。
声を掛けられるまで、気配をまるで感知できなかった。相当の実力者であることが窺える。
「おや、驚かせてしまったか? だが、第一位と第三位が倒されたというのに、私が手をこまねいているわけにもいかなくてな。戦場に赴かざるを得ない」
男は歩みを止めた。フードを目深に被っているせいで、表情が読めない。
「その口ぶりから察するに、お前、無貌支持派の第二位だな? ご苦労なことだ」
第三位のように奇襲を仕掛けてこないということは、それだけ自分の力に自身を持っているということか。ルーカスは身構えた。
「ご名答。私が第二位だ。……ときにルーカス。この顔に覚えはないか?」
男の手がフードへ伸び、それを後ろに払いのける。露わになった顔には、額から頬にかけて痛々しい傷痕が刻まれていた。ルーカスの目が見開かれ、手がわなわなと震える。
「記憶にあるよりも醜いかもしれぬな。何せ、私がこの顔になったのは他でもない、貴様のせいなのだから」
「あり得ん。お前はあのとき、確かに俺が殺したはずだ」
第二位は黙ったまま、ニヤニヤと笑っている。
「なぜお前が生きている。ダレン!」
※次回の更新は一週間後の予定です。