「私が生きていることがそんなに信じられないか、ルーカス? 貴様だって、長い間死を偽装していただろうに」
ダレンと呼ばれた男は、笑うたびに傷痕が醜く歪んだ。
「貴族たちが超次元界から人間界へ送り込んだ視察部隊。その一員だった貴様は、人間界到着後に他のメンバーを惨殺。自身も巧妙に他殺された風を装い、行方をくらませていた。そして、視察部隊として派遣されていた私も、あのとき貴様に殺されたはずだった」
だが、とダレンは続ける。
「貴様に気取られぬよう、私は能力を発動して生き延びていたのだ。……当時、私には理解できなかった。優しく真面目な人物だった貴様が、なぜ豹変して皆を襲ったのか。なぜ私たちは、理不尽な殺戮に晒されなければならなかったのか。一命をとりとめた後、私の心を占めていたのは『貴様に復讐する』ということだけだった」
ルーカスはかつて、自分の死を偽装することで妻・レベッカを絶望させ、無貌という修羅になるよう仕向けた。その過程で、自身を含む人間界へ派遣された部隊のメンバーが何者かに殺されたように見せかけた。
今、目の前で冗長に喋っているこの男は、視察部隊の元メンバーだったのである。そして、ルーカスに殺されたはずだった人物だ。
「私はあれからずっと、貴様に復讐するために鍛錬を重ねてきた。別段無貌を崇拝していなかったにもかかわらず支持派に加入したのも、さらなる強さを獲得するためだ。ロリーニンジャーの正体が貴様だったと判明してからは、怒りの炎で身を焦がしそうだった。そして今日、ついに貴様を殺す機会を得た!」
無貌支持派に入ったことで、超次元界中から集った強者たちと修練を重ねることができた。しかしその一方、一定以上の強さを誇る者はリーダーから「主力級」認定され、とりわけ上位五名には特別な待遇があった。ダレンもその一人、ビッグ・ファーストに次ぐ第二位まで昇り詰めた。
主力級のメンバーを失うことを恐れた第一位は、ダレンたちをめったに出撃させなかった。ルーカスを討つために出撃したくとも、上の許可が下りなかったのである。
だが、ビッグ・ファーストは死んだ。それどころか第三位、四位、五位も敗北した。今現在、無貌支持派のトップが第二位のダレンであることに疑いの余地はない。誰も自分の出撃に文句を言えない状況になってはじめて、彼はルーカスとの因縁の対決に臨めたのだ。
「支持派構成員から話は聞いている。貴様が私たちを斬った理由も、無貌に対する歪んだ愛も。今更、貴様に何か新事実を喋らせようという気はない。そんなものを聞いても反吐が出るだけだ」
唐突に、ダレンの笑みが消える。
「私が貴様に望むのは、一つだけ。――ここで死ね、ルーカス」
圧倒的な殺意が迸った。ルーカスの首筋を冷や汗が流れる。
彼はダレンの能力が何なのか知らない。あのとき、どうやって自分の放った斬撃から生き延びたのか分からない。使用する原典の詳細も、性癖の詳細も、何一つとしてこちらには情報がなかった。
「ルーカス、私は貴様と境遇が似ていた。貴族の家系に生まれながらも平民の女性と結婚し、貴族専用の居住区を出て慎ましい生活を送っていた。……だが、貴様と無貌のせいで、私の人生はめちゃくちゃにされた。私が貴様に殺されかけ、生死をさまよっただけではない。居住区で暮らしていた両親は無貌の攻撃で命を落とし、両親を助けようとした妻も、反逆者とみなされて無貌の手下に殺害された。貴様は私のすべてを奪ったのだ!」
「悪いが謝る気はないぞ」
ルーカスが肩をすくめてみせる。
「『他殺願望』という性癖を満たすことが、俺にとってのすべてだ。そのためならば俺は、悪魔に魂を売り渡しても構わん」
「……戯言を」
ほとんど無表情のまま、ダレンは宿敵を睨んだ。
「貴様は私から何もかもを奪った。今度は、私が貴様からことごとくを奪おう」
両親を、妻を、貴族だった友人たちを失った彼は、自分を知る者がほとんどいなくなった状態にある。すなわち、皆の記憶の中から消えたダレンはその分だけ虚無に近づき、原典や性癖を扱えるキャパシティーが普通の超次元生命体よりも多い。死を偽装することで虚無に接近したルーカスと同様、ダレンもまた自由度の高い戦い方ができるのだ。
「――死ね」
超次元界最強を誇るルーカスと、もう一人の最強が今、激突しようとしていた。
「無貌支持派内での、私の序列は第二位。その『二』という数字にちなんで、私は様々な『二号戦士』の原典を使いこなすことができる。こんな風にな!」
ダレンの腰にバックルが出現した。バックルは青いスクリーンのようなものを空中に投影し、ダレン自らがそれを通り抜けることで変身が完了する。
『ターンアップ』
クワガタムシとダイヤの意匠を持った、赤い戦士へと変わった。右手には銃を構えている。
「この原典の戦士は、自分よりも格上の相手への勝率が異常に高い傾向にある。逆に、格下には手こずることもある。一部では『強敵にしか勝てない男』と呼ばれているそうだ」
「何が言いたいのか分からんな」
ルーカスも腰にベルトを装着し、身構えた。
「ゆえに、この原典の能力は『格上の相手と互角以上に戦えるようになる』というものになっている。……ルーカス、まだ私の言いたいことが分からないか? 貴様がいくら『他殺願望』の力を使おうとも、私は貴様と渡り合えると言っているのだ!」
今回、ご迷惑をおかけした作品
・仮面ライダー剣