ピンチに陥ったとき、あるいは「他殺博徒」を発動して大当たりを引いたときにのみ使える、「他殺願望」の絶大な力。それを行使した途端、ダレンの原典もまた真価を発揮する。どれだけルーカスが強くなろうとも、一瞬で彼に追随し、上回る。
まさに強敵キラーのような能力だ。ダレンがこのクワガタとダイヤの戦士の原典を所持している限り、ルーカスは迂闊に切り札を使えなくなってしまう。
「なるほど。ということは、まあ普通に考えれば、『他殺願望』を出さなければいいわけだな」
ベルトにカードを読み込ませ、ルーカスは金と白の戦士へ変身した。 ビッグ・ファースト戦でも使用した、ホログラムバリアの展開を得意とする戦闘形態である。
『INNOVATION & CONTROLL! ルーカス!』
見たところ、あのクワガタの戦士は銃が主力武器のようだ。ならば、銃弾をバリアで防ぎ、接近戦に持ち込めばこちらに分があるはず。そう判断し、ルーカスはダレンへ突進した。
「わざわざ能力を教えてくれて助かったぞ。明らかに格上だと分かる力を出さなければ、お前の原典は真価を発揮できない!」
「だが、切り札を封じられたのは貴様も同じことだ。そして、私はこれまでの戦闘データから、貴様の全能力の分析を終えている」
仮面の下で、ダレンは余裕の笑みを浮かべた。
「その形態で使うホログラムバリアは、貴様の体表から数十センチ離れた位置にしか展開できない。つまり……」
ルーカスの渾身のパンチを頬に喰らったが、彼は微動だにしなかった。頭部アーマーが割れるのも構わずにパンチを受け、カウンターとばかりにルーカスの腹部へ銃を突きつける。
「――この距離なら、バリアは張れない」
ゼロ距離からの、容赦ない銃撃の嵐。ホログラムバリアを展開することも叶わず、ルーカスは苦痛に呻き、後ずさった。
「くうっ……」
隙を逃さず、ダレンが三枚のカードを取り出す。銃身に備わったリーダーにそれらを順に読み込ませ、必殺技を発動した。
「私は全てを失った。信じるべき正義も、組織も、愛する人も、何もかも。だから、最後に残ったものだけは失いたくない。貴様を殺すという、絶対的な復讐心だけは!」
クワガタムシの戦士が、右足に炎を纏って高くジャンプする。戦士の肉体は空中で二人に分身し、分身と本体が同時にオーバーヘッドキックを繰り出した。
強烈な一撃を受け、ルーカスの体が吹き飛ばされる。木の幹へしたたかに背中を打ちつけ、彼はぐったりと倒れ込んでしまった。金と白の戦闘形態は、とっくに変身解除されていた。
(……まずいな)
ダレンの強さはルーカスの想定以上だった。「他殺願望」を使っても対抗できないとなると、どうも分が悪い。
(さっきダレンが語った原典の能力が、俺に性癖の力を使わせないようにするためのハッタリだという可能性は? いや、奴は昔から頭が切れた。ハッタリだけで俺に勝負を挑んでくるほど、無策な男ではないだろう)
第一、ダレンはまだ自身の能力の一部しか明かしていない。複数所持しているらしい「二号戦士」の原典のうち一つしか使っていないし、性癖に至っては謎のままだ。敵の手札の内容が分かってもいないのに、早々にジョーカーを使うのは危険な賭けである。
「他殺願望」を使うのは、本当にそれ以外の手段がなくなったときにしよう――ルーカスはそう考えた。
「バリアが効かないなら、これでどうだ?」
ゆらりと立ち上がり、「チェンジ・ドラゴンフライ!」の音声とともに青いトンボの戦士へ変身。ほぼ同時に「クロックアップ」と呟き、超高速移動を開始する。
武器が同タイプの銃であるのなら、攻撃速度の速い方が有利に立ち回れる。この形態での高速射撃で、一気にダメージを与えてやろうという算段だった。
「……高速移動は、貴様の専売特許ではない」
だが、ダレンはそれすらも読んでいた。即座に変身を解き、バックル上部にアルファベットのTのような形のメモリを取り付けた。
「全て振り切ってやろう」
バイクをモチーフにしたような青の戦士へと変わったかと思うと、彼は取り付けたばかりのメモリを宙に放り投げた。
「はるばる王宮までやって来たというのに、もぬけの殻とはね」
やっとのことで無貌支持派の拠点へ踏み込んだまでは良かったが、倒すべき敵がいない。ピーター・バーガーは不満そうであった。
「ここまで来るとき、途中から妙に敵の数が少なくなったわよね。まるで、私たち以外を過剰に警戒してるみたい」
どうせルーカスが何かやらかしたんでしょうけど、とお菊がこぼす。
ガン・メン・Qを撃破して美明日、裕介と別れた後、二人は協力して超次元界を進んできた。道中、
「俺は無貌支持派のスーパーマン・ナンバー・シックス。スーパーな父と母がいて、そして第六位がここにいる!」
「第七位です。ここからは時間外労働です」
「俺が第八位だ。この世にヒーローがいねえから、俺がヒーローになる!」
「僕ちんが第九位だよ~。九の道に生き、九の道に進む。私がやらねば誰がやる!」
などと言って、一癖も二癖もある自称第○位たちが邪魔をしてきた。しかし、和解して心が通じ合ったピーターとお菊のコンビネーションはなかなかのもので、難敵たちに連戦連勝した。
九位が「こりゃおったまげ~!」と悲鳴を上げて退いた後は、敵の数がめっきり減った。元々、リボンを駆使してスピーディーに移動できる二人は、支持派が出てこないのを良いことにどんどん進んでいった。
「人間界へ戻った皆のことも気がかりだわ。裕介からは『第一位と第三位、それからルーカスとやり合ったけど何とかなったぜ。今から修行してくる!』って連絡があったけれど、割と真面目に心配よ」
「彼からの通信、詳しい状況が何も伝わってこなかったからね……」
よほど切羽詰まっていたか、興奮していたかどちらかだろう。ピーターは苦笑した。お菊が渡した通信機は、いまいち役に立っていない。
と、そのとき、遠くで爆発音がした。王宮を取り巻く壁は外部からのノイズの大半をシャットアウトするが、壁を越えて響いてくるようだった。
「また無貌支持派が暴れてるのかしら?」
「だとしたら、一体誰と?」
二人は顔を見合わせた。
「……もしかして、ルーカスが超次元界に戻ってきて、支持派と交戦中とか? 人間界で百合・BLレンジャーにダメージを受けて休養しに来たら、寝込みを襲われたんだったりして」
お菊が咄嗟にした推測は、大体合っていた――戦隊たちにではなく第一位にやられたという部分だけ違っていたが。
「本当に支持派が彼に挑んだなら、かなり腕の立つ幹部を送り込んだんだろう。僕らだけで対処できるか、正直ちょっと怪しい」
「となると……」
「うん」
微笑を浮かべ、ピーターは言った。
「場合によっては、裕介たちをこっちに呼び戻す必要があるね」
ルーカスと支持派の最高戦力が激突しているのだとしたら、文字通りクライマックスの局面だ。勝者が世界の在り方を決められると言っても過言ではない。
最後の戦いのときが迫っているのを、二人の戦士は肌で感じ取っていた。
※今回一瞬だけ登場した、第6位~9位の元ネタです。
・第6位:ウルトラマンタロウ(オープニングの歌詞に「ナンバーシックス」とあることに由来)
・第7位:「呪術廻戦」より「七」海建人
・第8位:「炎炎ノ消防隊」より、第「8」消防隊の森羅日下部
・第9位:宇宙戦隊「キュウ」レンジャーよりリュウコマンダー