かつて、名古屋の街で裕介や美明日と戦ったバッタ怪人を呼び出す。ギースと同じく格闘を得意とするため、連携も取りやすいだろうと判断してのことだった。
しかしどういうわけか、怪人は出現すると黙ったまま悠然と歩き、なぜかそこに停めてあった黒いバイクに跨ったのである。
すると、バイクの進行方向に、側面に金色の紋様が付いた「本当にどこへでも行けるドア」が出現した。復活し、ダレンから力を分け与えられたBLACON・SUNは、時を越え空を駆けるパワーすら手にしたというのだろうか。
「――お前は見たか? 愛が真っ赤に燃えるのを!」
スロットルを回すと、バッタの複眼を模したようなライトが赤く発光する。そのまま加速してドアをくぐり抜け、ビルの外壁にバイクごと体当たり。派手にぶち抜く。
「信じる奴が、ジャスティス!」
ブウウン、と重低音を響かせながら、時折バイクでジャンプしたりして海沿いの道を爆走し始めた。ルーカスやギースに加勢する気配は微塵もない。それどころか、どんどん戦場から遠ざかっていく。開け放たれた桃色の扉から見えるのは、人間界をバイクで疾走するバッタの戦士の勇姿であった――時々、何かの曲の歌詞みたいなフレーズを唐突に口走っているが。
「待て、BLACON・SUN。貴様、私が再び命を授けてやったというのに、その態度は何だ。私に従い、ルーカスを倒すのを手伝え!」
「黙れ!」
一瞬スピードを落とし、BLACON・SUNは首だけで振り向いた。
「俺はオメガ珈琲シルバーたちとの戦いで、原典ではなく絆や愛の力で強くなることの大切さを知った。私利私欲のために原典を利用する悪魔には、二度と従わない! ダレン、許さん!」
再び加速したバッタ怪人は、トンネルの暗闇の中へと消えていった。その背中を、ダレンは怒りとともに睨みつけた。
「……貴様は一生苦しむことになる。この私を裏切ったのだからな。一生後悔して生きていくのだ。私こそ、次期超次元界の王だ!」
やがてゲートは閉じ、消滅した。
BLACON・SUNの処罰は後回しにして、ダレンは戦場へ向き直った。ギース・ヤンデレーザーフォームがルーカスに猛攻を仕掛けている。ルーカスは両腕に装着した爪型の武器で防御に徹し、凌いでいるといった状況だ。
(さて、どうしたものか)
のらりくらりと立ち回りつつ、冷静に考えを巡らせるルーカス。
(ここまでの戦いで、ダレンは既に三種類の原典を披露した。だが、奴がどの原典や性癖の力であのとき生き延びたのかは、いまだに分からないままだ)
最初に使用したのは、強敵キラーの銃撃戦士。次は、高速移動のバイク戦士。そして、カードの力で傀儡を召喚する戦士。どれも強力だが、防御や回避よりは攻撃寄りの性能である。
人間界へ派遣されたとき、ルーカスは同行した仲間たちの不意を突いて斬りかかった。ダレンの場合、初撃で額から頬にかけて斬りつけた。額から目元へ垂れる血で視界を封じてから、胴を袈裟懸け斬りにしてやったはずだ。それにもかかわらず、なぜか彼は生きている。
(性癖の能力に至っては、何も判明していない。奴め、まだ切り札を隠しているな?)
敵はとっておきのカードを温存している。一方のルーカスは、切り札である「他殺願望」を封じられて不利な戦いを強いられている。
(得体が知れないな、本当に)
「フリーズ」のカードを装填し、ギースの肉体を数秒間凍結させる。動きが止まった隙にルーカスは斧を一振りし、ギースの装甲から火花を散らせた。
「……ひとまず、こっちから片付けるとするか」
パワーはあるものの攻撃がワンパターンなギースへの対処は、そう難しくはない。凍結効果が解けたギースへ爪での斬撃を浴びせ、ルーカスは楽しそうに言った。
その頃、ムーヴォはBL警察本部に預けられていた。百合・BLレンジャーが全員出動している今、ツカサとカイリの自宅に一人で残すのは危険だと判断されたからである。
「ムーヴォ、としょしつでほんよむのあきた。けいさつやさんをでて、あそびにいきたいます」
「だ、ダメですよムーヴォちゃん⁉ 今、外では戦隊の皆さんが超次元生命体と戦っているんですから!」
図書館から出て行こうとした少女を、女性職員が慌てて止める。
「そ、そうだ! BL警察には、身寄りのない子供たちの養護施設があるんです! ムーヴォちゃんも、そこの子たちと一緒に遊んでいきませんか?」
「なんていうしせつ?」
「『流れ星塾』っていうんだけど」
「そのじゅくのどうそうかいにいったらころされそうなきがするから、ムーヴォあそんでいかないます。それにながれぼしは、いかにかがやこうとおちるうんめいにあるます」
「何なの、その滅茶苦茶な理由は⁉」
女性職員の悲鳴をも意に介さず、ムーヴォは警察本部からダッシュで逃げてしまった。
遠くで爆発音のようなものが聞こえた気もするが、まあこの辺はまだ大丈夫なんじゃないだろうか。そんな希望的観測を胸に、あてもなく繁華街をぶらぶらしていた。
「――ムーヴォちゃん、こっちにおいでよ!」
不意に声を掛けられて、ムーヴォは嫌そうな顔をして振り向いた。どうせ、職員が追いかけてきたのだろうと思ったからだ。スパイアニメのように華麗なる脱出をするのは難しい。
だが、近寄ってきていたのはピエロだった。白塗りの顔に、赤い鼻。一輪車に乗ったまま器用にジャグリングをして、彼は不気味な笑顔を浮かべていた。
「一緒に遊ぼう!」
「うわああーっ⁉ こわいます~!」
思わず悲鳴を上げて、ムーヴォは踵を返して走り出した。本能的な恐怖を感じる。あのピエロからは、自分と同じ気配――超次元生命体の気配がした。
「遊ぼうよ! 遊ぼうよ!」
歌うように言い、ピエロは一輪車で少女を追いかける。少女は必死に逃げるが、歩く速度の遅い子供に追いつくには、ジャグリングしながら一輪車を濃いでも十分だった。
「おことわりするます! だいたい、ムーヴォになんのようがあるますか?」
「……簡単なことだよ。君を捕まえて偉い人に献上すれば、僕は大出世できるのさ!」
笑みを深めたピエロが、出し抜けに一輪車から飛び降りた。その肉体が、灰色の皮膚を持った怪人へと変化していく。頭部と肩がキノコのような形をしており、顔に鉄仮面を被った怪人だ。
「僕の名前は『トードスツール・マシュルウム』。元々はガードノイド・マッシュ様の一番弟子だったが、マッシュ様が倒された後は第三位に拾われた。ま、君にこんなことを話したところでちんぷんかんぷんだろうけど」
第三位・超次元ライダーデルタは、部下を人間界へ送ってルーカスの能力を探らせていた。そのとき派遣されたのが、トードスツール・マシュルウムだったのである。
任務完了後も人間界に留まっていたキノコ怪人は、ムーヴォを襲う機会を窺っていた。そして今日ついに、ヒーローたちが出払った隙を見て接触したというわけだ。「いや第二位ダレンに加勢しに行けよ」とツッコミたくなるが、直属の上司が第三位だったトードスツールからすれば、ダレンへの忠誠心はさほど厚くなかったのかもしれない。
怪人が現れたのを見て、通行人たちは悲鳴を上げて散り散りになった。少女を守ろうとする者は誰もいない。ツカサもカイリも、ナオヤたちもダレンが召喚した戦士たちを相手取るのに精一杯で、ここに駆けつける余裕がなかった。
「こ、こんなことなら、けいさつやさんからだっしゅつしなければよかった……!」
「何か後悔しているのかい? 大丈夫、痛めつけたりはしないよ。君はただ、僕と一緒に来てくれればいいんだ。無貌様の後継者になってもらうためにね!」
目に涙をためて後ずさるムーヴォへ、キノコ怪人が腕を伸ばす。
「――無貌支持派の仕業か!」
そこに、漆黒のバイクが疾走してきた。減速せず、運転手はバイクで怪人に体当たりする。
※誠に勝手ながら、GW中は更新をお休みさせていただきます。次回の更新は5月8日の予定です。
お待たせして申し訳ありませんが、よろしくお願いします。読者の皆様も良いGWをお過ごし下さい。