「ぐあっ⁉」
予想だにしていない攻撃に、さすがのピエロも反応できなかった。吹っ飛ばされてアスファルトにうずくまる敵を一瞥し、バイクから降り立った怪人は呟いた。
「こんな幼気な少女までをも狙うとは。許さん!」
「おじさん、だれ??」
ムーヴォの問いには答えず、バッタ怪人はただ一言「逃げるんだ」と囁く。こくりと頷いた少女が、あたふたと走って逃げて行く。
「……い、一体誰なんだ、君は! 超次元生命体と見受けるけど、どうして僕を攻撃する⁉」
ようやく体勢を立て直したトードスツール・マシュルウムが叫ぶ。黒いバッタ怪人は無言で敵へ向き直り、腰を落とした。両の拳を固く握り締め、体の右側で構える。
「俺は超次元ライダーBLACON・SUN。変……身!」
全身から蒸気のようなものが溢れ出し、緑色の光に包まれる。腰に巻かれていたベルトが自動で変形することで、二段階目の変身が開始された。仕組みは不明だが、「テレレレ~♪」と専用のBGMらしきものまでベルトから流れている。来部ボクサーもびっくりの仕様だ。
裕介たちと戦ったときの彼は、無貌が倒された影響で弱体化しており、完全体になれなかった。ダレンから力を分け与えられた今、BLACON・SUNの真の力が目覚める!
禍々しく生物的なフォルムが洗練され、より人型に近い、シャープで引き締まった肉体の黒の戦士へと変わった。
「ダレンめ。よくも、少女を怪人に襲わせたな! 許さん!」
「何だかよく分からないけど、僕の仕事の邪魔をしないでもらおうか!」
鉄棍を召喚したキノコ怪人が、雄叫びを上げて突進する。BLACON・SUNは手刀の一撃でそれを叩き折ると、拳に赤いエネルギーを纏わせてジャンプした。
「『ライダー・ブラコンパンチ』!」
「ぐあああああっ⁉」
凄まじい破壊力のパンチを受け、トードスツールの体が宙を飛ぶ。かろうじて倒れずに着地した彼は、腹部に深い傷を負っていた。
「ならば、これでどうだ!」
頭部から毒の胞子を飛ばし、キノコ怪人は負けじと声を張り上げた。
「この胞子を浴びた者は、男性なら髪形がマッシュヘアに、女性ならシースルーバングになる。今は亡き師匠と同じ、ノーマル性癖の中でも量産型のイメージを反映した特殊能力だ!」
「そうか。だが、俺はバッタの怪人だからな。髪の毛という概念はないぞ」
「し、しまった!」
もっとも、仮に髪の毛があったとしても「髪型が変わったからそれが何だ」という話ではある。戦いへの影響はほとんどないのではないだろうか。
「終わりだ。『ライダー・ブラコンキック』!」
毒胞子をものともせず、BLACON・SUNがトードスツールへ突進する。地面を強く蹴ってジャンプし、真っ赤なエネルギーを帯びた跳び蹴りを見舞った。
破壊エネルギーを流し込まれたキノコ怪人は崩れ落ち、体から青い炎を上げて灰化した。
「……俺は正義の戦士として生まれ変わった。これからは、人間の自由のために戦う。ダレン、お前の支配には屈しない!」
そう言うと、BLACON・SUNは黒いバイクに跨り、またどこかへ颯爽と走り去った。
『ジゲン・ライド! オーバーリボンズ!』
新たなカードが装填され、お菊とピーターの行く手に、真っ黒な顔ののっぺらぼうが立ちはだかった。かつてオメガ珈琲シルバーに倒された超次元生命体、無名である。
「……お前たちの相手は、この俺だ」
無名の腰には既に、ダレンの力で復元されたリボンズドライバーが装着されていた。ドライバーへスタンプを押印し、変身する。
『デリート・アップ! UNKNOWN! UNLEST! UNLIMITED! アメリカン・ファイター! オーバーリボンズ!』
クワガタムシが右側から抱きついたようなデザインの鎧とマントを身に纏い、ファイティングポーズを取る無名。
「誰かと思えば、裕介がベルトごと大爆発させたっていう超次元生命体か。お菊さんから奪ったリボンズドライバーで、よくも好き勝手してくれたね」
ピーターが肩をすくめた。
「君の相手をしている時間はないんだけどな。早くダレンやルーカスに対処しないと、まずいことになる」
「……お前たち、ひょっとして俺のことを雑魚キャラだと思っていないか?」
マスクの下で、無名はちょっと傷ついたような表情を浮かべていた。
「確かに、あのとき俺はオメガ珈琲シルバーには後れを取った。だが、旧式のリボンズドライバーを使っているお前たちごときに、負けはしない!」
言うやいなや、オーバーリボンズは技を発動した。「電気ウナギ! リボンミックス!」の音声とともに、手から電撃が放たれる。
「ここは任せて」
リボンダーマンと入れ替わるかたちで前に出たお菊が、電気ウナギのスタンプで同種の技を発動。二つの雷撃がぶつかり合った結果、競り勝ったのはオーバーリボンズだった。直撃こそ逃れたものの、衝撃波を受けてリボンズとリボンダーマンが後退する。
「フン、どうだ!」
威勢よく叫び、無名はさらにトカゲのスタンプの能力をも起動した。
「俺のリボンズドライバーは改良型。使用するスタンプは同じでも、旧型とは出力が段違いだ。要するに、俺はお前たちよりも強いということだな!」
「何よ、偉そうに。少し良い装備を使っているからって、いい気にならないでよね。すごいのはあなたじゃなくてドライバーでしょ」
お菊もトカゲの尾の装備を召喚して対抗するが、やはり打撃力ではオーバーリボンズに劣る。尾を振るった全力の一撃を防ぎきれず、軽く吹き飛ばされてしまった。
「そのドライバーをバージョンアップさせたのは、俺自身の技術力によるものだ。お前こそ、アメリカのヒーローが開発した武器を拝借していた分際で調子に乗るな!」
とどめを刺してやる、と息巻き、無名はクワガタのスタンプをベルトに押し込もうとした。放つのは、昆虫の脚を模した機械アーム。リボンズの動きを完全に封じた上で、引導を渡してやるつもりだった。
「……させないよ」
しかし、スタンプを持った腕を、リボンダーマンの手首から放たれたリボンが絡めとる。ピーターの妨害によって、必殺技「リボンズ・フィニッシュ」は不発に終わった。
「できれば、ダレンやルーカスと戦う前にこれを使いたくはなかったんだけどね。手の内を明かした状態で一戦交えるのは、得策じゃないし」
「何だ? 一体、お前は何の話をしている⁉」
思わせぶりな台詞を吐いたピーターに、無名は動揺していた。
「見せてあげようと言ってるのさ」
リボンに覆われた顔が、笑ったように見えた。
「――僕の性癖の、真の力をね」