「僕が変身するヒーローの姿が、蜘蛛のパワーを使うアメコミヒーローを元にしていることは、皆何となく察していると思う。けど、性癖の詳細を明かしたことはなかったね」
ピーターの手首から伸びたリボンが、まるで意志を持っているかのように空中でうごめく。そして、網状に編み上げられていく。
「あの日……僕が高校の社会見学の日に偶然手にした同人誌のジャンルは、『緊縛』。推しの裸体が縄で縛られ、羞恥に頬を染めているさまには想像を絶する破壊力があった。リボンで覆われたこの姿は、緊縛への憧れを反映したものだ!」
「だからどうしたと言うのだ。お前のしょうもない性癖を、ドヤ顔で暴露するな!」
力任せに腕を振り抜き、オーバーリボンズがリボンを振りほどく。
「第六位から第九位までの超次元生命体との戦いの中で、僕は自分の性癖を再認識し、それに磨きをかけた。さあ、ご覧。これが僕の本当の力。『緊縛』のパワーだ!」
蛸のスタンプを使用し、無名は四本の機械アームを繰り出してきた。向かってくる敵をじっと睨み、リボンダーマンが性癖を解放する。
「――『性癖操術』。『癖縛』!」
リボンの網がオーバーリボンズへ絡みつき、機械アームごと縛り上げた。単純な強度でリボンが金属に勝てるはずはない。だが、「緊縛」性癖の効果で、リボンの網の耐久度は何万倍にも増幅されていた。四本のアームの抵抗をものともせず、ギリギリと締めつける。
「お得意の拘束技か。こんなもの、オーバーリボンズの全スタンプの力を総動員すれば……」
「『縛斂』」
リボンミックスをフル使用される前に、ピーターが追い打ちをかける。圧縮したリボンを手から矢のように飛ばし、無名の胸部装甲を撃った。
「ぐあああああっ⁉」
貫通は免れたが、ダメージは深刻だった。アーマーからは白煙や火花が立ち昇っている。
衝撃で数メートル吹き飛ばされたオーバーリボンズへ、リボンダーマンがラッシュを仕掛ける。右目に刺青のような赤い紋様が浮かぶのと同時、彼の身体能力は一気にブーストされた。
「――『癖緊縛動』」
体に巻き付けられたリボンをさらに強く巻くことで、体温や脈拍を調整し、いわばドーピングのように能力を底上げする術である。近接戦闘に特化した状態になったリボンダーマンは、パンチやキックの嵐を無名へ浴びせた。ガッ、ドガッ、と一撃見舞うごとに、装甲が粉砕されていく。
「こ、こんなはずでは……」
やがて、オーバーリボンズは膝を突いた。
「ダレン様に復活させていただいたのに、俺はまた負けるのか。なぜだ⁉」
「のっぺらぼうみたいな外見から察するに、君は無貌に憧れを抱いているようだけど」
もはや息も絶え絶えになった彼を見下ろし、ピーターは攻撃の手を止めて静かに言う。
「その憧れが仇になったんだ。君と僕の違いはただ一つ、性癖を戦いに活かしたかどうかさ。無貌を尊敬するあまり、原典の力のみに頼ろうとしたのが君の敗因なんじゃないかな」
もっとも、無名が捨てたのはあくまでも外見だけだ。記憶までは捨てていない。それゆえに早川裕介からは、中途半端だの底が浅いだの散々な言われようだった。
けれどもピーター・バーガーは、曲がりなりにも無貌へのリスペクトを認めてくれた。悪い心地ではなかった。
「終わりにしよう。とどめは譲るよ、お菊さん」
後ろを振り返ったリボンダーマンが、仲間に声を掛ける。「言われなくても分かってるわよ」と元気な返事とともに、お菊はスタンプを押印。必殺技を発動した。
『リボンズ・フィニッシュ!』
リボン状の破壊エネルギーを脚部に纏わせての跳び蹴り。命中と同時にエネルギーが蜘蛛の脚のような形に変わり、オーバーリボンズの胸部を貫いた。
「……敵ながら天晴れだ。最期にお前たちと戦えたことに、悔いはあるまい!」
どこか清々しさを帯びた台詞を口にし、超次元生命体・無名は大爆発の中に消えた。
ダレンたちの元へ進もうとしたピーターの肩を、お菊が叩く。
「はい、これ」
爆発の瞬間にリボンを伸ばし、彼女は無名からクワガタのスタンプを奪い取っていたのだ。
「あなた、量産型のドライバーとスタンプしか持っていなかったでしょう? オーバーリボンズに変身できれば、色々と都合が良いんじゃないかしら」
「手癖の悪さは相変わらずだね」
ピーター・バーガーは苦笑した。
「でも、今はそれが頼もしいよ。ありがとう」
「性癖操術」を会得した今の彼なら、リボンズドライバーを使わなくとも十分すぎるほど強い。だが、戦士の進化に果てはない。
さらなる力を手にしたリボンダーマンは、はたしてどんな成長を遂げるのだろうか。誰にも予測できはしない。
なお、お菊はオリジナルのドライバーもちゃっかり頂いていた。これで低スペックな量産型リボンズドライバーを使う必要はなくなり、彼女もまた地味に強化されたと言えるだろう。