「最初に言っておく。私はかーなーり強い!」
どこからともなく大剣を取り出し、ダレンは立ち並ぶ敵を見回した。皆、マジェスティ状態の彼の能力の全貌が分からないのか、先制攻撃を仕掛けようとする者はなかなかいない。
「かかってこないのなら、こちらから行くぞ。まずは貴様だ!」
たまたま正面にいたBLホワイトに目を止め、ダレンは疾駆した。対するツカサは、パンチで迎え撃つ。「望むところよ!」と威勢よく殴りかかった。
(あれっ……?)
刃と拳がぶつかり、火花が弾けた瞬間、彼女の意識には奇妙な空白が生じた。
(あたしは今、何をしているんだっけ)
ごく当たり前のことが認識できない。今現在、自分が置かれている状況すらも忘れている。
(そうだ、戦いよ)
どうにか思い出した。超次元界で、世界の命運がかかった大切な勝負に挑んでいるところだった。
(……誰と?)
「忘れてしまったようだな」
彼女の意識が途絶えかけた数秒間の隙に、マジェスティはホワイトの真横へ回ってさらに一撃を繰り出した。
「ならば教えてやろう。無貌支持派の第二位、ダレンだ!」
剣にカードを装填し、「フル・チャージ」と認識音声が鳴ってから、アルファベットの「A」の形をした緑色の斬撃を飛ばす。おそらく必殺技だろう。
「何やってんだよ、ツカサ! 避けろ!」
切羽詰まった調子でカイリが叫ぶが、ぼうっとしている彼女には届かない。無防備に斬撃を喰らって、吹き飛ばされてしまった。
「あいたたた……」
マスクの下で顔をしかめ、ツカサがふらふらと立ち上がる。見たところ、軽傷。木の幹にしたたかに体を打ち付けていたけれども、ホワイトへの強化変身で得たアーマーが守ってくれたのだ。
ツカサはまだ混乱しているようだ。彼女を守るように前に出て、カイリはエックスチューナーの銃口をダレンへ向けた。
「てめえ、ツカサに何かしやがったな。たぶん、認識阻害系の能力なんだろうけどよ」
「理解が早くて助かるぞ」
剣をボウガン型へ変形させつつ、第二位は笑う。
「今使った原典の能力は、『誰から攻撃されたのか』を一瞬だけ忘れさせるというものだ。発動条件は、私の武器もしくは、そこから放たれた攻撃が対象に触れること」
この原典のヒーローは、変身するたびに人々の記憶から自分が消えていく。忘れられてもなお戦う、悲しい宿命を背負った男である。ダレンの能力は、「忘れられる」ことを逆手に取ったようないやらしいものになっていた。
この能力の真価は、一対一の状況で発揮される。自分が攻撃するたびに相手の記憶には混乱が生じ、隙だらけになる。もう一度攻撃すればなおのこと。そうやって記憶の空白を突いて攻め続ければ、無限攻撃のような芸当さえ可能だ。相手は反撃することすらできずに敗北する。
多対一の今の状況では、一人を狙っても誰かがカバーしてしまうだろう。だからダレンは、少しずるい手を使った。
ボウガンをカイリへ向け、光の矢を射出する。
「避けたければ避けるがいい。その女がどうなっても良いのならな」
カイリとツカサが直線上にいる局面で矢を放てば、カイリは回避という選択肢をきわめて取りづらくなる。「クソッ」と悪態を吐き、彼はエックスチューナーから弾丸を撃った。
本来、百合ブラックの形態は格闘戦に向いている。武器も基本的には使わず、徒手空拳で敵をぶちのめすスタイルだ。けれども、触れると記憶が混乱する光の矢を、パンチやキックで叩き落とすわけにもいかない。それこそツカサの二の舞になってしまう。仕方なく、通常装備で対応しているというわけだった。
「なかなか粘るじゃないか。だが、これで終わりだ」
ダレンがカードをボウガンへ装填し、「フル・チャージ」の音声が再び鳴った。それを見て、カイリは叫ぶ。
「さっきの『ジゲン・ライド』のやつといい、お前の使う原典ってカード関係ばっかりだな。そんなにカードが好きかよ、このカードマニア! あと最近はポ〇モンカードの人気が爆発してレアカードがめちゃくちゃ高騰していますが、これについてはどう思われますでしょうか?」
「馬鹿め。カードはお守りではない。使うときに使わなくては、意味がないのだ。それから、バトル中に全然関係のない話題を出して、露骨な時間稼ぎをするのはやめろ!」
ダレンがボウガンを空に向けて撃つと、雨が降り注ぐかのように、全方位へ光の矢が放たれた。ツカサたちをフォローしようとしていたケイイチロウらは、慌てて退避する。銃で矢を撃ち落とすのに手一杯で、加勢できない。
「……残念だったね。君の能力は、僕と相性が悪いみたいだ」
「それを言うなら『僕たちと』でしょ?」
しかし、リボンを飛ばして矢を空中で絡めとれるピーターとお菊なら、対処はそう難しくはなかった。蜘蛛の巣のように張り巡らせたリボンで光の矢を防ぎ、ダレンへ接近する。
「どれ、久しぶりにこいつを使ってみるか」
二人が上手く立ち回っているのを見て、ルーカスは懐から三枚のメダルを取り出した。腰のベルトにセットし、スキャナーで一気に読み込んで変身する。
『リボン! 帽子! チョーカー! リ・ボ・チ! リボチ、リ・ボ・チ!』
ハットマン、チョーカー、そしてリボンダーマンの力が込められたアイテムを使用し、ロリーニンジャーが強化された。頭には黒い帽子、首にチョーカーを装着し、両手両足は赤いリボンで覆われている。
「ロリーニンジャー=ルーカス」と発覚する以前は「友情の合体フォーム(?)」という感じだったリボチコンボであるが、今となっては人間界のヒーローの力を部分的に奪われているかのようでちょっと複雑な気持ちになる。
「お前たちの力、ありがたく使わせてもらうぞ」
手首から飛ばしたリボンで矢を絡めとりながら、ハットマンの優れた身体能力を活かしてダレンとの距離を瞬時に詰める。チョーカーが使用したのと同じ機関銃を、近距離からぶっ放した。
「『性癖操術』、『縛斂』!」
『電気ウナギ! リボンズ・レクイエム!』
ピーターとお菊はルーカスと敵同士のはずだけれども、共通の敵がいるからか、妙に息ぴったりだった。ダレンへ接近した三人が、ほぼ同タイミングで技を繰り出す。銃弾、圧縮されたリボン、高電圧の稲妻が三方向からダレンを狙った。
「私は私にしかなれない。だが、これが私なのだ。……私は、私の嗜好に従って行動する!」
文脈がよく分からない台詞を唐突に吐いた後、「クロック・アップ」と発声。超高速移動を開始したダレンは、体を沈めてルーカスらの攻撃を危なげなくかわした。三人の包囲網をかいくぐり、カイリとツカサへ肉薄する。
「うおっ⁉ なんか急にこっち来たぞ!」
「何で⁉」
因縁の相手であるルーカスを一旦放置してまで、自分たちのところへまた向かってくるのは予想外だった。
「虫けらのような貴様ら人間は、私がすべて倒す。倒してみせる!」
あたふたしている二人へ、ダレンが青や黄のエネルギー粒子を纏った跳び回し蹴りを放った。防御もままならない二人を、まとめて軽く吹き飛ばす。
「くうっ……」
地面に尻餅をついて痛そうにしているツカサを、ダレンは満足そうに眺めた。
「良いな」
その目は、狂気を孕んでいた。
「良い女の死体ができるぞ」
※次回の更新は一週間後の予定です。