「……そうだなあ」
今まで沈黙を守っていた青年は、ウエスタンハットを手で押さえ、深く被り直した。自分の表情を隠すように。
「理由は二つある。一つ。俺の計画通りに事を進めるためには、お前らが殺害される現場は、誰の目も届かない辺境の方が都合が良い」
「殺害……?」
「ルーカス、君は一体何を言ってるんだ?」
アダムとトーマスの表情が強張る。
「二つ。これは単純に、俺の美意識の問題だが――真っ白な雪に滴る赤い血は、なかなか綺麗に見えるんじゃないかと思ったからさ」
刹那、ルーカスがウエスタンハットを放り捨てる。彼の目は爛々と輝き、口元には残忍な笑みが浮かんでいた。
「さあ、計画の第一段階のスタートだ。俺はお前らと一緒に『何者かに』殺された設定にして、悠々と行方をくらまそうじゃないか」
ロリーニンジャーへ変身した彼の手には、ロリーソードガンと忍者激推し刀が握られていた。
のちに「キンジ・オネガワ」が語ったところによると、忍者激推し刀は推し推し砲を接近戦用にデザインしたのだとか。しかし、それは真っ赤な噓。人間界に降り立ったその時点で既に、ルーカスは激推し刀を所持していた。初期のキンジが刀を使わなかったのは、実力の高さを隠していたからである。
「血迷ったか、ルーカス!」
腰に下げていた斧を手に取ったアダムが、唸り声を上げてルーカスへ突進した。筋骨隆々とした肉体にものを言わせ、力任せに斧を振り下ろす。
「俺が目を覚まさせてやるぜ!」
「あいにくだが、これ以上ないくらい覚醒してるぞ。理想を達成することがこんなに楽しいとは思わなかった」
アダムの渾身の一撃をひらりとかわし、ルーカスはすれ違いざまにソードガンを一閃した。アダムの胴に赤い線が入ったかと思うと、真っ二つに切断される。
切断面から大量の鮮血を吹き出しながら、屈強な男は倒れた。ほとんど即死で、彼の目はもはや焦点を結んでいなかった。
「う、う……うわあああああっ!」
仲間が切り殺されてパニックに陥ったトーマスは、抜き放った拳銃を無我夢中で撃ちまくった。
「無駄、無駄」
歌うように言い、ロリーニンジャーはソードガンをガンモードで構えた。トーマスの銃弾を自らのエネルギー弾でことごとく粉砕し、じわじわと追い詰めていく。
「そんなごくありふれた武器を具象化して使ったところで、俺には勝てないぜ」
大きく踏み込んだルーカスが、激推し刀を一振りする。それだけで、トーマスは首を切り落とされて絶命した。
「さて、次はお前だ」
キャサリンを一瞥し、ロリーニンジャーが駆ける。彼女の顔が恐怖に歪むのが、はっきりと分かった。
「……やめろ、ルーカス!」
ダレンは咄嗟に、身を挺して彼女を守った。両腕を広げて立ちはだかり、通すまいとする。
今自分が所持している原典は、周辺の探索に適したものだ。直接的な戦闘能力はないに等しく、ルーカスには対抗できない。ならばせめて、仲間だけは守りたかった。
「邪魔だ」
仮面の下で嘆息し、ルーカスはソードガンを振り下ろした。額から頬にかけて深く斬られ、ダレンが呻く。
溢れ出した血が目に入り、視界が塞がれた。よろめいたダレンを突き飛ばし、ルーカスはキャサリンへと斬りかかった。
「……にゃあああああっ!」
一方のキャサリンは、猫のコスチューム姿の怪盗へと変身を遂げた。アメコミ由来の原典を使った姿で、武器は手から伸びる鋭い爪だ。慣れない戦闘に震えながらも、彼女はさっきまで仲間だった敵を迎え撃つ。
元々、今回の人間界への調査部隊派遣は視察目的。原住民とやり合う気はなかったし、ましてや同胞と交戦することになるなど思いもよらなかったため、戦闘用の原典なんて皆ほとんど持ってきていなかった。
「ほう。お前、この面子の中じゃ少しはマシな原典を持っているようだな」
ソードガンの一撃を、キャサリンは両手の爪でかろうじて受け止めてみせた。ルーカスが呟く。
「だが、残念。使い手の力量不足だ」
ロリーニンジャーが僅かに力を加えただけで、キャサリンの爪は呆気なく折られてしまった。
「にゃっ……」
力の差は歴然だった。防御を崩されて反応が遅れた彼女は、激推し刀で胴を袈裟懸け斬りにされてしまう。
「……キャサリン! キャサリンっ!」
力なく倒れた彼女の元へ、ダレンは駆け寄った。額から流れる血のせいで、目は片目しか見えていない。それでも、必死に走った。
「しっかりしろ、キャサリン。死ぬな!」
「にゃはは。やっぱりダレンは優しいにゃあ。さっきだって庇ってくれたし。……けど、きっと私、もうダメだにゃ」
激痛と失血で朦朧とする意識の中、キャサリンはダレンの腕に抱かれ、儚げに笑った。
「ねえ、ダレン。私はしょっちゅうマイブームが変わるし、移り気な女だって思うかもしれないけど、私はダレンのこと嫌いじゃなかったにゃ。もしもダレンに奥さんがいなかったら、私がお嫁に行きたかったくらいだにゃん。貴方と一緒に生きていけたら、それだけで幸せを感じられた、と思う、にゃあ……」
細められた目が、閉じていく。おそらく、二度と開くことはないのだろう。
「おい。しっかりしろ。おい!」
嫌な汗が全身から噴き出た。肩を揺さぶっても、キャサリンは何の反応も示さなくなっている。
ほどなくして、彼女は息を引き取った。その亡骸を雪へ静かに横たえ、ダレンは涙を流した。同胞たちの死を前にして何もできなかった自分の無力が、ただただ許せなかった。
「――決して成就することのない想いを胸に秘めていた女が、死に際に男へ恋心を打ち明けて散る。なかなか感動的なシーンだな。これ、小説や映画にしても面白いんじゃないか?」
「ルーカス……貴様あああああっ!」
怒りを爆発させたダレンは、ゆらりと立ち上がった。拳を握り固め、カウボーイ風の忍者へ殴りかかる。
勝てないのは分かりきっていた。だが、こんな悪魔の所業を目の当たりにして、敵に雄叫びを上げて飛びかからずにいられようか。
「よくもアダムを、トーマスを、キャサリンを殺したな。私は貴様を絶対に許さん!」
「許されるつもりもないさ」
ダレンの拳を軽く受け止め、ルーカスは嘲笑した。
「この惨劇は序章に過ぎない。たかが数人殺して程度で罪の意識に囚われていては、俺の理想は実現しない」
そう言って、ダレンの胴を容赦なく斬る。キャサリンと同様に袈裟懸け斬りにされ、彼は崩れ落ちた。
純白の雪の上に、四人分の赤い花が咲いている。
「悪くない眺めだったぜ」
ルーカスはニヤリと笑い、変身を解除した。そして、どこかへ歩き去った。
ちなみにですが、今回キャサリンが使用した原典は、「バットマン」に登場するキャットウーマンです。映画「バットマンリターンズ」版のイメージです。