百合レンジャーvsBLレンジャー   作:クリスタルスカイ

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44 過去編!ダレンの惨劇

「……そうだなあ」

 

 今まで沈黙を守っていた青年は、ウエスタンハットを手で押さえ、深く被り直した。自分の表情を隠すように。

 

「理由は二つある。一つ。俺の計画通りに事を進めるためには、お前らが殺害される現場は、誰の目も届かない辺境の方が都合が良い」

「殺害……?」

「ルーカス、君は一体何を言ってるんだ?」

 

 アダムとトーマスの表情が強張る。

 

 

「二つ。これは単純に、俺の美意識の問題だが――真っ白な雪に滴る赤い血は、なかなか綺麗に見えるんじゃないかと思ったからさ」

 

 刹那、ルーカスがウエスタンハットを放り捨てる。彼の目は爛々と輝き、口元には残忍な笑みが浮かんでいた。

 

「さあ、計画の第一段階のスタートだ。俺はお前らと一緒に『何者かに』殺された設定にして、悠々と行方をくらまそうじゃないか」

 

 ロリーニンジャーへ変身した彼の手には、ロリーソードガンと忍者激推し刀が握られていた。

 のちに「キンジ・オネガワ」が語ったところによると、忍者激推し刀は推し推し砲を接近戦用にデザインしたのだとか。しかし、それは真っ赤な噓。人間界に降り立ったその時点で既に、ルーカスは激推し刀を所持していた。初期のキンジが刀を使わなかったのは、実力の高さを隠していたからである。

 

 

「血迷ったか、ルーカス!」

 

 腰に下げていた斧を手に取ったアダムが、唸り声を上げてルーカスへ突進した。筋骨隆々とした肉体にものを言わせ、力任せに斧を振り下ろす。

 

「俺が目を覚まさせてやるぜ!」

「あいにくだが、これ以上ないくらい覚醒してるぞ。理想を達成することがこんなに楽しいとは思わなかった」

 

 アダムの渾身の一撃をひらりとかわし、ルーカスはすれ違いざまにソードガンを一閃した。アダムの胴に赤い線が入ったかと思うと、真っ二つに切断される。

 切断面から大量の鮮血を吹き出しながら、屈強な男は倒れた。ほとんど即死で、彼の目はもはや焦点を結んでいなかった。

 

 

「う、う……うわあああああっ!」

 

 仲間が切り殺されてパニックに陥ったトーマスは、抜き放った拳銃を無我夢中で撃ちまくった。

 

「無駄、無駄」

 

 歌うように言い、ロリーニンジャーはソードガンをガンモードで構えた。トーマスの銃弾を自らのエネルギー弾でことごとく粉砕し、じわじわと追い詰めていく。

 

「そんなごくありふれた武器を具象化して使ったところで、俺には勝てないぜ」

 

 大きく踏み込んだルーカスが、激推し刀を一振りする。それだけで、トーマスは首を切り落とされて絶命した。

 

 

「さて、次はお前だ」

 

 キャサリンを一瞥し、ロリーニンジャーが駆ける。彼女の顔が恐怖に歪むのが、はっきりと分かった。

 

「……やめろ、ルーカス!」

 

 ダレンは咄嗟に、身を挺して彼女を守った。両腕を広げて立ちはだかり、通すまいとする。

 今自分が所持している原典は、周辺の探索に適したものだ。直接的な戦闘能力はないに等しく、ルーカスには対抗できない。ならばせめて、仲間だけは守りたかった。

 

「邪魔だ」

 

 仮面の下で嘆息し、ルーカスはソードガンを振り下ろした。額から頬にかけて深く斬られ、ダレンが呻く。

 溢れ出した血が目に入り、視界が塞がれた。よろめいたダレンを突き飛ばし、ルーカスはキャサリンへと斬りかかった。

 

 

「……にゃあああああっ!」

 

 一方のキャサリンは、猫のコスチューム姿の怪盗へと変身を遂げた。アメコミ由来の原典を使った姿で、武器は手から伸びる鋭い爪だ。慣れない戦闘に震えながらも、彼女はさっきまで仲間だった敵を迎え撃つ。

 元々、今回の人間界への調査部隊派遣は視察目的。原住民とやり合う気はなかったし、ましてや同胞と交戦することになるなど思いもよらなかったため、戦闘用の原典なんて皆ほとんど持ってきていなかった。

 

「ほう。お前、この面子の中じゃ少しはマシな原典を持っているようだな」

 

 ソードガンの一撃を、キャサリンは両手の爪でかろうじて受け止めてみせた。ルーカスが呟く。

 

 

「だが、残念。使い手の力量不足だ」

 

 ロリーニンジャーが僅かに力を加えただけで、キャサリンの爪は呆気なく折られてしまった。

 

「にゃっ……」

 

 力の差は歴然だった。防御を崩されて反応が遅れた彼女は、激推し刀で胴を袈裟懸け斬りにされてしまう。

 

「……キャサリン! キャサリンっ!」

 

 力なく倒れた彼女の元へ、ダレンは駆け寄った。額から流れる血のせいで、目は片目しか見えていない。それでも、必死に走った。

 

 

「しっかりしろ、キャサリン。死ぬな!」

「にゃはは。やっぱりダレンは優しいにゃあ。さっきだって庇ってくれたし。……けど、きっと私、もうダメだにゃ」

 

 激痛と失血で朦朧とする意識の中、キャサリンはダレンの腕に抱かれ、儚げに笑った。

 

「ねえ、ダレン。私はしょっちゅうマイブームが変わるし、移り気な女だって思うかもしれないけど、私はダレンのこと嫌いじゃなかったにゃ。もしもダレンに奥さんがいなかったら、私がお嫁に行きたかったくらいだにゃん。貴方と一緒に生きていけたら、それだけで幸せを感じられた、と思う、にゃあ……」

 

 細められた目が、閉じていく。おそらく、二度と開くことはないのだろう。

 

 

「おい。しっかりしろ。おい!」

 

 嫌な汗が全身から噴き出た。肩を揺さぶっても、キャサリンは何の反応も示さなくなっている。

 ほどなくして、彼女は息を引き取った。その亡骸を雪へ静かに横たえ、ダレンは涙を流した。同胞たちの死を前にして何もできなかった自分の無力が、ただただ許せなかった。

 

 

「――決して成就することのない想いを胸に秘めていた女が、死に際に男へ恋心を打ち明けて散る。なかなか感動的なシーンだな。これ、小説や映画にしても面白いんじゃないか?」

「ルーカス……貴様あああああっ!」 

 

 怒りを爆発させたダレンは、ゆらりと立ち上がった。拳を握り固め、カウボーイ風の忍者へ殴りかかる。

 勝てないのは分かりきっていた。だが、こんな悪魔の所業を目の当たりにして、敵に雄叫びを上げて飛びかからずにいられようか。

 

 

「よくもアダムを、トーマスを、キャサリンを殺したな。私は貴様を絶対に許さん!」

「許されるつもりもないさ」

 

 ダレンの拳を軽く受け止め、ルーカスは嘲笑した。

 

「この惨劇は序章に過ぎない。たかが数人殺して程度で罪の意識に囚われていては、俺の理想は実現しない」

 

 そう言って、ダレンの胴を容赦なく斬る。キャサリンと同様に袈裟懸け斬りにされ、彼は崩れ落ちた。

 純白の雪の上に、四人分の赤い花が咲いている。

 

「悪くない眺めだったぜ」

 

 ルーカスはニヤリと笑い、変身を解除した。そして、どこかへ歩き去った。

 




ちなみにですが、今回キャサリンが使用した原典は、「バットマン」に登場するキャットウーマンです。映画「バットマンリターンズ」版のイメージです。
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