懐から二枚のカードを取り出したルーカスは、それを左右の手に持ち、掲げた。
「さあ、クライマックスだ。お前たちの力、頂くぞ!」
お前たち、と呼ばれたのは、カードに描かれた巨大怪獣のイラストだろうか。二枚とも、最終回に登場しそうな雰囲気のある、強そうな見た目をしている。
「……超合体!」
「来い、ルーカス。貴様がどれほど強い原典を使おうとも、私はそれを上回ってみせる!」
カードを使って変身する素振りを見せたルーカスに対し、ダレンは二つの原典で応じた。まず、「強敵キラー」のクワガタの戦士の姿で使用した銃を召喚。次に、黒、白、赤の三色のラインが入ったタイヤを、なぜか胴にたすき掛けにした。
「私は、強くならなければなどと焦る必要はない。なぜなら私は、既に強いからだ!」
タイヤ装着と同時に、「バースト! 急にデッドヒート!」と認識音声が流れる。彼の全身からは、蒸気と熱が溢れ始めた。
「クワガタの戦士の能力は、格上の相手と同等に渡り合うというもの。そしてこのバイクの戦士は、自分の強さを信じることで、格上が相手でも粘り強く戦う力を持っている。二種類の対強敵用原典を行使している今の私に、隙はあるまい」
クックッと笑い声を漏らし、ダレンは言った。
「サイズが大きければ勝てるとでも思ったか? 馬鹿め。これら二つの原典にも、巨大な敵と戦う場面がないわけではないぞ。貴様らしくもない脳筋戦法だな、ルーカス……」
だが、彼の余裕はそこで途切れた。訝しげに宿敵を見つめる。
妙だ。カードを高く掲げたポーズのまま動かず、ルーカスは一向に巨大怪獣の姿へ変わる様子がない。
(原典を行使するのに失敗したのか? いや、あるいは自身が変身するのではなく、別の場所に怪獣を召喚するタイプの原典なのか?)
まあ、良いだろう。向こうから仕掛けてこないのならば、こちらから攻撃するまでだ。クワガタとバイクのパワーで無双している今のダレンに、敵はない。
「怖気づいたか、ルーカス!」
高熱を帯びた拳を叩き込もうと、ダレンが一歩踏み込んだそのときだった。ルーカスはカードを持つ手をすっと下ろし、それをベルトの左右に装填したではないか。
「……なーんてな」
巨大怪獣の力を使うつもりなど、最初からなかった。彼の狙いは、ダレンに自分の力を警戒させ、所持しているすべての「対強敵用」の原典を使わせることだったのである。
「こいつらは、こうやって使うんだよ」
『ゼツメツ・Evolution!』『ブレイク・ホーン!』
よく見れば、ルーカスが手にしていたのは紙のカードではなく、カードキーのように硬質なアイテムだった。左右にセットすると同時に、認識音声が流れる。
「ようやく俺の強さを証明することができる。変身!」
ベルトを素早く操作する。カブトムシとサイに似た動物型エフェクトが出現し、それらがアーマーとなって肉体へ装着された。
『パーフェクト・ライズ! When the five horns cross, the golden soldier THOUSER is born!』『Presented by ルーカス!』
頭部に五本の角を備えた、金、銀、黒の戦士の姿に変わった。
「超次元ライダー・サウザー。俺の強さは桁外れだ」
「何をしようが無駄だ」
両手を広げるようなポーズを取ったルーカスへ、ダレンが殴りかかる。
「私の強敵対策の前には、貴様の小細工など無意味。ここで死ね、ルーカス!」
「そいつはどうかな」
ひょいと身を屈め、パンチをかわすルーカス。いつの間にか右手に構えていた短槍に似た武器を振るい、その切っ先をダレンの腰のベルトに触れさせた。
接触と同タイミングで、短槍の柄に付いているレバーを引く。
『ジャック・ライズ!』
効果音が流れ、ルーカスの原典の能力が発動する。槍はダレンの持つ力を吸い取り、そのパワーを内部に蓄積した。
端的に言えば、原典の力を奪い取った。
「何っ⁉」
銃とタイヤが突然消滅し、さすがのダレンも動揺を隠せない。しかも、どういうわけか体が思うように動かなくなっている。恐る恐る、声を震わせた。
「貴様、一体何をした」
「この原典は、敵の能力をコピーすると同時に、その敵を弱体化させる力を持っている。要するに、俺は敵と同じ力を俺も使えるようになり、お前は元々持っていた力を発揮できなくなる。疑似的な原典の奪掠だ。今奪ったのは、お前が使用した二種類の対強敵用の原典さ」
再びレバーを引いた後、短槍の柄、人差し指が当たる位置にあるトリガーを引くことで、ルーカスは必殺技を発動した。奪った原典のデータを利用して繰り出す、オリジナルと同じかそれ以上の威力の技である。
『ジャッキング・ブレイク!』
槍を強く突き出し、切っ先から超高熱の炎を放つ。ろくに回避動作も取れないダレンは直撃を喰らって倒れた。
「ば、馬鹿な。私の切り札が奪われただと……⁉」
無様に地面に伏しているダレンを見下ろし、ルーカスは勝ち誇った。
「俺がお前相手に『他殺願望』を使えなかったのは、単に強化に強化で対抗されるのを恐れたからじゃない。――『他殺願望』はまず俺自身にバフをかけてから、次に敵の能力を封印する。クワガタの原典相手に使った場合、その力を封じる前にお前が自分の力を増幅し、封印の作用が効かないほど強くなる可能性が否定できなかったからだ」
最強無敵というシンプルかつ強力なパワーで、様々な原典の作用を強引に無効化してのけた第一位、ビッグ・ファースト。彼に対しては「他殺願望」が通用したが、もしももっと強い敵が相手だったなら、無理やり打ち消されたかもしれないとルーカスは考えていた。
第一位ほど極端なパワーを誇るわけではないものの、それに次いで強いダレンが、「他殺願望」を逆利用してさらなる強化を遂げたらどうなるか。あまり想像したくはなかった。
「したがって、クワガタの原典を確実に攻略するには、バフを伴わずにデバフのみをかける必要があった。……そうそう、この『サウザー』の原典は、予備の戦力として隠れ家に保管しておいたのを、第一位との戦いの後で超次元界に戻ったときに引っ張り出してきたんだぜ。発動条件の縛りとバフ作用がない、簡易的な『他殺願望』って感じだが、思わぬタイミングで役立ったな」
「……しかし、貴様が今しがた奪ったのは、マジェスティ状態の私の力の一部に過ぎないのであろう?」
第二位ダレンは、どうにかショックから立ち直りつつある。
「ならば、一度マジェスティへの変身を解いてから再び、クワガタやバイクの原典単体を使用すれば良いだけのことだ。私の強敵対策は、まだ失われたわけではない」
「違うな。『ジャック・ライズ』は、同系統の原典のパワーを根こそぎ奪う。お前が今後強敵キラーの力を使うことは、一〇〇〇%あり得ないぜ」
何なら他の原典も、マジェスティごと奪ってやろうか。そう言いたげに、ルーカスが短槍の切っ先を第二位へ向ける。ダレンがたじろぐ。
今や、形勢は完全に逆転していた。