「すなわち、すなわちってうるせえな。せめて『つまり』とか『要するに』とか、別の言い回しに変えろよ」
ぶつくさ言いながら、カイリがエックスチューナーを構えて百合エックスに変身する。他の面々もそれに続き、BLファイヤーを守るように陣形を組んだ。
「ナオヤくん、詳しい話は後で聞かせてもらうわ」
ツカサ――BLエックスが、BLファイヤーへびしっと指を突きつける。
彼女には「ナオヤくんは本当は百合派で、何か事情があってBL警察に所属しているに違いない!」と勝手な想像をしていた時期があった。百合の本をナオヤにプレゼントしようとしてカイリに止められたこともあったりしたので、「全然違ったじゃない!」と愕然としてもおかしくない。しかし、彼の設定が盛りに盛られていたため、もはやリアクションが追いつかなかった。
「でも、今はとにかく、協力してSSソルジャーを倒すのが先決よ。一緒に戦いましょう」
「余計なお世話だ」
けれども、BLファイヤーは彼女を押しのけ、無理やり前に出た。
「これは俺の戦いだ。お前たちは手を出すな!」
SSソルジャーへ猛然と突進し、ナオヤが「BLディフェンダー・ファイナルモード!」と音声コマンドを唱える。赤いエネルギーを帯びた刃で、敵を切り裂こうとした。
「何っ⁉︎」
だが、SSソルジャーの左手の盾はディフェンダーをしっかりと受け止めていた。
「刮目せよ。俺様は防御力もSS級だ。すなわち、そんな攻撃は通用しない!」
BLディフェンダーを容易く払い除け、今度はSSソルジャーが反撃に出る。右手の剣を縦に振り下ろし、炎の斬撃を放った。
「『SSエンド』!」
信じられない。あろうことか、一撃でBLファイヤーを吹き飛ばし、ビルの外壁に叩きつけて変身解除させてしまった。想像を絶する強さに、ツカサとカイリは恐れおののいていた。
「ねえ。いくら何でも、パワーインフレの速さが壮絶すぎない⁉︎」
「最初に俺たちを圧倒するツンデレキラーが現れて、次にツンデレキラーを圧倒するBLファイヤーが現れて、そしてBLファイヤーを圧倒するSSソルジャーが……あー、もう意味分かんねえよ⁉︎」
これがゲームか何かなら、運営にパワーバランスの調整をしてくれるようお願いするところである。しかし、現実に起こっている戦いでそんな都合のいい奇跡はない。
ぐったりしているナオヤをカイリが抱え、残りの五人は二人を庇うように立った。
「やむを得ない。一時撤退だ」
BL1号・ケイイチロウが判断を下した。
「現状、BLファイヤーは俺たちBL警察の最強の戦力だ。それが全く歯が立たない相手となると、このまま戦闘を続行しても勝てるとは思えない。……皆、弾幕を張るんだ! その隙に退いて、態勢を立て直すぞ!」
おう、と戦士たちが答え、それぞれの必殺技をSSソルジャーへ放つ。
「スペリオル・受け攻めショット!」
「エクセレント・ネコタチエックス!」
「BL・一撃ストライク!」
「百合・イタダキストライク!」
色とりどりの光弾が射出されたが、SSソルジャーは避けようともしない。全ての攻撃を盾で受け流して凌ぎ切り、もう一度「SSエンド」を発動させた。
「終わりだ、百合レンジャー、BLレンジャー!」
「ぐああああーっ⁉︎」
六人の戦士は大爆発の中へ呑み込まれ、悲鳴もほとんどかき消されてしまった。
命からがらBL警察本部まで逃げ延びたが、七人ともボロボロだった。
最も傷の深そうなナオヤは、カイリに付き添われて救護室に向かった。幸い、ナオヤ以外の六名は軽傷で済んだけれども、もし生身の状態でSSソルジャーの攻撃を受けていたら、確実に死んでいただろう。
会議室に集まった戦士たちの表情は暗い。
なお、BL警察だけでなく、百合怪盗の三人も入室が認められた。卍帝国に洗脳されていた頃は激しく対立していたが、今回はSSソルジャーと戦うために協力体制を取っているため、特例で許可が下りたのである。
「……知らなかったわ。ナオヤくんが実は高次元生命体で、裏切り者として命を狙われていただなんて」
ツカサが沈黙を破った。彼女の頬を涙が伝う。
「馬鹿だなあ、あたし。ナオヤくんは百合派なんじゃないかなーとか、平和な想像ばっかりしてた。実際は、もっと深刻な事情を一人で抱えてたのね」
「しかし、なぜ彼は高次元生命体としての力を使わず、BLファイヤーの力だけで戦っていたんだ?」
顎に手を当て、ケイイチロウが唸る。彼の頭には包帯が巻かれていた。
「警察の新装備に頼らなくても、十分戦えそうなものだがな」
「俺は高次元生命体としての力をほぼ全て失った。だから、お前たちの装備に縋るしかなかったんだ」
「そうか、なるほど……って、ナオヤ⁉︎」
何とはなしに頷きかけ、ケイイチロウがぎょっとしたように振り向く。見れば、会議室のドアからナオヤとカイリが入ってくるではないか。
「残っている力は二つだけ。一つは変身能力。もう一つは再生能力だ。もっとも、姿を変えると言っても人間の姿を維持するのが精一杯だし、再生能力も傷の治りが普通より少し早い程度だが」
「それで『少し早い程度』なのか……?」
SSソルジャーの攻撃で全身に火傷を負っていたはずだが、ほとんど完治したようだ。
「ともかく、怪我が治ったのなら何よりだ。詳しい話を聞かせてもらおう」
ケイイチロウが咳払いし、仕切り直そうとする。
「ナオヤ。高次元生命体であるお前がこの世界に来て、BL警察に入るまでのことを、最初からちゃんと話してくれ」
「お前たちには秘密にしておきたかったが、この状況で黙秘権なんて認めてもらえないだろうな。いいだろう、全て話そう」
観念したように、ナオヤが両手を上げる。
「SSソルジャーが言っていたように、俺は父さんを憎んでいた。数々の世界を侵略し続けるあの男を、許すことができなかった。戦いをやめるように何度も説得を試みたが聞き入れられず、俺はとうとう暗殺を決意した。……だが、失敗した」
そのときの様子を、ナオヤはゆっくりと語り始めた。
次元大魔王の体躯は巨大である。変身能力を使わない、素の状態で身長が五十メートルもあるのだ。その巨人にナオヤは――トランガは果敢にも挑んだが、ことごとく攻撃を跳ね返され、完膚なきまでに叩きのめされてしまった。
「馬鹿な。この俺が。皇子トランガが……」
うつ伏せに倒れたトランガへ、大魔王が屈み込む。変身能力を使って人間サイズまで小さくなると、手にした杖をトランガの手の甲へ突き立てた。
「ハアッ!」
「うああああっ! ううっ」
皇子が持っていた高次元生命体としての能力を、杖が吸い取っていく。力のほとんどを奪われ、激痛のあまり苦悶の叫びを上げるトランガへ、大魔王は笑いながらゆっくりと語りかけた。
「トランガ。俺の名を言ってみろ」
「じ、次元大魔王……」
息子の弱々しい声を聞き、大魔王がさらに口角を上げる。ぐりぐりと、杖を強く執拗に突き立てた。
「何? 『次元大魔王』だとォ?」
「うあああっ! 次元大魔王『様』っ!」
「そうだ!」
「様」をつけて呼ばせたことで自尊心を満たし、ある程度満足したのだろうか。勝ち誇った笑みを浮かべながらも、大魔王は息子の手から杖を離した。
「だが、殺しはせん。人間として生きながら、一生俺の名を恐れるんだ! ……ハハハハハッ!」
歩き去る大魔王。直後、闇に覆われた空間に変化が生じた。トランガの周囲に光が満ち、ワームホールが形成される。おそらく、大魔王が作り出したものだろう。
「うわあああっ! 助けてくれ。許してくれ!」
トランガの絶叫が響き渡り、ほどなくしてその体がワームホールへ吸い込まれる。
こうして皇子トランガの暗殺計画は失敗し、能力のほとんどを奪われた上で人間の世界へ追放されたのであった。