以下に述べるのは、第一位、第三位、そしてルーカスとの乱戦を経て、戦隊たちが特訓していた頃の出来事である。
週末、ツカサとカイリはムーヴォを連れて、訓練の息抜きにお出かけしていた。
二人は付き合ってこそいるが結婚はしていないし、今連れ歩いている少女も実の子ではない。彼女の母親は無貌。色々あって二人が引き取り、育てることになったのだ。だが、傍から見れば本物の家族のように見えたことだろう。
なお、三人の行き先はペットの入店ができないため、白くてもふもふした犬はお留守番である。出かけている間は、ナオヤが面倒を見てくれるそうだ。
「家族連れが週末のお出かけ先として選ぶのは、ショッピングモールである場合が多い。なぜなら、父親も母親も、平日の仕事や家事の疲れが溜まっているからだ。アウトドアをガッツリ楽しむほどの体力は残っていないから、近場で買い物ついでに遊べる場所が最適だよな」
車を運転しながら、カイリは得意げに蘊蓄を垂れた。この男、長野県のガソリンは他県より少し高いこととか、ニッチな知識だけは謎に豊富なのである。
「しかし俺は、家族連れで訪れるのにぴったりな場所をもう一つ知っている。子供たちは玩具やゲームのコーナーに夢中! お母さんは古着や家具家電、料理器具を安く買える! お父さんは懐かしのゲームとかオーディオとかパソコンとかその他諸々に釘付け! 三者三様の楽しみ方が可能な夢のお店が……ここだ!」
お父さんのくだりだけ若干雑だったが、勢いに任せてカイリは駐車場に車を停め、ドアを開けた。
「って、『ハードオン』じゃない⁉」
日本中に店舗を展開している、有名な中古屋さんである。お馴染みの青い看板を見上げるやいなや、ツカサは素っ頓狂な声を上げた。そしてカイリに詰め寄り、囁いた。
「あのね、カイリ。ムーヴォちゃんがいるとはいえ、あたしは一応、今日はちょっとしたデート気分だったわけよ。いつもよりメイクもコーデも気合入れてきたわけよ。なのに、何で行き先がよりによってハードオンなの⁉ 長野のときといい、どうしてこう定番のデートスポットを外して、妙なところに行きたがるわけ?」
「中古品にだってロマンはあると思うけど……すまねえ」
珍しく、カイリは素直に謝った。照れくさそうに頭を掻いている。
「俺、まともに付き合った相手なんて、お前が初めてだしさ。そういうの疎いんだよ」
「そ、そうなのね」
ツカサも顔を赤らめた
。
「……初めてよ、私も」
微笑ましい空気が流れ、彼女の怒りは消え失せてしまったようだった。
二人を眺めるムーヴォが、「ちちとはは、いちゃいちゃ」と神妙な面持ちで呟いた。
そんなこんなで、入店。
桃色の髪の少女に引っぱられるようなかたちで、まずは二階のホビーコーナーへ突撃。好きなアニメのグッズをたくさん見つけて、ムーヴォは嬉しそうにはしゃいでいた。
一方、ツカサはガラスケース内に陳列されたカード類を見ていた。
『さっきの「ジゲン・ライド」のやつといい、お前の使う原典ってカード関係ばっかりだな。そんなにカードが好きかよ、このカードマニア! あと最近はポ〇モンカードの人気が爆発してレアカードがめちゃくちゃ高騰していますが、これについてはどう思われますでしょうか?』
「前にあんたが言ってた通りね。確かに、一部のカードには何万円も値段が付いてるわ」
「カード一枚にその値段って、なかなかすごいよな。中古市場がそんな状態だから、転売をする輩も後を絶たねえらしい」
「あんたもやるの? カードゲームとか」
「ガキの頃はやってたけど、最近は全然だな」
首を振るカイリ。
「……懐かしいぜ」
視線の先には、発売された当初の、古いデザインのカードがあった。性能的には最近のカードに遠く及ばないものの、子どものときのカイリはそれを切り札として愛用していた。
中古屋を訪れた人の多くが口のする言葉が、「懐かしい」である。特に何も買わなくても、満足した気分で帰っていく。
そこに並んでいるのが、買う人も売る人も含め、色々な人の思い出が詰まった品々だからかもしれない。
ムーヴォにぬいぐるみを買ってあげて、そのコーナーを後にする。
次は衣類や家具を見ようか、という話になった。
最初は「古着、買ったことないのよね」と抵抗感を示していたツカサも、値段の安さについつい目が行くようになってきた。
「えっ、このバッグが二万……? 定価だと十万近くするわよ。めちゃくちゃお得じゃない!」
「お前さ、ゴークイーンズに財布を破壊されたときも似たようなこと言ってたよな? たぶん、買った後で『二万も使っちゃった!』って後悔するパターンだぞ」
「くっ、正論だわ」
ツカサは唇を噛んだ。百貨店のセールで手に入れた財布を秒で失った悲しみを、ひしひしと思い出した。
『この財布、本当なら二万円は下らないブランドものなのよ。それが何と、半額の一万円で買えたの! あたし、一万円も得しちゃっていいのかしら』
『一万円も得したって言うけど、事実、今お前はその財布のために一万円使ったんだぞ。どれだけ割引になったかも大事だが、どれだけ出費があったかも同じくらい大事だ』
「もしかしたら偽物が混じってるかもしれないし、買わなくて正解かも」
「いや、そんなことはないぜ」
最近の中古屋はすごいんだ、とカイリは力説する。
「画像スキャン的なアレで、AIが真贋判定をやってくれるシステムもあるらしい。もっとも店によってやり方が少しずつ違うだろうし、判定がミスる確率も1%くらいはあるって聞くけどよ」
「……あんた、何でそんなに詳しいわけ? まさか、関係者?」
引き気味のツカサの視線に気づき、彼は慌てて否定した。
「別に、ここで働いてたわけじゃねえよ。怪盗をバリバリやってた頃は、盗んだ商品を売り飛ばす先として、中古屋も一つの選択肢だったからな。内部事情に通じておいて損はないってわけだ」
「動機が不純だった⁉」
いつものノリでボケツッコミが始まった。