結局、ツカサは古着コーナーで自分用のものは特に買わなかった。子供服のセールをやっていたので、ムーヴォのために二、三着だけ買うことにした。
レジに商品を持って行くと、まず初めに「アプリはお持ちでしょうか」と聞かれた。
「いえ、ありません」
「――ありますッ!」
近頃はどこの店に行ってもポイントカードやアプリがあるなあ、と思いつつ、彼女は断ろうとした。が、すぐ後ろからカイリが身を乗り出し、スマホの画面を提示してくる。「ありがとうございます」と承る店員も、心なしか彼の勢いに引き気味に見えた。
「ちょっと、そんなにガツガツしなくてもいいじゃない」
さすがに見苦しい。恋人として、ツカサは会計をしながら小声で注意した。
「どこの店にもあるような、『二百円で一ポイント溜まります! 一ポイント=一円で使えます!』的なアレでしょ? 頻繁に来るわけじゃないんだし、そこまでお金にこだわる必要はないと思うけど」
「お前は分かってねえな。ハードオンの公式アプリのすごさを……」
いいか、よく見ろ、と言い、カイリは会計後のツカサを隅へ引っ張っていった。スマホの画面をずいと見せつける。
「このアプリがポイントを付与してくれるのは、会計のときだけじゃない。系列店に入店したときに『チェックイン』のボタンを押せば、それだけで一ポイント溜まる。つまり、店に行くだけで一円儲かるんだ!」
「そ、そう言われると、珍しいシステムなのかも……?」
「しかも、既に訪れたことのあるお店には印がつき、付近にあるお店や、全国のまだ行ったことのないお店まで表示してくれる優れものだ。このアプリの影響なのか何なのかは俺も知らねえが、全国のハードオンを制覇しようとしている猛者だっているんだぜ!」
ちなみに、カイリのスマホには「所持ポイント:十 合計五店舗に行ったことがあります」との表示が出ていた。アプリにめちゃくちゃ詳しい割に数が少ないのが、何だか可笑しい。
「それだけじゃねえぞ。ポイントを貯めれば上級クラスのアプリ会員になって、さらにポイントを貯めることもできるんだぜ!」
「うん。アプリがすごいのは分かったけど、あんた言うほど活用してないわよね⁉」
次行くわよ次、とツカサは恋人を引きずった。
おそらく、彼がアプリに詳しいのは、盗んだものを売る際のポイント付与が目的だったのだろう。今では怪盗から足を洗っているが、普通に犯罪である。良い子は真似してはいけないぞ!
ホビー、衣類と来て、次に足を運んだのは一階のゲームコーナーだった。
「中古でも、最近のはやっぱり高いのね」
ガラスケースの中のSWITCHやPS5,PS4を眺め、ツカサはため息を漏らした。さっきのブランドもののバッグよりも高いではないか。
「逆に、WiiやDSは安いわ」
「爆発的に売れたものは、時間が経つと中古の相場が一気に下がってしまうこともある。……あ、そうそう、安いと言えば、外せない場所があるぜ!」
カイリが案内したのは、ジャンク品を並べたコーナーだった。
ジャンク品とは、本来の機能が果たせないような、故障した商品のことを指す。ハードオンの場合、中古品には返金保証を付けるがジャンク品には付けないといった差別化がなされている。また、値札に「この商品にはこういう不具合があります」「細かい動作はチェックしていません」等の記載がある場合も多い。
当たり前だが、通常の中古品よりも値段は安いのだ。
「でもこれ、買ってどうするの? 動かないんでしょ?」
「単体では動かなくても、修理して使うこともできるし、あくまで部品取りとして利用する手もある。格安ジャンク品でパーツを集めて、パソコンを自作する人もいるくらいだ。意外と奥が深いんだぜ」
そう言いつつ、彼は奥の方へ移動した。青くて大きな箱に詰め込まれているDVDやゲームソフトを、ガサゴソ漁り始める。
「で、あんたのお目当ては何なのよ」
「この辺に置いてあるやつって、ディスクに傷が多いのを理由にジャンク扱いになってるのばかりなんだよな。でも、比較的傷が少ないのも混じってるから、上手くいけば話題作を激安価格でゲットできるって寸法だ」
「いや普通に買って使うだけかい!! あんな解説しておいて、あんたは修理も部品取りもやらないのね⁉」
「俺、プラモデルを組み立てるよりも、完成品のフィギュアとか買う方が好きなタイプだからさ。作る過程よりも、結果を楽しみたいんだ」
だからさ、とカイリは呟く。
「ここのところハードな訓練続きで、うんざりしてる。早いところ、ルーカスの野郎をぶちのめす結果を出してやりたいぜ」
「急に真面目な話になったわね……まあ、別に良いけど」
ひとまず、ムーヴォが好きだというゲームソフトは見つかった。今日はこれを買って家に帰ろうかと話し合っていたところ、ジャンクコーナーに威勢のいい声が響いた。
「今日は週末……すなわち、『ウィークエンド』! 爆買いの時間よ!」