「俺がこの世界へ来たのは、東京卍帝国が人々を洗脳し、百合とBLのブームを引き起こした後だった。確か、次元四天王の一人、ベノムが裏で操っていた不良グループだな」
「だから、『百合にもBLにも興味はない』なんて言ったのね」
ツカサは合点がいったようだった。
「あたしたちと違って、ナオヤくんは卍帝国の洗脳の影響を受けていなかった。性癖がノーマルすぎるのも納得だわ。いや、でも、ノーマルな男子がBLの魅力を知って堕ちて行くのもそれはそれで魅力的……」
「馬鹿、お前の趣味の話はいいんだよ」
そこにカイリがツッコミを入れる。
「ナオヤ、こいつは無視していいから続きを話してくれ」
「分かった」
はたして、ナオヤは即答した。本当に百合にもBLにも興味がないらしい。
「高次元生命体としての力をほとんど失ったが、俺は大魔王を倒すことを諦めたわけではなかった。――卍帝国の陰に隠れているうちは、まだましな方だ。次元四天王による侵攻はいずれ本格化し、俺が追放されたこの世界も、父さんの植民地にされてしまう。そうなる未来だけは、絶対に変えなければならないと思った」
「だから、父親と戦う力を得るためにBL警察に入り、BLファイヤーの装着員になった……と」
「ああ」
カイリの言葉に、ナオヤがこくりと頷く。
「滝沢ナオヤという名前は偽名だ。今のこの姿は、たまたま見かけた警備会社勤務の青年のものをコピーし、借り受けた。経歴も何もかも嘘で塗り固め、俺はただ、父さんを止めるためだけに今日まで生きてきたんだ。誰にも頼らずにな」
三つの謎が解けた。一つ目は、ナオヤが百合にもBLにも興味を示さない理由。彼が別世界からやってきたとき、東京卍帝国は人々の洗脳を既に終えていた。すなわち、彼は性癖を歪ませる洗脳を受けなかった。
二つ目は、ナオヤが力を求めていた理由。高次元生命体の力をほぼ全て失った彼は、人間の作り出した力を借りるより他になかった。それが、大魔王を倒すためのおそらく唯一の方法だった。
三つ目は、SSソルジャーがナオヤを狙っていた理由。ナオヤ――皇子トランガが大魔王暗殺を企てた際、大魔王は息子を殺しはしなかった。一度見逃してやった息子がまだ諦めておらず、しかも四天王の一人・ツンデレキラーを撃破するほどの脅威になっていたため、今度こそ殺すつもりなのだろう。ただし自分の手は汚さず、SSソルジャーに命じる形で。
なお、SSソルジャー曰く、大魔王がナオヤを見逃したのは「愛していたから」らしい。が、ナオヤの話を聞く限り、とてもじゃないが大魔王が良い父親だとは思えなかった。
パン、と高い音が鳴った。
ツカサがナオヤに平手打ちをしたのだ、と皆が気づくまでに数秒を要した。
「お前、何を……」
目を見開き、ナオヤが戸惑いを露わにする。その肩を掴み、ツカサは目に涙を溜めて言った。
「どうして、全部一人で抱え込もうとするわけ⁉︎ 複雑な事情があったのは分かるけど、あたしたちは同じ警察の仲間でしょ。もっと頼ってくれてもいいじゃない!」
「無茶言うな。高次元生命体同士の争いに、お前たち普通の人間を巻き込めというのか」
SSソルジャーに単独で挑んで敗北を喫したというのに、あくまで意地を張るつもりのようだ。ナオヤはツカサの手を乱暴に払いのけた。
「今までも、そしてこれからも、お前たちの力を借りるつもりはない。俺は自分自身の力で次元大魔王を倒してみせる」
「……何か勘違いしてるみたいだけどさ」
ぽんと彼の肩を叩き、カイリは穏やかに言った。
「今のお前は、自分一人の力だけで戦ってるわけじゃないぜ」
「どういうことだ」
怪訝そうな顔をしているナオヤの腕を取り、シャツを少し捲る。そこに装着されているのは、BLファイヤーへの変身アイテム・BLコマンダーだった。
「このアイテムを開発したのは誰か、知ってるか?」
「BL警察所属のエンジニアか」
「正解だ。じゃあ、なぜエンジニアたちがこれの開発に成功したか知ってるか?」
「彼らの腕が良かったからじゃないのか」
「半分正解で、半分ハズレだ」
コマンダーから手を離し、カイリがニヤッと笑う。
「模範解答はこうだ。――ここにいるお巡りさんたちが、これまで色んな奴らと戦って得られた戦闘データを元に、BLレンジャーの装備をバージョンアップさせて新戦士を作った。その努力の結晶が、BLファイヤーなんだぜ」
ま、俺もついさっきツカサから聞いた話なんだけどな。あーあ、怪盗戦隊にも追加メンバーが欲しいぜ……と悪戯っぽく付け足すのも忘れない。おかげで、張り詰めていた空気が少しほぐれた。
「警察関係者だけじゃない。BLファイヤーが作られたのは、市井の人々の平和を願う気持ちに応えるためでもある。――なあ、ナオヤ。今のお前はさ、そういう希望とか期待とか、皆の思いを背負って戦ってるんだ。自分一人だけで戦ってるだなんて、そんなわけない」
「俺が、皆の思いを背負っているだと?」
「その通りよ」
涙を拭い、ツカサが微笑んだ。
「ナオヤくんは既に、皆の力を借りて戦っているわ。ただ、自分で気づいていなかっただけ。だから、あたしたちにも協力させて。お父さんや次元四天王の侵略を止めたいという気持ちは、皆同じだもの」
「ナオヤ、お前は言ったよな。動物が群れを成すのは弱いからだって。だけど、あれは違うぜ。皆で力を合わせるからこそ、強くなれるんだ」
百合レンジャーとBLレンジャーの仲間たちを見回し、カイリが言った。
「皆がバラバラに戦っていたら、SSレンジャーには勝てない。一緒に戦おう。俺たち全員の力を合わせれば、どんな奴らにだって負けないぜ」
百合ブルー、イエローが頷く。
「ああ。一致団結すれば、俺たちに盗めない物はない!」
「SSソルジャーも、クシャクシャのポイにしてやるんだから!」
BL1号のケイイチロウ、BL2号のサクヤもそれに続く。
「今こそ、怪盗と警察の力を結集するときだ!」
「全力をぶつけてやりましょう。二次創作小説を司ってるだか何だか知りませんけど、あんなふざけた俺様キャラに世界征服されたらたまりませんよ!」
仲間たちの決意表明を目の当たりにし、ナオヤは束の間、瞑目した。
目を開けたときの彼の表情からは、迷いが完全に消えていた。
「俺はこれまで、高次元生命体の問題にこの世界の人々を巻き込むべきではないと考えていた。お前たちと距離を置いていたのも、それが理由だ。……だが、今ようやく分かった。父さんの侵略計画を阻止したいという思いは、俺もお前たちも皆同じ。全員が力を一つにして、侵略を食い止めようと必死に戦っているのだと」
そして、彼は深く腰を折った。
「今まで本当にすまなかった。一緒に戦わせてくれ、皆!」
「おう!」
ナオヤの心からの言葉を、拒む者はいなかった。
この瞬間、百合レンジャーとBLレンジャーは真に一つのチームとなった。BLファイヤー・滝沢ナオヤ(皇子トランガ)とも心を通じ合わせ、SSソルジャーへの反撃の狼煙が今上がろうとしている。