最後にチェリー色の原典の光が注ぎ込まれ、彼の変身は完了する。はたしてルーカスは、全身の皮膚が虹色のクリスタルのようなもので覆われた怪人へと変わっていた。
顔は、無貌と同じくのっぺらぼうである。
「……ハハハ。ハハハハハッ! 天国で見ているか、レベッカ? 俺も君の似姿になったぞ!」
自身の体を眺め回し、何も凹凸のない顔を愛おしそうに撫で、ルーカスは歓喜していた。
レベッカのことを覚えているところを見ると、どうやら記憶までは失っていないらしい。虚無のキャパシティーを総動員し、かつ外見的特徴を捨てることで、十数個の原典をその身に宿した化け物に変貌したのだ。
これだけ聞けば「何だ、無貌の劣化版か」と思うかもしれないが、「他殺願望」の力も有していることを考慮すると、無貌と同じかそれ以上だと推測される。
「見ていてくれよ、レベッカ。俺の全能力を総動員したこの姿で、すぐに百合・BLレンジャーを皆殺しにしてやる。そして俺は、新世代のヒーローとして人間界に君臨するのさ!」
「今のお前を見ても、彼女はきっと喜ばねえよ」
恐ろしい姿になったルーカスを見やり、カイリは首を振った。
「無貌は――レベッカは、こんなこと望んでないはずだ。彼女はただ、お前と一緒に普通の人生を歩みたかっただけなんじゃないのかよ。それをお前は、自分の性癖を満たすために全部めちゃくちゃにしたんだ。大勢の人々を巻き込んでな」
「黙れ!」
怪物は吠えた。
「レベッカは俺の全てだ。彼女の手で命を奪われるという究極の愛だけが、俺の心を真に満たしてくれる。それが叶わないというのなら、せめて俺のヒーローとしての活躍を彼女に見せてやりたい。愛を求めて何が悪い!」
「無貌になって記憶を捨てた時点で、レベッカはもうお前のことを覚えていなかったはずだ。お前の気持ちは、悲しい一方通行だぜ」
終わらせよう、とカイリは告げた。
「この悲劇の物語を」
「超次元生命体、ルーカス!」
VS・スワットモードへの変身に使った警察手帳型アイテムを取り出し、ツカサが叫ぶ。
「レベッカを絶望させて修羅に変えるために、数多くの命を奪った罪。彼女の心を殺した罪。無貌を誕生させ、高次元界及び人間界の植民地化を行わせた罪。無貌が倒された後もなお、大勢の命を弄んだ罪で……ジャッジメントよ!」
なぜか一拍遅れて、ウミカも「ジャッジメントですの!」と続けた。
極悪な超次元生命体に対しては、BL警察の要請により、遥か銀河の彼方にある次元最高裁判所から判決が下される。警察手帳に赤い「×」マークが浮かび上がったのが、デリート許可の印である。
ツカサ、ウミカ、お菊の女性チーム。ケイイチロウ、サクヤ、ナオヤの男性チーム。トウマ、カイリ、ピーターの男性チーム。以上三組に分かれることで、彼らは百合・BL性癖の効力を維持し、最大の威力の必殺技を放てるのだった。
VSリボルバーを装備している者は、破壊エネルギーを込めた光弾を射出する。お菊とピーターは「リボンミックス」で、カイリはブレス型アイテムを操作して、力を光弾へ送って強化した。
「――BLディフェンダー・ファイナルモード!」
そしてナオヤは、敵の拘束に徹した。すなわち、ルーカスの膝から下を氷漬けにすることで、仲間たちが繰り出す技から逃げられないようにした。
「面白い。元より逃げる気などないわ!」
脚部に原典の力を集め、拘束を破るルーカス。高笑いをすると、その力を今度は両の手のひらへ集約させた。
「受けてみろ。これが俺の、『他殺願望』と全原典のパワーを一点集中させた、究極の一撃だ!」
怪人と化したルーカスの手から、光の槍が撃ち出される。
「「『ストライクアウト』!!」」
対する戦隊たちは、色とりどりの光弾を一斉に放った。
『百合嵐! Go! Go!』『トリニティ・アップ!』『必殺! オメガ&ジャスティス&ダークネス・フィニッシュ!』
百合嵐も、オメガ珈琲シルバー、来部、ネトルの幻影を纏って最大火力のライダーキックを繰り出した。高く跳び上がり、三人の力を合わせたスペシャルな技をルーカスへ見舞う。
力と力が真正面から衝突した結果、均衡はすぐに破られた。ルーカスの撃った光の槍はあえなく粉砕され、威力で競り勝ったカラフルな光弾たちが、彼の肉体に次々と穴を穿っていく。
最後に百合嵐のライダーキックが炸裂し、虹色の皮膚からはスパークが乱れ飛んだ。
「あり得ない。俺の性癖の力は、誰よりも強かったはずだ。原典の使い方だって、俺の方がお前たちより優れていた。それなのに、なぜ……俺はお前たちに負けるのだ⁉」
「あたしたちには守るべきものがあって、あんたにはなかった。それだけのことよ」
毅然として言い放ち、ツカサたちはルーカスへ背を向けた。直後、彼の体は大爆発に呑み込まれた。
「あー、マジで疲れた。いやマジで。マージ・マジ・マジかって感じ」
「何回も言わなくていいわよ。てか、あんたの語彙力どうなってんの」
いつもの夫婦漫才をやりながら、変身解除した二人は傷の手当をして休んでいた。出血していた箇所に包帯や大きめのバンドエイドを巻いたり貼ったりしていく。他の面々も、会話内容こそ違えどやっていることは似たようなものだった。
「終わったんだな、これでようやく」
しみじみと、カイリが呟く。
「東京卍帝国をやっつけて、高次元生命体もやっつけて、無貌率いる超次元生命体とその残党みたいな支持派もやっつけた。で、無貌を誕生させたルーカスをぶっ潰した。長かった俺たちの戦いも、とうとう終わりか」
「長かったわよね、本当に」
ツカサも頷いた。
「それにしても、こういう最終決戦っぽいイベントになっても巨大ロボの出番がなかったのは、ちょっと意外よね」
「全くだ。百合カイザーやBLカイザーなんて、まともに出番を貰えたのは初登場の卍帝国戦のときだけだぜ。追加戦士枠のBLファイヤーのロボよりも俺たちのロボの方が出撃回数少ないって、絶対何かバランスを間違えてるって」
「超次元界に持ち込める物はゲートを通れるサイズのものに限られる」という超めんどくさい設定があるせいで、彼らのロボットは後半、ほとんど登場できなかったのである。こんな誰も得しない設定を考えたのは、一体どこのどいつなのだろうか。
「結局、来部ボクサーも一回しか出撃してない気がするな……」
二人の話を聞いていた裕介は、はあとため息を吐いた。強化アイテムが多すぎて一つ一つの出番が限られてしまうのは、近年の特撮ヒーローで時々問題になるやつかもしれない。
「まあまあ、出番が少ないのはある意味平和ってことよ」
皆をなだめるように、美明日が言う。
ともあれ、ルーカスは撃破した。少し休んだらお菊にゲートを開いてもらって、人間界へ帰ろう。虫や小動物といった命の気配がない森の中で、一同は故郷が恋しくなっていた。
※次回の更新は一週間後の予定です。